アフターストーリー04 「泊まる」
それは、夏の暑い日の出来事・・・。
私達は、会社のメンバーを中心に、いつもの佐藤さんの飲み友達などを交えて、泊まりがけで、某県の海岸へ遊びに来ていました。
「おやおや、ユキちゃん、もしかして、あの子は彼女さん?」
「ああ、間宵さん、お久しぶりです。 ええ、実は・・・。」
「そっか~。キミにも、ようやく長い冬が終わる時が来たんだね~・・・。いや、お姉さんは嬉しいよ~。クスクス」
「なっなんか、微妙にサクサク刺さる言い方なんすけど!」
「いやだってさー、この間までは俺は一生恋愛なんて出来ないかもしれません・・・って、おもしろ・・・じゃなかった悲壮感すごかったじゃない!? あははは!」
「・・・。あのときは、ど~も、お・せ・わ・様でした!」
「なんのなんの! あははは!」
『わーい、この人、全然イヤミが通じてねえ・・・。』
この頃、私はようやく、高校時代の「和泉」以来の新しい恋人と巡り会う事が出来ました。
彼女は、名前を「石野ユリエ」と申しまして、会社の後輩に当たります。
地方出身の子で、出会った当初は、悪い言い方をすると、あか抜けない感じの子でしたが、そこが・・・、素朴で純粋であり・・・。 私は気がつくと、彼女に対して特別な感情を抱いていた様で、それを彼女も察してくれたのか、めでたく付き合う事になるのでした。
「あ、ユリ! こっちおいで。 紹介します。 後輩の石野ユリエです。 こちらは、間宵ユキエさん。 色々とお世話になってる人だよ。」
「はっ初めまして・・・。」
「こんにちは~! なんか、初々しくて良いね~。 あはは!」
「間宵さん、言い方が微妙にイヤらしいですよ・・・。 なんか、オッサン臭せえし・・・。」
そんなやりとりもありつつ、私達は充分海を満喫し、いよいよ宿へと戻った訳ですが・・・。
ここで、まあ、こういう年頃の男女が集まって、夏と言えば「定番の催し物」が提案される訳でして・・・。
「というわけでさ、せっかくだし、肝試しでもやんべよ。」
「佐藤さん、せっかくの意味が全然分からないんすけど・・・。」
「あれ? お前知らないの? この海岸は、心霊スポットで有名なところなんだぞ。」
『ああ・・・。 俺の人生は、何故にこうも霊がつきまとうんだ・・・。 謎だ・・・。ホントに謎だ・・・。』
「止めときな。 遊び半分で行くと、怪我するよ。」
『いいぞ~、間宵さん! もっと言って、もっと言って!』
「まあまあ、間宵さん。 こう言うのも雰囲気だからさ~。 どうせ何も出ないって!」
「馬鹿なこと言わないでよ!!! ユキエが駄目って言ってるんだから、絶対駄目よ!」
『なるほど・・・。 間宵さんのお友達は、みんな彼女の恐ろしさを知ってる訳か・・・。』
「ちぇっ。 つまんねえなあ・・・。」
『中学生か! あんたは!』
「じゃあ、参加したいヤツだけで行くか。」
という訳で、女性陣はみんな不参加となり・・・。
そうなれば、本来もう行っても仕方ない事に、みんな気がついているのでしょうが、そこは男のプライドの意地らしさと申しましょうか・・・。
「なっなあ・・・。 せめて、間宵さんだけでも来てくんねえかな・・・。」
「ビビってんなら辞めれば良いじゃない、バッカじゃないの! ユキエは絶対に行かせないよ!」
「だって。 どうする? 私は行けないみたいだよ。」
「こうなったら俺も男だ! 行ってやろうじゃねえか!」
『佐藤さん・・・。 あんたいくつですか、ホントに・・・。』
「ふ~ん・・・。 じゃあ、しょうがないから、ユキちゃん連れて行きな。 ああ、ダメダメ。ユリちゃんは残ってね。」
「でえええ!!!!!! なんですと!!!!!!
俺もう頭から不参加表明してんですけど!!!! もう、男じゃないんで!!! それで良いんで!!!」
「みんなが心配じゃないの? キミがいれば、とりあえず安全だろうから、いろんな意味で。一緒に行ってあげてよ。(コソコソ)」
「人を魔除け札みたいに扱わんでください!!!!」
結局・・・。私は男たちのプライドの犠牲となり・・・。
この、何の目的で行くんだか、まったく分からない「肝試し」に参加するのでした・・・。
「って、なんで俺が先頭なんすか!!!」
「いや、だって、この中でお前が一番若いし。 ほら、足だってお前が一番速いだろ?」
「じゃあ何かあったら、みんな置いて速攻逃げますよ、俺・・・。」
「なっなんだよ、冷てえ事言うなよ~・・・。」
『ホント帰りてえ・・・。 ホントなら今頃、みんなで楽しく酒飲みながら賑やかにトランプなんかやってる筈じゃ無かったのか・・・。 不毛すぎる・・・。』
それからしばらくは、その「心霊スポット」とやらを探索していたのですが・・・。
「やべえ・・・。 すんません、ションベン行ってきます。」
「おっおう!・・・。 なるべく早く戻ってこいよ!」
『そんなに怖ええなら、最初から来なきゃ良いのに・・・。』
そんな事を思いつつ、私は物陰に隠れる様にして、夜空の下、タチションをする訳ですが・・・。
私が物陰に隠れて、それほど時間も経たずして、どうやら何か起こってしまったようでして。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
という悲鳴と同時に、みんなが一斉に逃げていく気配がします・・・。
『何ですと!!!!!! 置いてけぼりかい!!!!』
という訳で、私も必死に置いて行かれない様に、車まで走って戻った訳ですが、案の定、恐怖のあまり、私の事なぞ忘れて早々に逃げ去る準備をしており・・・。
「あんまりっすよ! こんな所に置いてくなんて!」
「もっ文句は後で聞くから! とにかく、早く!早く!!!」
結局、私達はそのまま、這々の体で宿に逃げ帰るのでした・・・。
宿について、女性陣に事の次第を報告し・・・。
「ぎゃははは! 何それ!? みっともないったら、ありゃしないじゃない! ぎゃははは!!!」
結局、私が用を足してる最中、どうもタヌキか何かの仕業で激しい物音がしたらしく。 それに驚いて、だいの男が全員、逃げ帰ったのでした・・・。
「俺が一番悲惨だったっすよ・・・。 ションベンしてたら、そのまま置いて行かれる所だったんすから・・・。」
「いや、面目ねえ・・・。」
「笑い事じゃないよ、全然。 危なく何人かは取り憑かれる所だったんだから。取り憑かれたら最後、私でも手に負えないよ。」
「ええっ!・・・。 じょっ冗談止めてよ、間宵さん・・・。」
「冗談だと思う? これに懲りたら、二度とふざけ半分で近づかない事だね、佐藤さん。」
そう厳しくたしなめる間宵さんの顔は、幽霊よりも恐ろしく・・・。
「はっはい・・・。」
流石の佐藤さんも、大人しく従うのでした・・・。
そして、就寝も間近の事・・・。
「間宵さん、間宵さん・・・。」
「ん? どうしたの? ユキちゃん。」
「さっきのアレ・・・。 本当っすか?・・・。」
「何が?」
「いっいや・・・。 間宵さんでも手に負えないとかって・・・。」
「ああ、 あはは。 あれぐらい言わないと、連中も懲りないでしょ?」
「ああ・・・。そう言う事っすか・・・。」
「いや、実際分からないけどね。 とにかく、興味本位で近づくなんて、もってのほかだよ。そんな薄弱な意思で近づいたら、どうなるか分からないから。」
「はあ・・・。」
「ユキちゃんも、いくら自分は平気だからと言って、悪い事してると駄目だよ!」
「っていうか、今回のは、あんたのせいでしょうが!」
「そうだっけ!? あははは!」
「あははって・・・。」
そんな具合に、私達の夏は、無駄に過ぎていくのでした・・・。




