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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
最終章
51/85

51 「自室にて 深夜の回想」

 深夜、私は自室のベッドの中で、ここの所、幾度かに渡ってお聞きした、渡辺さんのお話を思い返していた。

 渡辺さんのお話に出てくる叔母の姿は、本当に年相応の女の子だった。少し積極的ではあるし、私自身の中学時代と比べたら、嫉妬するぐらい充実しているのだけど・・・。


 私の中学生のころなんて、恋愛なんて皆無だった。そりゃあ、ファザコンだった私にも片思いの男の子はいた。友達の女の子と、空想のような恋愛話を繰り返したりもした。

 けど、本当にただの片思いで終わってしまった。

 初めて男の子と付き合ったのは高校生になってからだけど、その時も、まだ何の体験もせずに、なにも始まってもいなかったのに、「ごめん、なんか違ったわ。」という、よく分からない理由で三週間で捨てられた・・・。

 いや、私の話なんて、どうでも良い。


 それにしても、渡辺さんのお話を聞いて、私の中の叔母の、成海エリのイメージは完全に変化してしまった。

 あのお話を聞いているうちに、なんだか私も、あの子たちの中に仲間として一緒に存在しているような、そんな錯覚を覚えていた。

 もし、同じクラスだったら、私は叔母をなんと呼んだだろう?


 「成海さん・・・なのかな。 正直、話を聞く限り、叔母さんってちょっと怖いし、本当なら仲良くなんて無理だったのかも。でも、きっと仲良くなれたなら・・・エリちゃん?、それともエリ? いや、呼び捨ては無理かな・・・。 たぶん、エリちゃんだろうな。」


 そんなことを、ひとり暮らしの部屋の天井を眺めながら、ひとりごとのように呟いてみる。


 「眠れない・・・。」


 私はベッドから起きると、そばの椅子に腰かけ、机の上の資料・・・渡辺さんからお話を伺う際、許可を取って録音したものを、私が文章に起こしたもの・・・に目を通す。

 そして、改めて疑問を口にしてしまう。


 「エリちゃんは、なぜ死んだのだろう・・・。」


 今までのお話の中では、叔母であるエリちゃんに、死を思わせるような様子は全くなかった。

 そもそも、エリちゃんの死因はなんだったのだろう?

 事故死なのか、病死なのか・・・。きっと、私の父ならば知っているだろうけど、私はそれを父に尋ねることは、何か古傷をえぐる行為のように思えて、どうしても出来なかった。


 気になるのは、エリちゃんの家庭環境と、恐らくそれについて、何かしらの悩みを抱えてた事だ。

 これについては、私にも思い当たることがある。私の祖父母の事だ。

 私は祖母の事は詳しくしらないのだけど、祖父はとても困った人だった事は聞いた事がある。女性関係にだらしがなく、本当の祖母も、それに愛想をつかして出て行ってしまったらしい。そんな祖母も、もう十数年前に他界している。

 私の父も、祖父には愛想をつかし、大学進学と同時に家を出て、一人暮らしを始めたらしい。数年前に祖父が亡くなった際に、そんな事を話していた。

 もっとも、私には祖父母の記憶がほとんどない。父と祖父は恐らく非常に仲が悪かったのだろう。私も祖父との交流について、まったくと言っていいほど、記憶がない。


 渡辺さんの話によると、エリちゃんは独りぼっちで過ごしていたらしい。

 何となく予想はつく。考えられないことだけど、祖父は自分の欲望に正直な人で、とにかく自分の事を優先する人だったらしいので、たぶん、エリちゃんの事を放置していたのかもしれない。

 私の家は、祖祖父の代から比較的裕福だったと聞く。父については、その辺の遺産で裕福だったのかは分からないが、私自身も、それほど裕福とは思わなかったけど、幼い時から特に苦労もなく育てられた。


 だからと言って、お金さえあれば、住む所さえあれば、あの年頃の子供を一人にして良いわけではない。

 そういう部分でも、祖父のいい加減さが良くわかる。


 「やっぱり、その辺も関係あるのかな・・・。」


 実は、私は渡辺さんのお話を聞く傍ら、私自身で調べられることをいろいろとやってきた。その一つが、実家の例の部屋の捜索だった。

 結果、私はいくつかの叔母の遺品を発見する。それは、渡辺さんのお話を聞かなければ、ピンとこなかったものたちだった。綺麗な箱に大事に保管された中身は、古い安物の指輪、恐らく手作りだろう木製のブローチ、小さな真珠のついたイルカのキーホルダーなどなど、そして、一通の手紙・・・。

 この遺品と思われる品は、まだ渡辺さんには見せていない。正直、どのように感じるのかを予想できなかったから。

 もしかしたら懐かしいと喜ぶかもしれない。ただ、この数か月にわたって接した渡辺さんのお人柄を考えると、私は辛い思いをさせるんじゃないかと、少し怖かった。

 ただ、手紙の内容を考えると、エリちゃんの死と無関係とは思えない・・・。頃合いを見て、お見せした方が良いだろう。


 「なんか、いやだな・・・。」


 どうして、友達ともあんなに仲が良かったのに、お互いがあんなにも好きあっていたのに、幼いかもしれないけど、けれども懸命に愛し合っていたのに、エリちゃんは死ななくてはならなかったのだろう。

 私はエリちゃんの、そして渡辺さんの気持ちを考えて、涙が出てしまう・・・。

 どうしても、嫌な想像をしてしまう。けれど、今は私の勝手な想像と憶測で結果を考えるのは早計でしかない。


 いずれにしても、結論を出すには早すぎる・・・。

 少なくても、渡辺さんのお話を全部聞いてから判断しよう・・・。


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