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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
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08 「恐怖新聞! 中編」

 「ネジ飛び姫と仲間達が何だかウツッテハイケナイモノを写しちゃうらしいぞ隊」一行が、姫が言うところの「幽霊の総本山」と呼ばれる寺に向かいましたのは、例の罰当たりな墓巡りの翌日、朝もまだ早い時間の事でした。


 まずは「最寄り駅に集合」という事でしたので、私は待ち合わせよりも少し早く駅に向かいます。すると、既にエリとリョウコが到着していました。

 私達は簡単な挨拶を交わすも、エリがえらく興奮状態だったのは一目瞭然でした。今風で言うところの、友達同士で「某ネズミさんがいる夢の国」に出掛けるような状態と言えばお分かりいただけますでしょうか。

 ただし、私達が行くのは「流行の遊園地」でも「オシャレな街角」でもなく・・・・、「寺」です。


 それからしばらくすると、バラバラと他の連中が眠そうに集まってきます。藤本が奇っ怪な踊りで現れてからしばらく後、エーちゃんと鷲尾、金丸がセットで到着し、準備完了とばかりにホームに移動します。

 ちなみに、そのお寺様は、実際にエリの言うところの「幽霊の総本山」と呼ばれているのかは全く知りませんが (ちなみに、私はそんな噂、聞いた事がありませんでした) 、全国的にも有名な歴史ある名刹であり、確かに古さや大きさなどを考えれば、その様なものが居てもおかしくないのかなあ・・・などと、一瞬不吉な考えを巡らせるに充分なシロモノでした。

 それにしてもオカルトマニアとは、何とも罰当たりな連中です・・・。あるいは、こいつだけがそうなのかもしれませんが・・・。


 (お前、いつか祟られるぞ・・・。)


 我々の最寄り駅からその寺までは電車で二時間程掛かる距離で、これが参拝の季節であれば、この電車も大変な事になるだろう事は容易に想像できます。しかしながら、普段の早朝であれば電車はゆったりとしたもので、私達は空いた席に腰を降ろし、雑談をしながら時間を過ごしていました。

 私はエーちゃんや藤本と雑談をしつつ、向かいで和やかに話をしている女子組をぼんやりと眺めていました。


 (しかし、こうやって普通に電車に乗って友達同士で話していれば、単なる可愛い女子にしか見えないというのに・・・・ いやはや、神様は残酷なコトをするものだ・・・。)


 などと余計な事を考えていると、電車はあっという間に目的地に到着します。


 駅からしばらく歩きますと、おみやげ屋が並ぶ通りに出て、その坂道を下ったところに、大きな山門が姿を現します。

 実はこのお寺さん、私の家でも毎年参拝に来る関係で、小さい頃から勝手知ったる何とやらでして、エリの望むようなことは、まず無いだろうと安心するほど、恐怖心を持てない場所でした。なので、コイツらが望む場所を、逆に何処でも案内してやろうかと考えていたぐらいです。

 もっとも、この考えが、後々命取りになるのですが・・・。


 早速、山門をくぐって長い石段を登り、境内に入ったところで、お姫様からの提案がありました。


 「ここからは手分けして写真を撮りましょう。カメラも三台あるから三組が良いわね。じゃあ、兼末とタカコとシズカがあっちの方、リョウコと藤本がむこう、私と渡辺でこっちね!」


 「・・・・・・・・・!!!

 いやいやいやいやいや!!!!

 それは全然納得がいかないぞ!

 俺とお前が一緒なのも不服だが、一番の問題はリョウコと藤本が二人っきりになる事だろう!

 これは納得がいかん、絶対にいかんぞ!

 せめてエーちゃんにしろ!

 何なら俺が藤本と行くから、お前とリョウコで一緒に行けよ!」

 

 というか、藤本なんか一人で良いだろ、と、本音がチラホラ


 当時はまだ「セクハラ」なんて言葉はありませんでしたが、私から見ると、言うなれば全身セクハラの塊にしか見えない藤本と、白雪姫の様なリョウコを二人っきりにするなど、真っ白な紙にインクをぶちまけた様な、まったくケガレ以外の何ものでも無い事でした。これは私だけの意見ではなく、控えめながらエーちゃんもそう思ったらしく、何度も頷く形で私の意見に賛成しています。


 「うるさいわね。私なりに考えて組み分けしてんのよ。文句言うなら殺すわよ。」


 (・・・仏様の前でなんて事口走りやがる!・・・・。 というか、お前、リョウコが心配じゃないのか?・・・。)


 まあ、言っても無駄な事は重々承知していましたが、妙に自信ありげなエリを眺めながらイマイチ釈然としない中、結局はエリに引きずられる様に取材に出るのでした。


 さて、くよくよ考えても仕方がありません。

 よもやこんな真っ昼間から、流石の藤本もおかしな事をする気は無いだろうと思いつつ、まだ携帯もポケベルも普及する以前なだけに、その安否が気にもなりましたが、「何よりしっかり者のリョウコの事だから大丈夫だろう」と頭を切り換え、私は「ネジ飛び姫」様のお相手を精一杯務める事にしました。


 私達が担当したのは、ちょうど中央から山頂に向かうルートで、途中に祭殿やら仏教的な建造物がチラホラと見える良いところでした。おかしな写真など撮らずに、まともにこういうものを撮った方が、歴史的、宗教的なテーマで新聞が作れそうな気もしましたが、エリの頭の中にはそのような考えは全くなく、というよりも、「新聞を作る事すら忘れてんじゃないのか?」と疑いたくなる様子でした。

 ただ、この辺りは高台のせいか、カンカンに日当たりも良いため大変明るく、霊が出そうどころか、余りにも綺麗に整った様子に、エリの方も流石に、そういう不思議さや恐怖心も感じない様で、「写真を撮れ」という指示もスッカリ止んで、さながら二人で仏閣を散歩している風になりました。

 実際、デートで寺はどうかと思いますが、こいつでも最初から、そういうつもりで誘っていれば、それはそれで悪くないんじゃないか等と下らない事を考えつつ、集合の昼までの時間を、日を避けながら木陰をブラブラと無駄話をしながら過ごすのでした。

 ただ、「エリの期待が外れて退屈なんじゃないか?」と少し気になる所でしたが、どうもそうでもなく、私の勝手な主観かもしれませんが、どことなく楽しげでまんざらでも無さそうなのにはホッと一安心でした。


 そんなこんなで約束の時間が近づき、私達は待ち合わせの場所に戻る事にしました。

 この日は女子組がみんなの分の弁当を持参しており、適当な木陰で昼食を摂る事になりました。

 というのも、季節の時には賑やかに出店や屋台で賑わうこの寺も、今回の様に普段の何でもない日には、飯を食うのも困る有様で、お土産屋通りまで戻れば食事も摂れるのですが、如何せん未成年には高すぎる値段でした。なので、私の提案で弁当を持参しようという事になり、「それならば私達が手分けして」と女子たちが張り切って弁当を作ってくれたという訳です。


 流石に夏も本番近くなり、炎天下では辛い気温でしたが、木陰は土地柄もあるのか大変涼しく、そんな中で早速、それぞれが弁当の包みを開けて行く訳ですが、この瞬間は何とも嬉しいものです。

 この当時、同年代の女子に弁当を作って貰える機会など、考えてみれば、そう滅多にある事ではなく、しかも前日もけったいな墓巡りで、心身共に疲れ切った中作ってくれた訳ですから、これは感謝をしなければバチが当たります。若干一名ばかり作れたのか不安なヤツが居るものの、料理上手のリョウコや、同じく意外と料理が上手いらしい鷲尾が作った料理が、ズラッと並ぶ景色は壮観でしたし、金丸作の控えめに出された総菜も、親に手伝って貰ったとはいえ立派なもので、それぞれが面目躍如の出来映えでした。リョウコ曰く「夏だから、腐りづらいものが中心になっちゃった」との事でしたが、ナカナカどうして、彩りも良く豪華なおかずだった事を思い出します。ちなみに、エリはリョウコと共同制作との事でした。「こいつ、名前だけだな」と、瞬間的に思ってしまったのは内緒の話です。


 とりあえず男衆は基本とばかりに一斉に「おにぎり」に手を伸ばします。それを睨めつける様にエリが見ています。分かり易いヤツです。恐らく、このおにぎりはこいつが握ったのでしょう。しかし、味は予想外に良く、リョウコによると「確かに私も手伝ったけど、お米からちゃんと、中の具材もエリが作った」との事でした。元々器用なこいつの事ですから、興味を持てばすぐにでも上手くなる様な気がしました。


 「やればできるじゃんか」


 との私の言葉に、ムスっと口を尖らせてそっぽを向く姿は、ああこいつでも照れるんだなと、不覚にも可愛いと思ってしまうのでした。


 楽しい昼食を和気藹々と終え、午後から再び「取材」となりました。もう取材という意味がアレだと言う事はどうでも良い話で、ただここで不覚を取ったのは・・・、


 「な~んか、幽霊が出る様な雰囲気と、ちょっと違うのよね~」


 という言葉に「そりゃ、昼間から大手を振って出歩くような、暇な幽霊も居ないだろうよ。」等と口走りそうになり、そんな事を言えば、こいつの事だから絶対に


「夜に来よう!」


 などと言い出すに違いないと、動揺してしまったのが運の尽きで、代わりの言葉を探して思わず・・・


 「なら、あっちの山の方にある古い墓石を見てみたらどうだ?」


 などと、まるで人ごとのように口を滑らしてしまった事でした・・・・。


 (しまった!・・・、こいつのペアは俺じゃないか・・・。)


 当然の様に、まるで「人参を目の前にぶら下げられた馬」状態で走り出すエリに引きずられ、私は自身もまだ踏み入れた事のない未開のデンジャラスゾーンに足を踏み入れる事になるのでした・・・・。


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