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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
最終章
50/85

50 「古城の桜」

 それは、私が「ネジ飛び姫」と出会った最初の年。

 姫様の陰謀によって、強引に学級委員に決められてしまった直後のこと・・・。


 私達は、県内のかつては城下町として栄えた歴史ある街にきておりました。

 なんでも、新しく創られたという博物館がとても大きくて勉強になるらしく、そこへ校外学習という事で出向いた訳です。



 「くそっ・・・・。 あのアホ女のせいで、物凄い貧乏くじ引いちまったぞ・・・。」


 「うはは! まさかお前が学級委員とはなあ・・・。驚いたぞ。」


 「エーちゃんに言われるまでもなく、俺が一番ビックリだわ! 女じゃなきゃ、その場でぶっ飛ばしてる所だ! あの女・・・。 いつか絶対に仕返ししてやる。」


 「でもまあ、可愛らしいじゃないの、あの成海って。」


 「広瀬、お前は人ごとだからそんな事言えるんだって・・・。 とにかく! 顔が良くても、あんな頭のネジが飛んでるアホなヤツ、俺は絶対にごめんだ!」


 「あんたら、さっきから下らない事くっちゃべってて、全然博物館の展示見てないでしょ!?」


 「うわっ! お前、いつの間に居るんだよ!!!!」


 「別に・・・。 今来たとこよ。」


 「何でも良いから、あっち行け! シッシッ!」


 「はあ!? 何あんた! ずいぶん偉そうじゃない! 言われなくたって行くわよ、この馬鹿! い~だ!!!」


 どこからともなく現れた姫様は、さんざん言いたいことを言ったあげく、邪険にした私たちにお怒りまま、さっさと去っていくのでした・・・・。


 「なあ、思ったんだけどさ。 あれって、結構お前のこと、気に入ってるんじゃないか?」


 「広瀬! 二度とそういう物騒な事は言うな、本気で殴るぞ! それにだ、どうせなら俺は石崎リョウコみたいな女子に好かれたいもんだ・・・。」


 「ああ、そりゃ無理だわ。 全然釣り合いとれてねえもん。」


 『なっ!・・・。 普段そういうこと言わないエーちゃんに言われると、ほんとにそうなんだなって思うから止めて!』




 ところで、この博物館は当時としては大変面白い展示の仕方をしておりまして、また建物も当時としては大変モダンな感じでした。

 面白いのは、各展示室に冷水器のような長方形の機械が設置されておりまして、これのボタンを押しますと、資料がコピー機のように排出されるのでした。それを順番通り、最初に配られたファイルに綴じていくと、一冊の資料本が出来上がるという訳です。

 当時は、これが面白いのか、何度もボタンを押すおバカさんまで現れて、ちょっとした話題となりました。

 ただ、不真面目な私達は、どうも順番通りに資料をとったつもりでも、相当穴があり・・・、綴じてみると、何だか分からないものしか出来ませんでした・・・。


 博物館を見学した後は、外で昼食となりました。その時初めて知ったのですが、この博物館が建っている場所は、どうも古城跡らしく、そこかしこが実に整備された緑で溢れておりました。



 「ねえ、渡辺く・・・渡辺、こっちで私達と一緒にお弁当食べない? 良かったら兼末くんも。」


 そう私に話しかけたのは、誰あろう、この時の私にとっては、まさに心の天使である石崎リョウコさんからでした。


 「えっ、良いのか! それじゃ、エーちゃんはどうする? 行くべよ!」


 「そっそうだな・・・。俺もよばれるかな・・・。」


 私はザマアミロと言わんばかりに他の男子達を見回した事を思い出します。あの時の優越感といったらありませんでした。

 しかし、まあ当然ではあるのですが・・・、私達が一緒に弁当を食う相手は石崎リョウコだけではなく・・・、そこにはすでに仲良し四人組となった鷲尾と金丸も居た訳ですが、それはまあ良いとして、問題なのは、やはり、あの姫様も一緒だった事でして・・・。


 「(チッ!・・・ 飯が不味くならないよう、石崎の顔だけ眺めて食おうっと。)

 それにしても、石崎達の弁当、すげえ豪華だなあ・・・・。もしかして、これ全部自分で作ったの!?」


 「あは、そんなに大したものは作って無いよ。みんなで食べられたらと思って、量だけは沢山作ってきたから、いっぱい食べてね。」


 「いや、喜んでご馳走になります・・・。 なんか、自分の弁当出すの恥ずかしいけど、これも良かったらみんなで食ってくれよ。」


 「あっ、そう? じゃ、遠慮無くいただくわ。」


 「って、何でお前が率先して食ってんだよ! しかも一番メインのハンバーグを!!!」


 「うるさいわね。 進めたんだからケチ臭い事言うんじゃないわよ、男のくせに! あっ、これ美味しいじゃない。」


 『ああ・・・、ついに俺は禁断の欲求が抑えられなくなってきた・・・。 なっ殴りてえ!・・・、女だけど、かまわず殴りてえ!・・・。』


 そんなこんなで、若干ストレスを溜めつつも、私達は和気あいあいと弁当を楽しむのでした。




 その後、私達は古城跡を団体で移動しながら見学し、「何の丸」だか忘れましたが、広場になっている所にて、自由行動となりました。

 私達は弁当を並んで食ったよしみもあり、若干不本意な所もありながら、エリたちと一緒にブラブラとこの自然公園を散歩する事になりました。


 「ここは櫓かなんかが建ってたのかな? 結構土手が急で高いな。 ダンボールゾリやったら面白そうだけど。」


 「ああ、懐かしいな! よく川沿いに行ってやったな、ダンボールゾリ!」


 そんな呑気な話をエーちゃんとしておりますと・・・・


 「わっ!」


 「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁ・・・!!!!!!!」


 「わっ渡辺!!!! 大丈夫か!?」


 「あはははは! びっくりした!?」


 「びっビックリしたどころの騒ぎじゃねえぞ、このアホ女!!!!!! こっ殺す気か!!!!!」


 なんと、この「ネジ飛び姫」様は、結構な高さのある急斜面の土手を覗き込む私を、驚かす声だけに止まらずに両手で突き飛ばすという恐ろしい暴挙に出るのでした・・・。

 当然のように、私は土手を転げ落ち・・・・。


 「エリ!!! それはちょっとやりすぎだよ!!! 渡辺、だいじょうぶ!?」


 流石に危ないと感じたのか、慌てて飛んできたリョウコに怒られ、ふて腐れながらもシュンとする姫様でした・・・。


 「まっまあ良いよ、石崎。 怪我はねえから・・・。

 (それにしても、コイツの彼氏になる奇特なヤツが居たらホント同情するわ・・・。 これじゃ、命が幾つあっても足りやしねえ・・・。)」


 そうこうすると、集合の時間になり、私達は決められた場所に集まっていきます。


 「そう言えば、今気がついたんだけど、そこらの木って、全部桜だなあ。 時期が外れて葉桜になっちゃってるけど、これだけの量だと、時期には壮観だろうなあ・・・。」


 「へえ、そうなんだ・・・。 じゃあさ、今度みんなで見に来ようよ!」


 私の独り言のような言葉を聞いていていたのか、感慨深げな表情をして空を見上げた姫様は、そう高らかに宣言し、そのエリのひと言に、女子組は楽しそうに頷いていましたが・・・・


 『来たけりゃ勝手に来いっての。 俺はお前となんか、真っ平ごめんだ、アホ女。』


 と、当時の私は、心の底から姫様を毛嫌いし、あざ笑っておりました。





 そして、月日は流れ、二年後の春の事・・・。

 いよいよ学年も三年生になるのを控え、春休みに入った私達は再び、この桜満開に咲き乱れる古城跡に立っておりました。


 「うわぁ・・・・、本当に綺麗ね~・・・・。」


 「ああ、見事なもんだなあ・・・・。 良かったな、エリ。 一昨年来の念願が果たせて。」


 「なんだ、覚えてたの? あの時は聞いてないのかと思った。」


 「ちゃんと聞いてたし、覚えてたって。」


 そう言いながら、私は約二年前の情景を思い浮かべておりました・・・・。


 「何ニヤニヤ笑ってんの?・・・ 気持ち悪い・・・。」


 「いや、ほら、そん時の事。遠足でここに来たときのこと思い出しててさ。 あんときは俺、正直お前に頭来て、ぶん殴ってやりたいって思ってたんだよ。」


 「はあ!? あんた、自分の愛する人にそんな事考えてたの? 最低~・・・。」


 「愛する人って、自分で言うか、普通・・・。しかもみんな居るってのに、でっかい声で・・・。っていうか、あんときは愛するもクソもねえだろうよ。

 だってお前、ムチャクチャだったし。俺なんて土手から突き落とされて殺されそうになったんだからよ。」


 「大げさねえ・・・。」


 「(えっ!? 大げさなの!?)それにしても、お前、あの頃から全然変わらねえなあ・・・。」


 「どういう意味よ?」


 「いや別に・・・。 落ち着きが無いっていうか・・・色々と。」


 「失礼ね! 私は昔からお淑やかよ!」


 「いや、それ真面目に言ってんの?・・・。すげえな、お前。その感性は人智を超えるわ。」


 「また難しそうなこと言って、馬鹿にしてんでしょ!」


 そう言いあいながら、エリとじゃれ合ううちに、私は「ヒトのキモチ」の不思議さを考えていました。縁の不思議さ、時と共に移り変わるキモチの不安定さ、等々・・・。


 『実際はすごい変わったわ、お前。 いや、お前が変わったんじゃなくて、俺がお前を理解できるようになったのか!?』


 「また、なにぼーっとしてるのよ。 早く行きましょ。 もうリョウコ達、先行っちゃったわよ。」


 「ああ、そうな。 なあ、エリ。」


 「ん? なに?」


 「愛してるぞ。」


 「はっ!? なっ!!!」


 そう、冗談めかして言った言葉に、姫様は耳まで真っ赤にして、おそらく思いつく罵詈雑言を、めいっぱい喚き散らすのでした。

 その騒音を聞きながら、私はこの先のことをふと考えます。


 『願わくば・・・、エリと一緒に、ほかのやつらともずっと一緒に、こんな時間が続くと良いな・・・。 将来・・・、将来か・・・。』


 私はいよいよ目前に迫った受験という現実と・・・、この時間がいつまでも続くようにという願いが複雑に絡み合う中、只々、今はこの時間を楽しもうと、目の前の桜舞い散る草原に美しく咲く、最愛の人を眺めながら思うのでした。



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