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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
7/85

09 「恐怖新聞! 後編」

 流石に夏も本番近くなり、炎天下では辛い気温でしたが、木陰は土地柄もあるのか大変涼しく 狂馬と化した「ネジ飛び姫」に引きずられながら走る理由は、前回でお話しした通りですが、自分の浅はかさに後悔しつつも、 「こいつは一体何処に向かって走っているんだ?」 という疑問がついて出ました。思い出した様に急に動きを止めた姫様は、振り向きざまに例のお人形さんの様な顔で私を睨み付け・・・


 「なら、サッサとあんたが案内しなさいよ!」


 (猪か・・・、お前は。)


 という訳で、私がこの「けったいな姫様」をエスコートしながら、行きたくもないデンジャラスゾーンに向かいましたのは、外の暑さが最高潮の時間帯の事でした。

 しかしながら、目指した先の山道はうっそうと木が生い茂り、外の暑さとは別世界を創っていましたが、それがまた逆に、・・・無駄に雰囲気を煽ります・・・・。

 当時、歴史に疎かった私ですが、その辺りに転がっている墓石を見ても、どう見ても江戸時代まで遡りそうな年号が刻まれています。表はすっかり改修されて新しさを持ったこの名刹も、少し裏に回れば、やはり歴史のある古い寺なのだという事を改めて認識させてくれます。

 エリはそこかしこを満足そうに覗き込み、私に得意げに「写真を撮れ」と指示を出していきます。無邪気といえば無邪気ですが、どうもアホな方向に向いてしまっている事が、何となく不憫です・・・。

 そんな私の表情を敏感に察したのか、


 「何よ、何か文句あるの!?」


 (いやいや~、姫様。 私は無駄な努力はしない主義でございます・・・・。)



 この「ネジ飛び姫」の浮かれ具合がピークに達した頃、事件が起こりました。


 調子に乗りに乗ったエリは、ロープで仕切られた山道だけでは飽き足らなくなったのか、それを飛び越え、獣道まで降りようとしていました。


 「おい!これ以上罰当たりな事するな! ふざけ半分でいると、ホントに祟られるぞ! 」


 私が本気で怒鳴ったので、少々面食らった様でしたが、すぐに私を睨み付け、


 「私は別にふざけてない! 真剣なんだから!」


 「・・・。」


 (というか真剣だったのか・・・・。  予想はしていたが、改めて言われると何だか急に、こいつが別の生き物に見えてくる様だ・・・。)


 などと、そんな事を考えていると・・・


 「あっ!」


 というエリの叫び声と共に、身体の傾く姿が見えました。別に助けるつもりは無かったのですが、ついついとっさに手が出てしまい、結果的にそれを掴んだエリは、坂道を転げ落ちずに済んだのでした。しかし、滑った時に豪快に擦り剥いた様で、左足から派手な出血をしていました。

 「だから言わんこっちゃない!」と怒鳴りつけると、流石にバツが悪いのか、ムスッと口を尖らせて黙っていました。

 とりあえず水で洗わなければと、嫌がる姫様を無理矢理おぶって、近くの蛇口まで行き、傷口を洗ってやりました。血を洗い流してみると、出血の派手さの割に傷自体は大した事はなく、それでも痛いのでしょう、しかめっ面をしながら傷口を見ています。やせ我慢もここまで来ると立派なものです・・・。

 とりあえずエリが自分で持っていた綺麗なハンカチを傷口にあて、再び荷物の様にエリを背負った私は、寺務所まで急いで応急手当を受けました。

 まったく、こんなアホな「罰当たり者」にまで寛容な手当を施してくれるのですから、このお寺の仏様も実にお人好しです・・・。


 流石に怪我をして悪いと思ったのか、借りてきた猫の様に大人しくなったエリを連れて、とりあえず皆との待ち合わせ場所に戻ります。傷も大した事がなかったですし、処置も早かったので、腫れなども無さそうでした。捻挫は大丈夫かと聞いてみると、その心配は無さそうでした。まったく・・・。

 お陰で、みんなが集まるまでには一時間ほどあり、幸い、この待ち合わせ場所は日陰で涼しいのですが、それでも暇を持て余す事になりました。普段なら「便所の100W」の様に明るいエリも、すっかり大人しくなっています。私はそれを見ながら、普段もこれぐらいシオらしくしていれば可愛げがあるのにとも思いつつ、いやいや何だかこいつらしくないのも気持ち悪いな・・・等と考えていますと、初めて会った時のように俯いていたエリが、ちらっとこちらを横目で見てしばらく・・・・


 「ごめん・・・」


 普段では考えられない「蚊の泣く様な声」でつぶやきました。恐らく、こいつなりの精一杯の謝罪なのでしょう。私はしっかりと聞こえていましたが、あえて聞こえないふりをして惚けていました。どうせ、下手に慰めの言葉など受けても、こいつも気持ち悪いでしょうし、私も何を言って良いのか思いつきませんでしたので。

 代わりに、私はエリに「ここで大人しく待ってろ」とだけ告げて、寺務所に向かいました。いえ、一番の目的は「用足し」だったのですが、そのついでに・・・。


 「ほら、バチが当たらないように持っとけ。」


 私はエリに、寺務所で買ってきた厄除け札を渡します。散々罰当たりな事をした当事者のお寺様に守って貰おうなんて、実際虫が良い話でしたが、何もないよりはマシだろうと買ってみました。何せ、こいつが祟られると、当然、一緒に居た私が巻き添えを食う確立は高い訳で・・・・。

 エリは、まるで素っ頓狂な顔をして、私と御守りを見比べた後、また無感情に「ありがとう」と蚊の泣く様な声で言いました。


 どうも、何となく気まずい雰囲気を創ってしまった事を後悔しつつ、相変わらず嬉しいんだか迷惑なんだかサッパリ分からないマヌケな顔で黙りを決めているエリをみて、この空気に絶えられない私は、


 (とにかく誰か、この際もう藤本でも良いから、早く帰ってきてくれ・・・。)


 と願っておりました。

 そんな矢先、リョウコと藤本が本当に時間よりも少し早く戻ってきてくれたのを見た時には、私はリョウコがいつも以上に「天使」に(藤本がその「召使い」に)見えたものでした。

 しかし、どうやらこの雰囲気が絶えられなかったのは私だけではなく・・・、リョウコの姿を見つけて、すっかりいつものテンションを取り戻したエリを見ますと、気持ちは同じだったようです。

 リョウコは流石に目敏く、エリが怪我をした事に気がついて、心配そうに理由を尋ねていましたが、どうもそれが照れくさかったのか、エリはまるで自分の武勇伝か冒険譚の様に、怪我の経緯を大袈裟に克つ自慢げに話していました。やれやれ・・・。

 しかし、リョウコはエリの尾ひれ話を相応に聞き流して、それよりも足の傷が残らないかどうかの方が心配だったようです。


 (良かったなエリ。良いお母さんがいつも一緒で・・・。)


 その後間もなくして、エーちゃん達のグループも戻りまして、良い時間という事で寺を後にしました。帰りの電車は、流石にみんな疲れたのか大人しいもので、エリとリョウコはお互いの肩と頭を枕に寝息を立てていました。

 駅に着いてから、エリはみんなからフィルムを回収し、私と姫二人はそのまま写真屋へ現像を出しに行きます。ちなみに、この時の現像代はみんなで割り勘となりました・・・。

 巻き添えを食ったエーちゃん達には申し訳ないのですが、こんなもの、当然学校側に請求できる訳もなく・・・何が悲しくて、墓やら、うっそうとした森やらを撮った写真に金を払わねばならないのかと疑問に思う事しきりですが、それもこれも、あの時に反対をしなかった自分達にも責任があると諦める事で決着しました・・・。



 それから数日後、出来上がった写真を前に、我々「急造新聞委員会」は、第二回編集会議を開いておりました。

 まずは、出来上がった写真の検証です。一枚一枚、それらしいものは写っていないか探していく訳ですが、当然、そんなものが都合良く写っている訳が無く・・・・たま~に「あっ!これもしかして!」なんて声があちこちから響くのですが、大抵は所謂「それらしい」というだけのシロモノで、まったく「金と時間をドブに捨てる」とはこの事だと、しみじみ実感するのでした。

 そう、この時までは・・・。


 「これ! そうじゃない!?」


 真顔で興奮の声を上げたのは、何と鷲尾でした・・・・。これには驚きでした。鷲尾はエリと性格が近いとはいえ、考え方は正反対のリアリストでしたから、その鷲尾が言うなら、ちょっと信憑性があります。早速、みんなでその写真を覗き込んでみると・・・


 「いや、これは洒落にならんぞ・・・。」


 その一枚は、私とエリが例の古墓場で撮ったもので、何やら得体の知れない、小さな屋根付きの「社」の様な物体を撮ったものでした。その時の状況を思い出しますに、エリが豪快に流血した少し前に撮ったものだったと思います。


 問題は、その屋根の上に乗っかっている「もの」でした。

 私は、特に空間認識や形状認識が優れているとも、創造力が優れているとも思わず、むしろ乏しい方だと思っていました。例えば、不思議絵などを見ても、一人だけ不思議さが分からない様な、そんなタイプだったのですが、その私が見ても、この「もの」は人の頭に見えます。

 髪の毛はザンバラ髪とでも言うのでしょうか、昔の女性が髷をといて無造作に垂らした様な状態で、そのスキマから、間違いなく目玉と思える鋭い眼光がこちらを見ています。

 流石の鷲尾も、これは気持ち悪いと思ったのか、複雑な表情をしています。金子と藤本も絶句、リョウコは少し、肩を振るわせてエリの腕に手を絡ませています。私とエーちゃんはお互いに顔を見合わせましたが、ビビって声も出せずにいました。

 エリも流石にこれには驚いたのか、いつになく真剣な表情をしていましたが、どうやらこれを本当に新聞に載せようと思っていたらしく、流石にそれはマズイ、今度は擦り傷じゃ済まないぞ!と、みんなの忠告を受けて、渋々諦めたようでした。


 (お札さま、お札さま! どうかこの哀れで罰当たりでアホな姫をお許しください・・・お守りください! そして、俺にまで、どうかとばっちりが来ません様に!)


 とりあえず、この気持ち悪い写真の事は忘れて、まずは新聞を完成させようと、まともに使えそうな写真を選んでいきます。

 ここでも流石しっかりもののリョウコは、まともに使えそうな建造物の写真をしっかり撮ってくれていた様で、これにリョウコと鷲尾が下調べしてくれた寺の資料を基にみんなで文章を考え、リョウコが清書する形で仕上げていきました。この作業は何日かに分けてやっていましたが、それでも最後の方は遅くまで学校に残っていた事を覚えています。


 ちなみに、エリが考えていた様な「恐怖新聞」は元々無理だった事が、ガリ版を刷る時点で判明します。複写機で原稿を版画にする段階で、余程コントラストの強い写真以外は、全て真っ黒になって、何も見えなかったからです。

 つまり、私達は二日間の時間と金を無駄にした挙げ句、その代償として、実際には何の役にも立たなかった上に、(恐らくは・・・)厄介な「本物のウツッテハイケナイモノ」。そして厄除けの札と、エリの怪我をゲットして終わったという、何だかなあな週末を過ごしたという訳です・・・。

 ただ、それでもみんなを見るとまんざらでもなく、それぞれに満足のいく出来事や想い出が出来た様でした。そんな私も、どうやら楽しかったと感じている様で、今回の事を満足している自分が、ちょっと不思議でなりませんでした。まあ、女子組の弁当が美味かったし。


 という訳で、恐怖新聞・・・・もとい、学級新聞は一応の完成を見て、クラスメイトに配られる事になりました。

 しかして、その評判は・・・・

 教師には好評で、生徒にはイマイチと、ありがちでつまらない結果でしたとさ!・・・・。




 ところで、例の心霊写真には後日談があります。流石にオカルトマニアのエリも、この写真は気になったのか、良く心霊写真を発行している出版社の募集コーナーに、ネガごと匿名で送ったそうです。すると、それからしばらく後に、何と本当に心霊本に掲載されるという離れ業をやってのけてしまいました・・・。

 その時に掲載された霊能者さんのコメントは・・・・


 「この霊は大変危険です。江戸期頃の女性の霊ですが、男に裏切られた思いが強すぎて、半分妖怪化しています。この写真の供養は時間が掛かりましたがすっかり済ませましたので、持ち主の方もご安心ください。ただし、本体の方はかなりの年月を掛けての供養が必要となります・・・。絶対に、二度と近づかない様に。」


 だそうです・・・。

いや、もう、どんだけ~!!!


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