表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
48/85

04 「意地と度胸の大ラーメン」

 それは、私が「ネジ飛び姫」の陰謀で学級委員に任命されてしまってから、しばらく後のこと・・・。

 ここまで紆余曲折を経ながら、姫様の親友である石崎リョウコの仲介もあり、私はエリに対するわだかまりを殆ど解いていました。

 とはいえ、この頃はまだ「ちょっと厄介だけど仲の良いクラスメイト」程度の認識ではあったのですが・・・。



 とにかく、そんなある日の土曜日、私はたまたま、エリ達と一緒に帰る事になり、帰り支度をしておりますと・・・・


 「あっ! ちょっと待って! 渡辺くん、成海さん! 良かったあ!」


 「え? なんですか? 先生。」


 「二人にちょっとお願いがあるのよ! 今日もし時間があるなら、一緒に手伝って貰えないかしら? お昼はご馳走するから! あ、ついでに石崎さんも暇なら一緒にお願い!」


 私達はそれぞれに顔を見合わせ、特に用事の無い私達は、若干の好奇心と飯の誘惑に負けて、先生を「手伝う」事になりました・・・。


 「とりあえず、詳しい事は車で話すから、まずは乗って乗って!」


 言われるままに車に乗る私達ですが・・・


 「で、手伝いってのは、なんなんすか?」


 「実は今度の校外学習の下見に行かないといけないんだけどね。 イマイチ場所が良く分からないのよ。なので、一緒に来て色々と聞きたいと思って。」


 「いや、先生・・・。それ、明らかに人選ミスですよ・・・。 俺はそもそも興味のない事知らないですし、エリなんて今年引っ越してきたばかりですよ?(ああ、だから保険のためにリョウコを一緒に連れてきた訳か・・・・。)」


 「まあ、何とかなるわよ。 あなた達、お腹はまだ大丈夫? 出来れば先に下見を済ませたいから、それからでも平気かしら?」


 「そりゃ構わないですけど・・・。 なあ?」


 二人も無言で頷いています。


 「それにしても、また校外学習ですか? この間、博物館に行ったばかりじゃないですか。」


 「あら~、渡辺くんは校外学習嫌いなの?」


 「いや、授業よりは面白れえですけど・・・。」


 「あははは、まあ、まだ何時って決定じゃ無いんだけどね。 準備は早い方が良いから。」


 そんな訳で、私達は校外学習の為の施設を探す事になるのですが・・・。

 なんでも、我が地域は結構古くから文明があったそうで、古墳やら貝塚やらの史蹟が、意外とあちこちに点在しているのだとか。

 そう言えば、確かに小学生の頃、近所の畑を漁ると、縄文式土器のカケラがワンサカ見つかるような事が、度々ありました。


 「先生、そういえば、○○中学校って、名前がそのままですよね? あの辺に古墳があるって聞いた事もありますよ。」


 「あっ! なるほど! あそこって、たしか○○の方面よね? 行ってみましょう!」


 そんな訳で、第一の目的である「古墳」は意外とすんなり見つかりました。 なんと、その中学校の中に、そのまんま古墳が二つばっかり存在していたのでした。


 「これは見学しやすくて良いわね~。 それじゃ、次行きましょう!」


 ところが、次の貝塚の博物館なるのものがナカナカ見つからずに苦労しました・・・。

 結局散々それらしい付近を走り回った挙げ句・・・・。


 「あっ! あれじゃない? ほら、○○資料館って書いてある!」


 それを目敏く見つけたのはエリでした。


 「お前、良くあんな小さな看板見つけたなあ・・・・。」


 「まあ、あんたとはデキが違うからね~。 色々と!」


 『うわー、この子ホント生意気! 親の顔が見てみたい!』


 しかし、その資料館に行ってみますと・・・、どうも農家の人が趣味で始めたもののようで、大変小さなプレハブに、数点の資料が展示されているだけという、非常にこぢんまりとしたものでした・・・。

 私達は館長?さんに御礼を言うと、早々に立ち去るのでした・・・。


 「う~ん、あれではちょっと見学は難しいわねえ・・・。残念だけど、今回はボツねえ・・。」


 「(無駄足なんてもんじゃないな・・・。) 先生・・・、とりあえず俺たち腹減って死にそうなんすけど・・・。」


 「あら? もうこんな時間なのね! ごめんごめん、それじゃ遅くなったけどお昼にしましょう。 どこが良い?」


 「そうだ! そういえば、俺んちの近くに凄げえ美味いラーメン屋があるんですよ! そこはどうっすかね? 先生もラーメンなら安上がりでしょ?」


 「あらら、随分気が利くわね、あはは。 みんなもそれで良い?」


 「私達は良いですよ! ラーメン食べたいし!」


 そんな訳で、私達はラーメン屋へと移動します。

 このラーメン屋は、私の大変お気に入りの店でして、この当時から非常に濃厚なスープで、最近のコッテリ系に全然負けない強さがあります。私の中では、今まで食ったどのラーメンよりも一番美味いラーメンで確定しており、このラーメン食いたさに地元に戻る事もしばしばです。


 ちなみに、この店はその量も弩級でして、普通盛りで他店の大盛り並(現在も同じです)、中盛りはその1.5倍、大は二倍、現在は無くなってしまいましたが、開店当初はその上に、食べたらタダになる「ジャンボ」という、普通盛りの五倍のラーメンがありました。

 当時、ボクシング部に在籍していた私の従兄がこれにチャレンジして見事平らげ、この時にはまだ、壁に写真が貼られていました。


 「どうよ? これ、従兄なんだけど、アレ食ったんだぜ。」


 そう指さす先には、既にこの店のトレードマークになっている「ジャンボどんぶり」が飾られています。

 ちなみに余談ですが、この「どんぶり」はメニューから消えた後も、しばらくトレードマークとして飾られていました。


 「なんか・・・、如何にもあんたの従兄って感じね・・・。 風貌とか・・・。」


 「なっなんだよ、良いじゃねえか、気合入ってるだろ!?

 まっまあ、女のお前じゃ、中ラーメンも無理だろうけどなあ。 あ、ちなみに、俺は今日、大チャーシュー食うけどね。」


 そうニヤニヤと嫌みたらしく語ったのがしゃくに障ったのか・・・


 「なに勝手に決めつけてんのよ! 私だって大ラーメンを頼もうと思ってたんだからね!」


 「ほほう! 負けず嫌いもそこまで行けば大したもんだ! 食えるもんなら食ってみやがれ!」


 「えっエリ! 無理しない方が良いよ! もうっ、渡辺!」


 「うきゃっ! はっはい!(やべえ、リョウコに急に怒られたから、変な声出ちゃったよ!)」


 「そっそうよ、成海さん・・。 ほら! 渡辺くんもいい加減にしなさい!」


 「(えーっ、なんで俺が悪いみたいになってんの!?) まあまあ、先生食わせてやって下さいよ。どうせこのアホ、残すに決まってんですから。 そしたら、俺が代わりに食ってやりますから(コソコソ)」


 「そっそう? まあ、私は安く済んだから、何を食べても構わないけどね・・・。(コソコソ)」


 という訳で、結局意地になった姫様は、大人の男でも結構キツイ大ラーメンを高らかに注文するのでした・・・・。


 「私、大ラーメン!」


 「あ、俺はチャーシュー普通盛りでお願いします~。」


 「なっ!」


 「へっ!(ニヤニヤ) 保険だよ~、保険。 どうせ、お前が残すだろうからさ~。」


 「あんた、見てなさいよ! この裏切り者!」


 そんな訳で、早速出来たばかりのラーメンを各自フーフーズルズルと食べ始める訳ですが・・・


 「ねえ、そのチャーシュー美味しそうね・・。 私にもちょうだいよ。」


 「やなこった! 食いたきゃ最初からチャーシューメンでも注文しやがれ!」


 「ムカ! このケチ!!! スケベ!!!」


 「すっスケベは関係ねえだろ! しかもでけえ声で! 俺がお前に何かしたみたいに聞こえるじゃねえか!」


 「ちょっちょっと渡辺くん、成海さん!」


 「あ、すいません・・・。 って、あれ!!! チャーシューがねえ!!!」


 「いひひひ! 美味しいわねえ~、これ!」


 「こっコイツ!!! 全部食いやがった!・・・。

 (まっまあいいや・・・。タダでさえキツイ大ラーメンなんだ。調子に乗ってチャーシューまで全部食ったら、どういう事になるか、後で思い知るが良い・・。イッヒッヒッヒ!)」


 「はあ・・・。」


 「リョウコ、無理するなよ。 ここは並でも量が多いからな。 ”普通の女子”にはキツイぞ。残したけりゃ残せよ。食ってやるから。 そのために普通盛りで抑えてんだから、遠慮すんな。」


 「ホント? ありがとう・・・。 もう駄目。 お願いして良い?」


 「へっ、まあお前は全部食うんだろうけどなあ・・・。(ニヤニヤ)」


 「とっ当然でしょ! 馬鹿にしないでよ!」


 私が、自分の分とリョウコの分を平らげ、流石にこれでエリが残したら、それを平らげるのはきついなあ・・・などと考えていると・・・。


 「終わった!!! 全部食べたわよ! ざまあみなさいな!!!」


 「げえっ! ほっホントに全部食いやがった!!! 男でもあんまり頼まねえのに、女子が食ったのなんて、初めて見たぞ・・・。」


 たしかに、姫様は小柄で細い割には結構食の良い子でした。

 みんなで食事をしていても、女子らしく振る舞う事無く、豪快にむしゃむしゃと何でも食べましたし、好き嫌いをしている所も見た事がありません。

 それにしても、この大ラーメンは相当なものでして、当時大食らいを自称していた私でも、この時の姫様の食いっぷりには感嘆したものです。


 結局、そのまま私達は帰宅となりました。私はラーメン屋から家が近かったので、そのまま徒歩で。エリとリョウコは学校付近まで車で送ってもらう事になりました。




 そして、翌日の事・・・。


 「なんだ~! 成海があの大ラーメン食ったの!? すげえなあ・・・。」


 「ああ、驚いたよ・・・。エーちゃんも苦戦してたよな、あれ。 女子であんなもの食えるなんて、鷲尾ぐれえしか居なそうだと思ってたのによ。」


 「ねえ渡辺、指の骨、全部折って良い? 綺麗な指だし、さぞいい音がしそうだからさ。」


 「ごめんなさい、マジごめんなさい!(っていうか、鷲尾はいちいち言うことが恐ええよ! あと、耳元でささやくように言うの止めて!)」


 丁度そんな話をしている時に、タイミング良く、エリとリョウコが教室に現れます。


 「おっ! よう、大食らい女! 調子はどうだ!?」


 「うるさいわね・・・・。」


 「あれ?・・・。 なんだアイツ、元気ねえな?」


 その後ろを、私に含み笑いを向けながらリョウコが着いていきました・・・。

 私はコッソリとリョウコを呼び出し、姫様の様子がおかしい理由を尋ねてみると・・・


 「あはは・・・、ナイショだよ! 絶対だからね! 昨日ね、あの後大変だったの。 やっぱりあのラーメン食べ過ぎちゃったでしょ? 帰りに先生に送ってもらった辺りから、エリ具合悪くなってね・・・、うふふふ。」


 ハッキリとは言わなかったリョウコですが、つまりエリは、調子に乗って食いすぎたために胸焼けをおこし、恐らく帰ってから吐きまくったのでしょう・・・。

 なので、今日は恐らく胃がボロボロで、それで元気が無いと・・・。


 まあ、これは当然の事で、ただでさえ当時は相当脂っこいラーメンな訳ですから、その上欲張って人のチャーシューまで全部かっさらって食うという暴挙に出た訳です。男だって、食った後ただでは済まない事が多いのに、ましてや小柄な女子である姫様が耐えられる訳がありません。


 「なんとまあ・・・・。 アイツの負けず嫌いと意地っ張り度は国宝ものだな・・・。偉いというか、凄いというか、アホというか・・・。」


 そう呆れる私に、リョウコがたしなめるように言いました。


 「でもあれは、渡辺が悪いんだよ。 あの子はね、ホントはとっても素直なんだから。 あんまり、からかわないであげて。女の子なんだからね。」


 「はっはい・・・。 今後は気を付けます・・・。」




 その帰りの事・・・。


 「ほら、これでも飲めよ。」


 そう言って、私は炭酸ジュースを一本渡します。 ちなみに、このジュースは姫様の好物でした。


 「何よ・・・。 これ。」


 「別に~。 お前の事だから、昨日食い過ぎて胸焼けでもおこしてんじゃないかと思ってさ。 どうせ、昼も大して食ってないんだろ?

 こう言う時は、炭酸飲むとスッキリするぞ。」


 「・・・・。 貰っておく。 ありがとう・・・。」


 この時の私は、「世の中には、いろんなヤツが居るなあ・・・。 とてもじゃないけど、男と女、血液型なんかじゃ分類できねえわ・・・・」などと、下らない事を考えつつ、この少女の持つ面白さに、少しずつ興味を引かれていくのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ