56 「初めてのお味は・・・」
※今回の話には、未成年の飲酒に関する内容などを含んでいます。
ご不快に思われる方は、どうぞお読みにならないよう、お願いいたします。
また、未成年の飲酒は法律により禁止されております。何とぞ、ご了承下さい。
それは季節が六月に入り、そろそろ気温も高く、湿気もじめじめと鬱陶しさをみせてきた頃の事。
私たちは昨年よりお世話になっております義村塾で、私たちは、三人そろって、美人英語講師の大塚先生の講義を受けておりました。
そして、その帰りのこと・・・。
「実は今週末の土曜日にね、私の誕生会をやる事になってね。急な話で悪いけど、渡辺くん達にも是非参加して欲しいの。勿論、あなた達の可愛い彼女さんと、そのお友達も一緒に呼んでね。」
「へえ、俺たちなんかが行っちゃっても良いんですか!? みんな喜ぶと思いますけど。」
「勿論よ。 エリちゃんとも、あの時以来だから是非色々お話したいしね~。うふふふ」
「いや、先生・・・。その辺りは色々と程々にお願いします・・・。」
「そうそう、私達とボーリングで一緒だったサリーさんもいらっしゃる事になっているから。」
「ええ! それはアイツが喜びますよ! あれ以来、もう一度会いたがってましたし!」
「それじゃ、みんなの都合を聞いておいてね。 たくさんご馳走も用意しておくから。」
そんな訳で、私達は義村塾の紅一点、ナイスバディーの大塚先生に招かれ、「誕生会」に参加する事になりました。
「なんだか凄く楽しみねえ! サリーさんとも会えるし、大塚さんには、あんたがちゃんと塾で鼻の下伸ばさないで勉強してるのか確かめられるしね~・・・。」
「いや、その辺はぬかり無いです・・・。」
「それにしても、エリ達だけじゃなくて、私達までお邪魔しちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。 先生からリョウコ達にも声をかけてくれって言われてるんだから。なんてたって大塚先生は結構なお嬢様だからな。だからきっと、俺たち以外にも、沢山の人が来るんじゃねえかなあ・・・。」
というやり取りをしつつ、私達が大塚先生の家に到着しますと、なるほど、これは大勢の人を呼べそうだという事が他のみんなにも分かったようです。
先生の自宅は軽いビルほどの大きさで、一階でスーパーを経営しており、その隣にはワイン専門店までありました。
ちなみに、このスーパーでは、私とエーちゃん、犬飼の三人は、よく軽作業を手伝わせてもらい、「小遣い」という名のバイト代?を稼いでいました。
そんな訳で、私達は店の横にある通用口を通り、インターホンを押しますと、大塚先生の対応で二階に移動してくれとの事。私達は言われた通りに二階に参りますと、そこは丸々ワンフロアーが広い会場になっており、既にパーティーの準備が整っておりました・・・。
聞いた話ですと、ここは普段、お店の会議室代わりに使っているのだとか・・・。
「すげえな・・・これ。 想像以上だ・・・。 ホントにタダで良いのか!?」
「ホントに食い物が沢山あるじゃねえか・・・。 なんか、俺らのちんけなプレゼントで食い放題って、ちょっと気が引けるな・・・。」
「そっそうだな・・・。 三人合わせて、ちょっと良いものにした方が気が利いてたかな・・・。」
「今さら遅せえよ・・・。」
「だな・・・。」
そんな挙動不審で無駄話を繰り返すうちに、主役の大塚先生がバッチリドレスアップして登場をし・・・
「ほっ本日はおっお招き頂き、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
こういう場面に弱い男共はカチコチな訳ですが、やはり女子は慣れたもので・・・・
「うわぁ! 大塚さん、綺麗~! 流石、オトナのオンナ~!」
「ホントにステキですよ~! 凄く綺麗!」
と、キラキラと目を輝かせて大塚先生に群がり、あっという間に、極々自然とフレンドリーにうち解けるのでした・・・。
それからしばらくして、私達の知った顔、知らない顔交えて、出席者が大勢集合し始めます。
元々、人見知りをしないで人と話す事が大好きなエリは、様々な人達が集まるこのパーティーに大変興奮しておりました。
この頃には普段私にベッタリだったエリも、この日は珍しく、あちこちで様々な人達と交流できる事にハシャいでおり、珍しく私の元を離れて、あちこちをウロウロしておりました。私は何となく、いつもと違って左側のあいた空間を寂しく感じながらも、遠くで喜ぶエリの姿を何だか微笑ましく見ておりました。
それからしばらくして、エリが満足そうに私の元へ戻ってきた時・・・。
「あっ!!! サリーさん!!!!」
「オーッ! エリサーン、ワタナベサーン! オヒサシブリデスネ~!」
「や~! お久しぶりです!」
感動の再会・・・とまではいかないまでも、久々に会って意気投合したのか、私達はサリーさんと盛り上がりに盛り上がり、どうも、この辺りから、姫様の浮かれ具合が最高潮に達していたようで・・・。
「お前達もちょっと飲んでみるか!?」
まあ、もう流石に時効でしょうから、この話をしようと思ったのですが、実際の話、塾講師とはいえ、教育者ともあろうものが未成年者に飲酒を勧めるというのは、どうかと思うのですが、当時はそれ程うるさい雰囲気も無かったので、やはり時代だったのでしょう。
私達は「先生のくせに・・・」とも思いつつ、実はやはり興味津々だったもので、コップの底にちょこっと一口ずつ、ビールを貰って舐めるように飲んでみました。
これが私が生まれて初めて、ビールを一杯飲んだ瞬間でした。
「なんだか苦くて、あんまり美味くねえな・・・。」
「うん、俺もそう思う・・・。 なんだか水っぽいしよ。これならジュースのがいいや。」
そんな感じで私達が感想を述べている間にも、義村先生は女子組にまでビールを振るまい始めます。
「ふぅ・・・。」
『あれ・・・・。 なんだかリョウコ、いつも以上に色っぽくなってないか・・・。』
などと、思わず釘付けになっていると・・・
「リョウコ~、前から思ってたけどさ! あんたどうやったらこんなにオッパイ大きくなんの!? 食だって細いのに、なにこれ、なんの魔法なの!? ねえねえ! あははは!」
「きゃあー! ちょっ、ちょっと!タカちゃん!?」
恐ろしく陽気になった鷲尾が突然現れ、後ろからリョウコの豊満な胸をワシ掴むのでした! 鷲尾だけに!
『鷲尾が壊れた! でっ、でもいいぞもっとやれ!』
そんな事を考えて、思わず姫様から目を離したのが失敗でした・・・。
エリはどうも、あちこちで手に持つコップに酒を注いで貰っていたようで・・・、私が気がついた時には、既にだいぶん出来上がっているのでした・・・。
「エリちゃん、強いわねえ~。 どう? 今度はワインも飲んでみる?」
「ワイン? 飲む飲む!」
「(あれ!!! 何やってんだ! アイツ!)先生、勘弁して下さいよ! コイツまだ未成年なんですから!」
「ごめんね~、渡辺くん! エリちゃん可愛いから、みんな面白がっちゃって。あははは」
「いやいやいや・・・、笑い事じゃないですよ! ほら、お前もいい加減にしろよ。 とりあえず、あっちで大人しく座ってろ。」
「うるさい~! ワインを飲むの! ユキはあっちいってなさいよ!」
そう言いながら、コップに入ったワインをジュースの様にゴクゴクと飲み始めるのでした・・・。
「おまえ! やめろ馬鹿! どうなっても知らないぞ!」
そう叱りつけてワインを取り上げた時には既に遅く・・・。
「ユキのば~か! ○○×△~・・・」
「何言ってんのか全然わかんねえよ・・・。 とりあえず座れ。 そんで水飲め。」
「ユキ! あんた○○××よ! もし△×○なら殺すわよ! いい!?」
「はいはい・・・。何言ってか分かんねえけど、分かったから、落ちつけ・・・。」
「ねえ、わかってんの!? ちゃんと約束守りなさいよ! ちゃんと守ってよ! ねえ、ちゃんと・・・守ってよ・・・。」
「何の約束だよ! おっおい、泣きながら寝るなバカ!」
結局、そのまま姫様は、目に涙を溜めながら、人を枕にしてクークーと寝てしまうのでした・・・。
「(良く泣き上戸、笑い上戸って聞くけど・・・。)エーちゃん、悪いけど俺、コイツ連れて先帰るわ・・・。チャリンコの荷台に縛り付けてくから。」
「そうか? 俺らも帰るか?」
「いや、それじゃ先生にも悪いから、エーちゃん達は残ってくれよ。」
「それじゃ、私も帰るよ。 エリが心配だし。」
「そうして貰えると助かるわ。」
私達は大塚先生に途中で帰る非礼を詫びて、そのまま帰る事になりました。先生はどうも責任を感じたようで、「ホントにごめんねえ。ちょっと調子に乗り過ぎちゃって・・・。エリちゃんにも謝っておいてね。」と、頻りに謝りながら、下まで見送りに来てくれました。
私達も、「いやいや、元々調子乗って飲んだのはコイツですから、気にしないでください。」と、先生に答えつつ、ご馳走になった御礼をしてから帰路につきました。
「まったく・・・、こんなになるまで調子に乗って飲みやがって・・・。」
「きっと、楽しかったんだと思うよ。 あんなに沢山の人に仲良くして貰える機会なんて、滅多に無いから。うふふ。」
「そうかもしれない・・・。コイツはいつも、あの広い部屋に一人ぼっちで放っておかれてるからな・・・。
結局、俺たちがコイツの家族みたいなものだからなあ・・・。」
「渡辺、ありがとうね・・・。 エリの事、分かってくれて・・・。」
「いや、そんな大したことしてねえよ・・・。 リョウコに比べたら、全然コイツの役に立ってるとは思えないし。」
「そんな事無いよ。 渡辺は唯一のエリの理解者なんだから・・・。」
「理解者っていってもなあ・・・。逆に、俺なんてコイツと釣り合いが取れてるのか心配になるしなあ・・・。」
「あははは。 渡辺らしいね!」
「・・・・・・・・ううう・・・・」
「お? どうした?」
「ううう・・・・・。 ユキ・・・・。」
「なんだ? どうした?」
「きっ気持ち悪い・・・。」
「なんだ~!? 吐きそうなのか!?」
「吐きそう・・・・。 ううう・・・。 ユキ、吐きそう・・・・ううう」
「まっ、まてまてまて!!! 背中に吐くなよ!そこの公園まで我慢しろ! あそこに便所あるから!」
調子に乗って飲み過ぎたエリは、どうも自転車に揺られた事で酔ったようでして・・・、私達は急遽、近くの公園へ急ぐのでした・・・。
「渡辺はここで待ってて。 私が連れて行くから・・・。」
そう言うと、リョウコはエリを連れて、公園のトイレに消えていきました・・・。
私は仕方なく、近くの販売機で炭酸ジュースを買ってやり、戻ってきて真っ青な顔をしたエリに渡してやります。
「大丈夫か? とりあえず、これでも少し飲んでおけよ。」
「ありがとう・・・。 少し落ち着いた・・・。」
それを聞いた私は、今のうちにとばかりに帰宅を急ぎます。
「うっうっ・・・。 またちょっと気持ち悪い・・・。」
「だっだいじょうぶか!? まだ吐くなよ! なるべく揺らさない様に走るから! まったく! 調子に乗って飲むからだぞ!」
「うっうっ・・・。 ユキ・・・・」
「どっどうした!? もう吐きそうか!?」
「ごめんね・・・・。 ありがとう・・・。 ありがとう・・・。 大好き・・・。」
「なに言ってんだ馬鹿! 気にすんな! とりあえず、自分にだけ集中しろ! あと少しだから!」
必死の思いで家についた私達でしたが・・・
「渡辺、ありがとうね、あとは私が面倒見るから。 もう大丈夫だよ。」
「そっそうか? 分かった。 それじゃ、後は頼むな、リョウコ。」
私は、ちょっとだけ女同士の友情に嫉妬しつつも、リョウコに任せておけば安心だという気持ちが優り、その場を後にしました。
そして翌日の事・・・。
流石に前日の様子で気になった私は、エリの家を訪ねてみると・・・。
「どうだ、二日酔い女。 大丈夫か?」
「うるさいわね・・・・。 もう最悪よ・・・。 お酒なんて、二度と飲まない・・・。」
「まあ、その方が良いな。 大して美味いもんじゃないしな。」
「もう飲まない・・・。 絶対飲まない・・・。絶対・・・。」
まるで呪いのように・・・、姫様は懺悔にも似た言葉を、延々と繰り返すのでした・・・。




