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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
番外編 (アフターストーリー/ほか)
78/85

アフターストーリー10 「観そびれる」

 季節は正月を過ぎ、あと数週間で節分を迎える頃のこと・・・。


 最近は毎月が不景気状態で、なんとも嫌な世の流れですが、たとえ景気の良い時でも「閑散期」と呼ばれる暇な時期が存在するものでして、これは大体サービス業を中心として、どの業界も「二月・八月の閑散期」などと呼ばれておりました。

 ところで、私が体験した職場の多くは、この時期に所謂「社員旅行」などの行事が催される事が多かったのですが、他の所でも聞くところによると、似た様なものの様で・・・。


 そんな訳で、当時勤めておりましたこの会社でも、やはりこの時期に社員旅行が恒例となっておりまして、私たちはその社員旅行を年一回の楽しみとして待ち焦がれていた訳ですが・・・。


 「なあ、今回の旅行ってどこ行くんだっけ?」


 「お前、知らないで来たのか!? のんきな野郎だな・・・。」


 「まあ、大草だからな・・・。」


 「なんだよ、この野郎!」


 「あはは! 大草さん、今回は熱海ですって。 温泉入って、豪華なお食事が出るらしいですよ~。」


 「へ~! 温泉か~・・・。 温泉・・・。 温泉・・・。」


 「なんだ、大草。 ノゾキの事でも考えてんじゃねえだろうな?」


 「何言ってやがる! 山下のムッツリと一緒にすんなっつうの!」


 「なんで俺なんだよ!!!」


 「あははは!」



 そんな具合に、私達はまるで修学旅行の様にバスでの移動を楽しんでおりますと、あっという間に目的地の温泉に到着します。


 「へ~。 旅館かと思ったら、立派な観光ホテルだなあ・・・。」


 「ホントね~・・・。 私、こういう所初めて・・・。」


 「なんだよ渡辺~。 ちゃんとユリちゃん、良い所連れてってやれよ。」


 「でっけえお世話だ、バカヤロウ。 っていうか、余計な事言うな、この!」



 そんなやりとりもありつつ、私達は各自の部屋へ荷物を置き、夜の宴会までの時間をゆっくりと休むことにします。

 もちろん、その間、温泉も入り放題な訳ですが、なまじ観光ルートが忙しく決まった旅行よりも、この様なノンビリとした社員旅行も実にオツだと思いました。


 「いや~、ユリちゃん残念だね~。 部屋がバラバラで寂しいだろうけど、泣いちゃ駄目だよ?」


 「あはは、大丈夫ですよ~。 だって、大草さんと一緒だと、ユキが居ても危なそうだし・・・。」


 「うんうん、そりゃ言えてる。」


 「なっなんだよ~! ユリちゃんも言うなあ~!」


 「あははは!」


 そしてノンビリと過ごしておりますと、いよいよメインである大宴会の時間になるわけですが、その前に、せっかくですので、私たちは温泉を堪能するのでした。

 そんな温泉ならではの醍醐味を堪能していたせいでしょうか、男同士の中で、こんな話題が持ち上がるのでした。


 「なあなあ、渡辺!」


 「ん? どうした? 大草。」


 「お前も行くだろ!?」


 「どこへ?」


 「どこって、決まってんだろ! こんな温泉街で行くとこって言ったら、ストリップ劇場しかねえだろうよ!」


 「なにっ!? ストリップ!!!」


 「おうよ! もう山下なんて、ノリノリだぞ!!!」


 「いや、だって俺見たことねえからさ!!! ストリップ!!!」


 「いや、正直な話、俺もねえ!!! というか、風俗はポルノ映画すら観たことがねえ!!!」


 「なんだよ、お前も山下もだらしねえなあ・・・。 とにかく、行くだろ!?」


 「勿論行くに決まってんだろ!」


 「俺も行く!!!・・・・。 あっ! お前ら、絶対にユリに言うなよ!!!」


 「ばっかやろう! それぐれえの情けは俺にもあらあな! だから、俺の彼女にも内緒にしとけよ・・・。」


 「よっ、よし! ギブアンドテイクって事でよ!」



 さて、そんな男同士の秘密のやりとりがあり、待ちに待った宴会も大盛況に終わり、いよいよ夜の大人の時間が花開く頃・・・。


 『よっよし・・・。 ユリに見つかる前に、こっそりと・・・・。』


 「あっ、ユキ~! 下のゲームコーナで遊ぼうよ!」


 「げっ!! あっ、いや・・・。 ユリちゃん、実はね、お兄さん、これからちょっと用事があってね・・・。」


 「おう、渡辺~!」


 「あっ、佐藤さん!(この人使って、上手く誤魔化すべ!!!)」


 しかし、この目論見は、脆くも崩れ去ることになります・・・。

 次の瞬間、この素晴らしい先輩から、予想しなかった爆弾発言が飛び出すのでした・・・。


 「さっ佐藤さん! そっそういえば・・・」


 「ああそうだ、渡辺も行くんだろ? 大草達とストリップ!」


 「そうそう、ストリップ・・・って、えっ? ええっ!!! えええっ!!!」


 ― ストリップ~・・・・ストリップ~・・・・ストリップ~・・・・プ~・・・。


 「いや~、俺も一緒に行くからよ~! 久々だなあ、ストリップ!

 でもさ~、こういう温泉街だと、若いの居なくてオバちゃんばっかなんだよな~!

 まあそれでもよ~、こう言う所独特のマニアックな雰囲気が・・・」


 「いや、行きませんよ俺は!!!! 行く訳無いでしょう!!! っていうか、行けないでしょう!!! これじゃ!!!」


 「えっ!? だって、さっき大草が渡辺も行くって・・・」


 「とにかく!!!!! 俺はこれからユリとゲーセン行って健全に過ごしますから!!!! そっそれじゃ!!!!」


 「ねっねえ、何か良く分からないけど、佐藤さんと行かなくて良いの? 大草さん達も行くんでしょ? 別に、私は大丈夫だよ?」


 「ばっ馬鹿な事言っちゃあいけないよ、ユリちゃん!!! あんなただれた大人達と、俺が一緒に行動する訳ないじゃないか、汚らわしい!!!」


 「えっ? えっ? まっまあ、ユキが良いなら良いけど・・・。」


 『くっくそ~!・・・。 佐藤さんめ! なんて空気の読めねえ人だ!!!』



 そして、その夜・・・、私はじっくりと、みんなからストリップの感想を自慢タラタラに聞くのでした・・・。


 「いや~、渡辺もカッコつけねえで来れば良かったんだよ~! 面白かったぞ~!」


 『誰のせいだと思ってやがる!!!』



 そして、そんな社員旅行から帰ってしばらくした頃・・・。

 世間には、所謂「バレンタインデー」の季節がやってくるのでした・・・。


 「はい、ユキ。 これ、チョコ。」


 「あっああ、どっどうも・・・。 あ、開けていいかな、これ!?」


 そういいながら、受け取ったチョコの包装紙を剥がしてみますと・・・。


 「あっあの、ユリさん・・・。 こっこれは・・・。」


 「ユキにはピッタリでしょ。 ふんっ!」


 あの後、ストリップがどういう所か知ったユリは、同時に私がノリノリで行く予定だった事も知ってしまい・・・、しばらく軽蔑の眼差しを痛いぐらいに浴び続けるのでした・・・。

 そんな合間に貰ったチョコレートの箱には・・・


 「頭の良くなるチョコレート」


 と書かれておりました・・・。



 余談ですが、この数日後・・・。


 「ユキちゃ~ん、遅くなっちゃったけど、これ、バレンタインね!」


 「あっ、どうも、間宵さん。 ・・・・・。 あっ、あのこれ・・・。」


 「ああ、それ? なんかそれが今のキミにはピッタリだと思って! あははは!」


 「・・・・。 もう、何で知ってるんだとか、どうしてこれを!? とか、あえて聞かない事にするっす・・・。」


 「え~? なんで~? つまんないの~。 あははは!」


 そう・・・。 この時間宵さんから頂いたチョコにも


 「頭の良くなるチョコレート」


 と書かれていたそうな・・・。


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