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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
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46 「古都のしらべ 初日編」

 思わぬ参加者のお陰で、大所帯となった我が「ネジ飛び姫隊」が、修学旅行の目的地に向かうため、東京駅の新幹線乗り場に集合しましたのは、肌寒い早朝の事でした。

 そこで今後の初注意を担任の岡部先生より受け、私達はいよいよ新幹線に乗り込む事になりました。ちなみに、これが産まれて初めて、私が「新幹線」を体験した瞬間でした。

 ところで、それより少し前の事・・・・。


 「ねえ、渡辺。 山口さんとエリの事、注意して見ていてくれる?」


 「ん? 山口がどうかしたのか?」


 「とにかくお願いね。 私もそれとなく気を付けておくから。」


 「ん~、良く分からないけど、リョウコの頼みじゃ断れないからな。 分かった、注意しておくよ。」


 私の返事を聞いたリョウコは安心したのか、最上級の可愛さでにっこりと笑いながら、みんなの所に戻っていきました。


 ちなみに、その時の新幹線の席順は、基本は班ごとという事になったのですが、今考えてみますと、やはり「ネジ飛び姫」はかなり大胆なほうだったのでしょう。

 例えば、普通の中学生であれば、たとえ好意のある異性であっても「それじゃ一緒に座ろうか」などとはナカナカ恥ずかしくて言えないもので、金丸は勿論、鷲尾ですらその様な状態だったのですが、我が姫様はそんな事はまったく意に介さず・・・


 「ほら! あそこが私達の席よ! 私が窓側座るから、あんたは通路側ね!」


 と、さも当然のように、周りの目を憚ることなく私の隣に座っちゃうのでした・・・。


 『まあ、もう慣れたけどね。』


 しかし、そこがまたコイツの影響力の強さなのでしょう。

 最初は白々しく座っていた鷲尾達も、気がつくとちゃっかりエーちゃん達の隣に座り直しています。良く見ると、他の班でもあちこちで男女同士で座っている所が、いつの間にか増えていました。少し大袈裟ですが、もし、この姫様が世の中のルールをドンドンっと破る模範となったなら、それに追随する人間がどんどん出そうな気がする・・・。そう言う危ういカリスマ性を持った少女でした。


 その新幹線での移動中、私達はしばらくの間は二人でベラベラと呑気に喋っておりましたが・・・、何せ後ろの席がリョウコと「喋らない」清原という組み合わせでしたので、私は何となく「何だかいつもリョウコに貧乏くじを引かせているなあ・・・」という申し訳なさがありまして。


 本来ならリョウコがその気であれば、相手の男など引く手あまたな訳ですが、どういう訳か・・・いや、恐らくエリの事が心配なのでしょうが、リョウコは特に自分の恋愛には頓着無く、私達を常に見守る守護神のような存在になっていました。

 もっとも、私としてもリョウコが見ず知らずの男と恋に落ちるなどという事になれば、それはそれで心中穏やかならぬ物がある訳ですが・・・。


 そんな訳で、私達は早々に座席を回転させ、いつものように、みんなでワイワイと騒ぎ始めるのでした。 いや、新幹線の中はお静かに・・・。




 さて、ここからは若干記憶の混濁があるのですが、私達はたしか「名古屋駅」で新幹線を降り、そこからバスで伊勢神宮へと向かいました。

 問題は、この名古屋駅で「降りた」記憶はあるのですが、そこで何をしたかをまったく覚えていない事です。恐らく、バスへの乗り継ぎ以外は何もなかったからだと思うのですが・・・。


 それからしばらくバスに揺られて、私達は伊勢神宮に到着します。ここの滞在時間は短かったのですが、コロコロとした愛想の良いバスガイドさんが、一生懸命、建造物の説明をしてくれた事を思い出します。

 もっとも、その当時はこういう事に全然興味の無かった私は、殆どの解説を右から左へ受け流しておりました・・・。今考えると、非常に勿体ない事です。

 そう言えば、この時バスガイドさんの説明してくれた・・・


 「賽銭箱には、ご縁があるように五円を投げ入れますが、二十五円なら”二重にご縁”が、三十五円なら”三重のご縁”、四十五円は”始終ご縁”がある等と言われております。ただし、十五円は”遠縁”、欲張りすぎて六十五円など入れますと、”ロクなご縁が無い”となりますので、ご注意ください!」


 という文句は、実に洒落ていまして、今でも私は四十五円のお賽銭を実践しています。

 この伊勢神宮では、その壮大さに圧倒されたのか、姫様も実に大人しいもので、分かっているんだか分かってないんだか良く分からない表情で、熱心にガイドさんの解説を聞いておりました。その後に二人して、四十五円の賽銭を入れたのは言うまでもありません。


 伊勢神宮の後は真珠で有名な某島に移動します。ここでは真珠養殖の技術を展示した博物館を見学し、その後昼食を摂りました。ここの滞在時間は結構長く、お土産を買う時間もたっぷりあった事を覚えています。


 『う~ん・・・。そう言えばエリには安物の指輪しかやってないからなあ・・・。あいつ、あんなものでも凄く喜んでたからな・・・。 俺でも手が出せるようなものはあるかしら? うげっ! ・・・・とっとても手が出ねえ・・・。』


 仕方がないので、私は小さな真珠がついたキーホルダーをお揃いで買って、それをプレゼントしました。


 「すまん・・・。こんなものしかやれなくて。ホントは新しい指輪と行きたいところなんだが・・・。 いずれ、出世払いという事で!・・・。」


 「馬鹿。 充分よ。 これで充分・・・。」


 この時のエリのキラキラした真珠のような笑顔は何とも言えず・・・、私の忘れられない想い出の一つとなりました。


 その後、私達は再びバスに揺られ、奈良の法隆寺を見学します。

 ここでも、例のバスガイドさんが色々と丁寧に説明してくれたのですが、頭の悪い当時の私には、まさに馬の耳に念仏状態でした・・・。


 その奈良の法隆寺を出た後、いよいよ私達は京都を目指します。

 京都のホテルに着いたのは、既に日も暮れた午後七時頃だったと思います。

 ちなみに、ホテルは一カ所で全学年は泊まれないとのことで、たしか三カ所ぐらいに分散して宿泊したように思います。

 この時私達が宿泊した「ホテル」は、ナカナカ趣のある・・・ハッキリ言ってしまえば、ちょっと「出そうな」雰囲気のあるホテルでした。外観や部屋の仕組みは限りなく旅館に近かったのですが、床は全部真っ赤な絨毯が敷き詰められ、所々に不可解な「暗い隅」が存在していました・・・。


 『なんという、エリが喜びそうな雰囲気だ・・・。またなんか出るんじゃねえだろうな・・・。場所が京都だけに、何となくシャレにならんぞ・・・。』




 早速部屋に着いた私達は、まず荷物を置いて間取りを確認し、すぐに夕食という事で食堂に集まります。

 食堂はクラスごとに何カ所かに別れ、私達は座敷風の食堂にて食事となりました。 料理は結構なもので、それを見たエーちゃんは興奮気味に・・・


 「なんだかホテルは幽霊が出そうな所だけど、料理は凄げえ豪華だなあ!!!!」


 と曰うのでした・・・。


 「お前は!!! また空気読めねえ物騒な事言ってんじゃねえ!!! シャレにならないから口にするな!!! ・・・・って、あれ!!!! 俺の牛肉とホタテがねえ!!!!」


 「あんたがくっちゃべってばっかりで食べないから、勿体ないと思って私が食べといてあげたわよ。」


 「このアホ女!!! 吐け!!! 吐き出しやがれ!!!!」


 「ぎゃあー! 何すんのよ! この変態!」


 「そこ!!! うるさいわよ!!! 黙って食べる!!!」




 食事が終わった後、ようやく私達はノンビリと休息を楽しむ時間になりました。

 恐らく着替えてしばらくすれば、姫様たちが男の部屋もお構いなしにやってくるでしょう。それまではゆっくり出来ると、私とエーちゃんはいつものようにトランプを始めるのでした。

 しかし・・・・、ここから厄介な事件が立て続けに発生する事になります・・・。


・事件其ノ一 「パンツ事件」!


 私達がトランプをしていると、いつの間にか、その後ろに清原が立っていました。


 「どうした、清原? 一緒にやりたいのか?」


 私のその問いかけに、思い悩むようにうつむいていた清原が突然・・・・


 ― ガバッ!!!!



 「うぎゃああ!!!! なんじゃこりゃあ!!!」


 なんと、清原はいきなり、女物のパンツを懐から取りだし、エーちゃんの顔にかぶせてしまうのでした!


 『えーーーっ! なんだこれ!?』


 「ねえ、渡辺、用事ってなに? って、きゃあ!!! 何やってんの、あんたら!!!」


 そのジャストタイミングで、エリと鷲尾が私達の部屋に入室します・・・。

 鷲尾は一言 「ひっ!」 と短い悲鳴をあげた瞬間、凄い早さでエーちゃんに詰め寄り・・・・


 「ぐげっ!!!!」


 なんと、エリの右ストレートを彷彿とさせる鋭い一発を、エーちゃんにお見舞いするのでした。

 しかもこれが、良い具合に顎にヒットしたのか・・・、エーちゃんは、まるでボクサーのように崩れ落ち、その場に昇天しています・・・。


 「ちょっと!!! これはどういう事よ!!!」


 「いっいや、俺にも何が何だかサッパリ・・・。 いや、ホントだって!」


 私はとりあえずエリに事情を説明しつつ、興奮状態の鷲尾を落ち着かせ、エーちゃんの頬を張って目を覚まさせます。清原は既に観念したように、その場にしゃがみ込んでいました。

 エーちゃんはまだ朦朧状態でしたから、これ幸いとまずは鷲尾に経緯を説明・・・。鷲尾は自分の軽率な行動に気がつき、泣きそうな顔でエーちゃんに詫びを入れています。

 その後、清原を問いただし・・・・


 「ちょっとあんた!!! 何考えてこんな事したのよ!!! しかも、この下着はどっから持ってきたのよ!!??」


 「どうどう、落ち着け、エリ・・・。 コイツが突然こんな事をするなんて、なんか変じゃねえか? 清原。 お前、誰かにやらされたんじゃないのか?」


 清原はずっと黙っていましたが、一言・・・


 「田村君に・・・」


 田村というのは、例の鷲尾事件でエーちゃんにボコボコにされた元クラスメイトでした。


 『あいつか・・・、相変わらず根性曲がってんなあ・・・。』


 「そう言えば、私達にあんたが呼んでるから部屋に行けって言ってきたのも田村のヤツよ。」


 「ぶっ・・・・」


 「ん?」


 「ぶっ殺す!!!」


 「やばい!!!! 目がイッテる!!! 鷲尾!!! エーちゃんを止めろ!!! エーちゃん、とりあえず落ち着け!!!!」


 私達の説得で何とか落ち着いたエーちゃんでしたが、当然のように怒りが納まらず。


 「渡辺、このまんまじゃ納まりがつかねえ・・・。やっぱり行ってくる。」


 「そりゃあ、誰のか分からねえパンツ被らされた上に、それを鷲尾に見られちゃなあ・・・。 分かった、俺も行く。」


 そんなわけで、私たちは同じホテルとは言え、既に違うクラスとなった田村の元にさっさと向かうのでした。


 「た~むら~・・・・。テメエ、どういうつもりで俺に上等くれてんだ、おお?! とりあえず言い訳してみろや! こっちはなあ、テメエの面白れえイタズラのお陰で、タカコにワンパン食らって昇天しちまったんだぞ! テメエもこのまま二度と戻れねえように永遠に昇天させるか! ああ!!!!」


 と、ノックもせずに部屋に入るなり、田村の顔を見つけたエーちゃんは、まるでライオンのように襲いかかるのでした・・・。


 『ああ・・・駄目だこりゃ、何だか言わなくても良い恥ずかしい情報まで暴露しちゃってるよ・・・。』


 元々、この田村という男は、私達に面と向かって喧嘩を売るような勢いのあるヤツではありませんでしたから、このエーちゃんの勢いに飲まれて、アッサリと罪を白状するのでした・・・。

 つまり・・・・


 最近、なんだか渡辺や兼末が女とイチャイチャしてるのが気に入らない。その上、いつも石崎リョウコなんかも一緒に行動してる事が非常に面白くなかった。これは俺だけじゃなく、他の男子がみんな思っている事だ。

 そしたら偶々このホテルの押入から、誰の忘れ物か分からないパンツが出てきた。せっかくだからこれを使って、あいつらにイタズラしてやろうと思った。どうせ清原のせいにしてしまえば、俺たちの事なんかわかりゃしない。 清原は絶対に俺たちの事をばらさないしな!


 という具合なのでした。


 『う~ん、良い具合に卑劣なヤツだな・・・。というか、もしかしたら俺も誰のかも分からないパンツ被らされたかもしれないのか!・・・。しかも危うくエリに殺されている所じゃねえか・・・シャレにならないぞ。 しっかりしろ、ホテルの清掃係!』


 「ところで田村。 お前、清原とは仲が良いのか?」


 「あ? どっどういう意味だよ?・・・・」


 「そのまんまの意味だよ。 こんなアホなイタズラを無理矢理やらせるぐらい仲が良いのか聞いてんだよ。」


 「・・・・。」


 「お前の事だから、どうせ最初じゃねえんだろ? 悪いな田村。 お前の方がつきあいは古いのかもしれないけど、清原はもう俺らのダチだからよ。 今後あいつに頼み事する時は、俺らを通してからにしてくれ。」


 「・・・・・・。」


 「聞こえねえよ。分かったんか!?」


 「わっわかったよ・・・」


 正直、エーちゃんの方は全然納まりが着かないようでしたが、その場は宥めて退散となりました。


 『それにしても、俺たちがイチャイチャしていて・・・・って言っても、そんな自覚はねえけれど。まあそれで嫉妬を買っていたのは、まだ分かるが・・・、リョウコと仲良くしていることで嫉妬を買っていたとは・・・。流石に人気者だな、リョウコ。』



・事件其ノ二 「女の争い事件」!


 とりあえずパンツの件が解決してしばらく後、風呂に入ってから寝るとするかという頃・・・


 「渡辺、大変だぞ。 何だか女子の部屋で成海と山口が喧嘩してんぞ。」


 「けんか~? 女同士の喧嘩なんて、たかが知れてるだろう。 ほっとけよ。」


 正直、この時の私はあまり真剣には考えていませんでした。 女同士なので手をあげるような事はないでしょうし、そもそも、あのエリが口喧嘩で負ける姿を想像できなかったもので。


 「でも、あれじゃ先生がきたら流石にマズイだろ。」


 『そう言えば、リョウコも二人の事言ってたな・・・。仕方ねえ・・・。』


 そんな感じで、乗り気がしない気分で私達がエリ達の部屋に入ってみると・・・・。


 「あんたらがね、私の目の前でイチャイチャしてんのがすげえ気持ち悪いんだよ!!!!」


 「はあ!? 私があんたに何の迷惑かけてんのよ!? わざわざあんたの目の前でイチャイチャ? あんた、自意識過剰なんじゃないの!?」


 「うっせーよ、このブス!!!」


 「は!? ぶっ、ブス!? あんたにだけは言われたく無いよ! このヘチャムクレ!!!」


 「うるせーよ!!! このワガママ女!!! あんた、何様のつもりだよ!!!」 


 「それも、あんただけには言われたくないわ! そうやって協調性無いから、あんたはいつも一人ぼっちなんでしょうが!!!」




 「すっ凄いな・・・・。俺たちの喧嘩が可愛く見えてきた・・・。」


 「ああ・・・。」


 私とエーちゃんは、その迫力に圧倒されて立ちつくします・・・。

 その時、山口のビンタがエリに炸裂!!!


 『ああ、この馬鹿!!! なんて事してんだ!!!!』


 そう、この時私が心配したのは、殴られたエリの頬ではなく・・・、殴った山口の身の安否でした。

 予想通り、エリは物凄い形相で右手の拳を握りしめています。しかし、それを既に予測した私が、後ろからエリを羽交い締めにします。


 「落ち着け! エリ!」


 「ちょっと放しなさいよ、ユキ!!! この馬鹿女はぶっ飛ばされなきゃ分かんないのよ!!!」


 「(こんな人前で、俺の事を名前で呼ぶって事は、相当混乱してんな、こりゃ!)とりあえず落ち着け! 相手は俺じゃねえんだぞ! いくら山口が憎くても、女子の顔にお前のネジ飛びパンチで殴りつけたら、ただじゃ済まねえって!!!」


 そこへ丁度、席を外していたリョウコや鷲尾達が帰ってきて・・・。


 「きゃあ、一体どうしたの!!!???」


 「リョウコ、鷲尾! とりあえず山口の事頼む!!! コイツは俺たちの部屋で頭冷やさせるから!!!」

 

 その去り際・・・、山口が衝撃的な言葉を口にします。


 「あんたねえ、そうやって渡辺とイチャイチャしてて楽しいんでしょうけどね・・・。 ナオトの気持ち、考えた事あんのかよ!」


 『ナオト? ナオトって誰だっけ・・・。 ・・・・あああっ!!! 藤本の事か!!!!』


 そう、この言葉に愕然としたのは、恐らくエリよりも私でした。

 私はずっと、エリと付き合えた事に浮かれっぱなしで、そもそも藤本がエリに気があった事など、スッカリ忘れていたのでした・・・・。




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