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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
37/85

44 「ラブレター大作戦! 後編」

 前回、なんとか姫様の追求を振り切り、男と男の約束を守った私でしたが、いよいよ、その目的の第一段階を始動させる日がやってきました。

 そして、その土曜日の放課後の事・・・。


 「渡辺、やっぱり途中まで送ってくよ。」


 「あっああ、いや、今日はそのまま犬飼のうちに行くから、大丈夫だよ。エーちゃんも居るし・・・。 ありがとな。」


 「ふ~ん、あっそ!・・・。 じゃあね~、兼末。 いこ、リョウコ! い~だ! ば~か!ふんっ!」


 「あはは・・・。 じゃあね、渡辺、兼末。 またね~。」


 「・・・。 リョウコ達も気を付けてな・・・。」


 「大丈夫なんか? あれ、相当怒ってんぞ?」


 「大丈夫なもんか! くそ、犬飼のヤロウ・・・。面倒な頼み事持ってきやがって!・・・。」


 「いや~、悪い悪い、待たせたな! じゃあ行くか・・・って、どした、渡辺? 顔が般若みてえに怖いぞ?。」


 「でっけえお世話だ、コノヤロウ! さあ、サッサと行って、とっとと済ませんぞ!」


 という訳で、犬飼邸に移動した私達でしたが、まあ、毎度毎度、恒例の如く・・・。


 「ああっ! ユキちゃん! どうして最近来てくれなかったの!? 今日はいっぱい遊んでくれるんでしょ? あれ!? 足どうしたの? 怪我したの? 痛いの?」


 「あ、ああ、ヤスコちゃん、ずっと来られなくてゴメンね・・・。後で遊んであげるからね・・・。(犬飼、何とかしろ!・・・。)」


 「ほら、ヤスコ! 今日はお兄ちゃん達忙しいんだから、あっち行ってろ!」


 『流石に自分の事だと、妹も二の次になるんだな・・・。』



 早速、二階の部屋へ厳重に立てこもり、秘密兵器の作成に取り掛かる訳ですが・・・。。


 「さて、何から始めりゃ良いのかな?・・・。」


 「う~ん、まずは適当に書いてみろよ、お前の気持ちを。」


 「書けっていったって、何書けば良いんかなあ?」


 「やっぱり、大石の事がどうして好きになったかとか、どれぐらい好きかとか、色々あんだろ?」


 「う~ん、つってもなあ。 俺、大石の事、顔が可愛いぐらいしか知らねえんだよな~。」


 「お前、最悪だな・・・。エリに相談しなくて良かったよ。この場にいたら、お前、ぶっ飛ばされてるぞ。」


 「なっなんだよ! 別に良いだろ、そう言う事がキッカケだって! そこから愛がはぐくまれて行くんだよ!」


 「愛って・・・、良く言ってて恥ずかしくねえな、お前・・・。」


 「まあ、いいや・・・。 んじゃ、その愛をはぐくむ所とか、何か具体的に書いてみろよ。 これこれこうしたいとか。」


 「分かった、書いてみる。」


 ~ それから数分後 ~


 「って、こんなもん渡せるかボケ!!!!!」


 『初めまして。大石さん、僕は一目会ったときからアナタにゾッコンです。もう、直ぐにでもキミに○○したい。どうか僕と付き合って下さい。そして○○を××・・・・・』


 「って、どんだけ欲望丸出しなんだよ!? これじゃスポーツ新聞のエロ小説以下じゃねえか!!! やる気あんのか、お前!!! ねえなら帰るぞ、コノヤロウ!!!」


 「なんだよ~! だって、お前が愛をはぐくむ方法を書けって言ったんじゃねえかよ~!」


 「駄目だ、頭痛くなってきた・・・。 エーちゃん、タッチ・・・。」


 「ええっ! 俺!? う~ん・・・。 犬飼、なんかこう、心に響く様な告白文書けよ。 ああ、そうだ! 例えば石崎に出すつもりで書いてみたら?」


 「って、何てアドバイス出してんだ! お前も!!!」


 「ああ、それなら書けそうな気がする!」


 「犬飼・・・。 もう大石に告白するの辞めろ・・・。 絶対上手くいかねえって・・・。」


 ~ それから更に数分後 ~


 「おお~、なんか全然まともに書けてんじゃんか!」


 「いや~、石崎に出すつもりで書いたからさ~、緊張したよ~。」


 「ってかさ。お前それなら石崎に告白すれば良いのに・・・。」


 「ばっか、そんなのフラれるに決まってんじゃんか! 俺は負ける勝負は挑まねえ主義なんだよ。」


 『大石・・・。ラブレター貰ったら、読まずに捨てて良いぞ・・・っていうか、むしろ殺して良いから。』


 「それにしても、五枚は長げえな・・・。なんか、読んでるとかったるくならねえか?」


 「そりゃ、エーちゃんだからじゃねえの? 普通は大丈夫だろ、それぐらい?」


 「ああ、そうか・・・って、ぶっ殺すぞ、この野郎!!!」


 「う~ん、やっぱり五枚は長げえな。 何が言いたいのか分かりづらいし。 俺が・・・じゃなくて、俺の知り合いが後輩の女子から貰ったラブレターは、一枚で簡潔に書いてあって、好印象・・・だったらしいぞ。」


 「へえ・・・。 で、結局、その子はどうなったんだ?」


 「・・・・。 いや、結局駄目だったみたいだけど・・・。」


 「なんだよそれ・・・。参考になんねえじゃん・・・。」


 「まっまあ、とりあえずこれは第一案として、第二案で、一枚のも書いてみろよ。」


 ~ それからそれから、更に数分後 ~


 「おうおう、なかなか良いじゃねえか。後はここをこういう風にして・・・」


 「いやいや、ここはこっちの方が・・・」


 「なるほどなるほど、じゃあ、こっちはこうして・・・」


 「まてまて、ここはこうの方が良い感じだろう・・・」


 などと、ラブレターから縁遠い男子三人が、分かった様なフリをして一枚のラブレターを、しかし丹念に仕上げて行くのでした。

 そのお陰で・・・。


 「よっしゃ、出来た!!! 二人ともサンキュー!!!」


 「でもよ、やっぱり俺らだけで書いた内容じゃ、どうも不安じゃねえか?・・・。」


 「ああ、それなら俺に考えがある。 その手紙と同じ文面を、名前を抜いてもう一枚書いてみろよ。俺が頼りになる人に見せて、採点と修正してもらってくるから。」


 「えっ? 誰だよ、それ? まさか・・・、成海じゃねえだろうな・・・。」


 「そんなややこしい事、こっちがゴメンだ・・・。 安心しろ、頼りになって口が堅い人だから。

 念のため、お前の字じゃない方が良いな。 俺が写そう。お前が書いた事がバレない方が良いからな。 俺が書いた事なら、バレても問題ないだろうし。(ついでだから、相手の名前はリョウコにしよう。どうせ相談するのがリョウコだから、本人の反応も見れるしな。)」




 という訳で、その翌日・・・。

 私はエリの家に寄る前に、コッソリとリョウコを電話で呼び出し・・・、近くの公園で待ち合わせるのでした。


 「いや、すまんね、リョウコ。 エリには見つからなかったか?」


 「大丈夫だけど、どうしたの? エリの事で、何かあったの?」


 「いや・・・、そうじゃねえんだ・・・。実は見て貰いたいものがあってさ。 これなんだけど・・・。」


 「・・・・。 手紙?」


 「すまんけど、読んでくれるかな? 感じた事を教えて欲しいんだ。」


 「・・・・・。」


 リョウコはその手紙を開くと、予想以上の真剣な表情で読み始めました。


 「どっどうだ?」


 「・・・・。」


 「りょっリョウコ?・・・。」


 「・・・・。 渡辺・・・。 これは、何の冗談かな?・・・。 いまさら、こんな手紙、どういうつもりかな?」


 「(こわっ!!!)えっ!? いや、ちっ違う、りょっリョウコ、落ち着いてくれって!」


 「何が違うのかな・・・。 これ、渡辺の字だよね? 自分で書いたんでしょ? どういうつもりか、説明してくれる? そうじゃなきゃ、私、渡辺の事、軽蔑するよ? エリに対しても、私に対しても酷いことしてるって、わかってるかな?」


 「(こわっ!!! ホントこわっ!!!)いっいや、そのラブレターは犬飼のでさ! 実はこういう訳が・・・。」


 リョウコの迫力に負けた私は、本来は秘密にするはずの一連の出来事を、ペラペラと白状してしまうのでした・・・。


 「な~んだ・・・。 私はてっきり、渡辺がエリの事を裏切るつもりかと思ったよ・・・。 あははは・・・。」


 「いえ、そんな恐ろしい事は絶対にしませんって・・・。(エリ以外にも、怖い人がいるんだから・・・。)それより、どうかな、それ。 三人で一生懸命考えたんだけど、何せ男だけだからさ・・・。」


 「あはは! それで昨日、兼末と一緒に、犬飼くんの家に行ったの? 可愛いね、君たち。 あはは!」


 「いや、可愛いって・・・。 いくらリョウコに言われたからって、嬉しくねえよ・・・。」


 「あはは。 う~ん、私はとっても良い手紙だと思うよ。 でも、ここはこうした方が、もっと良いんじゃないかな? 例えば・・・」


 「ふんふん、なるほど・・・。」


 そんな感じで、リョウコの手直しを受けた手紙は、見違える様に素晴らしいものになっていました。


 「流石リョウコ! 相談して良かったよ。 これで犬飼も喜ぶぞきっと! サンキューな!」


 「どういたしまして。 でも、何でエリにナイショなの?」


 「いや、俺もナイショにするのは嫌なんだけど、犬飼のアホの、たっての希望なんだよ・・・。 だから、リョウコもみんなには内緒にしておいてくれよ。」


 「あはは、渡辺も辛いね。 だけど、あんまりエリに心配をかけないでね・・・。お願いね・・・。」


 「ああ、すまんね・・・。 これっきりにするよ・・・、ホント。」


 その言葉を聞いたリョウコは、ようやくいつもの様に爽やかな笑顔で、私に微笑んでくれました。


 『って、あれ? そう言えば、元々エリ達にナイショにするのって、リョウコに知られたくない為だったんだっけ・・・。すっかり忘れてた・・・。 って事は、もうナイショにする必要は無いわけだ・・・。 あらら、やっちまったよ。俺って結構口軽かったんだなあ・・・。といって、リョウコのあんな恐ろしい顔見たら、誰だって口を割ると思うけど・・・。

 しかし、リョウコに贈る気持ちで書いた手紙を、リョウコに修正してもらってるなんて知ったら、複雑だろうなあ・・・。まあ、これは天罰だけどな!。くっくっく!』



 そして、週明けの月曜日の事!


 「おお~!!! なんか全然見違えた内容になってるじゃねえか! これ、俺が女ならイチコロで惚れてるよ!!!! 渡辺、サンキューな! 感謝感激だよ!!!」


 「いや・・・、気にしないでくれ・・・。(なんか、感謝されると、心が痛む・・・。)」

 

 「さてと・・・。問題は、どうやって渡すかだな・・・。」


 「えっ? お前、自分で渡すつもりじゃ無かったのか?」


 「まさか! そんな恥ずかしい事出来る訳ねえだろ!」


 『俺以上のヘタレだな・・・、コイツ。』


 この当時、私達の学校の下駄箱には扉は付いておらず、開けっ放し状態でした。ので、古典的に、下駄箱にラブレター・・・等という技は使えず・・・。


 「何か良い方法ねえか? 渡辺・・・。」


 「そんなすがる様な目で見られてもなあ・・・。 仕方ねえ・・・、ここはマリモちゃんに頼むか・・・。」


 「誰、それ?」


 このマリモちゃんという女子は、本名を春日居マリと申しまして、ちょっと独特のキャラクターなのですが、大変頼りになる女子でした。そのせいか、女子だけでなく、男子からも女友達として大変人気があり、現在も大石とは同じクラスに在籍しております。


 という訳で、私達は早速、マリモちゃんを呼び出して、事の次第を説明し、協力を仰ぎます。


 「という訳でさ、ひと肌脱いでくれねえかな?」


 「う~ん、わかった。 ちょっと面白そうだから、協力するよ~!」


 「いやあ、有り難う! マリモちゃん!」


 「あはは・・・、馴れ馴れしいね、あんた。」


 「ははは・・・。 結構キツイ子だな・・・(コソコソ)」


 「まあ、ちょっと変わってるんだよ。でも頼りになるぞ。(コソコソ)」



 そして、その数日後・・・。


 「渡辺く~ん、あの子が呼んでるよ~?」


 「ん? げっ! 大石!!! あ、ありがとう」


 そこには、教室の入り口で、嬉しそうな顔で手招きをする、大石の姿がありました・・・。


 『あ~あ・・・。マリモちゃん、ラブレターが俺経由って事、話しちまったのか・・・。まあ、仕方ねえか・・・。』


 私は、若干面倒な事になりそうだと考えながら、大石の元に向かおうとすると・・・。


 「あれ・・・、エリさん、どちらに?・・・。」


 「歩くの大変でしょ? 付き添ってあげる。」


 「いっいや、大丈夫だって! ホラ、ちゃんと歩けるから!」


 「・・・。 私が着いてくと、マズイ事でもあるわけ?・・・。」


 「(さっ殺気!)いや、全然、そんな事はありませんよ! (もう、どうにでもなれ・・・。)」


 「で、なんで大石がユキ呼んでんの?・・・。」


 「ああ、いっいったい何の用事だろうなあ~?・・・。 よっ、よう! 久しぶりだな、大石!」


 「渡辺~、ご無沙汰! あれ?エリちゃんも、こんにちは!って・・・、え~っと・・・」


 「ああ、コイツいま機嫌悪いんだ、気にしないでくっがふ!!!(モモチかよ!!! ※太股の側面を膝で蹴る事。物凄く痛い・・・)」


 「あっ、私はコイツの付き添いだから、気にしないで。」


 「ねえ、結局二人って付き合ってるの? やるねえ~、渡辺も!」


 「イテテ・・・・。 で、今日はどうした?」


 「どうしたじゃないわよ! あんたがマリモちゃんに渡したんでしょ、これ!」


 「げっ!」


 「何これ、ラブレター?・・・・。 どういう事?・・・。」


 「いっいや、そうじゃないから! 違うから!」


 「あはは、エリちゃん、心配しなくて良いよ。 これは犬飼って人から私宛に送られたものだから! でさ、その犬飼って、どの人なの!? なんか凄いステキな手紙だったから、気になって飛んで来ちゃったよ!」


 「後でちゃんと説明しなさいよ。 これ以上隠したら、ホントに殺すわよ・・・。(コソコソ)」


 「はい・・・。(コソコソ)おっ大石、ホラ、あそこにいるのが犬飼だよ・・・。」


 「どれどれ!?・・・・。 へえ~・・・。 って、ちょっとイメージと違うけど・・・、あ、でも良い人そうね~・・・。」


 「チャランポランで、いい加減なヤツだけどね。 おまけに、コイツと一緒でスケベだし。」


 「なっなんて事言うんだ、お前は!(コソコソ)」


 「ふん、いーだ! ホントの事じゃない、馬鹿!(コソコソ)」


 「あっ・・・そう・・。 ・・・渡辺~、悪いんだけどさ、この手紙、返しといてくれる? じゃあね~!」


 「あっ! ちょっと、大石!!!・・・・。あ~あ・・・、行っちゃったよ・・・。 どうすんだよ・・・、これ・・・。」


 「私は知らないわよ! だいたい、私に内緒でコソコソやってるからでしょ! 自業自得よ、馬鹿!」


 「あ~あ・・・。いくら犬飼って言っても、流石に気の毒だぞ・・・。 これ、渡すの辛いなあ・・・・。」


 「知るか、ばか!!!」


 そう言って、姫様は私を置き去りにして去っていくのでした・・・。


 『なんか、俺も辛い・・・。』



 そして、その日の放課後の事・・・。


 「犬飼、実はさ・・・。これ・・・。」


 「えっ!?・・・・。」


 「大石が返すって・・・。」


 「そっか・・・。駄目だったか・・・。」


 「いや、なんか、ホントすまん・・・。」


 「渡辺が謝る事ねえよ・・・。仕方ねえさ。 まあ良いよ、後三人ぐらい候補がいるからさ! 次行くべよ、次!」


 「・・・・。 犬飼・・・。」


 「ん? どうした?」


 「頼むから、一回殴らせろ!!!」


 「ええっ! なんで!?」


 結局、同じ文面を使い回してアタックした犬飼の「ラブレター大作戦」は、その全てが玉砕に終わり・・・、私は私で、この日機嫌が悪くなった姫様の事後処理に大変な労力を払う事になりました・・・。

 まさに大敗北の戦線は、痛み以外、何も生み出さなかったのでした・・・。




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