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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
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48 「古都のしらべ 最終日編」

 冗談のように目まぐるしかった「修学旅行」も惜しむかな、ついに残り一日となりました。

 エーちゃんのパンツかぶり事件から始まって、醜い女の争いを目撃し、思わぬ事から「ネジ飛び姫」とひとつの布団で枕を共にした・・・という言い方は大きな語弊がありますが・・・夜が過ぎ、睡魔と闘いながら、次いでに不良達とまで闘っちゃった二日目を終えた頃には、私はこの旅行に言いしれぬ満足感を感じていました。


 そしてその最終日・・・。


 この日は、帰りの新幹線までの時間を、所謂「京都の定番」とも言える観光地を団体で巡る事になっていました。その間はバスでの移動となった訳ですが・・・・、私は前日までの様々なトラブルのお陰で、肉体的にも精神的にもピークに達していたのでしょう・・・。とにかく、「物凄い体調不良」に襲われていました。


 「うげぼう、ゲボゲボゲボ・・・・」


 「ちょっと、大丈夫?・・・。 とりあえず、我慢しないでどんどん吐いちゃいなさいよ、少し楽になるから・・・・。」


 私は所謂「バス酔い」にあてられ・・・・、何とも情けない事にエチケット袋を大活躍させていました・・・。

 そんな私をバスの中で献身的に介抱してくれたのが、エリでした。

 エリは嫌な顔ひとつせず、私の汚物が大量につまったエチケット袋を処分し、心配そうにずっと背中をなで続けていてくれました・・・。

 この時の私の気持ちは、その献身的な気持ちに言いようのないありがたさと、また自分に向けられている深い愛情に嬉しさを感じながらも・・・・、その自分自身のあまりのだらしなさと情けなさに、そのままバスの窓から飛び降りたい衝動に駆られていました・・・。


 『なんてこったい、情けない・・・。 すまん、エリ・・・。』


 そんなエリの献身的な介抱のお陰で、最初の目的地を見学する頃には私の体調もスッカリ回復していました。


 『これで一段と頭が上がらなくなるな・・・・。』


 この最終日の観光ルートには、若干記憶の混濁があるのですが、恐らく最初に巡ったのは、二条城でした。二条城は当時、なんでも見学には事前申告が必要という事で、タクシーの自由行動でもルートから外されていました。

 この二条城の城内は宮殿のように美しく、当時この手のものに興味がなかった私でも、心惹かれるものがありました。隣で見ていたエリも同じ様で、「わぁ・・・」と、思わず声がもれるほどでした。


 二条城を離れた後は、清水寺に向かいます。俗に「清水の舞台から~」で有名な寺ですが、成る程、清水の舞台から見下ろす下界は壮大にして幽玄な景色でした。そこで内山がウンチクを語り出し・・・・


 「清水の舞台はね、元々、疫病で死んでしまった死体を投げ捨てるために造られたって説があるんだよ・・・。だから、「清水の舞台で~」の諺は、高いところから飛び降りる勇気を言ったものではなくて、既に死体となって棄てられてる覚悟で・・・・という意味があるらしいよ・・・。」


 「へえ・・・・。」


 「なんだか、ちょっと寂しくて嫌な話ね・・・。」


 そう言いながら、エリはみんなが離れた後も、ずっと舞台の下を眺めていました・・・。その表情が何となく物憂げだった事が気になり、私は冗談めかして話しかけます。


 「俺だってさ、去年のクリスマスでお前に告白した時は、それこそ「この舞台」から飛び降りる気持ちだったんだぞ。」


 「へえ! あの最低な告白が!? あははは!」


 満面の笑みでそう言いながら、エリはいつもの明るさに戻っていました。


 『しかし、やっぱり最低だと思ってたのか・・・。何が悪かったんだ?・・・。』


 その後、私達はみんなで「おみくじ」を引き、それぞれその結果に一喜一憂しながら楽しんでいます。ちなみに、私とエリが並んで引いてみると・・・、何と二人とも「凶」でした・・・。その結果が、どうも鷲尾のツボにはまったようで・・・


 「やっぱり、あんたらは最高にお似合いの二人なんだよ!」


 と、珍しくからかう様に、ゲラゲラと大笑いしていました。 私達は、その鷲尾につられて笑う毎度の連中を恨めしそうに見回しながらも・・・、それ程不満もなく、何となく二人で同じ結果を出せた事に満足だったのでしょう。私達はお互いの「凶」みくじを重ねて一つのコヨリとし、境内の枝に二人で結びつけるのでした。


 その後は門前にて集合写真を取り、そのままお土産屋の連なる坂道を下ると、観光名所の一つである「二年坂」と「三年坂」に差し掛かりました。私達はめいめい楽しげに坂を下り、私はエリの軽口に答えているうちに、どうも注意力が散漫になったようで、三年坂に差し掛かった頃に、思わずつまずいて転んでしまいました。


 「おにいさん!!!! そないなところで、ころばはったらあかんがな! はよ、あっちで瓢箪こうてきな!」


 直ぐ側を歩いていたおばちゃんが私に叫ぶのが聞こえました。私は何のこっちゃか分からずにボケーッとしていますと、内山がやってきて、三年坂の由来を教えてくれました。


 「渡辺・・・。 三年坂ではね、転ぶと三年以内に死んでしまうという言い伝えがあるんだって・・・。 それを防ぐためには、瓢箪を買うと良いらしいよ。」


 流石に縁起が悪いのも気持ちが悪いですし、凶を引いたばかりでしたので、私は大人しく瓢箪を一つ買う事にしました。


 『まあ・・・、自分で転けた分には心配いらないわな・・・。 誰か他の大事なヤツに危険がある訳でも無いし。』


 そんな、何となく不吉な状態が続いていた時に、ついに決定打と言える「不吉」な出来事が起こります。

 三年坂を下ったところに、大きな駐車場がありまして、そこに我々のバスが停まっていたのですが、その途中・・・・。駐車場の片隅で、占い師が商売をしていました。 どうもエリはそれが気になったようでして・・・


 「ねえ! 見て貰おうよ!」


 正直、私はこの時、そう言う類のものはあまり信じていなかったのですが、どうも女子というのは、こういうものが好きなようで・・・。仕方がないので、占い師に話しかけ、私達は相性やら何やらを見て貰う事になりました。

 

 「けどなエリ、知ってるか? こういうのって、必ず良い結果が出るとは限らないんだぞ・・・。」


 占い師は女性の方で、それ程年は取っておらず、ただそれなりの雰囲気を持った方でした。


 「・・・・。 あなた達の相性はとても良い様ですよ。」


 『ほっ・・・。 とりあえず、そこそこ良い結果だな。 エリの機嫌が悪くなる事はないだろう。』


 「ただ・・・。 こんな事を言って良いのか迷うのだけれど・・・。」


 「・・・・。 何でしょう?」


 「あなた達には、避けられないぐらいの大きな困難が待ちかまえている・・・。 避けられない、悲しいぐらいの困難が・・・・。」


 『はあ? 何言ってんだ、この人・・・。 なんだ、みくじが凶で、転んじゃいけない坂で転んだ次は「不幸の宣告」か? ろくろくついてないな・・・。 それにしても、こりゃ、どうリアクションすれば良いんだ・・・。 とりあえず、笑っとけば良いのか? それとも、怒ればいいのか?・・・・』


 「どうも、有り難う御座いました・・・。行きましょ。」


 どうやら、エリもこの一方的な占いの結果に腹を立てたようで、私達は占い代を置いて、とっととバスに戻るのでした。

 しかし、この時の占いを私はその後も忘れる事が出来ませんでした。

 そして、結果的にこの占いは、最悪な形で「当たっていた」事になります・・・。しかし、この時はそれ程深く考えず、私達はバスで次の目的に向かうのでした。


 「なんだか失礼しちゃうわね・・・。 あんたもあんまり気にしない方が良いわよ。」


 「しかし困難ってなんだろうな? 俺が車にでもはねられるとかか?」


 「馬鹿!!!」


 「いや、冗談です・・・。 まあとにかく、良い事だけ取り上げておこう。 俺たちの相性は良いみたいだし。」


 「そうね・・・」


 「ん? どうした? 下らない事言ったから怒ってんのか?」


 「別に・・・」


 それからしばらく、エリは憂鬱そうな顔をしていました・・・。


 この占い騒動の後、私達は「精進料理」を食べさせてくれるお寺にて昼食を頂いたのですが、この頃にはエリはスッカリ元通りの明るさに戻っていました。


 『エリのやつ、どうも不安定だな、今日は・・・・。』


 昼食の後、最後の観光名所となる「京都タワー」に向かいます。私達は京都タワーの展望室から、この三日間で巡った名所をみんなで確認しつつ、それぞれが様々な想い出を回想しているようでした。私とエリも例外ではなく・・・いつしか私達は、人目も憚らず、ひっそりと手を繋ぎあっていました。


 そして、私達は京都への名残を惜しみつつ・・・、新幹線で一路東京を目指します。 流石に帰りの車内では皆疲労が溜まっているのか静かなもので、私とエリも気がつくと深い眠りに落ちていました・・・。

 東京駅からは用意された観光バスに乗り込み、流石に新幹線で英気を養ったのか、バスの中は賑やかなものでした。私達は一端学校に戻り、そこで最終点呼後、この長いようで短かった三日間の修学旅行を終えるのでした。


 解散後、私はエリの不安定な様子がどうも気になったもので、家まで送るように申し出ます。最初は 「あんたも疲れてるんだから、大丈夫よ」と遠慮していましたが、結局、私はエリとリョウコを家まで送る事にしました。


 「せっかくだから、ご飯食べて行きなさいよ!」


 私はエリの申し出を快く受け、一端家に戻って着替えたリョウコも交えて、三人で食事を取りました。


 『そう言えば、三人だけで食うのは凄く久々だな・・・。』


 この間、エリの様子におかしな所はなく、いつも通りでした。 「どうも俺の思い過ごしだったのかもしれない」と安堵した私は、流石に身体の疲れもあり、その日は早々に引き上げる事にしました。ただ、やはり少し気になったもので、帰り際・・・。


 「なあ、リョウコ。 思い過ごしかも知れないんだけど、何となくエリの様子が気になるんだ・・・。 それとなく、気にしてやってくれないか?」


 「そう・・・。 分かった。 注意してみる。」


 一瞬、考え深げなリョウコの表情が気になりましたが、私はそのまま帰宅するのでした。


 思えば、エリはこの頃からどうにも出来ない現実に、一人苦しんでいたのだと思います・・・。誰にもそれを悟られずに・・・。

 この時に・・・、少しでもエリの気持ちに気がついていれば・・・、私は後々の後悔を、ほんの僅かでも減らす事が出来たのかもしれません・・・・。


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