06 「ダンスパートナー/しおり」
〈ダンスパートナー〉
中学生の想い出の行事と言えば、多くは「修学旅行」が占めると思いますが、その中学最大の修学旅行と同じぐらい大きなイベントが、「林間学校」では無いでしょうか。
林間学校は学校ごとに、二年だったり一年だったりと、時期も誤差がありますし、林間学校の代わりに「臨海学校」だったり、あるいはその両方だったりと、バラツキはありますが、やはりクラスメイトと、共に同じ釜の飯を食らい、同じく枕を並べて夜を共にする体験は、何やら特別なものがある様に思います。
そして、私達も例外ではなく、この林間学校へは、結構な楽しみを持って挑んだ訳ですが・・・。
その前に起こった、ちょっとした出来事を・・・。
それは、私達がネジ飛び姫と出会って、一年目の一学期の事・・・。
この頃ぐらいから私達は、姫様の強引な結束力によって、一糸乱れる連帯行動を強要・・・ではなく、自主的に取るようになっていました。 と言って、四六時中一緒にいる訳ではなく、例えば昼休みの弁当の時間などは、男女がそれぞれ、仲の良い者同士で集まって食べる事がほとんどでした。
もっとも、中にはちゃっかりと、いつも女子と一緒に飯を食うものもおりまして・・・。
「おい、見てみろよ。 藤本の野郎・・・。 また石崎と成海の三人で飯食ってるぞ。」
「あれ、ホントだ! アイツ、ちゃっかりしてやがるなあ・・・。」
「っていうかさ。 成海が他の男と仲良くしてんのに、お前、何ともないの!?」
「いやいやいや・・・、犬飼くん。なんで俺がアイツの事が気になってる前提で話してんの?(むしろ、リョウコと藤本が一緒に飯食ってる方が、最重要問題だろうがよ!)」
「しかし藤本ってすげえなあ。普通は恥ずかしくって、あんなに堂々とできねえよな。」
「女ったらしなだけだろ! ホント嫌いだ、あいつ!」
「まあ、あれじゃあ男から嫌われるわな。 いまいましい!」
「犬飼も渡辺も、そんなに一緒に食いてえなら、アイツらに頼めば良いじゃねえか。 成海達なら、嫌って言わねえだろ。」
「やなこった! エーちゃんだって分かるだろうよ! あいつに借り作ったら絶対にろくな事にならねえよ!」
そんな具合に、たま~に男女で飯を食っているヤツが居たりしますと、それに対して周りから、嫉妬とも恨み節とも取れる呻き声が響き渡るのでした・・・。
ただ、それじゃあ私達も男女混同の飯に無縁なのかと言えば、そんな事はなく。
そこはそれ、我らが最強女神のリョウコさんが・・・・。
「今日はお料理の試作品作ったの。 良かったらみんなで試してくれる?」
などという、素敵なお言葉を掛けてくれますもので、私達も週に何度かは、この最強女神様を囲んだ楽しい食事にありつけるのでした~。やほぅー!
「いい!? あんた達。ただ食べれば良いってもんじゃないんだからね! ちゃんとリョウコのためになる様に、感想を述べなさいよ!! 特に渡辺! ちょっとは貢献しなさいよね、この馬鹿!」
『コイツさえ居なければ・・・・。あ~あ・・・。』
さて、そんな私達の食事風景をお分かりいただけたところで、そんなある日の「楽しい昼食」の最中の出来事だったのですが・・・。
「今日は多めに作って来たから、一杯食べてね。 特に渡辺には、この間迷惑掛けちゃったから、お詫びのしるしに。 あはは。」
「そんなの気にする事ねえって! この料理でお釣りが来るよ!」
「ホントよ! リョウコがそこまで気にしなくたって良いんだから!」
「お前が言うな! (っていうか、結局時計の件、謝らなかったな、お前・・・。)」
「いやあ、なんか俺まで悪いなあ! いっただきます~!」
「誰だっけ、あんた。ああ、そうそう、犬飼だったっけ!? あんたはオマケなんだから、遠慮して食べなさいよ!」
『たまには良い事言った! っていうか、お前クラス違うじゃねえか!』
「エリ、そんな事言わないの! 犬飼くんも、遠慮しないでね。」
「ムスッ・・・。」
『ムスッ・・・。』
「そっそうか!? それじゃ、遠慮無く!」
「少しは遠慮しろ、コノヤロウ! ああ、そういや、今度の林間学校は、バンガローに泊まるらしいな。班事に。」
「へえ~、バンガローなんて素敵だね~。 星空とか見えるかな?」
「えーっ、でも、虫がいっぱいいそうだね・・・。」
「シズカは虫が苦手なの? じゃあ俺が虫よけ持って行ってあげるよ。」
「バッカ藤本! 虫が多いって事はお前、カブトムシだって捕れるんだぞ!」
『っていうか、お前は当たり前のように居るんだ、藤本・・・。 見ろ犬飼の顔。お前を虫みたいに見てるぞ。』
「あはは! じゃあエーちゃん、カブトムシ捕れたら、あたしに見せてよ!」
「そんなもん、お前がどうすんだよ。まさか鷲尾、食うのか?」
「食うわけ無いだろ!」
― ボキッ!
「ぐえっ!!!! なっなんか今変な音したんですけど・・・。 じょっ冗談ですよ、鷲尾さん・・・。(この馬鹿力め!)」
「でもバンガローなら、色々便利かもね~・・。」
『うわ~・・・。またコイツろくな事考えてねえよ・・・。 関わらない様にしよ・・・。』
そんな具合に、食事中の話題は近々行われる「林間学校」一色となり・・・。
「そういや、先輩に聞いたんだけどさ。 林間学校の名物は、キャンプファイヤーの時に行われるチークダンスなんだってよ。」
「へ~。犬飼、チークダンスってどんなのだ?」
「アレだろ? 男女がこう、密着して踊るヤツ。」
「(なに!?)いっ犬飼! それ、どういう感じで踊るんだよ!? 組み合わせとか!」
「やっぱりペアなんじゃねえかな。」
「(なに~っ! そんなもん、踊りたい相手は一人しか居ないだろ! 今のうちからコナ掛けておかねえと!!!)そっそうか~。 じゃ、りょ・・・」
「じゃあ、俺は石崎と一緒が良いな! どうかな、石崎!?」
『なっ! 犬飼め!!!! ヘタレのくせに!!!!』
「えっ!? あっ、 う~ん・・・。 あはは・・・。 でも犬飼くん、クラス違うから、無理じゃないかな?・・・。」
「ば~か! あんたがリョウコと踊るなんて、百万年早いわよ!」
『くそっ! さり気なく誘うつもりが! タイミング完全に逃した! 犬飼め!』
「なっなんだと! 成海なんて、誰もペアになってくれる男いねえだろが!」
「なっなんですって!!! そんなのあんたに関係無いでしょうよ、この馬鹿!!!」
「(いや、それは正しい。いくら顔が良くてもこの性格じゃあな・・・。 少なくても、このクラスには誰もいねえよ。
あれ、ちょっと待てよ。ここはひとつ、からかってやるか。くっくっく・・・。
日頃の恨みだ、コノヤロウ・・・。)
よし、じゃあエリは俺がペアになってやるよ。」
「えっ!?」
「別に、俺だって良いだろ? 特に相手居ないんなら。」
「えっ!? あっ、うっうん・・・。 別にあんたがそこまで言うなら・・・。」
「(あれ、最初は断られると思ったのに・・・意外だな。ふふふ、しめしめ・・・。)
ぶわぁ~か!!! 冗談に決まってんだろ~!? だ~れがお前なんかと!!! ケケケケ!!!」
「なっ!!!」
― ゴチンッ!
「ぐえっ!!!! 痛ってえ!!! こっこいつ、牛乳瓶で思いっきり殴りやがった! 下手したら死ぬぞ、このアホ女!!!」
「お前なんか死んじゃえ! 馬鹿!!!!!!」
そう捨てゼリフを残すと、まるでオリンピック選手のような勢いで、エリは教室を走って去っていくのでした・・・。
「エリ!!!」
「あれ、何だアイツ・・・、本気で怒ってやんの・・・。 イテテ、コブ出来たな・・・。」
「渡辺!!! 今のは最低だよ!!!!」
そう言って勢いよく机を叩いて私の前に立ちはだかったのは、今まで見た事のない様な、怒りの表情を浮かべたリョウコの姿でした。
姫様が理不尽に怒り出すのはいつもの事でしたので、男連中は笑いながらみておりましたが、リョウコが真剣に怒る所など見た事が無く・・・。流石にお調子者の犬飼も、この時ばかりは凍り付いておりました・・・。
「あ、いや・・・。 そんなに怒るとは思ってなくて・・・。」
「エリが怒るのは当たり前だよ! 反省しなさいな!」
「はっはい・・・。 ごめんなさい、すいませんでした・・・。」
「私に謝っても仕方ないでしょ!!! エリに謝って、連れ戻して来て! 早く!!!」
「えっ、あっ、はい!!! (リョウコって、怒ると怖いんだな・・・。 これからは怒らせない様に気をつけよう・・・。)」
と言う訳で、私はリョウコの言いつけの通りに教室を出た訳ですが・・・、もう向かう所は決まっていました。
この頃になりますと、姫様の行動パターンも大体分かる様になりまして・・・。
「おい、何怒ってんだよ。 ちょっとした冗談だろ?」
「うるさい! こっちくんな!」
「いっいや、だからアレはホラ! ホントにそう思ったんだけど、お前があんまりアッサリとOKしたから、ちょっと恥ずかしくなってさ! お前だって嫌だろ~? 変に誤解されんの!」
「・・・。」
「いや、俺はアレだよ、ホント踊ろうと思ってたんだよ。どうせ、俺も相手いねえだろうし、お前もいねえだろ?
なんていうか、ホラ、俺たち学級委員だしさ。結構、息も合ってるんじゃないかなあって思って・・・。
(思ってもいない事が、次から次へと出てくる・・・。 俺って、結構口が上手いのかもしれないなあ・・・。)」
「ばーか! 誰があんたとなんか踊るか!!!!」
「あっ、そうですか・・・。 まあいいや。 とりあえず、怒らせたみたいだから、それだけは謝っておくわ。 悪かった、ごめん。 だから、教室帰るべ。」
「まあ・・・、あんたがそんなに踊って欲しいなら、踊ってあげても良いよ。」
「えっ?(なんか、この高飛車な態度がムカツクな。なんなのお前、何様!? しかし、このままコイツ連れて帰らねえと、リョウコに怒られるだろうな・・・。ここは・・・我慢、我慢・・・。)
そんじゃ、是非お願いしますよ・・・。」
「そう! あんたがそこまで言うんなら、仕方ないから踊ってあげる! どうせあんたなんか、誰も相手見つからないでしょ? あはは!」
『俺が牛乳瓶で殴りてえ!!!』
それから数日後の事・・・。
「そう言えばさ、この間のキャンプファイアーのダンスだけどさ。」
「ああ、あれか。 なんか分かったのか? 鷲尾。」
「あれって、ペアじゃなくて、円になって順繰り順繰り、みんなで踊るらしいよ。」
「なっなに!? じゃ、じゃあ俺は牛乳瓶で殴られ損じゃねえか!」
「あはは、知らないのよ、そんなの! あれはあんたがどう考えても悪いんだから、自業自得だろ!? あはは! 馬鹿だねえ!」
『ちっ違う! 元はと言えば、こんな根も葉もないウワサ話を最もらしく語った野郎のせいだ! くそっ!犬飼め!!!』
さて、そんなチョットした騒動も起こりながら、いよいよ「林間学校」を迎える事になるのですが・・・。
そのお話は、またの機会に・・・。
〈しおり〉
それは、私達がネジ飛び姫と出会って、一年目の事・・・。
例のダンスパートナーの件で、私の頭を姫様に牛乳瓶でかち割られて直ぐの事でした。
「と言う訳で、お願いね。 あなた達の他に二人~三人手伝う人を見つけてちょうだい。」
「はっはあ・・・。(なんと面倒な・・・。)」
その日、私達「学級委員」コンビは、とある特命を授かるため、先生からの呼び出しを受け、職員室にやってきていました。
『それにしても、職員室ってのは何度来ても慣れねえなあ・・・。 別に今は後ろめたい事ねえはずだけどなあ・・・。』
「はい、これがその原案ね。 これに基づいて、後はあなた達で考えて頂戴。」
「わかりました。 期限が迫ってるので、急いでやります。 失礼しました~。」
『おうおう、こう言う時は優等生だな、コイツ。 くそっ、しばらく帰りが遅くなるな、こりゃ・・・。』
その特命とは、この度、私達の学年で行う事になりました「林間学校」の、その旅の「しおり」を作成する事でした。
しかし、私自身が感じた事ですが、こんなものはプリント一枚と口頭連絡があれば済む話でして、わざわざご大層な「しおり」なんていう小冊子なぞを作るのは、まったく資源と労力の無駄としか思えない事でした。
いや、当時の私が思った事ですけれど・・・。早い話、面倒くさい・・・。
「まずはメンバーを揃えなくちゃね。」
「お前、こんなつまんねえ事にやる気満々だな・・・。」
「はあ!? こんなに面白い事、他に無いじゃないの! 私達だけで本を作るようなものなのよ!? 出版よ、出版!」
「出版って、また大袈裟な・・・。 ただの旅のしおりだろうが。 しかも小学生でもねえんだから、誰もまともに読まねえぞ、きっと。」
「それをみんなに読んでもらう様に、面白おかしく創り上げるんじゃないの! ちょっとはやる気出しなさいよ、この馬鹿!」
「・・・。(面白おかしくとか言ってる時点で、確実にしおりを勘違いしてやがるよ・・・。 まあいっか。張り切ってるコイツに任せて、適当にダラダラしよう・・・。)」
そしてその放課後・・・。
私達は学校の一室を借りて、しおり作りに乗り出すのでした。 編集メンバーは、既に姫様が招集しており・・・。
『なるほどね・・・。 字の綺麗なリョウコと絵が得意な金丸・・・。それと編集要員に鷲尾か・・・。まあ、頭の良い鷲尾とリョウコがいれば安泰だな。
それに、エリと鷲尾は妙にウマが合うからなあ・・・。この二人の行動力があれば、あっと言う間に終わりそうだ・・・。文字は金丸も上手いしなあ。 あれ?
俺いらねえんじゃね? もうコッソリ帰っちゃおうかな・・・。』
「渡辺! 逃げたら殺すわよ!」
「なっ何だよ、いきなり! にっ逃げる訳ねえだろ!」
「ふん、どうだか・・・。」
『なに!? お前エスパーなの!?』
それから早速、私達はいわゆる「編集会議」的なものを開いた訳ですが・・・。
「後はこう言うのはどうかな!? こんな感じのやつ!」
「ああ、それならこうしたら良いんじゃない? こんな感じで・・・。」
「流石、タカコ! あったま良い~!」
と、だいたいは当初の予定通り、大まかなアイディアをエリがバシバシと提案し、それにリョウコや鷲尾達が肉付けをしていくという、この仲良しグループの連携が見事に機能されていく形で、細かな作業内容が次々と決まっていくのでした。
私はと言えば、それを只々、ボーっと眺めて居た訳ですが・・・。
「う~ん・・・、だいたいこんなもんかなあ・・・。」
―クルッ
「!!!!!」
―クルッ
「おっおい、エリ!!!!」
「えっ!? なっ何!?」
「なっなんだそれ、お前!!!」
「だっ、だから何!?」
「そっそれだよ、それ!」
「えっ!? これ!? 鉛筆がどうしたのよ?」
「今の「クルッ」ってやつ!!!」
「えっ? ああ、これ?」
―クルッ
「すっ凄げえ! 何それ、どうやってやんの!?」
「そんなん、あたしも出来るよ。 ほら。」
「おおっ!!!」
「あはは、何かと思ったら。私も出来るよ~? これでしょ?」
「ええっ!!! りょっリョウコまで!? まっまさか金丸も・・・。」
「出来るよ~、ほらほら。」
「なんですと!」
最近では、このいわゆる「ペン回し」は競技化までされているそうですが、この当時も一部の人間の癖として見る事が出来ました。つまり「貧乏揺すり」みたいなものなのですが・・・。
ちなみに私の感想ですが、どうもこのペン回しは頭の良いヤツが比較的やっている様な気がします。考えてみればそれは当然の話で、勉強をするヤツほどペンをしょっちゅう手にしている訳で、必然的に手持ち無沙汰になれば回したくもなるのでしょう。
なのに何故、姫様が得意だったかは納得のいかない所なのですが。
ちなみに私も見よう見まねで何度もチャレンジするのですが・・・。
「下手くそ。 あんたセンス無いわよ、絶対。 ダメダメよ、ダメダメ。」
と、たかがペン回し如きで姫様から「駄目人間」呼ばわりをされてしまった事が非常に悔しかったため、それ以来この件には一切触れる事が無くなりました。なので、未だに私はペン回しが出来ないのでした。
そんな訳で、私達は数日の間・・・、昼間の長い季節にもかかわらず、暗くなるまで編集作業に追われる事になりました・・・。
「ねえシズカ。ここは挿絵じゃないくて、四コマ漫画入れたいんだけど。」
「うん、書いてみる。」
「よっ四コマ漫画って、しおりにそんなもんいらねえだろ?・・・。」
「バカねえ! 読み飽きた所に刺激があれば、また続きを読みたくなるでしょ!?」
「へっへえ・・・。」
結局、この作業に私の入り込む隙間は無く・・・、私は只々、姫様や他のメンバーから頭ごなしに仰せつかった仕事を、淡々と大量にこなしていくのでした・・・。
『くそっ! そもそも男子が俺だけってのが失敗だった! エーちゃんにも声掛けときゃ良かった。ついつい、リョウコ達女子いっぱいでハーレム状態だ!なんて、アホな欲かいたせいで、肩身は狭いしエライ目にあった!』
そして、この編集作業も粗方終わり、いよいよ最終段階の製本作業に入ったある日の事・・・。
その時にはもう、外は見事な夕焼け空になっていました。
「うわあ、見て見て~。 表の夕焼けが凄い綺麗だよ~!」
「ホントだなあ・・・。リョウコに言われるまで、荒んだ心の俺は気がつかなかったよ・・・。」
「あはは、渡辺も本当にお疲れ様ー。」
「何言ってんのよ! あんたなんて言われた仕事してるだけなんだから、楽なもんでしょ!」
『くそっ、どうしてコイツは、こう腹の立つ言い方しか出来ねえんだ! いつか丸裸にしてやるからな!』
「でも、やっぱりあの煙突が邪魔だよねえ・・・。 アレがなかったら、もっと良い景色なのに。」
「そんな事言ってっと、バチ当たんぞ、鷲尾! 何れお前も、あそこで焼かれる事になるんだからよ・・・、イッヒッヒッヒ・・・ゴッ!!!」
「ぶっ飛ばすぞ、お前。 っていうかさあ、この高さから落ちたら、やっぱり人って死んじゃうのかな? ねえ、どう思う? 渡辺。 焼かれてみる?」
「わっ鷲尾さん・・・、順番逆、順番逆! 殴る前に言って! あとマジで怖いから、お前! その背中の手をどけて!」
私達の通っていた中学は、少し変わった環境にありました。学校の周囲は全て、墓場と畑で占められており、隣には寺まで建っている様な、そんな素敵な場所でした。
オマケに窓の鼻先には、大きな「火葬場」が建っておりました。なもので、風向きによっては火葬場の煙がこちら側まで飛んでくる事も多く・・・、場合によっては、夏場でも窓が開けられない事も多々あるのでした・・・。
「流石に夕方になると良い風ね~・・・。 涼しくて気持ち良い~。」
「エリ、そんなに力いっぱい深呼吸すると、火葬場の燃えカス吸い込んじまうぞ。」
「またそんな事言って! もう一回ぶっ飛ばすぞ!」
「わっ鷲尾さん、勘弁して・・・。 お前のシャレにならないぐらい痛てえから・・・。」
「別に良いじゃない、吸い込んだって・・・。 みんな死んだら同じ灰になるだけなんだから・・・。」
そう言いながら、エリは夕焼け空に浮かぶ煙突をボンヤリと眺めておりました・・・。
『何だコイツ・・・。らしくねえじゃねえか・・・。』
結局、その日はそれからしばらくして解散となり、しおりの完成は翌日のお預けとなりました。
その後、しおりは予定通り完成し・・・。
「ほおっ! 出来上がって見ると凄い立派だな! ホントに本みてえだ!」
「当然よ!」
「なんでお前が威張ってんだよ! 構成考えたのは鷲尾だし、文章と挿絵が立派なのは、リョウコと金丸の力じゃねえか・・・。」
「はあっ!? 編集長の私が居なきゃ、こんなに立派に出来る訳無いでしょ!!!」
『まあ、たしかにコイツのアイディアと指揮力が凄かったから、こんなに立派になったんだけどな・・・。 調子に乗るから、黙ってよう・・・。』
それからしばらくして、私達はいよいよ、林間学校へと旅立つのでした。
今にして思えば、この林間学校は私にとって正直それほど印象の無かった行事なのですが、エリにとっては大事な想い出のひとつだったのでしょう。
私がそれを知ったのは、ずいぶんと後の事になります。




