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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
最終章
66/85

67 「その後のこと・・・ 最終話」

 愚かにも自分の気持ちに決着をつけることができないまま、和泉と付き合い続けた私は、当然その報いを受けることになります。

 二人の歪な付き合いは、私の愚かで幼稚な行動のために、最悪な形で終焉を迎えることになるのでした。


 それは、ある日のデートでの出来事・・・。


 私達は、いくつかの不安や疑念を除けば、この時まで、実に仲睦まじく過ごせていたと思います。少なくても、私はそう思っていました・・・。

 ですので、このデートの計画も、二人で納得がいくまで、楽しく計画をし、その甲斐あって、私達はとある水族館に来ていました。


 「水族館って、あんまり真剣に見た事無かったけど・・・、凄く綺麗なんだね・・・。」


 「ホントだなー。 熱帯魚とか、そういやペットショップとかで見ても、結構綺麗だもんなあ。 これだけいると、凄いな。」


 「正解だったね、水族館!」


 「そうだな・・・って、どうした、何だか今日は嫌にくっつくな。」


 「なんで? 嫌?」


 「いや、嫌じゃねえけど・・・。 なんかテレ臭せえな・・・。」


 「あはは、いまさら何言ってんの? あはは!」


 「そりゃそうだけどさ・・・。 ははは。」


 そして、そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎさり・・・、私達が地元の最寄り駅に着いた頃には、既に日が暮れていました・・・。


 「ねえ・・・、ユキちゃん・・・。 もう少し、話さない?」


 「ああ、良いよ。(何となく・・・、あの最後の日を連想させるな・・・。)」


 私達は、適当な公園を見つけ、そこのベンチに並んで座ります。


 「寒いね・・・。」


 「ああ、ホントに寒いなあ・・。 大丈夫か、和泉。 風邪引くなよ。」


 「・・・・。」


 「・・・。 どうした、和泉? 何か変だぞ・・・。」


 「ねえ・・・。」


 「ん?」


 「・・・・。」


 「・・・。」


 何かを思いつめた和泉の、どこか感情が欠落したような表情を見て・・・、私は心がざわついていました。

 そして・・・。


 「エリって・・・、誰?」


 「あぅっ・・・・。」


 その言葉と彼女の表情を見た瞬間、私の周りの時間が、急速に凍り付き・・・・、止まっていくのを感じました・・・。


 「誰から・・・聞いた?・・・。」


 「犬飼くんから・・・。」


 「アイツか・・・。」


 「私が無理矢理教えて貰ったの・・・。 だから、犬飼くんを悪く思わないで・・・。」


 元々私は、犬飼を責める事など出来ませんでした。

 全ては私が撒いた種であり・・・、私以外の誰にも責めはなく・・・、私自身にしか原因が無い事を、存分に理解していました・・・。

 そんな私が、和泉に真実を告げたであろう犬飼を責める筋合いなど、ありはしませんでした・・・。


 「どうして、話してくれなかったの?・・・。」


 「出来れば・・・、俺自身が忘れたい事だったんだ・・・。 言わなくて良いもんなら、言いたくなかった・・・。」


 「・・・。 犬飼くんは、分かってやって欲しいって言ってた・・・。 けど、ごめん、どうしても、頭の中で理解しようとしても、気持ちが納得出来ないの・・・。」


 「・・・。」


 「ユキちゃん・・・。 私の名前が ”エリ” だったから、付き合ったの?・・・」


 「それは違う・・・。

 いや、正直言えば、お前に興味を持ったのは・・・、それがキッカケかも知れない・・・。 けど、付き合う気になったのは、そうじゃない。

 俺、ホントにお前に感謝してたんだ・・・。 ずっと荒んだ毎日を送ってたから・・・。」


 「でも・・・、それも、そのエリって子が原因なんでしょ?・・・。」


 「・・・・。」


 「ユキちゃん・・・。 言ったよね。 私に、隠し事なんて無いって・・・。」


 「すまん・・・。」


 「何で謝るの? 謝んないでよ・・・。 どうせ嘘つくなら、最後まで、嘘つき通しなさいよ!!!」


 「すまん・・・。」


 「・・・。 ユキちゃん・・・、ちゃんと好きでいてくれた?・・・ 私の事・・・。」


 「・・・。 もちろん好きだし、大事に思ってる・・・。」


 「それは、一番? 一番愛してくれているって事?・・・」


 「・・・・。」


 「ねえ・・・、なんで?・・・。 なんで黙るの?・・・。」

 

 「・・・・、すまん・・・。」


 「謝んなよ!!!!!! なんで謝んのよ!!!!」


 「・・・・。」


 「どうして!? だって、その子は勝手にあなたの前からいなくなって・・・、勝手に・・・、勝手に一人で死んじゃったんでしょ!?」


 「・・・・。」


 果たして、私達の前から姿を消してまもなく・・・、わずか十五歳という若い命を、自らの手で散らしてしまった彼女の胸中に、そこまで思い詰めさせる何があったのか・・・。それを知る術を持たない私達は、やり切れぬ悲しみに包まれていました・・・。

 そして、それを救うチャンスが何度もありながら・・・、結局、彼女を助ける事が出来なかった・・・、私と石崎リョウコは・・・・、その罪の重さを、常に背負い続けねばなりませんでした・・・。


 「そんな勝手な子、何でユキちゃんが背負わないとならないわけ!? なんで、私が・・・、私がこんな思いしなきゃなんないのよ!!!!!!!!!」


 「すまん・・・和泉・・・。

 全部俺のせいなんだ・・・。 俺が全部悪いんだ・・・。 和泉の事も・・・・、エリの事も・・・・。

 だから・・・、俺の事は何言っても構わねえから・・・、アイツの事だけは、悪く言わないでやってくれ・・・。 頼む・・・。」


 ― バッチーーーン・・・・


 気が付くと、私の前に立った和泉は、大きく振り上げた右手で私の頬を思いっきり叩くと・・・、その大きな目に涙を次々と溢れさせていました・・・。


 「あんた、最低よ・・・。 最低の男だよ!!!! だいっ嫌い!!!!! そんなに忘れられないなら、その女の後でも何でも追って、勝手に死んじゃえばいいじゃない!!!」


 そう言って・・・、和泉は私の元を去っていきました・・・。


 『まただ・・・。 またやっちまった・・・。 一人殺しただけじゃ飽きたらず・・・。また大事な人を理解せずに傷つけちまった・・・。

 もう、俺は恋愛する資格が無いのかもしれない・・・。 もう、人を好きなる資格がないのかもしれない・・・。』



 ― ユキ・・・。



 「エリか・・・。」



 ― ユキ・・・、ごめんね・・・。



 「謝るなよ・・・。 お前は何も悪くない・・・。 俺が全部悪いんだから。

 それに・・・、俺には本物のお前より、幻覚になっちまったお前がお似合いなのかもしれない・・・。 俺が作りだした、幻のお前しか、俺は愛しちゃいけないのかもしれない・・・。」


 ― ・・・。


 「そんな顔すんなよ・・・。 これでも、何だか満足な気がするんだから・・・。もう、誰も傷つけずに済むし・・・、俺も傷付かずに済む・・・。

 それに、これは、お前との約束を破ろうとした罰だ・・・。

 「一生忘れない」約束だったのにな・・・。 辛すぎて、忘れようとばかりしてたよ・・・。結局、俺は、お前を忘れる事が、出来そうにないや・・・。 

 ごめんな・・・、エリ・・・。 もう、約束通り、俺の事、殺しても良いんだぞ・・・。

 いっそ・・・、いっそ・・・、そうしてくれよ・・・・。 エリ・・・・。 俺も、連れていってくれよ・・・。」



 ― ユキ・・・、ごめんなさい・・・。



 「エリ・・・。 なんで、なんで一人で死んじまったんだよ・・・。 お前が望めば、俺はいつだって・・・・。 死んでくれと言えば、いつでも死んでやったのに・・・。

 なんで、俺を残していっちまったんだよ・・・。 エリ・・・。

 けど、俺は本当に臆病だ・・・・。情けない臆病者だ・・・。 一人になっちまったら、お前を追いかける勇気もねえ・・・。死んでお前と一緒になれる保証が無い今、俺一人じゃ、死ぬ事だって出来ねえんだ・・・。

 だからエリ・・・。 俺を呪い殺してくれよ・・・。 約束を破ったんだ・・・。俺を呪い殺してくれ!!!」


 ― ユキ・・・。


 「消えるな、エリ! 幻でも、幻覚でも良いから、ずっと・・・、ずっと側にいてくれ・・・・。 頼むよ! エリ!!!! うっうううぅううぅ・・・・。」


 しかし、これ以降、私がエリの姿を見る事も、声を聞く事もありませんでした・・・。

 どんなに望んでも、もう姿を見る事は出来ませんでした・・・。





 その後、和泉とは三年生も同じクラスとなり・・・、卒業まで同じ教室で過ごす事になりますが、その間、私達が言葉を交わす事は、一度もありませんでした・・・。



 そして、時は過ぎ・・・、卒業式の日・・・。


 「和泉・・・、ちょっと良いかな・・・。」


 「・・・。」


 「すまん・・・。 もう、俺となんて話したく無いだろうけど・・・。」


 「・・・。」


 「和泉、今まで本当に有り難う・・・。

 お前のお陰で、高校生活がまったく無駄にならずに済んだ・・・。

 それと、本当に申し訳なかった・・・。

 お前に、本当に非道い事をして、深く深く傷つけた・・・。 本当にごめんな・・・。」


 「・・・。」


 「謝って許される事じゃないけど・・・・、それだけ言いたかったんだ・・・。

 それじゃ、元気でな・・・。」


 「・・・。 ユキちゃん・・・。」


 「・・・。」


 「あなた、本当に最低の彼氏だったよ・・・。」


 「すまん・・・。」


 「でも、もっと・・・・。 もっと早く会えたら・・・、最高の彼氏で居てくれた? 私の・・・最高の彼氏で居てくれたのかな?・・・。」


 「すっすまん、和泉・・・。 うっうううっうう・・・。」


 「ユキちゃん、私の事は背負わなくて良いからね・・・。 そんなの迷惑だから・・・。 もう、忘れて良いから・・・。」


 「・・・・。」


 「元気でね・・・。 さようなら・・・。」


 その微笑みながら別れを告げた彼女の姿は、ほんの少しだけ・・・、私の罪の意識を軽くしてくれました。

 私の高校生活において、この和泉の存在は本当に大きなもので、無駄に過ごした高校時代で覚えている事は、この和泉との記憶ぐらいのものでした。

 それ以外は、冗談の様な話ですが、クラスメイトの名前すら、殆ど覚えていない程です・・・。つい最近、友人と体育祭と文化祭の話になったとき、私は中学時代のそれを思い出すことは、容易に鮮明に出来ましたが、高校時代は参加したのかさえ思い出すことが出来ませんでした。


 和泉の大きな優しさは、自分自身が受けた深い傷をも顧みず、私を癒してくれました。

 そんな優しい彼女を傷つけた自分を、私は許す事が出来ず・・・。

 私はこの後も、大きな自己嫌悪を引きずる事になります・・・。



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