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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
最終章
64/85

65 「その後のこと・・・ 第二話」

 「ネジ飛び姫」を失ってから、その傷を広げない様に、私は最愛の仲間達から大きく距離を置く選択をし、そのまま時は過ぎました。

 そして、ついにそれぞれがバラバラの道を歩む様になってから、一年以上の月日が過ぎます。

 その間、私の荒んだ心に光がさす事も無く・・・。しかし、ここに来て、少しの変化が生じます。


 そんなある日・・・。


 いつもの様に、無為な時間を過ごし、早々に学校を出た後の事。

 その日は、いつもの様に、一年以上通り続けた帰り道を走っていると・・・。


 「ん? あれ? どうした和泉、こんな所でチャリンコ押して。 ずいぶんノンビリだな。」


 「あっ! 渡辺くん! それがね~、自転車のタイヤがパンクしちゃって・・・。」


 「そりゃ気の毒だな・・・。 なら、俺のチャリンコと交換すんべ。 和泉、俺のチャリンコ乗って帰れよ。」


 「でも、それじゃ・・・。 渡辺くんはどうするの?」


 「俺は平気だよ。 こっから少し行った所にチャリンコ屋があるから、そこで直してから帰るよ。」


 「それじゃ、私もそこ行くよ! 連れてってくれる?」


 「いや~、でも結構距離あるぞ? 女にゃキツイんじゃねえかな・・・。」


 「大丈夫よ! ダイエットにもなるしね~。 あはは。」


 「ダイエットって・・・、お前、落とす肉あんのか?・・・。(あるとしたらあれか、胸か?)」


 結局、私達はチャリンコを押しながら、二人並んで自転車屋を目指します。


 「和泉も帰り道、こっちの方だったのか・・・。 知らなかったな。」


 「そうだよ~。 だって渡辺くん、私なんかに興味無さそうだもんね?」


 「いや、そんな事ねえよ。 いつも昼飯のおかず貰ってるしな。」


 「な~んか、それもヒドくない?」


 「いっいや、すまん、深い意味は無いんだけどな!」


 「あはは! ・・・。ねっ、渡辺くんが、そんなに笑ってるの、初めて見た気がする・・・。 あはは・・・。」


 「え?・・・。(そうかもしれない・・・。 そういえば、あのことがあってから、ずいぶん長い間、こんなに楽しい気持ちになった事、無かったかもな・・・。)」


 それからしばらく話をして歩いているうちに、目的地に到着し・・・、和泉のチャリンコは無事に修理され、私達はそれぞれの帰路につきました。





 そして、その翌日・・・。


 私がいつもの様に、隠れ家で弁当を広げて食べようとした時、これもまた、いつものように、和泉がやってきました。


 「よっ! ・・・。」


 「よう。 昨日は無事に帰れたみたいで、良かったな。」


 「うん、お陰様で。 本当にありがとうね・・・。」


 「気にすんなよ。 困った時はお互い様なんだろ? いつもおかず貰ってんだから。」


 「あはは・・・。」


 「なんだ、どうした? 何か元気無さそうだな? 何かあったのか?」


 「ううん・・・。 これ、新しいのにチャレンジしてみたんだ。 食べてみてくれる?」


 「おっ、いつも悪いなあ。 美味そうだな。」


 「・・・。 あのね・・・。 いきなりなんだけどさ・・・。」


 「ん? どうした?」


 「ん~・・・。 渡辺くんって、例えば、今、彼女とかいるの?・・・」


 「なんだ急に? 彼女か・・・。 俺がそんなにモテる様に見えるか~? 居る訳ねえだろ。 それにしても、ホントにいきなりだな。」


 「あのね・・・。」


 「ん?」


 「あのね・・・。 ああ、もうどうしよう!・・・。」


 「なんだ? 言いたい事があるなら、スッパリ言っちまえよ。 頼み事か?」


 「うん・・・。 あのね・・・。 もし良かったらでいいんだけどね・・・。 渡辺くん、私と付き合ってくれないかな・・・。」


 「付き合うって、何処へ? 別に構わねえよ。 お前には世話になってるし。 行きたいところがあるなら言えよ。」


 「そうじゃなくて! ああ、もう! だから、そう言うのじゃなくて・・・。」


 「・・・。 ええっ!!! 付き合うって、つまりその・・・。 えっ!? 俺と!?」


 「駄目かな・・・。」


 「いや、駄目って言うか・・・。」


 「やっぱり・・・。 ゴメンね・・・。 迷惑だったよね・・・。」


 「いや・・・。 お前に言われて、迷惑なヤツはあんまり居ないんじゃねえかな・・・。」


 「あっ、あははは! ごめん! ホントごめん! 変なこと言ったよね! 忘れて! ホント、忘れてね! あはは!・・・。」


 「分かった・・・。 俺なんかで良ければ・・・、いや、宜しくお願いします・・・。」


 「えっ、ホントに!? あっありがとう! うっうっ・・・・ううぅう゛う゛ぅ!・・・」


 「ええっ! ちょっと! 何も泣く事はねえだろ! なんか、俺が変な事したみたいになってんじゃんか! っていうか、むしろ喜んで泣くのは俺の方だって! とりあえず、落ちつけって! 流石に隠れ家のここでも、周りに聞こえるって!」


 「うっ、うっ・・・、ホントにありがとう・・・。」


 「いや、こちらこそ・・・。 なんか、ありがとう、ホント・・・。(もう、良いよな、エリ・・・。 許してくれるか?・・・。 ごめんな・・・。)」


 こうして私は、和泉のありがたい気持ちに答えるべく。

 そして、恐らく本心では・・・、エリとの想い出を忘れるために・・・、新しい一歩を力強く踏み出す決心をしました。

 しかし、果たしてこの決心は、本当に和泉に対して、真剣に、そして真摯に答えたものだったのか・・・。私はその事を、この後、存分に思い知らされる事になります・・・。




 私が和泉と付き合う事になって、しばらくした後、私達は初めてのデートをする事になり、その計画を立てていました。


 「ねえ、何処が良いかな? やっぱり遊園地とかが良い?」


 「そうだな・・・。 俺は何処でも構わないよ。」


 「なんか、渡辺くん、あんまり乗り気じゃない?・・・。」


 「いや、そんな事はないよ。 やっぱり近場の方が良いんじゃねえかな。移動で時間取られない分、たくさん楽しめるし。」


 「なら、○○遊園地はどうかな!? 私、行った事無いんだ!」



 ― あんたさ、○○遊園地って、知ってる?

   私さ、行った事無いんだよね。

   そう? じゃあそうしましょう! 今から!


 「エリ・・・。」


 「え? 何?」


 「あ、いや・・・。 和泉、すまん・・・。 ○○遊園地は勘弁してくれないか。 あそこは、あんまり良い想い出がねえんだ・・・。」


 「あ・・・、そうなんだ・・・。 良いよ、もちろん! なら、他の所にしようよ。 そうだ! じゃあ、夢の国の遊園地は!?」



 ― そう? でも、ユキはあんまり似合ってないね。なんだか妖怪みたいだよ!? あははは。

 ― 二人で食べれば、何でも美味しく感じるよ・・・。きっと、これは世界で一番美味しいポテトだよ。



 「・・・。」


 「あっ! 嫌なら無理にする事無いんだよ? どうせ行くなら、二人とも楽しめる所が良いし・・・。」


 「いや、行こう。夢の国の遊園地。

(これだけ和泉に気を使わせて、俺は何してんだ・・・。先に進もう。立ち止まってたら、何にも解決しねえ・・・。)」


 「ホントに!? 凄く楽しみ・・・。 ねえ、何乗るのかも調べておこうよ!」


 「ああ・・・。 目一杯楽しもう・・・。」



 そして、その数日後の週末。 私達は夢の国の遊園地に来ていました。

 私はそこかしこに残るエリとの想い出が、どうしても思い出されてしまい・・・、それを和泉に悟られまいとする事で、必死になっていました。

 そんな状態で、素直にこの状況を楽しめる訳が無く、となりで無邪気に喜ぶ和泉との温度差が、少しずつ広がっていくのを、感じざるを得ませんでした・・・。


 そんな違和感を感じながらも、それでも時間が経つにつれ、私に対して精一杯の気遣いを見せてくれる、和泉の楽しそうな笑顔もあってか、段々と私も楽しめるようになり・・・、いつの間にか昼飯の時間になりました。


 「お弁当の持ち込みがOKなら、作ってきたんだけどねえ~。」


 「そういえば、今更だけどさ、和泉って料理上手いけど、やっぱり好きなの?」


 「料理? うん、好きだよ~。 ・・・・な~んてね・・・。 ホント言うとね、渡辺くんが食べてくれる様になってからなんだ、いろいろ勉強する様になったの・・・。 あはは・・・。」


 「・・・。 なあ、もう一つ聞いて良いかな・・・。 なんで、俺なんかを選んでくれたんだ? 和泉は可愛いし、モテるだろ? 俺なんかじゃなくて、もっと良い男、いろいろ選べたろうに。」


 「あはは、そんなにモテないよー。 何でだろうね・・・。 何かね、実は一年の時から、ずっと気になってたんだよ・・・。 けど、渡辺くん、何となく近寄りがたい雰囲気があったから・・・。」


 「そっか・・・。」


 「これでもさ、最初に話しかけた時には、ホントに緊張して勇気いったんだよ~、あはは!」


 「いや、有り難う・・・。 なんだか、すげえ感謝してるよ。

 (もう一度、気力を取り戻せるキッカケを貰えた気がする・・・。)」


 「そんなこと!・・・。 もう辞めようよ、こんな話!」


 「そうだな、照れ臭くなってきたしな。」


 正直な話、何故こんな器量よしの和泉が、大した付き合いもなかった私に興味を示してくれたのか・・・、未だに理解できませんが、当時の私は、本当に運が良かったのでしょう。

 実際に、和泉の存在は、この時期抱えていた私の孤独感を完全に消し去り・・・、大きな安らぎを与えてくれました。そして私は、その和泉の優しさに、甘えきってしまう事になります。


 「ちょっと待ってて、口紅だけ直してくるから!」


 「ああ・・・。」



 ― ちょっと待ってて、口紅だけ直してくるから!


 ― ああ・・・。

   ・・・・。 今日で本当に最後になっちまうのか・・・。 全然実感が湧かねえ・・・。


 ― あっ! ミッキーにミニーじゃない!!!! あはは!

   ユキも一緒に踊りましょうよ! ほらほら!


 ― ええっ!? 俺もかよ! 俺、踊りなんて出来ないぞ!


 ― 良いから良いから! ほら、早く! あははは!



 「エリ・・・・。」


 「お待たせ! ゴメンね~。 ・・・。 渡辺くん、どうしたの?・・・。」


 「あ、いや、ごめんごめん。なんかボーっとしちまった。

 どうも、いつもの癖でさ。 暇があるとボーっとしちまうんだよ。」


 「もう、やだ~。 こんな時まで! あははは!」



 そして、一通りのアトラクションを楽しみ、園内の雰囲気も充分に楽しんだ頃、空を見ると日はだいぶん落ち、薄暗い中、あちこちに綺麗な灯りがともり始めます。

 私達は静かな一角を見つけ、適当なベンチに腰を降ろします。


 「今日は一日、ホントに楽しかったね・・・。 渡辺くん、ホントは無理矢理付き合わせちゃったんじゃないかな?・・・。」


 「いや、そんな事無いよ。

 実は俺、高校入ってから今まで、ずっとつまんねえ思いして過ごしてたんだ。あんま、楽しいと思える事無くてさ。

 和泉のお陰で、ホントに久々に楽しめた。 有り難うな。」


 「あはは・・・。 そんな風に言って貰えると、何か嬉しいよ・・・。」


 そう言って、和泉は私の肩に頭を乗せ、寄り添います・・・。 私もその上に頭を乗せ返し・・・。


 『なんだか、こんな気分になるのも久々だな・・・。 すまん、エリ。 俺、このまま新しい恋が出来そうだよ・・・。』


 「ねえ、やっぱりさ、付き合ってて和泉じゃ、何か変じゃない? 渡辺くん、たまに私の事「エリ」って呼んでくれるでしょ? 出来れば、ずっとそう呼んで欲しいな・・・。」


 「え・・・。」


 ― ユキ・・・。


 「ごっごめん・・・。 なんか、まだ照れ臭せえや・・・。 もう暫く、和泉のままで良いかな?・・・。」


 「あはは、ごめんね。 そうだよね・・・。 もちろん、渡辺くんが慣れてからで良いよ。 でも、出来れば名前で呼んで欲しいな・・・。」


 「そうだよな・・・。すまん、なるべく努力するよ・・・。」


 「私も、名前で呼んで良い? 例えば、ユキヒコとか、ユキとか・・・、ユキちゃんとか!? あはは、ユキちゃんは可愛すぎる? あはは!」


 ― ユキ・・・。


 『どうした・・・。 なんでエリの声が聞こえる?・・・。 頭がおかしくなっちまったか・・・。』


 「渡辺くん?・・・。」


 「あ、ごめん・・・。 そうだな、和泉の好きなように呼んでくれよ。」


 「じゃあ、『ユキちゃん』で良い? 女の子の名前みたいで嫌がるかと思ったんだけど、あはは!」


 「ああ、それで構わねえよ。」


 「じゃあ、今からユキちゃんね・・・。 改めて宜しくね、ユキちゃん・・・。」


 「ああ、これからも宜しく。」


 「それじゃ、これからは学校でもユキちゃんって呼ぶよ!?」


 「ええっ!? そりゃ、何かちょっと照れ臭せえな!・・・。」


 「あはは! 駄目だよ!」


 「なるべく、こっそりな。(有り難う、和泉・・・。 ホントに元気貰えるよ・・・。)」


 「ユキちゃん、も一つ、お願いしても良い?・・・。」


 「ん? なんだ?・・・。」


 「キス・・・して・・・」


 「・・・。 和泉・・・。」


 ― ユキ・・・・。


 「!!!・・・。すまん、和泉・・・。 もう少し待ってくれるかな・・・。 いい加減にしたくねえんだ・・・。」


 「え?・・・。 うっうん・・・、分かった・・・。 なんか、逆にゴメンね・・・。 何焦ってるんだろうね、私・・・。 あはは・・・。」


 『すまん、和泉・・・。 どうしたんだ、俺は・・・。ホントに頭がおかしくなっちまったのか・・・。』


 そして私達は、ライトアップされた美しい園内を惜しむ様に・・・、その場を後にしました。

 私は何となく、和泉に対して申し訳なさが残り・・・、せっかく勇気を振り絞ってくれた筈の彼女に、恥をかかせてしまったのではないかと、しばらく気に病む事になります・・・。




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