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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
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07 「恐怖新聞! 前編」

 「ネジ飛び姫」の陰謀によって、見事「学級委員」にさせられてしまった私ですが、面倒な委員の仕事を二人でこなしつつも、何だかんだと、「そういうものも楽しいなあ」等と考える様になるまで時間の経過したある日の事です。

 時期で言えば、鬱陶しい梅雨が明けて、いよいようだる様な暑さが本格化し、あと少しで夏休みも見えてきたというそんな時、先生から「学級委員の緊急招集」が発令され、私達は職員室まで出向く事になりました。


 「今度、各クラスから学級新聞を出す事になってね。各学期に一紙ずつという事になったの。と言う訳で、あなた達が中心で何人かを選んで、夏休みに入る前に仕上げてくれる? テーマなんかは任せるけど、なるべく学級新聞に相応しいものでお願いね。」


 たしか、こんな具合の依頼だったと思います。


 (と言うか先生、それって明らかに最近決まった話じゃないですよね・・・・。 何でしょう、この一学期も押し迫った時期に拷問の様な宿題は・・・・。)


 しかし、この課題はどうもエリにはツボだったようでして、もう頭の中にはアイディアが次々に浮かんでいる事が、その嬉しそうに大きな瞳を輝かせた顔から見て取れました。いや、実際に人一倍行動力のあるやつでしたので、こう言う時には頼りになります。ただ、ちぃ~とばかし頭の歯車が人とズレている事が玉に瑕で、こればっかりは注意しておかなければなりません。


 と言う訳で、教室に戻った私達は、早速「急造新聞委員」の結成に取り掛かりました。

 勿論、リョウコは既に強制参加となっており、まあ実際、まだワープロなんかをおいそれと使える時代ではなかったので、ガリ版を刷るにしても、字が大変綺麗なリョウコは必須だったと思います。その他に、私やエリと仲の良い男女数人を抜擢していきます。もちろん、うちの「ネジ飛び姫」は相手の合否は問わず、全員が強制参加となります。

 もっとも、そこに集まったメンバーは全員、こいつの難解な性格を既に理解して容認している様な連中でしたので、誰も嫌な顔をする事はありませんでした。ここはエリの不思議な魅力の一つだったのでしょう。


 ちなみに、そのメンバーは、既にご存じの面々もおりますが、改めてご紹介させて頂きますと・・・・


・成海エリ

 もう説明する必要はありませんね。我らの「ネジ飛び姫」です。


・石崎リョウコ

 こちらも説明不要のクラスのアイドル、正真正銘の「お姫様」です。


・藤本ナオト

 こいつは以前述べました、私以外に姫二人を「名前」で呼ぶ男です。

 私の場合、半ば強制的に呼ばされる事になりましたが、彼の場合は自主的に呼んでいる様です。

 ちなみに、特技はパントマイムダンス?。とにかく絵に描いた様なキザな野郎で、頭の中は女に持てる事だけを考えているんじゃないかというようなやつでした。実際顔も格好良かったので、クラスの女子にも人気があったようです。

 これは後にリョウコから聞いた話ですが・・・・


 「藤本くんを好きな子は、結構みんな本気みたいよ。逆に何とも思っていない子は、白気気味に見てるんじゃないかなあ・・・。」


 結構辛口な論評で・・・・。じゃあ、リョウコはどう思ってるんだ?と聞きたい所でしたが、その話はまたの機会に・・・・

 兎も角、この藤本という男は正直あまり好きではありませんでした。その理由は、後々分かる事になるのですが・・・・。最初、エリがこいつを引っ張ってきた時には、実に憂鬱な気分になったものです・・・。


・兼末エイキチ

 愛称は「エーちゃん」の大変気持ちの良い男で、私とは古い付き合いになり、非常に気が合うやつでした。

 今時点では、特にエリたちとは接点がありませんでしたが、どちらかが「手伝ってくれ」と言えば、お互いに断らずに助けるのが、暗黙ルールになっていました。

 ちなみに、頭の程度も私と同じぐらいで、そこも非常に気があったものです。


・鷲尾タカコ

 非常に猛々しい名前の持ち主で、名前だけじゃなく、実際に猛々しい御方でした。

 我がクラスには、エリ、リョウコという二大美人が居たために余り目立っていませんでしたが(別の意味では目立っていたのですが・・・)、顔は美形の方だったと思います。

 ただ、いつも男に混ざって表で遊んでいるせいで、色黒で精悍な顔立ちをしており、まだお互いに男女の特長がそう大きくない少年少女時代には、正直男なんだか女なんだか分からない様な風貌でした。実際、男ともよく喧嘩をしており、性格はエリと共通する部分が多かったのか、非常に仲が良かったのを憶えています。勿論、エリの様に「ネジ飛び姫」ではありませんでしたが・・・。

 ちなみに、この鷲尾はエーちゃんと幼なじみだそうで、この二人には我々も巻き込まれたエピソードが幾つかありますが、それはまたの機会に・・・。


・金丸シズカ

 仮名にしたら、何処かの政治家同士をくっつけた様な名前になってしまいましたが・・・、女の子です。

 鷲尾と非常に仲良しで、常に一緒にいます。言うなれば、エリのリョウコの様な存在でしょう。ちょっとふっくらとした子で、何時もニコニコとした可愛らしい子でした。

 ただ、この中では、極端な笑い上戸という事を覗けば、本当に極普通の女の子だったと思います。


 以上の六名に私を加えた計七名が、急造新聞委員として、更に急造新聞を作る事になります。 そして、この時の縁で、この七人とは長い付き合いとなるのでした・・・。



 と言う訳で、早速、第一回の「編集会議モドキ」が開かれました。


 「え~、それでは編集会議を開きます。全くめんどくせ~話ですが、先生のご命令なんで、とりあえず学級委員として渡辺が進行役を務めたいと思います。

 なんかアイディアのある人?」


 「ちょっと、あんた!! やる気無さ過ぎだろ! 手伝いに来たあたしらに喧嘩売ってんのか!?」


 「いえいえ、鷲尾さん、身長で負けている私如きが、あなた様に喧嘩を売るなんて恐れ多い・・・。 文句は出さなくて良いから、アイディア出せコノヤロウ。」


 「ちゅうか、もうこの間の林間学校のこと書きゃ良いんじゃねえ?」


 「ああ、それ良いね~。 っていうか、もうどうでも良いね~。」


 「もう帰るよ! あたしは!」


 そんなこんなの低いテンションで、会議は無駄に進行していった訳ですが、頃合いを見計らってか、一人だけハイテンションのヤツが満を持して提案を出してきました。みんなのアイディアが無いのを見計らって、自分のアイディアを有無を言わさず押しつけるあたり、実に駆け引きの上手いやつです。


 「それじゃ、もう私のアイディアで決まりで良いわね! 今週末の土日は、みんな取材だから空けといてね!」


 (いやいやいや・・・・、姫様。せめて中身ぐらいは話しましょうよ・・・。)


 「成海、取材って何だ? しかも、土曜日は学校じゃねえか。」


 ちなみに、このグループの中で、エリを名字で呼ぶのはエーちゃんだけでした。


 「土曜日は学校終わった後に近場に行くから大丈夫よ。日曜日はちょっと電車で遠出するつもりだから、そのつもりで居てね」


 流石にこれでは要領を得ないので、私が改めて聞き直す事にしました。

 つまり、「何をテーマ」に、「何処へ取材」に行くのか?をです。


 「寺社仏閣よ、寺社仏閣。 古き良き日本の良いところをバッチリ写真に納めるのよ。」


 ・・・・・、既に〈クラスの交友を深める会〉をご覧いただいてピンと来られた方もいらっしゃるかもしれませんが・・・、私もすぐにこいつの魂胆は分かりました。

 エリは多分、神社やら寺やら墓場やらの写真を撮りまくり、あわよくば「ウツッテハイケナイモノ」を撮ろうとしているに違いありません・・・・。


 「おいおい、俺たちが作ろうとしているのは「学級新聞」で「恐怖新聞」じゃないぞ・・・・。」


 「大丈夫、大丈夫、そうそう写るものでもないし」


 はい、確信犯でした。

 というか、そんなものが学級新聞になるんですか? 姫様。


 「別に良いじゃない。面白ければ、何だって。」


 「・・・・おまえ、先生のお話を聞いていましたか?・・・・」


 とにかく、説得力が有るんだか無いんだか分からない一言で、会議は終了となり、結局、私達は週末に取材を敢行する事になりました。



 そして、その週末のこと・・・。


 まず一日目の土曜日は、学校が終わった後に、近くの寺と墓場を散策です。

 私達が住んでいる地区には、大変大きな霊園があり、そこは全国的にも「心霊スポット」として有名なところです。


 少し横道にそれますが、この心霊スポットにまつわるお話しを少し・・・・。

 この大規模霊園の外周は直線的な道路が囲っているのですが、何故かこの見通しの良い直線道路は事故が絶えない事で有名でした。交通事故で死者が出る事も頻繁で、特に車の往来が激しいという事もないのですが、実際に私の兄の同級生も、この道路で亡くなりました。


 もっと不思議なのは、この墓地を囲む壁面に、何故か車が吸い寄せられる様に突っ込む事・・・。何もない直線で、全くハンドルを切る様な要素がないにもかかわらず、大体、月に一度の割合でこの壁に大穴が空いています。こちらは実際、近所の兄ちゃんが突っ込んでおり、ちなみにその時の理由を尋ねても、絶対に口を開きません。

 行政の方でも、この不思議な現象の事を認識している様で、道路に睡眠防止対策を施したり、視覚的な問題と思ったのか、壁を全て撤去してフェンスに換えたりと様々な対策を施していました。

 つまり、実際にその様な現象に困っているという証拠になっている訳です。


 ここまでは私の周りでも実際に起きていた出来事ですが、その他にも噂では、墓地内の蛾を殺すと血が噴き出すだとか、十三区画に白い服を着た女性の幽霊が出るだとか、とにかく虚実入り乱れて、その手の話には枚挙に遑がない程でした。


 そんな物騒な所に、おふざけ半分で行こうという罰当たりものな訳ですから、上記の話を知っているだけに、私には結構な恐怖でした・・・。


 (お願いします、何も写りません様に・・・、何も起こりません様に・・・・。)


 実際、こういう所に行くと、その人間の根性が分かるもので、私は相当ビビリながらエリから渡されたカメラを持って歩いていました。

 私の横を見ると、エリは当然、発案者らしく好奇心に顔を輝かせてあちこちを見回し、私に撮る場所の指示を飛ばします。

 というか、心霊写真って霊感がある人間が撮った方が良いんだろうに、自分で撮れとも思ったのですが、


 「あんたの方が霊感が強いから」


 なんて真顔で言われても本当に嫌なので、大人しく写真を取り続けていました。

 流石にいつも落ち着きのあるリョウコも怖いようで、エリの腕に軽くしがみついています。それにしても、そこまでしてコイツなんかに付き合わなくても良いのに・・・と内心リョウコが哀れでなりませんでした。

 他のメンツはというと・・・、エーちゃんは私と似たり寄ったりの反応で、流石の男エイキチも幽霊は怖いのかと可笑しくなりました。藤本はこんな時にも女性陣へのアピールを忘れません。ここまで来ると、ある意味プロフェッショナルを感じさせます。嫌いだけど。鷲尾は幽霊など意に介さずといった雰囲気で、堂々と闊歩しています。その腕を金丸がリョウコと同じように心配そうに掴んでいます。これは何とも面白い対象図です。


 そんなこんなで、夕方になった頃でしょうか。

 この日は昼飯を買い食いのパンで済ませたもので、流石にそろそろ腹が減りました。日が落ちると厄介だろうとエリに言って聞かせ、その日は解散となります。カメラをエリに返し、明日の確認をする事に。

 何でも、明日は全国的にも有名な某寺に向かうとの事で、周辺を含めて写真に納めるのだとか。なので、カメラを持っている人は持参してくる様にとの命令が「ネジ飛び姫」から出されます。


 (それにしても、こいつは藁半紙一枚の新聞作るのに、一体何枚の写真を撮るつもりなんだろうな・・・・。 というか、新聞を作るって事、覚えてますか?)


 と言う訳で、我々は一端解散し、翌日再び、「ウツッテハイケナイモノ」を写す探索に赴く事になりました。

 しかし、まさかあんな洒落にならない事態になろうとは、この時、まだ誰も気づいていませんでした・・・・。

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