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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
番外編 (アフターストーリー/ほか)
70/85

アフターストーリー02 「視る」

 初めて佐藤さんの飲み会に参加した私は、どうもおかしな人に目をつけられてしまい、困惑しておりました。

 そして、そのおかしな人である間宵さんという女性の言葉に、どうも後味の悪い様な、嫌な気分が頭を離れませんでした・・・。


 『くそ・・・。 あの間宵って人に会ってから、どうも変な気分だ・・・。まるで、昔のどん底の気分に戻った様だ。

 あれから・・・・、もう何年も経ったのか・・・。 それでも、未だに何も変わらずに引きずっているって事か・・・。まったくだらしない話だな。』



 それからしばらくして、間宵さんとの約束の日がやってきました・・・。


 『何となく・・・・、気が重いんだよな・・・。

 けど、何でだろう?・・・。 今日だけは、絶対に行かなきゃいけねえ気がする・・・。』


 そう・・・。私は何故か、とても強い義務的な何かを感じながら、間宵さんの待つ喫茶店へと急ぐのでした・・・。


 到着した喫茶店は、どことなくレトロな雰囲気の漂う喫茶店で、良い色に時代を重ねた重厚な扉を開くと、カランカランと、あの懐かしい呼び鈴の音が鳴り響きます。


 『この音を聞くのも久々だな・・・。 懐かしい・・・。』


    ・

    ・

    ・


 ― あれ! これ美味いなあ! 何で俺、こんな美味いもの、今まで飲まなかったんだろう!?


 ― あはは! ユキ、良かったね。 これでやっとオトナになれたじゃん!


 ― くそっ・・・。 お前に言われると無性に悔しいな・・・。


 ― あははは! なんで~? 喜んであげてるんだよ? あははは!


    ・

    ・

    ・


 「・・・。」


 そんな懐かしさに囚われている私に、元気な声が掛かります。


 「ああ、渡辺くん! こっちこっち。」


 そこには、既に先に来て、だいぶん持て余すような様子の間宵さんが、私を見つけてホッとした様な表情を浮かべています。


 「ああ、すいません。 早く来たつもりだったんですけど・・・。待ちました?」


 「ううん、ちょっと用事があって早く出ちゃったからさ、気にしないで。

 なに飲む? え~っと・・・。 ああ、紅茶が良いのかな?」


 「え? ええ・・・。」


 「すいませ~ん、紅茶ひとつ~。」


 「あの・・・・。 で、今日の話というのは・・・。」


 「ああ、それなんだけどね。 う~ん・・・、何から話したら良いんだろ。」


 「・・・。」


 「渡辺くん、幽霊って、本当に信じてない?」


 「え? ・・・・。 いえ、信じてないというか、実際に見た事がないもんで・・・。」


 「ふ~ん・・・。 おかしいなあ・・・。 何も感じない?」


 「え?・・・。(本当に、何が言いたいんだ? この人は・・・。 わざわざ呼び出して、人をからかってんのか?)」


 この時まで、私は彼女が何を言いたいのか、まったく理解出来ませんでした。

 しかし、その後の彼女の話を聞き・・・・、私は、驚きを隠せませんでした・・・・。


 「あのさ・・・。 幽霊を信じないあなたに言っても仕方無いのかもしれないけど・・・、本人の希望だから、伝えるね。」


 「は? はあ・・・。」


 「簡単に言うとね、あなたに霊が一人憑いてんのよ。」


 「?・・・・。え?・・・・。・・・・・。

 なっなんですと!!!!!

 つっつまり、俺、祟られちゃってるって事ですか!!!!?????」


 「う~ん、どちらかというと祟られてるんじゃなくて、守られてるのかな。とても強くね。

 気がつかなかった?」


 「いっいや・・・、全然。 守られてるって事は、良く言う「守護霊」みたいなもんですか?」


 「そうだね、そんな感じ。」


 「(なっなんですかこれ!? いきなり呼び出しておいて、トンでもねえ話だな!? この人、頭大丈夫か!?・・・。)

 で・・・・。 いったい、どこのどなた様が憑いてるんですか?・・・俺に・・・。」


 「うん、そこなんだよポイントは。 これを説明すれば、多分信じて貰えるかな。 本人もそう言ってるから。」


 「本人って・・・。 間宵さん、幽霊と会話が出来るんですか?・・・。」


 「そう。 私の能力なのかな。 会話も出来るし、姿を視る事も出来るの。」


 「(駄目だこりゃ・・・。 完全にイッちゃってるよ、あっちの世界に。

 どうなってんだ、俺の周りは・・・。 もうそんなの、アイツだけで充分お腹いっぱいだって。)

 で、その俺の守護霊様は、何て言ってんですか?・・・。」


 「まあまあ、まずは、あなたに憑いている霊の説明からね。」


 『かっ帰りてえ・・・。はっ!もしかして、これが噂の「霊感商法」の勧誘ってヤツか!?』


 「あなたに憑いている霊はね、そうねえ・・・。年は十代・・・。 ああ、十五歳ね。黒髪の長い、瞳が大きな、とても綺麗な女の子。」


 「え?・・・。」


 「名前は・・・・、 ”エリ” ね。」


 私はその話を聞いて、絶句という状態をまさに身をもって体験したのです。

 驚きよりも恐怖しかありませんでした。

 真っ先に頭に浮かんだのは、今でいう「ストーカー行為」のようなものではないかと。


 「どう? 信じた?」


 「なんで・・・。 なんで知ってるんですか?・・・。」


 「ん? 本人が言ってるから。」


 この言葉で、私の中の冷静な気持ちは完全に消滅してしまいます。


 「ふざけんな!!!!!!」


 そう怒鳴ろうとした瞬間、不思議と私の頭の中の何かが弾けて・・・、急に冷静になりました・・・。


 『考えてみれば、この人が知ってる訳がない・・・。

 今まで俺とは何の接点も無かったし、そもそも、アイツの事はここじゃあ誰も知らねえ・・・。

 もしかして、ホントにそうなのか?・・・。 いや、まさか・・・。』


 「ん~。 まだ信じてない?」


 「いや、信じろと言われても・・・。どうにも、頭が混乱してます・・・。」


 「そうそう、あなた、コーヒー飲めないんでしょ? これも彼女からさっき聞いたんだけど。」


 「はあ・・・。たしかに。(これだけなら、会社に知ってる人も多いから、聞いた可能性があるな・・・。)」


 私は彼女の言葉を真剣に検証する事にしました。何が狙いなのか。どういう目的があるのか。何より、彼女の事をどうして知りえたのか。


 「・・・・。 へえ、デートで二回吐いたんだって? あははは!」


 「!!!!・・・・。(間違いない! 本当にアイツが居るのか!? この事は、俺とアイツしか知らない・・・。 ちくしょう! どうなってやがる!)」


 「どう? 少しは信じた?」


 「正直・・・。 まだ混乱してます・・・。 でも、間宵さんがアイツの事を知っている事だけは、理解出来ました・・・。」


 「うん、取り合えず、それでも良いよ。 私の伝える、彼女の言葉を信じて貰えればOKだから。」


 「・・・・。」

 

 「まずね。 いい加減、私のした事で悲しむのは辞めてくれって。」


 「・・・・。」


 「私がこうなった事は、あなたが悪いんじゃないからって。」


 「・・・・。 納得がいきません・・・。」


 「え? やっぱり、信用出来ない? 私の言う事。」


 「いえ、そうじゃなくて・・・。

 仮に、今言った話が本当だったとして・・・。俺は・・・、アイツがなんで死ななくちゃいけなかったのか・・・。その理由をまったく知らないんです・・・。

 もしかしたら、俺たちは・・・・、俺は、アイツを助けられたかもしれないんです・・・。

 それだけで、俺は自分に罪があるんじゃないかって・・・、そう思ってます・・・。」


 「・・・・。」


 「それを、俺のせいじゃないとだけ言われても、全然納得できないですよ・・・。」


 「・・・・。 なるほどね・・・。

 分かった。 それなら今から、あなたと彼女が別れた後の真相を、あなたに伝えるね・・・。」


 「え?・・・。」


 「いい?」


 「お願いします・・・。 聞かせて下さい・・・。」


 そして、彼女の口を通して、私の「心の重荷」を作った真相が語られ・・・、それは予想もしなかったもので、私は色々な意味でショックを受けます・・・。


 「まあ、大体こういう話みたい。 思い当たる事、ある?」


 「あります・・・。」


 「そう・・・。」


 「でも・・・、それじゃ、全然俺が無関係って事にならないじゃないか!!!

 やっぱり、俺のせいだったんじゃないか!!! なんてこった・・・。」


 「う~ん、それってさ。」


 「え?・・・。」


 「それって、キミの自惚れじゃない?」


 「・・・・。」


 「それじゃ逆に聞くけど、彼女には選択権が無かったわけ? 私は、キミの気持ちは良く分からないけど。 けど、彼女がそうした気持ちは、良く分かるつもりだよ。」


 「だからって、死ぬ事なんて無いのに・・・。」


 「それは、人それぞれじゃないかな。 別に、生きる事と死ぬ事と、そんなに大きな違いは無いでしょ? 短い人生が、長い人生に劣る訳じゃないんだし。」


 「そんな事、納得出来ないですよ・・・。 自分で勝手に命を絶って良いはずが無いじゃないですか・・・。」


 「まあ、そこは私も、人として認める訳にはいかないけどね。

 けど、キミのそれ、自分を責めている様で、実は彼女を責めてる事と一緒じゃない?」


 「え?・・・。」


 「たしかに、キミに相談もせずに、勝手に死んでしまった事は、彼女もとても後悔してるみたいだよ。

 それによって、キミや彼女の周りの人間を悲しませちゃった訳だし。とても反省してる。だからもう、キミも許してあげなよ。」


 「許すも許さないも・・・。 ただ・・・、俺は申し訳無いだけです・・・。」


 「何が?」


 「まだたった十五才ですよ? まだこれからだったのに・・・・。

 これからたくさん楽しいことだってあっただろうに・・・。それにアイツは・・・、俺しか男を知りません・・・。 最初で最後が俺だったなんて・・・。

 アイツだったら、もっと良い人と巡り会う事だって出来ただろうに・・・。

 俺と会ったばっかりに・・・、未熟な愛情で、アイツの人生を台無しにしちまったんじゃないかって・・・・。」


 「【そんな事、ユキには関係ないでしょ。 勝手な事言って、一人で悩んでんじゃないわよ!】・・・だって。」


 「え?・・・。」


 「【私は、ユキだけで、もう充分。 一生分の愛情を貰ったよ。本当に短い間かもしれないけど、でもね、本当にもう充分満足したのよ。 ユキ、本当にありがとうね。私は充分に幸せだから。だからもう、ユキも悲しむのは辞めて・・・。】・・・って言ってるけどね。」


 「え・・・り?・・・。」


 「だって。 彼女がそう言ってるよ。」


 「驚いた・・・。 アイツのしゃべり方そっくりだったんで・・・。」


 「そう? 似てた? あはは。」


 「ええ・・・、ホントに・・・。」


 「こうも言ってるよ。もう、立ち止まるのは辞めてって。これから、自分の人生を生きて欲しいって。彼女は、これからもずっと、あなたが一生を終えるまで、しっかりと見守ってるからって。」


 「・・・・。」


 「本当に良い子ね・・・。 それにキミ、彼女に本当に愛されてるんだね・・・。」


 「はい・・・。」


 「それにね、ハッキリ言って、彼女は本当に強力よ。キミは本当に守られてる。」


 「アイツ、昔から幽霊やら何やらが大好きだったんですよ・・・。 きっと、間宵さんとも話が合うんじゃないっすかね・・・。」


 「うんうん、ホントに気が合うよ。 あはは。」


 「そっか・・・。お前は、幽霊が好きだったからな・・・。 それで、自分が幽霊になって・・・、俺を守ってくれてたのか・・・。」


 「そうだね、とても強く、キミを守ってるよ。 霊魂って言うのはね、思いの強さだからね。」


 「間宵さん・・・。」


 「ん? なに?」


 「今ここで、思いっきり泣いても良いですか?・・・。」


 「うん、良いよ。 見なかった事にしてあげるから、思いっきり、気の済むまで泣きなよ。 お客も、他に誰も居ないから・・・。」


 「あっ有り難うございます・・・。 うっううううううっうううっ・・・・・。」


 私は正直、この時に全てが納得できた訳ではありませんでした・・・。

 それでも、これがキッカケとなり、私はその心の重荷を遥かに軽くする事が出来たことは、紛れもない事実でした。

 果たして、この世に本当に霊魂が存在するのか、その様な世界があるのかは、そんな事は私には分かりませんし、肯定も否定も出来ませんが、そういうもので救われる心があるのなら・・・、それもまた良いのではないか。

 私がそう考える様になりましたのも、これがキッカケだった様に思います。


 そして、気の済むまで一頻り泣き濡れた私は、今まで、まるで霞がかった空が晴れ渡る様に、あの出来事以来訪れなかった様な晴れやかさを経験していました。


 「そろそろ、行きましょうか?」


 「はい・・・。」


 そして、その帰り道、私は近くの駅まで、間宵さんを自転車の荷台に乗せて送ります。


 「どう? 少しはスッキリした?」


 「はい・・・。 正直、何かが解決したわけじゃないんですけど・・・。

 ただ、今まで感じた事が無いぐらい、スッキリしてます。」


 「それは良かった。 来た甲斐があったよ。」


 「なんか、ホントにありがとうございます・・・。」


 「彼女も喜んでるよ。 ようやく、キミに笑顔が戻ったって。」


 「そうっすか・・・。 ・・・・。 間宵さん。」


 「ん?」


 「俺、頭が悪いんで、正直間宵さんの話の半分も理解出来てないです・・・。

 未だに幽霊を信じてるかって言われたら、見た事が無いので何とも言えないですし・・・。

 昔、不思議な体験をちょっとだけした事があるんですけど・・・。それでも、幽霊がいるかってなると・・・。」


 「あはは、まあ、そりゃあそうだよ。」


 「けど、今日の話は信じます・・・。 アイツの姿が見える訳じゃ無いけど、実は、何となく感じているものがありました・・・。ずっと勘違いだと思ってたけど・・・・、それがスッキリ納得いきました・・・。

 もう一回、色々とやり直してみるつもりです・・・。」


 「そう。 がんばりなね。」


 「はい・・・。 それと、こんなこと言うと、間宵さんの今までの話を全部否定するみたいになるんですけど・・・。」


 「ん? なになに? どんと来なさいよ、ほれ。」


 「あっいや・・・。 これはたぶん、虚しい希望なんですけど。 俺はどっかでまだ、あいつが生きているような気がしてならないんですよ。きっと認めたくないんでしょうね・・・。」


 「そっか・・・。」


 「きっと、あいつの墓でも見たら、諦めがつくんでしょうけど、その度胸はまだ無くてですね・・・。」


 「まあ、良いんじゃないかな、それで。 ただ、これだけは確かなことなんだけど。」


 「はい?」


 「その子の意思は、常にキミと共にあるんだよ。それは間違いない事だから、分かってあげてね?」


 「はい・・・。 不思議な感じですけど、なんか心強い気持ちもします。」


 「ん。 そうそう・・・。 もう一つ伝えて欲しいって。」


 「はい? なんでしょう?」


 「う~ん、何だかね、【いつの日か、叶うように。約束だけは忘れないでね】って。なんの事?」


 「ああ、いや、それは・・・。 内緒です。 ははは。」


 「ふ~ん・・・。まあ、何でも良いけどさ。でも気になるな。内緒なの?」


 「内緒ですよ。」


 「そうなの? どうしても?」


 「どうしてもです。」


 「つまんないのー。 まあ、キミが元気になるなら、何でも良いけどさ。」


 この間宵さんとの出会いが、私の心の霞を振り払い、重荷を軽くしてくれた事は、私にとって大変大きな意味を持ちました。

 それで全ての重荷が消え去った訳ではありませんが、暗中模索を繰り返す、出口の見えない迷路の中、ほんの小さな、とても小さいけれど、差し伸べられた灯火は、私にとって大きな道しるべとなったのです。

 それがキッカケとなり、この数ヶ月後、私は数年ぶりに恋をする事になります。

 そして、それからしばらく後・・・、石崎リョウコ、和泉エリと、偶然の再会を果たす事になるのですが・・・。


 もう一つ、この「間宵さん」との出会いによって、私の中に、目に見えない大きな変化が訪れます・・・。そう、それはまさに「変化」としか言いようのない事でして・・・。

 果たして、それは幸運だったのか、不運だったのか・・・。


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