55 「彼女のためなら男は変わる!?」
五月病も吹き飛ぶような、強烈な大人の洗礼をコーヒーの香りと共に体験した直後の事。
ところで、その頃は「ツッパリブーム」なるものが巻き起こっておりました。
まあ、そういうブームが無くても、この頃は所謂ちょっとやんちゃな「不良っぽい男」に男子も女子も憧れている時代で、クラスの中でも、何故か優等生よりも頭の悪い乱暴者っぽいやつのがモテたりするという、その後の社会から考えると真逆の現象が起こるのでした。
その辺は、もしかすると生命の本能であるところの強いものに惹かれるという遺伝子的な何かが関係するのかもしれませんが・・・、まあ要するに、何も考えないで憧れちゃうというのは、未熟ゆえなのでしょう。
そんなわけで、私たちも例外ではなく、男子たちはこのツッパリブームにガッツリはまるのでした。
そんな五月も終わり頃の事。
「ねえ、ユキ! 最近、駅の側に出来た新しいクレープ屋さん知ってる?
今日さ、リョウコ達と一緒に、みんなで食べに行く事になったんだけど、ユキも来なさいよ!」
「すまんな、エリ。 今日は先約があるんだ。悪いけど女子たちで行ってくれよ。」
「・・・。 何よ? 私の用事よりも大事な事が、他にあるわけ?」
「あの、エリさん・・・。 顔がめちゃくちゃ怖いですよ?・・・。
そうじゃなくて、今日はエーちゃんと男同士の約束があるんだよ。今日以外ならまた相手してやるから、悪いな。」
「ふ~ん・・・。 あっ、タカコ! なんかさ、今日渡辺の馬鹿が兼末と一緒にさ、私達よりも大切な、いかがわしい男同士の約束があるから、クレープ屋なんてバカバカしくて付き合えないんだって。 仕方ないから、私達だけで行きましょ。」
「はあ!? おい、お前! エーちゃんまで巻き込んで、なにしようってのさ! めんどくさいから、もうこの場で突き落とすよ!」
「えっ!? ちょっ! 凄い力!!! 死ぬ!マジで死ぬ!!! 死んじゃうから!!!」
そんなやり取りがありながらも、私とエーちゃんは初心を貫くべく・・・、野郎二人で、地元駅から少し離れた中心部の駅へと移動し、映画館に入ります。
目的は、この当時流行っていました、所謂「ツッパリ映画」を観るためでした。
「流石にこれは、女連れじゃ入れねえからなあ・・・。」
「あたりめえだよ。 これは男のロマンよ? 女なんかに分かる訳ねえって。」
「お前、威勢が良いな~。 それ、鷲尾の前でも言えるのか?・・・。 俺は無理だぞ、っていうか、さっきも本気で殺されるとこだったんだからな。」
「ああ、大丈夫。タカコは俺には優しいから。」
「死ね!」
「なっなんだよ! ひでえな!」
そして、映画観賞後の事。
私達は、スッカリ映画に影響され、ガクランのまま何故か肩を怒らせてガニマタに歩き、無意味にその辺の電柱を蹴飛ばし、絵に描いたようにツバを道路に吐きかけ、すれ違う野郎という野郎に、無意味に「ガンを付ける」のでした・・・。
今考えれば、「アホ」以外の何ものでもないのですが、この当時は、周りを見ても、やはり同じ様なヤツらばかりでして、ある意味、現代などよりも影響を受けやすい純粋さを持った人間が多かったのでしょう。
あえて、あえて、その様にフォローさせて頂きたいと思います・・・。
そして、そんな帰り道の事・・・。私達は、運悪く、クレープを食べながら歩く「ネジ飛び姫様ご一行」に遭遇してしまいます・・・。
「ふ~ん・・・。私達の誘いを断って、何してんのよ、まったく・・・。」
「いや、別にいかがわしい事はこれっぽっちも・・・。」
「大体さ。 渡辺と兼末って、品がないのよね~。 そのダサイ学生服とか、髪型とか・・・。」
「がーーーん!!!!」
「がーーーん!!!!」
「あれ・・・。 もしかして、あんたら、それカッコイイとか思ってたの?・・・」
正直、私達は自分たちのそれこそが、当時最高のトレンドだと信じて疑わなかっただけに、これは本当にショックなのでした・・・。
「・・・。 まあ、渡辺も、いっそこういう風に変えてみたら? 少しはマシになるかもよ?」
そう言ってエリから渡されたものは、当時流行初めていた、某男性アイドルグループのブロマイドでした。
そう、この頃、女子組は皆、某男性アイドルグループに夢中になっていました。
「とりあえず、前髪でも伸ばして見なさいよ。 意外と良いかもしれないわよ・・・。 ぷっ!」
『コノヤロウ・・・。 顔のデキの違いを分かっていながら、おちょくって楽しんでやがる! 何たる屈辱!!!! 切腹ものだ!!!』
この時より、私にとって某男性アイドルグループは憎しみの対象以外の何ものでもなくなるのでした・・・。
ちなみに・・・
それからしばらく後まで、エーちゃんは前髪を不自然に伸ばし続けます・・・。これは鷲尾の失笑をかい、すぐに元に戻されたのですが・・・・。
『エーちゃん、その無謀でも何でも、「がむしゃら」に頑張る前向きな姿勢・・・・。 ある意味「男」だぞ・・・。』
そんな出来事もありつつ、しばらくしたある日の事。
その日、一人の男が大きな決心をして、私達の元へ相談に訪れるのでした・・・。
「渡辺・・・。あっ、ちょうど良い、兼末も・・・。」
「おう、どうした、内山。 真面目なツラ、一段と真面目にして。」
「俺たちに何か用か? 改まって、珍しいな。」
「じっ実はさ・・・。 ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだ・・・。」
「あれ・・・。 何だ、結構深刻な話なのか?・・・。 ここじゃ不味そうだから、いつもの階段の踊り場で話そう。」
どうも、いつもと様子の違う内山に、私達も真剣になり、人気のない所を選んで移動します。
なにせ、元々真面目とはいえ、金丸と付き合うようになってからは、見違えるように明るくなった内山が、まるで昔のような雰囲気で相談するものですから、これはただ事では無いと分かります。
『金丸と、何かあったんだろうか・・・。』
どうも私は、不吉な事を考えてしまうのでした。それはエーちゃんも同じだったらしく・・・、顔が少し強ばっています。 私達としては、金丸の悲しむ顔は絶対に見たくありませんし、短い間とは言え、私達と多くの行動を共にした、この内山との関係が崩れてしまうのも、望む所ではありませんでした。
「それで・・・、いったいどうしたんだ? まさか、金丸と何かあったのか?」
「実はさ・・・。先日の事なんだけど・・・。」
さかのぼる事、数日前・・・・。
その日、金丸と内山は、仲良く駅側の商店街で、買い物を楽しんでいたそうな・・・。
「金丸は、どんな音楽を聴くの?」
「何でも聴くよ。 最近は○○とか、△△とか。 内山くんは、どんな曲を聴くの?」
「俺は洋楽が結構好きなんだ。○○とか、△△とか。」
「すご~い! 洋楽も聴くの!?」
「いっいや、そんなに大した事はないよ、ホント・・・。 そっそうだ! 今度、うちに聴きにおいでよ!」
「えっ!? ・・・うっうん!」
なんて具合に、内山の話で、大凡その様なやりとりがされた事が分かりまして、まあ、これを聞いても分かるように、この二人が喧嘩をするような事は、どうにも心配なさそうな訳でして・・・。
となると、相談は別の所にある様で、それもこの話の続きで判明するのでした。
つまり・・・
「ケッ! あそこの二人、ガキのくせにイチャつきやがって!・・・。 シメてやろうか。」
「やめとけやめとけ。 まだガキだろ? しかも見てみろや。あの小僧、ずいぶんとダサイじゃねえか。 あんなダサ坊、放っておけや。」
「チッ! ダサ坊が! かわい子ちゃん連れて、あんま調子に乗んなや、コラ!」
「・・・。」
「いっいこ、内山くん・・・。 気にする事無いよ・・・。」
「うっうん・・・。」
・・・・・・
「俺、自分が情けなくてさ・・・。」
「バッカ、お前! そんなのモテない野郎のヒガミじゃねえかよ! そんなもん、気にする事ねえよ! そっちの方がよっぽどダサ坊じゃねえか!」
「内山、エーちゃんの言う通りだ。
お前が誰よりも根性入っている事は、俺たちが良く知ってる。お前は喧嘩が強いとか弱いとか、そんなもんじゃねえ気合持ってんじゃんか。
それに、俺らと違って頭も良いし、勉強だって頑張ってる。充分カッコイイと思うぞ、お前は。」
「そうそう。 金丸の言う通り、そんなヤツらの言う事なんて、気にする事ねえよ。そんなヤツら、今度俺らが見つけたら、ぶっツブしてやんよ! なあ、渡辺!」
「ありがとう・・・。 けどさ、やっぱり思っちゃうんだ・・・。 俺なんかが、金丸と釣り合いが取れるのかなって・・・。 いつも考えてた事だからさ・・・。」
「なにつまんねえ事、気にしてんだよ! 俺たちから見たって、お前らお似合いだぞ!」
「・・・。(内山も、俺とまったく同じだ・・・。)」
私はこの時の内山の気持ちが、痛い程良く分かりました。私自身、今ここに至って、お互いの本当の気持ちを確かめ合うまでは、エリの気持ちが自分に向いているのか自信が持てず、様々な劣等感に苛まれていました。
「(俺だって、出会った最初こそ、アイツの事をそんな風に見た事が無かった。別に劣等感や気後れだって感じなかったからなあ。
それでも、惚れた弱みってヤツだろうか・・・。いつも一緒に歩いて、他のヤツらの視線がエリに集まるたびに、嬉しい気持ちや優越感もあったけれど、それ以上に並んで歩く自分が相応しいのか、いつも悩んでいたもんだ・・・。
内山の今の気持ち、よっく分かるわ・・・。
こういうのって、相手の事を知れば知る程、好きになれば好きなる程、強い劣等感を感じるもんだ・・・。きっと、今の内山は、そう言う状態なんだろう・・・。
何でも良いから、自信がつけば変わると思うんだが・・・。)
内山、釣り合いが取れねえってんなら、俺やエーちゃんだって同じだよ。 なあ、エーちゃん!?」
「まっまあな・・・。 うん、そうだな。 なんか、テレ臭せえけど、そう思う・・・。」
「よっしゃ内山! それならまず、外見から変えてみるってのはどうよ!? 見た目でダサ坊なんて言わせねえようによ!」
「なんだ!? お前、内山にボンタンでも履かせる気か?」
「何言ってんだ、履かせるならドカンに決まってんべよ。」
「そんなダセエもん履かせたら、余計にダサ坊になっちまうべな。」
「なんだそりゃ。 遠回しに俺に喧嘩売ってんのか、コラ。」
「なんだ、やんのか? 大体な、俺は常々お前のドカンは、みっともねえなって思ってたんだよ。 いっそのこと、内山と一緒にボンタン派にしちまえよ。」
「ざけんな、コラ!!! そんな鳥の巣みえてえなダセエ頭したヤツに言われたかねえぞ!!! ぶっ殺すぞ、コノヤロウ!!!」
「ああ!? 俺のリーゼントに文句付けるヤツは、たとえ親でも許されねえぞ!!! ボコボコにしてやんよ!!!」
「上等だコラ!!! 屋上に出ろや!!!」
「今日こそ息の根止めてやんぞ、コラ!!!」
「ちょっちょっと待ってよ二人とも! そっそうだ! 初心者の俺にはズボンからは、ちょっと早いから、夏服用のシャツから入ろうかな! どうだろう!?」
「シャツ!? カイキンの事か!?」
「そういや、内山はいつもYシャツ派だったな。 よし、ならエーちゃん、内山を「カナリ屋」に連れて行くべ。 あそこなら良いカイキンもあるし、他にもいろいろ見れるからな。」
「ああ、あそこなら内山も満足すんべ!」
という訳で、私達は内山を、所謂「変形学生服の専門店」へと連れて行く事になるのでした。
勿論、今回は女子組にはナイショの行動であり・・・、私達は、なんとか女子組の追求をかわす事になります。
といっても、鷲尾はエーちゃんに大変な理解を示しており、何故かいつも、ほぼ問題なくすんなりと済むのでした・・・。それだけ、信頼を得ているのでしょう・・・。
逆に、まったく信頼を得ていないのか、私の方は、毎回、苦労を強いられる事になります・・・。
「エリ、実は明後日の土曜なんだけどさ、ちっとばっかし用事があって、夕方ぐらいまで家で待っててくれねえかな・・・。」
「なんで? 私の方が先約でしょ? それなのに、何の用事よ?・・・。」
「いや、ホントに野暮用なんだけどさ・・・ちょっと外せないんだよ。」
「なら、一緒に行くよ。 野暮用なら、私が居ても問題無いでしょ?」
「いっいや・・・。(それはマズイ!)」
「はあ!? どういう事よ。 ハッキリ言いなさいよ。」
「(どうしてコイツは、普段だったら何も無しにOK出すのに、こういう言えないような時に限って、やたらしつこく食いついてくるんだ・・・。
野生の感なのか!? なんとか上手く誤魔化せねえだろうか・・・。)
そっそういえばさ! お前って、何でいつも右腕に時計してんの!?」
「はあ!? そんな事、いま全然関係無いでしょ!?」
「いっいや、やっぱりお前の事は何でも気になるからさ!」
「・・・。 別に・・・。 ただ、昔左利きだったのを矯正したから、何となく癖で右手にしてるだけよ・・・。」
「へえ~! そうだったのか! いや、何か良いよ、それ! 俺も真似しようかな!
(なんだそりゃ・・・。自分で言ってて、まるで誤魔化しになってねえ!)」
「ユキ、何か隠してるでしょ・・・。 ユキが隠し事すると、絶対に私と目を合わさないのよね・・・。 しかも、不自然に話そらすし。 何隠してんのよ!?」
「(結局、俺の態度が挙動不審だったから、いつもバレてたのか! 駄目だ・・・。下手に誤魔化したらドツボにはまる・・・。)
エリ、真面目に聞いてくれ。」
「なっ、なによ、急に・・・。」
「今回の事は、男の約束があって、お前には言えない。
だけど、俺がお前を裏切る事は絶対にないから、信じて欲しい。全部済んだら、必ず話すから。」
「何それ・・・。」
「頼むよ。 そうだ! 土曜日は遅れるお詫びにさ、お前の家に行く前に、「パンダ焼き」買っていってやるから!」
このパンダ焼きは、全国的に有名なものか分かりませんが、この当時、私達の街に突如として現れ、我々のハートをガッチリとつかんだオヤツでした。
何の事はない、ただ「今川焼き」やら「大判焼き」と呼ばれているものが、パンダの形をしているだけなのですが、その可愛らしい形と、お店に流れる「パンダ焼き~パンダ焼き~♪」という、独特の歌のお陰か、特に女子には絶大な人気を誇っており、もちろん、姫様も例外なく、好物になっていました。
「えっ!? パンダ焼き!? ・・・分かったわよ、今回は信じる。ちゃんと、カスタードと漉し餡、両方ね。」
「わっ、わかったわかった!
(食いしん坊なヤツで助かるなあ・・・。っていうか、俺の真剣な言葉より、パンダ焼きの方が効果的ってのが、何となく辛い・・・。)」
「でもね。」
「ん?」
「裏切ったら、ホントに殺すから。 覚悟しなさいよ。」
「おっおう、信じろ!(こわっ・・・。)」
という訳で、その週の土曜日、私達は早速、変形学生服専門店「カナリ屋」に向かいます。
「よし、早速済ませちまおう!」
「お前、良く成海の追求を逃れたなあ。」
「おっおう、それもこれも内山のためだ!」
「ごめんな、みんな・・・。 ありがとう。」
「水臭せえ事言うなよ!」
そんな訳で、私達は店内に入り、早速目的のものを物色します・・・。
「カイキンはタックイン用じゃない、短いタイプが良いな。 珍しいから、この辺ではここでしか手に入らないんだ!」
「刺繍は入れるか? 昇り龍なんかいいべな。」
「いっいや、刺繍は良いよ・・・。」
「じゃあ、入れ墨シャツを中に着れば良いべ。 これなんかどうだ? 透けて見えるのがシブイぞ!」
「さっ流石に派手じゃないかなあ・・・。」
「バッカ! こんなもん、これぐれえ気合入れなきゃ、意味ねえべよ!!!」
「わっわかった、じゃあ、取り合えず、買うだけ買っておくよ・・・。」
「ズボンもこれどうだ? これならノーマルと大して変わらないけど、ラインは全然シブイぞ。 ちゃっかりツータックなのもポイントだ。」
「へっへえ!・・・。 分かった、試してみるよ!」
そんな具合に、私とエーちゃんによる内山プロデュースは、無事終了するのでした。
「いやあ、ちょうど夏冬移行期間だしな! 内山、早速試してみろよ!」
「おうおう、まずは着てみない事にはなあ! とりあえず、あれだ! 来週着てこいよ! って、いけねえ!!! 俺もう約束の時間だから、これで行くな! それじゃ、内山、来週楽しみにしてんぞ!!!」
「ああ、ありがとう!」
「さてと・・・、パンダ焼きパンダ焼き・・・。 すいません、パンダ焼きのカスタードと漉し餡を!」
「すいませ~ん、カスタードは今日はもう終わっちゃいまして・・・。 漉し餡も最後の一つで・・・。」
「ええっ! ・・・・。 (これ、やばくね!?)」
そんなこんなで、いろいろあって翌週の月曜日の事・・・。
「ちょっと!!! どういう事よ! あの内山の格好!」
「どうよ? カッコイイだろ!?」
「もしかして、あんたが言ってたナイショの用事って、この事だったの?・・・。(コソコソ)」
「いや、すまん。 言ったら反対すんだろ。
それに、金丸をビックリさせたいって言う、内山の気持ちもあったらさ。(コソコソ)」
「まったく・・・。 あんたらが変な事を内山に吹き込むから、シズカが凄く迷惑してんのよ! 分かってんの!?」
「変な事ってな失礼だな、おい。 俺は内山の相談に乗ってやっただけだっての。 なあ、エーちゃん? 」
「そうそう。 大体、今時こんなもの普通だろうよ。 別に背中に昇り龍背負わせた訳じゃねえんだし。」
『嘘つけ! お前、思いっきり背負わせる気、満々だったじゃねえか。 内山、流石に入れ墨シャツは着てこなかったか。』
「はあ!? あんたら下品コンビと内山を一緒にしないでよね!」
「くそ、なんでシャツ一枚にここまで言われなくちゃならねえんだ・・・。(ホントはズボンもだけど・・・。)」
「成海、違うんだって、俺が渡辺達に頼んだんだよ。」
「エリちゃん、もう良いよ・・・。 それに、内山くん、結構似合ってるし・・・。」
「そっそう? いやあ・・・!」
金丸の言葉を聞いた内山は、顔を真っ赤にして、それでも嬉しそうに照れるのでした。
それを見た金丸もまた・・・、幸せそうな顔を赤くして、照れています。
「・・・。(わーっなに、この何でもプラスに変換しちゃうステキカップルは。)
まあ、とにかくそう言う訳だから。お前が騒ぐ程じゃねえだろ? むしろ良くやったねえ~って、褒めて欲しいもんだ。 」
「調子にのんな! この馬鹿!!!」
「いてててっ! 耳ひっぱんなって!!! いてててっ! 真面目に千切れるって!
(イテテ! コイツ、こんな事で内緒にしてたのを恨んでやがる! 目が本気だ! イテテ!!! はっ!? それとも、パンダ焼きの事か!? パンダ焼きの事なのか!?)」
そんな訳で、内山の大きな決心を持って挑んだ小さな変化は、他の人間から見れば、実に下らなく、取るに足らない様な事なのですが・・・、それでも彼の心には、大きな変化と自信をもたらしたようで。
その後、内山から迷いはすっかり消え、今まで以上に強い信念と自信を持って、金丸の事を大事に大事に、そして優しく優しく見守るのでした。
そんな内山は、私達から見ても、実に男らしくカッコ良く見えます。
もっとも、その代償として・・・、私の方は、どうも一層、姫様の信頼を損なったようで・・・、だいぶん男を下げてしまい、しばらくは、そのイヤミを聞き続ける事になります。
どうも今回は、私だけが貧乏くじを引いた形でしたが・・・
『そんでも、内山も自信を取り戻したようだし、金丸も幸せそうだから、まあいっか・・・。』




