表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
39/85

19 「傷だらけの体育祭」

 それは私たちが主役を務めた文化祭(※「舞台!」 参照)の少し前のこと。

 姫様との冷戦(※「祭囃子」 参照)も収まって、ようやくいつも通りの日常が戻ったころに、いよいよ二学期最初のイベントである体育祭が始まります。



 「どう!? なかなかのものでしょ!?」


 「ネジ飛び姫」様は、今度の体育祭で「女子応援団」をやる事になり・・・、すったもんだの末に、私の入学当初のガクランを着て、笑顔で応援団のポーズを取っています。


 「う~ん・・・・。

 まあ、ドカンと中ランよりかはマシか・・・。 でもまだチンチクリンだな・・・。」


 「うるさいわね! ちょっと大きいぐらいが可愛いのよ!」


 「可愛い応援団って、アリなのか?・・・・。それにしても、鷲尾はホントに似合ってるよなあ・・・。エーちゃんから借りたのか? それ?」


 「そっそうだよ。 何? 何か文句あるの!?」


 「いや~、全然。 お前ら、あれから仲良いからなあ・・・。くっくっく。(※「幼なじみ」参照)それにしても、お前、格好いいな。 そのまんま俺らと歩いても違和感ねえぞ。」


 ― スザッシュ!


 「うおっ! 危ねえ!!! 何て蹴りだしやがる! 当たったらシャレにならねえぞ!」


 「下らない事ばっか言ってるからだろ! 今度はホントにあてるから。っていうか、その喉を潰してあげる。」


 「いっいや、怖いから!(そういや、鷲尾をからかうと命がけになるんだった・・・。気を付けよう・・・・。)」





 私達は、目前に迫った体育祭の準備に追われていました。

 準備に追われて・・・と言いましても、この頃の体育祭では定番である、男子は「組み体操」、女子は「ダンス」をそれぞれが練習し、その他に、エリ達の様な特殊な仕事があるものは、その練習をするようなぐらいで、その後にある文化祭などに比べれば、実にノンビリとしたものでした。



 そして体育祭当日の事・・・。


 「よう、応援団。 準備はバッチリか?」


 「当たり前でしょ! 私が応援するんだから、あんたもちゃんと活躍して貢献しなさいよね。」


 「はいはい・・・。」


 そんな具合に、私がエリと無駄話をしていると・・・・


 「ああ、渡辺くんに成海さん!」


 「吉川先輩! ちわっす!」


 聞き覚えのある声に振り返ると・・・、そこには委員会で二つ上の吉川先輩の姿がありました。


 「渡辺くんも紅組なんでしょ? 頑張ってよねー、応援しちゃうから!」


 「うっす!」


 「活躍したら、お姉さんご褒美あげちゃうよ! 何がいい!?」


 「えっ! マジですか!!!」


 「あははは! 変なことはダメだよー!」


 「いっいや、そんなこと全然・・・そんなに考えてないっすよ!」


 「・・・。」


 「あー・・・、成海さんも応援団? 頑張ってね!」


 「はい・・・、頑張ります。」


 姫様の機嫌が見るからに悪くなったせいなのか・・・。

 話のきりが良いところで、吉川先輩はそそくさと去っていくのでした。


 「前から思ってたんだけどさ、吉川先輩って、あんたのこと気に入ってんの?」


 「いやあ、そんなことないだろ? あの人、愛想が良いからなー。みんなにあんな感じなんじゃねえの? たぶん。」


 「私、あの人あんまり好きじゃない・・・。」


 「(えー、吉川先輩って嫌われるタイプに見えないんだけどな・・・。こいつ、めんどくさいなあ・・・。)まっまあ、お前が誰が好きで嫌いとか、わりとどうでも良いけどさ。せめて先輩なんだから、さっきみたいな態度はどうかと思うぞ。」


 「・・・・。」


 ― グシャ!


 「ぐあああああ!!!!!! いっいてえぇぇぇぇ!!!! 何しやがる、このアホ女!!!!」


 「あら、ごめんあそばせ!」


 私の左足甲を思いっきり踏んづけたエリは、そう言いながら真顔で去っていくのでした・・・。


 『ごめんあそばせって・・・、どこのマダムだ、お前は!

 あのヤロウ・・・、まったく手加減無しかよ。やべえなこれ・・・、折れたんじゃねえか? それにしても、本当に相変わらず訳が分からねえ・・・。 何なんだ? 一体・・・。』




 そして、体育祭は開会式を迎え、つつがなく進行していきます。

 その間、私の左足は尋常じゃない痛みを覚えつつ・・・、まあ、何とかなるだろうと、楽観的に自分の出番を待っておりました。

 そして、いよいよ出番の「クラス対抗リレー」がやってきました。私は三番走者だったのですが・・・


 『やべえな・・・。走れんのか、これ・・・。』


 「渡辺、大丈夫か? 何だか顔が青いぞ?」


 そう、私の様子に気がついてくれたのは、アンカーの広瀬でした。


 「いや・・・、大丈夫だ、たぶん・・・。 ・・・とっとりあえず、ここだけは何とか乗りきろう・・・。」


 しかし、当然のようにそう上手く行く訳が無く・・・、私は何とか順位を一人抜かれただけで押さえたものの、いつものようには走れず、走る度に痛みは激しく増し・・・ついに最後の十メートルに至っては、足が前に出ない状態になりました・・・。


 「くそったれ!!!!」


 私は何とか飛び込んで広瀬にバトンを渡し・・・・、そのまま受け身も取れず、無惨にも転げ落ち、あちこち擦り剥いて、全身血だらけとなるのでした・・・。

 応援席のあちこちからは、笑いももれています・・・。


 『くっくそ・・・。 なんたる生き恥・・・。』


 「あれ~? お前、本番に弱いタイプだったっけ?」


 別のクラスで走っていた犬飼にからかわれながらも、私はいよいよ左足の尋常ならざる痛みに、脂汗をかいていました・・・。


 「ふんっ。 調子に乗ってるからよ。 いい気味だわ。」


 エリは、わざわざやってきたと思ったら、冷たい目で私を睨みながら・・・、それだけ吐き捨てて、サッサと自分の仕事に戻るのでした・・・。


 『何だ・・・アイツ。 っていうか、誰のせいだと思ってやがる、あのアホ女・・・。』




 その後はしばらく、私の出番は無かったお陰で、足の痛みのそこそこには回復し、私達は昼食を摂る事になりました。

 現在はそうでも無いらしいですが、私たちの頃は、中学生の体育祭に親が来るなんて事は皆無でして、昼食は一旦教室に戻ってクラスメイトととるのが普通でした。

 そんなわけで、昼食は例の如く、女子組が多めにおかずをこさえてくれまして、それに私達が家から持参した弁当を加えて、豪華なご馳走を取る事ができました。


 「渡辺・・・、大丈夫だった? リレーの時に、ものすごい転んでたけど・・・。 顔色も悪いし、何処か調子悪いの?」


 「いや、大丈夫だよ。 リョウコのご馳走食ったら、だいぶん元気になった。 ありがとう。」


 「リョウコ、そんなヤツ、ほっといて平気よ。 大方、鼻の下伸ばしてスッコロンだんでしょ。」


 流石にこのセリフには私もカチンときまして・・・。


 「お前なあ、何が気に入らないのかしらねえけど、いい加減にしろよ、コノヤロウ。 終いには、本気で怒るぞ!」


 それを聞いたエリは、無言で私を睨み付け・・・、そのままそっぽを向いて、結局、昼の時間は一度も目を合わさずにいました。


 そして、午後のプログラムに入り、男子の「騎馬戦」が始まります。

 そして、その準備のために、靴下と靴を脱いだところ・・・・


 「うわっ!!!! 渡辺、お前なんだその足!!!!」


 「うぎゃあ!!! なんじゃこりゃ!!!!」


 私の左足は見事なもので、赤紫色に変色し、右足の1.5倍ほどの大きさに腫れ上がっていました。これは痛いわけです・・・。


 「お前、それじゃ騎馬戦なんて無理だろ!? 保健室行くべ。」


 「いや、良い。 とりあえず騎馬戦だけは出てえ・・・。 これに出なきゃ体育祭に来た意味がねえ・・・。分かるだろ? エーちゃん・・・。」


 「いや、そりゃまあ・・・。 お前が良いなら、なんも言わんけど・・・。 しかし、それ、出来んのか?」


 「お前に見せてやんよ、バカヤロウ! 本当のでっけえ根性ってのをよ!!!」


 と、気合だけは充分乗っていた私ですが・・・・

 当然のように、痛みのせいで何が何だか分からなくなり、結局、みっともない倒れ方は辛うじてしなかったものの、たいして活躍も出来ずに、「男の華」の騎馬戦は終了となり・・・


 「せっ、先生! すいません、渡辺、ここでリタイヤさせてもらいます!・・・。」


 結局、私はその後の組み体操には参加せず・・・、エーちゃんに支えられながら、保健室に運ばれるのでした。


 「あらら~・・・。これはまた見事に腫れてるわねえ・・・。何したの?」


 「いや・・・、色んな意味で重たいものが足の上に落ちまして・・・。」


 「なに? 鉄板? とにかく、骨に異常があるかも知れないから、病院に行った方が良いわね・・・と言いたいところだけど、今日は日曜日だしねえ・・・。」


 「いえ、大丈夫です。 とりあえず今日は体育祭の残りも見学したいし、明日は振り替えなんで、明日にでも病院に行ってきます。」


 「そう? でも、あんまり無理して動かさない方が良いわよ。 とりあえず、湿布と氷出しとくから、それで冷やしておきなさい。」


 「どうも・・・、お手数お掛けします・・・。」


 「それじゃ渡辺、そろそろ組み体だから、俺戻るな。」


 「ああ、サンキュー。」


 エーちゃんが戻った後、先生の処置を待ちながらボーっとしていると、入れ違えるように、ヤツが入ってきました。


 「・・・・・。」


 「なんだ? 悪いけど、今お前と喧嘩する元気はねえぞ。 今度にしてくれ。」


 「別に・・・。 ただ気になったから。 それ、私のせいかなって・・・。」


 『いや、お前のせい以外の何物でもないけどな・・・。』


 そんなことを思いながらも、その表情を見て、私は充分でした。

 この不器用な姫様は、自分から謝るなんて事は大の苦手だと言う事を、私は良く理解していましたから、明らかに反省して後悔している様子を見て、私の怒りはスッカリおさまっていました。


 「お前のせいじゃねえよ。 リレーでスッコロンだ時に捻っただけだって。気にすんな。

 それより、お前もそろそろ出番じゃねえの? 次、女子のダンスだろ?」


 「大丈夫、すぐ戻るから・・・。」


 「そっか。 じゃあ、もう行けよ。 頑張りな。」


 そのまま、エリは無言でグラウンドに戻っていきました。


 『まったく、相変わらず何だか訳が分からんヤツけど・・・・、まあ、こっちからも歩み寄りは必要だな・・・。悪い奴じゃないんだから。』



 その後、体育祭はつつがなく終了し、私は負傷兵として後片付けも免除され、帰宅の時間となりました。


 「渡辺・・・。 送ってくよ。」


 そこには、すっかりシオらしくなった姫様が立っておりました。


 「そうか? そりゃ助かるな。 リョウコはどうした?」


 「用事があるからって、先に帰った・・・。」


 「そっか・・・。」


 その帰り道の事・・・。


 「・・・・・・・。」


 「・・・・・・・・。」


 「・・・ごめんなさい・・・。」


 これは私がエリから聞いた、初めてのハッキリした謝罪らしい謝罪でした。

 このひと言を言うには、余程の覚悟がいった事でしょう。それを考えると、私は無性に可笑しくて仕方がありませんでした。


 「なに笑ってんのよ!」


 「いや、あんまりにもお前らしくねえから・・・ ぷっ! まあ、気にするな。 何だか俺も、知らないうちにお前の事、怒らせてたみたいだし。」


 「・・・・。」


 「そうだなあ、悪いと思うんだったら、肩ぐらい貸してくれよ。 結構ずって歩くの、しんどいんだ。」


 「・・・・良いわよ、それぐらい。 どうぞ?」


 私は、言われるままにそっとエリの肩に手を廻してみると・・・、それは頼るにはあまりにもか細く華奢で、とても柔らかい肩であり・・・。

 コイツがとても「か弱い女子」なんだという事を、改めて私に意識させた瞬間でした・・・。


 「やっやっぱり良いや!!! 大丈夫、冗談だって! 全然大したことねえから!

 そっそうだ! それよりさ、俺腹減ったよ。 迷惑じゃなけりゃ、お前んちで何か食わしてくれよ!

 インスタントラーメンで良いからさ。 それならお前も作れるだろ? それと、帰りに自転車貸してくれ。 明日病院行った帰りにでも返すから。」


 それを聞いたエリは、ようやく笑顔を取り戻し、


 「良いわよ! とびっきりのラーメン作ってあげる!」


 「いや・・・、インスタントラーメンなんて、誰が作っても同じだろ?・・・」


 そう思いつつも、私はこの姫様の好意を、喜んで受け取る事にしました。


 エリの家でご馳走してもらったラーメンは、エリなりに精一杯頑張ったもので、玉子やネギ、キャベツやハムなどがふんだんに入った、要するにあの「パッケージ」の様な出来映えでした。

 私はそれを一生懸命作っただろう姿を想像しつつ、じっくりと味わうように食べ、私があまりにも美味そうに食っていたのか、エリもそれを見て、あのお人形さんの様な顔をほころばせて喜んでいました。


 ちなみに、翌日病院で診察して貰った私の足の怪我は、骨に異常なく、腫れも一週間ほどですっかりひきました。


 と同時に、私は自分の中で始まってしまった「恋するキモチ」が、想像以上に大きく腫れ上がっている事に、少々の戸惑いを覚えるのでした・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ