アフターストーリー05 「走る」
秋のシーズンになりますと、どこでも「体育祭」や「運動会」などが盛んになりまして、これは何も学校関係に限った話ではなく、社会人関係や地域コミュニティーなどでも同じかと思います。
そんな訳で私の勤めていた会社でも、この時期に「運動会」が行われる訳ですが・・・。
これがかなり大がかりな運動会でして、全国にあるグループ各社から代表が選抜され、その代表を都内の借り切った運動場に集めて開催するというものでして、かなり盛大に行われておりました。
そんな運動会の代表に、何処をどう間違ったのか、私が選ばれてしまい・・・。
しかし、これは意外と嬉しい事でして、なかなか名誉な事というのもあったのですが、何せ普段田舎暮らしの私達にとりましては、一応「社用」という名目で、送迎バスに揺られて都内に出られる訳で、すっかり田舎暮らしが染みついた私は、この久々の都会進出に浮かれてしまうのでした。
ついでに言うと、この「運動会」は規模も凄いのですが、何よりも賞品が素晴らしく、有名海外ブランドの時計やらバッグ、宝飾品等々の品物が、ドドンと提供されるという噂を聞きまして、思わず、皮算用が働く訳でして・・・。
「おう、渡辺~。 賞品にアレ貰ってきてくれよ。」
「なんだよ、大草。 お前にやる様な賞品はねえぞ。 いろいろ先約が多いんだからよ。」
「貰ったらで良いよ。 ホラあれ。 うさん太君キーホルダー。」
「って、お前それ、滅茶苦茶安そうな賞品じゃねえか! 参加賞か、それ!?」
ちなみに、この『うさん太君キーホルダー』とは、当時、私の所属していた会社のマスコットキャラでして、ひとつ二百円ほどの品物でした。
ただ、やたらバージョン違いの種類が豊富で、全部集めると結構大変なのでした。
「あれさ~。なかなか買えねえんだよ。 俺の彼女も欲しがっててさ~。」
「不吉な事言ってんじゃねえ! っていうか、安上がりだな、彼女!
俺はブランド品狙ってんだよ、アホ! ちょっと早いユリへのクリスマスプレゼントを、それで済まそうって思って、こっちは必死なんだかんよ~。」
「お前もたいがいセコイな・・・。 まあ、貰ったら宜しく頼むわ。」
そんなやりとりもありつつ、しばらくして、いつものメンバーで呑んでいる時の事・・・。
「へえ~、凄いじゃん、ユキちゃん!」
「へっへっへ。 まあ、こう言う所で目立っておかないと、なかなか表舞台が回って来ないっすからね~。」
「あはは! で、何に出るの?」
「ん~。 俺は200mの代表です。 他には1500mと女子の800m、障害物なんかもあって、うちは全部で、男女合わせて五人で出るんすよ。」
「へえ~。 なんか本格的なんだね~。」
「たしかにそうですね~。 俺も今回初めてなんで、実際どんな感じなのか分からないんですけど。」
「へー! じゃあ、賞品のうさん太キーホルダー、私にも宜しくね~!」
「間宵さんまで・・・・っていうか、なんで、うさん太君キーホルダーの事知って・・・って言うまでも無いか・・・。
悪いっすけど、今回はブランド品狙いっすよ。 待ってろ、ユリ! お前にプレゼント持って帰ってきてやっからな!」
「ええ~? 期待して待ってるよ。 あはは・・・。」
『あれこれ、イマイチ信用してねえな。』
「あはは! まあ、私はうさん太君キーホルダーを十種類も貰えれば充分だから~!」
「じゅっ十種類って・・・。そんなにキーホルダーばっかり貰える訳無いじゃないっすか・・・。一種目しか出ねえのに。」
「なんで? 可愛いキーホルダーなんでしょ? みんなにも配ってあげるよ、ユキちゃんからって! あははは!」
『よーし絶対ブランド品獲ってやるからな! 見てろよ、コンチクショウ!』
そんなやり取りもありつつ、私も悔しかったので、運動会当日までは、結構な量の走り込みをして、身体を仕上げていったのですが・・・。
という訳で、運動会の当日の事。
『へっ。 どうせグループ総出つったって、周りはデスクワークしてるヤツらばっかりだろ?
こちとら普段から鍛えに鍛えてんだ。負ける訳がねえ・・・・って、あれ?・・・。
なんでみんな本格的な陸上スタイルなの? 俺なんてジャージにTシャツなのに・・・。 はっ!!! もしかして、会社の陸上部なのか!? 何かみんな、凄く身体が出来上がってるんですけど!!! やべえな、これ・・・。とても場違いな気がしてきた・・・。』
そんな不安は見事に的中し・・・。
いざ200mが始まって、必死に走るも・・・・。
『なにこれー!こっこいつら、滅茶苦茶速ええ!!!』
私は何とか必死にもがき続け、結果はギリギリ入賞の三位となりました・・・。
『まっまあ・・・、三位でも入賞だ。 賞品は出るだろう・・・。』
「それでは、賞品とメダルの授与です。 一位は○○○の腕時計です! 二位には、○○○のブランド財布が送られます。 三位は○○○です! 皆様、おめでとうございます!」
『あれ・・・。 何が貰えるんだろう?・・・。 良く聞こえなかったな・・・。
でもデッカイ箱だし、なんか良いものだろう、これは!」
などと期待していた私の手元に届けられたものは、『うさん太君キーホルダー全種類・豪華セット』なるもので、キーホルダーばっかりが三十個も化粧箱に入ったものでした・・・。
『ああ~、凄いね~。 なるほど、一個二百円だから、三十個で六千円相当なんだ~・・・。ラッキー~・・・・。って、なんじゃそりゃ!!!』
まさかのうさん太君キーホルダー大量ゲットでみんなの願いを叶えてしまうとは夢にも思わなかった私ですが、なんとも言えないがっかりした気持ちで、寮へと帰宅するのでした・・・。
「すげ~!!! お前、本当に貰ってきてくれたのかよ!? うさん太君キーホルダー!!!」
「おう・・・。 半分も残ってれば良いから、好きなだけ持ってけ・・・。」
「ほっホントかよ!? いや、なんか悪りいなあ!!!」
「いや・・・。もう・・・、喜んで貰えて嬉しいわ・・・。 どんどん持ってけ・・・。
すまんね、ユリ・・・。 ブランドが、うさん太君で・・・。」
「あはは! でも、これも可愛いよ!」
「そっそうね、可愛いね・・・。(ユリちゃん・・・。キミの優しさ・・・。今はとても辛い・・・。)」
それから数日後・・・。
私は例のごとく、佐藤さんの飲み会に参加しておりました。
「あははは! ありがとう、ありがとう! 大事にするよ、可愛いじゃない! あははは~!」
「(くそ・・・。)喜んでも・ら・え・て! ほんと~に、嬉しいですよ!」
「やだ~、ユキちゃん。 そんな事言うと、ユリちゃんがヤキモチやくよ~!」
「そっそんな事無いですって! いやだ、間宵さん・・・。」
「(っていうか、イヤミがまったく通じねえ・・・。わざとか!?)
それにしても・・・。 もしかして間宵さん。 今回の賞品・・・っていうか、俺が三位になる事とか、知ってたって事無いっすよね?・・・。
なんかもう、間宵さん何でもありだから、ひょっとして予知能力とか、あったりして!?」
「あはは。 さあね~?」
そうイタズラっぽく笑う彼女は、不思議に魅力的でもあり・・・、少々憎々しくもあるのでした・・・。




