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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
番外編 (アフターストーリー/ほか)
80/85

アフターストーリー12 「争う」

 突然ですが、会社に人が増える場合、通常は新卒にあわせて、三月から四月に入社となるケースが多いかと思います。

 例えば、既に社会に出てキャリアを積んで転職・・・などの場合も、この新卒時に併せて入社されるケースも、私の居た所では多かった様に思います。実際、私の同期にも、二人ばかりそういう人がおりました。

 その他に、全然何でもない月に突如入ってくるケースもあり、これが所謂「中途採用」と呼ばれるものでして、例えば、やたら色っぽいのに性格がサバサバ男らしい「畑田さん」などは、この中途採用組の一人だったようです。



 「畑田さん、ここに来る前は、何やってたんすか?」


 「ん~? なに渡辺、女に過去とか聞いちゃうタイプ?」


 「あれー何だろう聞き方かなー。えーっと、いや過去は過去ですけど、別に畑田さんの男性遍歴とかを聞きたい訳じゃ・・・。」


 「あはは。 そう言う事はね、内緒の方が良いのよ。 謎が多い方が、良い女に見えるでしょ?」


 「はっ、はあ・・・。 (わーめんどくさい、この人。もうどうでもいいやーっていうか、聞いた俺が馬鹿だったー。)



 まあ、畑田さんの事は置いておきまして・・・。

 つまり、中途採用で入ってくる様な人は、大抵は既に社会を広く見聞して経験を積んでいる訳でして、それなりに「自分」というものをしっかりと持った方が多く・・・。

 つまりは、いろんな意味で癖の強い人も中には結構居る様でして・・・。


 それは、丁度残暑がまだまだ厳しい九月頃の事・・・。


 「渡辺~。 お前、今度中途で入った人の事、知ってるか?」


 「ん~? 詳しくは聞いてねえけど、何でもエライ頭が良いってのは聞いたぞ。 大学の研究室で・・・なんたらの研究を専門にやってたとか言ってたな、たしか。」


 「ふ~ん・・・。 俺、ちらっと見ただけだけど、普通のオッサンだったけどな・・・。」


 「オッサンって言っても、まだ三十代前半だろ? 結構若そうに見えたけどな。

 っていうか、頭が良いのと見た目がオッサンなのは、まったく関係ないからな、大草。」


 「あ~あ、どうせなら、女が良かったなあ・・・。 経験豊富な姉ちゃんとかさあ・・・。」


 「お前、そればっかだな・・・。そういや大草、悪いんだけど、今日パチンコ行く時に駅まで俺とユリ、乗っけてってくれよ。」


 「なんだ、お前ら。 デートか? 仲良いな~。」


 「いや、ちょっと買い物に行きたいだけだって。帰りは自力で帰ってくるから。」


 「ふ~ん・・・。 まあいいや。 ガス代はビール二缶かタバコ三箱のどっちかで良いや。」


 「うわっ、高っ! タクシーのが安いわ、ボケ! 」



 そんな訳で、私達が所用を済ませ、歩いて帰宅している途中の事・・・。


 「あれ? あの人って、この間中途で入ってきた人じゃない? たしか・・・、笹間さんだっけ?」


 「あれ、ホントだ。 ・・・・。 って、何してんだ、あの人!?」


 「う~ん、何だろ?・・・。 運動・・・かな?」


 そこで私達が見たものは、ジャージを着た笹間さんが、何かブツブツと言葉を発しながら、会社の敷地内に広がる空き地を、グルグルと四角く回っている所でした・・・。


 「なんか・・・。 ちょっと危ない人なのか? あれ、なんか宇宙人とかと交信してんじゃねえか?」


 「ええっ! まっ、まさかあ・・・。」


 「それか、幽霊を呼び出してんじゃねえのか・・・。 この辺、たくさん居るらしいし。」


 「ちょっ、ちょっと、やめてよ!・・・。」


 「(あっ、そっか・・・。 ユリはここを間宵さんが霊視した事、知らねえんだった。)

 まっ、まあ、いいや。 関わりになる前に、とっとと帰えるべ。」


 「うっうん・・・。」


 そんな具合に、私達は、怪しい動きをする笹間さんを避けるように、そのまま寮へと戻るのでした。



 そして、それから数日後の事・・・。

 私はひょんな事から、この笹間さんと一緒に仕事をする事になり、その流れで、社食で一緒に飯を食っていたのですが、私はこの間の笹間さんの様子から、思わず興味本位で余計なことを聞いてしまうのでした。


 「そういえば・・・。 笹間さんって、オカルトとかに興味あるんすか?」


 「オカルト? まさか! 僕はどちらかというと唯物論者だからねえ。幽霊だとか妖怪とかの類は一切信じないよ。 あんなもの、ある訳が無いしねえ。」


 「はあ・・・、そうなんですか。(とすると、例の奇行は何だったのか・・・。)」


 「もしかして、渡辺くん、そんなの信じてるの?」


 「ん~・・・。 俺自身は見た事は無いんですけどね~・・・。

 うん、どちらかというと信じてますよ。 特に、幽霊は居るんじゃないかって確信してます。 」


 「確信? おかしな事言うねえ・・・。 見た事を無いものを、居るって確信してるのかい?」


 「えっ? いや、まあ・・・。」


 「凄く興味深いから、聞かせて欲しいんだけど、そう思う根拠はなんだい?」


 「えっ・・・ いや、根拠って言っても・・・。 (うわぁ、この人、面倒くせえ。 違う意味で変わり者だったか・・・。)


 「根拠も無いのに居るって確信してるのかい? おかしな話だねえ・・・。」


 「(なんか、段々腹立ってきた・・・。イチイチ説明すんのも面倒くせえし、そもそも、実際俺は証明なんか出来ねえしなあ・・・。証明かあ・・・。 ・・・。 あっ!!!)

 笹間さん、俺は確かに証明出来ないんすけどね。俺の友達に凄い人が居るんすよ。

 所謂、霊能力者っていうんすかね。とにかく、俺の誰にも話していない過去の出来事とか、バシバシ当てちゃって、凄いんすよ。」


 「霊能力者~!? 本気で言ってるのかい? そんな人間、この世に居る訳が無い。

 そもそも、霊が居ないのに霊の能力? 支離滅裂も良い所だね。」


 「(なーんで、この人ずっと上から喋ってんの? と言って、こんなの間宵さんに合わせたら、一悶着じゃ済まなそうだな・・・。)

 まあ・・・、こればっかりは口で説明しても何なんで・・・。」


 「それじゃ、今度会わせてくれないかな? その霊能力者とやらに。 凄く興味があるんだよ、そう言う人種には!」


 「(あー、やっちゃったよ、俺。完全に失態だこれ。この人を間宵さんに合わせると迷惑になりそうな気がする・・・。 適当に誤魔化すか・・・。)

 いや、別に良いっすけど、その人、無茶苦茶おっかない人っすよ?・・・。 気に入らないヤツだと、殴っちゃうかもなあ・・・。 」


 「ふ~ん。 要するに、信じる事を強要するタイプなんだ。ろくな人間じゃないな、その男も。」


 「(ぐおぉぉぉ! 俺がこの場で殴りてえ!!! とりあえず、人の友達、そこまでボロクソに言うか!? 会った事もねえのに! っていうか、男だと思ってやがんだな、このオッサン。 間宵さん見たら、あまりのベッピンさに緊張して喋れなくなるぞ、きっと!)

 まっまあ、もう何でも良いっすわ・・・。 」


 「よう渡辺~。 何話してんの? ああ、笹間さん、お疲れ~。」


 「ああ、佐藤くん。 いや、いま渡辺くんの友達に、霊能力者を騙ってる人間がいると聞いてねえ。」


 『なんかもう、しゃべり方もむかついてきた・・・。』


 「ふ~ん? 間宵さんの事?」


 「なんだ、佐藤くんも知ってるのかい!?」


 「知ってるも何も、長いつき合いですよ。 渡辺に間宵さん紹介したのも、俺だし。」


 「じゃあ、今度、是非会わせてくれないかなあ。 凄く興味があるんだよ!」


 「へえ~・・・。 笹間さんも、真面目そうで意外と隅に置けないなあ・・・。 まあ、別に良いですよ。じゃ、今度の飲み会にお誘いしますよ。」


 「さっ佐藤さん!」


 「大丈夫大丈夫! あらあ、どう見たって間宵さんのタイプじゃねえもんよ!(コソコソ)」


 「いっいや、そういう事じゃなくってですね・・・。 (わー、もう相変わらず、空気読めねえな。) 」


      ・

      ・

      ・


 「へえ~・・・。 で、結局行く事になったの?」


 「それが行く気満々なんだよ・・・。 しかも、間宵さんの事、男だって誤解したまんま。 まあ、そこは面白れえから放ってあるんだけどな。」


 「あはは、ユキもヒドいね・・・。 でも、この間のあれは、何してたんだろ・・・。」


 「ああ、あれは散歩してたんだって。けれど、まだ来たばっかりで地理が分からないから、迷子にならない様に、あそこで歩いてたらしい。 なんでも、一周が五十メートルになる様に計算して、それで回ってる数を数えながら歩いてたんだって・・・。」


 「へえ~・・・。 マメな人なんだね・・・。」


 「マメっていうか・・・。 単に変な人なんだろ・・・。」




 そんなこんなで時は過ぎ、ついに二人が対決をする時がやってくるのでした・・・。


 「へえ~、笹間さんって、頭良いんだ~。 確かに真面目そうだもんねえ~。」


 「頭が良い事と真面目な事に、何か因果関係があるんですか?」


 「えっ!? いやあ・・・。 どうなんだろうねえ~・・・。 でも、ほら一般的なイメージっていうの? あるじゃない、そういうの。」


 「一般的な? 僕はそういう事を聞いた事が無いのですけれど、どの辺りの一般で通用する話なのですかね?」


 「えっ・・・いや~・・・。」


 「・・・・。 (何たる事だ・・・。 このオッサン、女性を前にしても態度が変わらねえ・・・。) 」


 「ちょっと、ちょっとユキちゃん! 何なのよ、あれ!(コソコソ)」


 「いっいやあ・・・。 俺は反対だったんすけど、佐藤さんが・・・。 あの人、間宵さんが目当てなんすよ・・・。」


 「はあっ!? ユキエがお目当てって、あんなのユキエが相手する訳ないじゃん!(コソコソ)」


 「いや、それがミキさん・・・。 そういうお目当てじゃないんすよ・・・。 なんでも、間宵さんとギロンをカワシタイんだそうです・・・。」


 「何それ・・・。 もう、佐藤!!! 何で最近変なのばっかり連れてくんのよ!!!(コソコソ)」


 「面目ないっす・・・。」


 そんな具合に、見事に飲み会の雰囲気をぶち壊していった笹間さんでしたが、本人は酒が入って上機嫌なのか、その屁理屈は、更に磨きを掛けていきました・・・。

 そして、そんな笹間さんの上機嫌がピークの頃・・・。


 「あっ、ごめんごめん!!! また遅くなっちゃった!!!」


 「あっ! 間宵さん! 」


 「ゆっユキエ~!!!」


 「あっれー?・・・。 みんなどしたの?」


 「なっ! 間宵という人はこの人か? それじゃ、霊能力者とか騙っていたのは、女だったのか!」


 「・・・。 ユキちゃん、だれ、この人?」


 「あっ、いや、間宵さん・・・。 話せば長くなるんすけど・・・・。」


 「ふ~ん・・・。 まあいいや。 とりあえず、乾杯乾杯~!」


 「まさか女だったとは・・・。」


 「あなた、さっきから女女うるさいわね~。 初対面の人間に対して、ずいぶん失礼なんじゃない?」


 「なっ! しっ、失礼って、あんただって人を騙すような事してるんじゃないのか?」


 「まあ、落ち着きなよ笹間さん。 とりあえず、水でも飲んだら? あ、私まずビールね。」


 「あっ、はっ、はい、私頼んできます!」


 「ああ、ありがとうユリちゃん~。ユリちゃんはホントに気が利くいい子ねー!」


 『みんな・・・。 さり気なかったから気がついてねえんだろうな・・・。 誰も笹間さんの名前言ってねえのに、間宵さんが知ってた事とか・・・。)』


 「僕は今日、あなたと話がしたくてねえ。 僕は幽霊とかそういう類は信じないし、居ないと思ってる。 でも、あなたは幽霊が見えるし、話が出来るんだろ? じゃあ、それを証明して貰おうと思ってね。」


 「ん? 嫌だよそんなの。 幽霊が居ないと思ってんでしょ? 良いじゃん、それで。 居ないよ、そんなもの。 うん、居ない居ない。」


 『あっあれ!? 即答!? っていうか、相手にもしてねえ!』


 「なっ! だって、あんたは霊能力者じゃないのか!?」


 「霊能力者!? 何それ、いい歳して、あなた何恥ずかしい事言ってんの!? 頭大丈夫?」


 その間宵さんのセリフを聞いたその場のあちこちから・・・・噴き出す様な笑い声と、クスクスと押し殺す様な笑い声が聞こえてきました・・・。


 『さっ流石、間宵さん!』


 「わっ、渡辺くん! これはどういう事だ!?」


 「どっ、どういう事って、俺に言われても・・・、ねえ・・・。」


 「笹間さん、あなた三十四にもなって、常識知らずなのね~。

 居酒屋では、お静かに。程々のおしゃべりにしないと、次回から出入り禁止になっちゃうわよ。」


 「ぐむっ!・・・。 え?・・・。 何で僕の年を知って・・・。」


 「ああ、私占いやるんだよね。 それでユキちゃんも勘違いしちゃったんじゃない? 占いって言っても、高校生がやる様なレベルだけどね。 あはは、可愛いでしょ?」


 「うっ占いでどうして年が分かる!?」


 「だから、静かにしなって。 う~ん、占いじゃないなら勘かな? 昔から勘が良くってね~。 例えばさ、笹間さん、産まれてから一度も女の子と付き合った事無いでしょ?」


 「なっ!!!」


 「まあ、あなたの態度と女の子の扱い見てれば分かるけど。 ああ、それとさ、う~ん。 例えば、中学校二年生の時に、凄いフラレ方しちゃって、女の子が嫌いになったりしてない?」


 「えっ!・・・。」


 「具体的に言うとね・・・。」


 「へっ変な言いがかりは辞めてもらおう!!! ふっ、不愉快だから、僕はこれで帰る!!!」


 そう興奮しながら声を裏返して叫んだ笹間さんは、顔から耳まで、明らかに酔いとは違う感じでユデダコとなり・・・、慌てて帰っていってしまうのでした・・・・。


 「これで静かになったね~・・・。 やれやれ。 それじゃ、飲み直そ、飲み直そ。」


 「・・・・。」


 「・・・・。(かっ、かっけー! 何この人、超カッコいいんですけど!)」


 この時のやりとりは、本当に見事なもので、訳の分からない私達は、それをただただ呆然と眺めていただけだったのですが・・・。

 とにかく、その時の間宵さんは滅茶苦茶格好良く、それは女でも惚れるぐらいだった様で、ただでさえ、間宵さんに傾倒していたユリは、この出来事以降、まるで間宵さんをヒーローのように(女だからヒロイン!?)あがめておりました。

 恐らく、自分にないものを、彼女の中に見たのでしょう。



 ちなみに、この笹間さん。やはりこういう性格ですから、うちの様な職場には合わなかったのでしょう。

 この半年後に、ひっそりと会社を去っていきました・・・。




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