アフターストーリー06 「ドン引く」
例のキーホルダーだらけの運動会を終えると、季節はすっかり冬を迎え、若者達の一大イベントである、クリスマスが間近に迫るのでした。
そんな頃、私はちょっとした会社への貢献が表彰され、暮れも近い時期に、思わぬ臨時収入を「金一封」という形で手に入れます。
「おっしゃ!!! 三万も入ってんぞ!!!」
「すっげえ!!! 俺らにもちょっと還元しろよ!!!」
「バッカお前! ちょっとなんてケチ臭せえ事言ってんなよ!!! これで今度のクリスマスはパーッとやんぞ!!! 大草、当日は車出せや!!! 鶏買いに行くぞ!!!」
「とっ鶏!?」
「クリスマスって言ったら、鶏に決まってんだろ! チキンだよ、チキン! このチキン野郎!!!」
「なんだか良くわからねえし、ムカツクけど、分かった!!! よっ!大蔵大臣!!!」
「よっしゃ! みんなにも言っておけよ!!! クリスマス・イブは、俺の部屋でチキン・パーティーだってよ!!!」
そんな具合に、思わぬ臨時収入に浮かれに浮かれていた私でしたが。
クリスマスという時期が、どういう大事な時間かと言うことを、しばらく一人で過ごしていた私は、すっかりと忘れていたのでした・・・。
そして、その夜の事・・・。
「いや~・・・。その場の勢いって、怖いよな~!」
「何が?」
「いや、それがね、ユリちゃん。今度のイブなんですけどね・・・。」
「えっ? 何処か連れてってくれるの!?」
「ええ、その~・・・。 まあ、盛大にやる事が決まりまして・・・。」
「凄い! どこでどこで!? ねえユキ、もしかしてお泊まり!?」
「いや・・・、その・・・。 ここで・・・(ボソボソ)」
「え?・・・。 ああ、でも良いよ~、別に! それでも嬉しいよ!」
「そっそうか!? だっだよな~! やっぱりパーティーは大勢の方が楽しいよな!」
「え?・・・。 大勢って・・・。」
「いや、だからみんなで賑やかに・・・・。」
「ええ~!!!! なんで!? どうしてそうなるの!!?? イブなんだよ!!!」
「いえ・・・、まあ・・・その・・・。 なんか、勢いと言いますか・・・。」
「知らない!!! ユキのバカ!!!」
「でっ、ですよねー。(ホント・・・俺のバカ・・・・。)」
そんなわけで、私は当時の彼女のユリさんから多いに怒られ、しばらく口もきいてもらえないのでした・・・。
そんなこんなで時は過ぎ、イブ当日・・・。
「ちっくしょう・・・。 ここも売り切れだとよ!」
「う~ん・・・。 やっぱり予約無しでチキンを買うのは無謀だったか・・・。 仕方ねえ・・・。白い爺さんの店はあきらめて、別の所で買うか。」
「まあ、何でも良いと思うけどな。 腹一杯食えれば。」
「そういや、ハンバーガー屋でもフライドチキンが出たよな? アレにするべ。」
という具合に、フライドチキン専門店で購入出来なかった私たちは、某ハンバーガーショップで出しているチキンを思い出し、何とか苦労するもチキンを購入。
ちなみに、この時の買い物は、チキンが五十ピース、それと特大クリスマスケーキ、その他、ワインやらお菓子、ジュースなどで、しめて三万円也・・・という具合に、大入りは全て、今回のパーティーでぶっ飛んでしまうのでした・・・。
「悪いね~、私達までお呼ばれしちゃって~!」
「いや~、いつもお世話になってますから~。(っていうか、間宵さん・・・。 アッサリ来た所を見ると、まだ彼氏出来ねえのか。可哀想に・・・。)」
「そうそう、間宵さん、今日はお願いしますよ・・・。 楽しい夜なんで、幽霊がいるとか、そう言うのは無しで!」
「あはは。 分かってるよ、私だって。 あれ~? ところで、ユリちゃんどうしたの!?」
「あ、いや・・・それがその・・・。 まあ、色々ありまして・・・。」
「ふ~ん・・・。 ・・・・。 なるほどね・・・。 ユキちゃん、バカだねえ・・・。」
「え!? あ、いや・・・。 面目ないっす・・・。 まっまあ、とりあえず、今日はパーッといきましょう! 酒とチキンは腐る程あるっすから!!!」
その場で誰からどの様にして聞いたのか、私が一言も告げずに、間宵さんは全て察してしまうのでした・・・。
そんな訳で、いろいろと問題はあったのですが、そういうのは全部棚上げして、私達はワインと鶏肉を頬ばりながら、イブを楽しむのでした。
しかし、しばらく経ってからふと気がつくと・・・。
「あれ? 間宵さんは?」
「そう言えば、いねえな、いつの間にか?」
などと話しておりますと、コンコンとガラスを叩く音がしまして、「あれ? また飛び入りかな?」などと考えながら、普段、通用口になっている大窓を開けますと、そこに立っていたのは、ニコニコと微笑む間宵さんでした。
「あっあれ? 間宵さん、どこ行ってたんですか!」
「そんなこといいから! ほら、ユキちゃん、ちょっとこっち来なさいよ。」
「はっはあ・・・。」
「はい、お姉さんからの、クリスマスプレゼント!」
そう言うと、間宵さんは暗闇から一人の女の子を私の前に挿しだし・・・。
「あっ・・・ユリ!」
そこには気まずそうにうつむくユリの姿がありました。
どうやら間宵さんは、私たちを仲直りさせるべく、わざわざユリを寮までなだめに行ってくれたようです。
「何か言う事は?」
「いっいや・・・、ホントごめん! この埋め合わせは、次の休みに必ずするから!」
「だって。 ユリちゃんも、もう許してあげな。」
「はい・・・。」
「ホントすまん! とりあえず、ここは寒いから、二人とも中入って、食って飲んで! ほらユリ、今日は大草の彼女も来てるからさ!」
「ほら、いこ! ユリちゃん!」
「あの・・・。 ホントありがとうございます、間宵さん・・・。(コソコソ)」
「気に入ってくれた? プレゼント。」
「そっそりゃあもう・・・。」
「あはは!」
間宵さんの気遣いにより、私の大チョンボは、何とか大怪我にならずに済み・・・。
宴は深夜まで楽しく続くのでした。
そして、みんなの腹も満足した頃の事・・・。
食い尽くされたチキンの骨を眺めていた間宵さんが、突然・・・。
「へえ~・・・。」
「どうしたんすか?」
「見て見て、このチキンの骨。 ほら、みんな同じ形でしょ?」
「ホントだ。 そう言えば、これって食いやすいっすよね。 骨が極端に少ないし。」
「そうね~・・・。 でもさ~、これだけの量のチキンだとさ、何羽の鶏が犠牲になってるのかね? 残酷で罪深いね~、私達って。 あははは!」
「・・・・。(えーっ・・・。)」
楽しそうに笑う間宵さんの言葉を聞いた私達は、逆に楽しかった空気を一気に凍り付かせ・・・・。すこし吐き気にも似た重たい空気を漂わせるのでした・・・。
『なぜ・・・・、この人は!・・・・。 こりゃ、来年も男は無理だ。絶対無理だ!・・・』




