10 「燃えるバーベキュー」 16 「駄菓子屋勝負!」
〈燃えるバーベキュー〉
それは、あの例の「ウツッテハイケナイモノ」事件を経て、無事に学級新聞が発行できた直後ぐらいの話になります。
その時、まだ別のクラスだった悪友の犬飼が、私たちを訪ねてやってきました。
「渡辺、エーちゃん! なあなあ、夏休みにさ、うちの家族でバーベキュー行く事になってさ。お前らも一緒にどうよ?」
「ん? 良いのか、犬飼? せっかく家族水入らずで行くんだろ?」
「まあそうなんだけど、うちのババア(この家は自分の母親を目の前でもこう呼ぶ)も人数が多い方が楽しいっていうからさ。それに、妹も渡辺が行くと喜ぶからなあ。」
「げっ! お前! バーベキューまで連れてって、妹のお守りさせるつもりじゃねえだろうな!」
「えっ!? いっいやー、そんな事ないんだけど、ヤスコが渡辺連れてこいって、うるせえんだよー。 だからさ!」
「何話してんの!?」
「うわっ!」
「何だか男同士で楽しそうじゃない・・・。 どうせろくな話じゃないんでしょ?」
「またどっから湧いて出た!・・・。 まあいいや。 いや、犬飼んちで夏休みにバーベキューに行くらしいんだよ。 それに俺とエーちゃんも連れてってくれるんだってさ。」
「へえ・・・。 ねえ犬飼・・・だったっけ?、それに私達も連れてってよ!」
「何言ってんの、お前は! なんでお前まで来んだよ! 駄目に決まってんだろ!」
「あんたになんて聞いてないわよ、この馬鹿!」
「えっ! という事は、いっ石崎も行くのか!?」
「私も呼んでくれるの? 嬉しいな。」
「そっそりゃ大歓迎だよ! よし分かった!」
「お~い!!!! リョウコはともかく、コイツも居るんだぞ! 即答してんじゃねえ!!!」
「だけどお前、そんなに車に乗れるのか? それとも電車で行くのか?」
「いや大丈夫だよ。 うちはオヤジの道楽で、でっかいキャンピングカー乗ってるから。十人だって平気だよ。」
「そう! じゃ、タカコやシズカも呼んでいい!?」
「全然構わないよ~。 女子は多い方が嬉しいからなあ。 あっ!」
「あ~あ・・・・、結局これかよ・・・。 ん? なんだよ、犬飼・・・。」
犬飼は思い出したように私だけを引っ張っていき・・・。
「お前、藤本は呼ぶなよ・・・。俺あいつ嫌いだから・・・。」
「ん? まあ、俺は別にあんなの居ても居なくても構わねえけど・・・。 分かった。エリ達に釘刺しておくよ。」
という訳で、私達は夏休みに入って直ぐの休日、犬飼ご一家と共に、河原でのキャンプに出掛けるのでした。
「さあ、女の子達はバーベキューの下ごしらえ手伝って! 男共は鉄板の準備宜しくね!」
犬飼ママの指示により、私達はテキパキと働かせられます・・・。
「ユキちゃん! 後でお仕事終わったら遊んでね!」
「あっああ、ヤスコちゃん、分かったよ。 後で遊んであげるから。」
「へえ・・・。 あんた、”子供の”女の子には人気あるのねえ・・・。」
振り向くと、小馬鹿にした薄笑いを浮かべた姫様が、ニヤニヤとこちらを見ていました・・・。
「でっけえお世話だコンチクショウ! あとイチイチ”子供の”って力込めて強調しなくていいから! 分かってるから! 子供でも何でも、モテねえよりマシだっての! いっいや、リョウコさん、笑い過ぎだから・・・。」
そんなこんなで、いよいよ火入れを行う事になりました。
たまたま火入れは私が行う事になり・・・、この頃では珍しい、海外製のゲル状燃料を使って着火する事に。もちろん、私はこの時初めて、この着火剤を見た訳ですが・・・・。
「(へえ、こんなポマードみてえので火が着くのか・・・。どれどれ・・・。)それじゃ、割り箸の先につけて・・・、おい、犬飼、悪いけどそこのライターで火を付けてくれよ。」
「あいよ。」
「で、これを炭の下に入れる訳だな・・・。あれ? これって火がついてんのか? なんか良くわからねえな・・・。 着火剤が足んなかったかな?」
そう、この時、私は着火剤の炎は結構高温で、目視しづらい事を知らなかったのでした・・・。
「しょうがねえ、足してみるか・・・。」
と、炎が着いた割り箸を、そのまま大元の着火剤に持ってきてしまうのでした・・・。
まあ、当然のように・・・・
「ぎゃああ!!!!! 手に火が着いたあああ!!!!」
幸い、場所が河原だったので、水は腐るほどあり・・・、何とか直ぐに火は消したのですが、左手の指には、水ぶくれ程度の火傷が残るのでした・・・。
「あははは!!! あんた、ホントに馬鹿ねえ!!! あははは!!!」
と、エリに散々笑い飛ばされ、悔しい思いもしましたが・・・。
「それじゃ渡辺、不便でしょ? 食べたいものをとってあげるから、遠慮無く言ってね。」
と、リョウコさんに優しい言葉をかけて貰い、まあ、火傷も悪くないな等と、単純に思ってしまうのでした・・・。
「はい、とってあげたから食べなさいよ。」
「あれ・・・。 有り難う。 なんだ、お前も良いところあるな。・・・って、あれ・・・。あの・・・、エリさん・・・。 なんかこれ、野菜ばっかりで肉が入って無いんですけど・・・。」
「そうよ? 当たり前じゃない? あんたは馬鹿なんだから、野菜を食べなさい。 お肉なんて食べると、馬鹿が進行しちゃから。あははは!」
「!!!!。(・・・・・・・。ああ、一瞬でもコイツが優しいと思った俺が馬鹿だった・・・。
いつか絶対、コイツを丸裸にしてやる!!! 絶対だ!!! くそっ・・・。)」
私は大量の野菜を噛みしめながら、姫様への復讐を強く心に刻むのでした・・・。
〈駄菓子屋勝負!〉
それは「真っ赤ちん大作戦」の数日後の事。
その日、私達はいつもの様に姫様のホームでタムロしておりますと・・・。
「そういや、この間のザリガニ釣りも懐かしかったけどさ、酢漬けのイカ見たのも久々だったなあ。」
「ああ、俺もアレ買いに、駄菓子屋に久々に入ったよ。昔は良く行ったっけなあ。」
「ふ~ん・・・。 駄菓子屋ねえ・・・。」
「なんだエリ、その不服そうな顔は・・・。」
「別に~・・・。」
「なんだ~? お前、駄菓子嫌いなのか? お前だって、喜んで食ってたじゃねえか、酢漬けのイカ。」
― さかのぼる事、数日前
・
・
・
「うわっ、これ酸っぱいわね!・・・。 でも結構美味しいかも!」
「って、なんでお前が食ってんだよ! こりゃザリガニの餌だぞ! それとも何か!? お前はザリガニか!? まっかちんなのか!?」
「なによ! ちょっと味見しただけじゃないの! このケチ! ば~か!!!」
「味見って、一袋丸々食ってんじゃねえか! どんだけ味に鈍感なんだ、この食いしん坊!」
「うるさいわね! 男が細かい事言ってんじゃないわよ、このスケベ!」
「スケベは関係ねえだろ、このアホ女!!!」
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・
・
「ってな具合で、喜んで食ってたじゃねえか、ザリガニの餌。」
「うるさいわね・・・、しつこいのよ。 だいたい私、行った事無いもん、駄菓子屋。」
「へえ、成海は行った事無いのか? あれ、女子は行かねえもんかな? 駄菓子屋って。」
「あたしはあるよ、駄菓子屋。」
「そりゃ、鷲尾は男と交じって遊んでたからなあ。 参考になんねえだぐびゃ!!!」
「余計な事言うな! そん時はシズカも一緒だよ!」
「わっ鷲尾さん・・・、すっ少し加減して下さい・・・。なんかアバラが変な音したんですけど・・・。
りょっリョウコはどうだ? 行った事あるか?」
「う~ん、私も行った事ないかな? でも楽しそうだね。」
「じゃあ、今から行ってみんか? 駄菓子屋。 そんなに遠くねえ所に一軒あるし。」
「へえ! 行ってみようよ、リョウコ!」
という訳で、私達は急遽、駄菓子屋に向かう事になりました。
「へえ!!! 凄い、こんなにいろいろ売ってるの!?」
「面白いだろ? 駄菓子ばっかりじゃねえんだ。
俺らが子供の頃に遊んだオモチャなんかも売ってんだよ。銀玉鉄炮とか、かんしゃく玉に爆竹とか。これ、犬の糞にさして爆発させっと臭せえんだよな。
他にもメンコとか。女子のおもちゃも少しあるな。リリアンとか、おはじきとか、ビー玉とか。」
そうそう、メンコといえば、昔良くやった事ですが、メンコは勝負場のメンコ同士をぶつけたり風圧を使ったりしながら、ひっくり返すと勝ちになり、負けたメンコを奪えるわけですが、ずる賢い私は、メンコを二枚にはがして、その間に釣り用の板鉛を仕込んでノリで貼り直し、重量をかさ増しして使っておりました。
いやあ、お陰でメンコが増えたこと増えたこと・・・。もう時効なので、この場で白状します。ごめんなさい。
「ふ~ん! ねえ渡辺、これは何!? このピンク色の小さいヤツ・・・さくらんぼ?」
「ああ、これは餅みたな菓子だよ。名前、なんていうんかな? 求肥みたいなもんかな。 俺、結構好きなんだ。」
「じゃあ、これ買う! こっちのは?」
「ああ、そりゃあんこ玉だよ。 おばちゃん、これ二つ貰うよ。」
「あいよ~」
「ほれ、食ってみろよ。」
「へえ~、中がアンコなんだ! 結構美味しい!」
「あれ、何も入ってねえか? んじゃ外れだ。」
「何それ?」
「当たると、白いタマが入ってんだよ。 そんで、こっちのデッカイあんこ玉と交換して貰えるんだ。」
「へえ~! 渡辺のは!?」
「ん~・・・。外れだ・・・。」
「あはは! 運無さそうだもんね、あんた!」
「でっけえお世話だ、バカヤロウ・・・。」
そんな具合に、私達はそれぞれ、駄菓子を楽しみながら買い物を進め・・・
「この小豆色のお菓子は?」
「ああ、それは麩菓子だよ。 甘くて美味いぞ。」
「へえ! じゃあ、これも買う!」
「まてまて、麩菓子は買わなくて良い。 後で良いところ連れてってやるから(コソコソ)」
「何それ? まあ良いわ・・・。 ねえ、この鉄で出来た小さいの、何?・・・。うわっ、重たい・・・。」
「ああ、こりゃベーゴマだよ。」
「ベーゴマ? コマなの?」
「そっか、お前、ベーゴマ知らないのか。 まあ、女子はこんなもの、やらねえもんなあ・・・。
ああ、そうだ! エーちゃん、久々にベーゴマで勝負しねえか!?」
「おっ!? 懐かしいな! 良いぜ、やろうやろう!」
「藤本、お前もベーゴマ回せるか!?」
「ああ、もちろん! 俺も小さい頃は良くやってたからな!」
「よし、じゃあ、帰ったらやんべ!」
「ちょっと、なに男子だけで盛り上がってんのよ! 私もやるわよ! 渡辺、教えなさいよ!」
「ええっ!? まあ、お前なら器用だから、出来るかもな。 っていうか、教わる割には、偉そうだな、なんなの、お前・・・。」
「じゃあ、帰ったら『大ベーゴマ大会』ね!」
「またまた、大袈裟な・・・。」
そんなこんなで、駄菓子屋での買い物を一通り済ませた私達は、次の目的地に向かいます。
「何ここ!? 工場?・・・。」
「ああ、ここは麩菓子工場なんだよ。 すいませ~ん!」
「は~い!」
「クズ麩菓子下さい。 え~っと、ひと袋もあれば良いかな?」
「はい、五十円ね。」
「うわっ!!! 何それ!!! 凄い量じゃない!!!」
「だろ~!? 昔は俺たち、よくこれ買って、引きずって食いながら歩いたもんだよ。懐かしいなあ・・・。」
この地元にあった麩菓子工場でしか買えない「クズ麩菓子」とは、ようするに製造工程で弾かれた「出来損ない」の麩菓子でして、短かったり、砂糖のコーティングが失敗したり、崩れてしまったりした様な失敗品を、大型のポリ袋一杯に詰めて、子ども達に格安で分けていました。
私達が小学生の頃は、自分よりも大きなこの麩菓子を引きずりながら食べ歩き、最後は袋に穴が空いて、いつも中身をばらまいてしまい、悲しい思いをするのでした・・・。
「さて、駄菓子も買ったし、そろそろ帰って勝負と行くか!」
そんな具合に駄菓子屋を堪能した私たちは、再び姫様宅に戻り、早速、庭先にポリバケツを持ち出し、その上に黒いゴミ袋を縛り付け、ベーゴマ台を作ります。
「さて、それじゃまず、エリに指導しねえとな。 いいか、紐はこうやって、結び目を先に二つ作ってだな、ここをこう引っ掛けて、巻いていくんだ、こんな風に。」
「どれどれ・・・・。 こう?」
「お前、ホント器用だな~・・・。 で、反対の紐を小指と薬指の間に挟んで、後は、こう!」
― シュルルルーーーー!!!
「へえ! どれどれ・・・。」
― ガッゴンバ!!!
「うおっ! アブねえ!!! ガラス割るなよ。 そうだなあ、コツとしては、投げた後にちょっと引くんだよ、こういう風に。」
「こんな感じ? よっと。」
「おおっ! 上手い上手い! 二回で回せりゃ、大したもんだよ!
何回か回してみろよ。 お~、上手い上手い! じゃあ、もう大丈夫だな。
あ、そうだ。掴みやすいように、紐の先に五円玉つけといてやるよ。こうすると、引っかかってやりやすいだろ?」
「ホントだ~。 あんた、こういうどうでも良い事は、ホントに詳しいわね・・・。」
「でっけえお世話だっての・・・。 よっしゃ、じゃあ準備も良さそうだし、そろそろ始めるか! う~ん、どうせやるなら、賞品が欲しいところだな・・・。」
「さっきの駄菓子じゃ面白くねえか・・・。」
「よし! じゃあ、賞品はリョウコにしよう!」
「ええっ! 私!?」
「ちょっと!!! そんなの絶対駄目に決まってるでしょ! あんた、頭大丈夫!? ふざけた事言ってると、殺すわよ!!!」
「ふふ~ん、この早とちりさんが! そうじゃなくて、リョウコの手料理、特別なやつ作ってもらうのでどうよ!?」
「ああ、そりゃあ良いね、そうしよう!」
「それぐらいなら、私も協力するよ。うふふ。」
「紛らわしい言い方するな! この馬鹿!」
「へっ! 勘違いする方もする方だっての。さてと・・・、参加者は、俺とエーちゃん、エリに藤本・・・・、あれ? 鷲尾もやるのか? 流石だな・・・。」
「流石ってなんだよ!・・・。 いいだろ、別に!」
「いや、別に文句はねえよ・・・。 言ったら痛そうだし・・・。 う~ん、数が中途半端だから、総当たり戦で行くか?」
「その方が良いべ。 初心者の成海にもチャンスあるし。」
「なによ~、兼末。 ずいぶんと余裕ある言い方じゃない・・・。」
「ふっふっふ! まあ、ハッキリ言って初心者のお前が俺とエーちゃんに勝負挑もうなんて、百年早ええんだけどな! 強いて言えば、この中でジツリョクがわからねえのは、藤本だな。」
「フッ!」
「なんなの、そのステキすぎる不敵な笑みは・・・。っていうか、強いのか弱いのか、どっちなんだよ。」
「あんた、そこまで言ったんだから、私に負けたら、一生、私の召使いでもやんなさいよ! 私の命令は何でも聞くのよ! 何でもよ! わかった!?」
「って、何だそりゃ! まっまあいいや、その代わり、俺が勝ったらどうするよ?」
「う~ん・・・。 じゃあ、私も何か作ってあげる、料理。」
「えっ・・・。 それは・・・・、何かいいや・・・。」
「はあ!? どういう意味よ!!!」
そんなこんなで、ベーゴマ勝負は始まりまして、順当に勝負は進み・・・。
「ん~、次は俺とエリか・・・。」
「渡辺、私が勝ったら、さっきの約束、忘れんじゃないわよ!」
「お前、本気だったんか・・・。アホだな、そう言う事は勝ってから言えっての!」
結局・・・
「まあ、初心者にしては良くやったよ。 俺の教え方のお陰だな! ゲラゲラ!」
「・・・・。 この馬鹿!!! ちょうしにのんな!!!」
「イテッ! イテッ! イテッ! その紐はムチじゃねえぞ! イテッ! 五円玉の方で叩くなって! イテッ! 真面目に痛てえって!」
そして勝負は進み、運の良さも手伝ってか、あるいは賞品にかける執念か・・・、この時の優勝は私がいただくことになりました。
「よっしゃ! リョウコの手料理は俺がいただきだ!!!」
「・・・。 なんか・・・。興奮してる割には、結果が地味ね・・・。」
「まっまあ、こんなもんだろ・・・。 こう言うのは、雰囲気が大事だからな・・・。」
「あはは! でも約束だから、ちゃんと何か作ってあげるよ。 何が良い?」
「そうだなあ~。じゃあ、今日は駄菓子買ったから、それに因んでお菓子なんかどうだろう。 そうだ、定番だけどクッキー頼むよ!」
「それならお安い御用だよ。 でも、今日は無理だから、また明日で良いかな?」
「ああ、どうせ暇だから、明日頼むよ。」
という訳で、翌日の事・・・。
「さあ、出来たよ~! 召し上がれ。」
「よっしゃ、いっただきま~す・・・って、何でお前らも食ってんだよ!!!」
「ケチ臭い事言うんじゃないよ、別に良いだろ! こんなに沢山あるんだから、あたしらも食べたって!」
「美味えぞ、これ! 渡辺も早く食えよ~。」
「お前ら! 俺に負けたくせに先に食うな!!!」
「はい、渡辺。 これも食べて良いわよ。」
「おっ? こっちはチョコレート味か? お前が作ったのか?」
「チョコレートじゃない・・・。ちょっと焦げただけ・・・。 しょうがないでしょ・・・、負けちゃったんだから。 約束は約束よ・・・。」
「あ? ああ、そういや、そんな約束してたな・・・。 まあいいや、どれどれ。
うん、美味いじゃねえか。 お前、器用だからな。 やれば出来るじゃねえか。」
「ふん・・・。」
『くっくっく! コイツ、褒めると照れて、ふて腐れるフリすんだな。何となく最近、コイツの行動パターンが読めてきたわ!』
「どれどれ、俺にも食わしてくれよ。 う~ん。」
「ちょっと兼末! なに勝手に食べてんのよ!」
「う~ん、石崎のに比べると、ちょっと堅てえなあ・・・。」
「なっ!・・・。」
「いやいや、俺はこっちのエリが焼いた方も美味いと思うぞ。 好みの問題じゃねえかな。 うん、俺は結構好きだな。 この堅さ。」
実は小さい頃、まあ昔の近所付き合いに良くある事ですが、私の実家のお隣さんとは、親戚以上の付き合いをしておりまして、そこには私とかなり年の離れた娘さんがおり、幼い頃は、良く一緒にお風呂なんかにも入れてもらっちゃったりしていたのですが、そのお姉さんが結構な料理好きで、良く私にクッキーを焼いてくれました。
そのクッキーがちょっと堅めのクッキーで、幼い頃はこれが大好きでして、焼いて貰う度に、大喜びして食べた事を思い出します。
エリがこの時に焼いてくれたクッキーは、ちょうどその味を思い出させるものでした。
「ふ~ん、そんなもんかねえ・・・。 俺はこっちの方が好きだなあ。」
「もちろん、リョウコのも文句なしに美味いけど、こっちの堅い方も好きかな。 うん、美味いよ、これ。 気に入った。」
― ビッターーーン!!!
「いってえ!!!! なんだ!? 何が起きた!? って、あれ? なんで俺ビンタされてんの!?」
「うるさい! なんか分かんないけど、引っぱたきたくなったのよ!」
「えーーー!!! 何それ!!! なんで褒めた俺が引っぱたかれてんの!? なんなのお前!!!」
「大ベーゴマ大会」で優勝した私は、リョウコとエリが作った手作りクッキーと、なんだか意味不明のビンタを姫様から頂き、いろんな意味で想い出に残る勝利の味を噛みしめるのでした・・・。




