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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第二章
28/85

36 「タロット・タロット」

 それは、例の「野村事件」の真っ最中の事になります。

 もっとも、この時はまだ、この野村の訪問が、後々あれ程大騒ぎになるとは思ってもいなかったのですが・・・。


 ともかく、「野村事件」は置いておきまして、そんなある日の事。

 私達はいつもの様に姫様の家でタムロしていた時の事・・・。


 「何だ、その派手なトランプみたいなカードは? 新しいゲーム? 花札みたいなもんか?」


 「馬鹿、違うわよ。 これはタロットカードよ。占いに使うの。」


 『またコイツは・・・。 そんないかがわしいものを、一体どこから仕入れてくるんだ?・・・。』


 「早速みんなを占ってあげるわ。 う~ん・・・、まずはタカコと兼末の今後を占いましょう。」


 「なっ! 良いよ、そんなの! 俺たちは良いって!」


 「あんたは良くてもタカコは知りたいわよ。 ねえ?」


 鷲尾は無言でしたが、真剣な眼差しでエリを見つめますと、力強く頷くのでした。それをみて、エーちゃんも渋々納得しています。


 『災難だな・・・、エーちゃんも・・・。』


 そんな感じで、怪しさ満点の占い師、ネジ飛び姫様によるカード占いがスタートした訳ですが、私も何となく、この不思議なアイテムを使う占いに、少しだけ興味を持ち始めていました。


 「う~ん、二人の相性は抜群みたいよ。これからも兼末がタカコの言う事を良く聞けば、間違いなく幸せになれるわ。 兼末、あんたちゃんとタカコの事を大事にしないと駄目よ! あんたの人生、それにかかってるから。」


 『何だか大袈裟で意味深な上に、ずいぶん鷲尾の都合の良い様な結果だな、おい・・・。 結局、エーちゃんは鷲尾の尻に敷かれながら生きていけば一生安泰って事なのか・・・。 男として複雑だろ、そりゃあ・・・。』


 そんな事を考えながら、エーちゃんと鷲尾を見てみますと・・・、どうも占いの結果には満更でもなかった様で、エーちゃんは顔を真っ赤にしながらも、真剣に頷きながら、エリの話に聞き入るのでした。


 「ねえ、成海。 俺たちも占ってよ!」


 どうもエーちゃん達の結果で気になったのか、内山と金丸も身を乗り出してエリの占いを切望しています。


 「良いわよ!」



 そんな具合に、一通りの占いを終えた頃・・・。


 「次は渡辺、あんたを占ってあげる。」


 「ええっ!!! 俺も!? いや、俺は良いよ!」


 「いいからいいから。 あんたの今後の恋愛について、占ってあげる・・・。」


 「(っていうか、俺の恋愛をお前が占うって、何か変じゃね?)はあ・・・。じゃあ、お願いします・・・。」


 そして、エリによる占いが始まり・・・、気のせいか、今まで以上に真剣に占う姫様でしたが・・・。


 『何だか心なしか、不吉な絵柄のカードが何枚か出ている気がするのだが・・・、気のせいだろうか・・・。』


 「う~ん・・・。 何だか今日は気分が乗らないわね・・・。 やっぱり渡辺の占いは今度にしましょう。」


 「(なんじゃ、そりゃ! 逆に気になって仕方ねえじゃねえか!)何だ!? 何か悪い結果でも出たのか!? どんな結果でも気にしないから、バッサリと言ってくれよ。」


 「うるさいわね・・・。 とにかくまた今度って言ってるでしょ!」


 「・・・・。(何なんだ、いったい・・・。 気持ち悪りいな・・・。)」



 結局、姫様の訳の分からない、にわか占い師はそれで終了となり、我々は残りの時間を、いつもの様にワイワイと楽しく過ごす事になります。

 何とも釈然としない気持ちを残しつつ・・・。


 そして、その日もお開きになろうとした時の事・・・。


 「渡辺・・・。 みんなと帰るフリして、後でコッソリと戻ってきて・・・。(コソコソ)」


 「えっ! なっなんだ!? どうした!? 何かあったのか!?(コソコソ)」


 「良いから、戻ってきて。(コソコソ)」


 結局、何が何だか分からないまま、私は姫様の言う通り、みんなと解散した後に、コッソリとエリの元へ戻るのでした。


 「で・・・。いったいどうしたんだ?(うわぁ、なになに?、正直、ドキドキして心臓が止まるんだけど!)」


 私の言葉を聞くのと同じくして、エリは先ほどの占いカードを取り出すと、何枚かのカードを並べ始めます。 どうやら、先程占った私の結果を並べている様でした。


 「あんたの占いの結果、教えてあげる・・・。」


 「えっ!・・・。もしかして、俺を呼び戻した理由って、それだけ!?」


 「そうよ。 なんで?」


 「いや、別に・・・。 ああ、そうですか・・・。(まあ、そんなもんか・・・。)で、結局、何て出てんだ?」


 「・・・。 あんたの好きな人、居るでしょ?」


 「・・・。(なにこれ・・・。遠回しに何か言いてえのか?・・・。 それとも、まともに答えないと駄目なのか? 今ここで?)」


 「居るんでしょ!? ハッキリ言いなさいよ!」


 「(何だろう、すげえ睨んでる・・・。)はっはい、居ます・・・。 目の前に・・・。」


 正直、私はエリの真意を測りかねていました。いつも突拍子のない行動をとって、私達を慌てさせるヤツではありましたが・・・。

 ただ、少なくても、今回はあまり良い雰囲気ではない事は間違いのないようで・・・。


 「・・・。 あんた、その人の事をこれからもずっとずっと愛し続けなさいよ。 もし変な気を起こして浮気なんて考えたら・・・。」


 「かっ考えたら?・・・。」


 「あんた、間違いなく死ぬわよ!」


 『死んじゃうんだ!!! こわっ! ホントにこわっ! ・・・というか、何だこれ・・・。 これ占いなのか!? 何が言いたいんだ、コイツは・・・。 アレ? でも待てよ・・・。コイツがこんな事をわざわざ言うって事は、俺たち関係は満更でもないって考えてるのか? という事は、俺たち、もう「付き合ってます」って事で良いのかしら?・・・。 いずれ・・・、近いうちにハッキリと聞いてみよう。コイツの本当の気持ちを・・・。』


 「ちょっと、聞いてんの!?」


 「あっ、ああ。 聞いてる聞いてる。 ところでさ、話は変わるけど、その占いって難しいのか? 俺でも出来るかな?」


 「へえ・・・。 あんたが占いに興味持つなんて、珍しいわね・・・。」


 「いや、まあ、たまにはね・・・。(いろいろと、歩み寄って理解する事も必要だろうからな・・・。)」


 しかし、私のこの申し出は、思いのほか姫様には嬉しかった様でして、その後しばらくの間、私は延々と占いについての講釈を受けるハメになるのでした・・・。


 『しまった・・・。完全に「やぶ蛇」だった・・・。』


 そして、すっかりと遅くなってしまった、その帰り際の事。私は姫様から一冊の本を渡されます。


 「はい、これ。 あんた、意外とタロットのセンスあるかもしれないから、これあげるわ。 ちゃんと勉強するのよ。」


 「あ、そう・・・。 ありがとう・・・。 ところでさ・・・。」


 「なに?」


 「さっきの俺の占いの結果の事だけどさ・・・。」


 「・・・。」


 「俺もそのつもりだから。 そう思ってる。」


 「ふ~ん・・・。 そう・・・。」


 「そうだよ、本当に。 真剣にそう思ってるから・・・。」


 「馬鹿・・・。」



 それからしばらくして、例の「野村事件」が佳境を迎え、私が姫様から呼び出しを受ける事によって、この時の「占い結果」が何を意味し、姫様が何を言わんとしていたかを理解する事になった訳ですが・・・。


 そんな野村事件も、「一つの指輪」の偉大なる力により、円満無事な解決を見せる事になり、それから何日かして、私達は姫様宅にて、二年連続になる二度目の「合同誕生会」を開いていました。

 合同誕生会とは、要するに誕生日がわずか三日違いの私とエリを、まとめて祝ってしまおうという会でして、とは言え、やはりメインは女子である姫様であり、私は所謂「オマケ」の様なものでした。


 誕生会は、昨年と同様、リョウコたちの作った大変豪華な誕生ケーキのロウソク消しから始まり、今年は私とエリが同時にそれを噴いて消すという共同作業から始まりました。

 その後は、リョウコたち自慢のケーキやご馳走を味わいながら、私達は普段通りの他愛のない会話を楽しみ、その後はいよいよ、みんなでプレゼントを渡す事になりました。

 この時、私はしばらく前から作っていた手製の木製ブローチをエリに渡しました。これはエリと初めて行った小旅行で約束をしたもので、透かし彫りを施した、当時の私としては結構自信のあるものでした。エリも大変喜んでくれた事を思い出します。

 そして、エリから私に渡されたものは・・・


 「えっ!・・・。 エリさん、なんでしょう? この禍々しい本?・・・は・・・。」


 「あんた、この前タロットに興味あるって言ってたでしょ? それ、タロットカードのセットよ。 とっても詳しい本もついてるから、使って!」


 「・・・。 いや、あっありがとう・・・・。(えーっ、あんまり経験が無いから分からんけど・・・・、女の子から貰う誕生日プレゼントって、こんなもんなんだろうか・・・。いや、絶対に何かちがう気がする・・・。それにしても、やたら立派だな、これ・・・。いくらするんだ!? ・・・・。 うげっ!!!! 結構高けえじゃねえか!!! こんなもん買うんなら、料理の一つでも勉強して、手作りのものでも食わしてくれたら良いのに・・・。)」


 私は正直、この姫様のぶっ飛んだプレゼントに大変戸惑っていました。

 ですが、私の何気ないひと言をきちんと覚えていてくれて、若干勘違いがありますが、それでもわざわざこんなに凄いもの(なのか、正直わかりませんが・・・)を用意してくれた、その気持ちはとても嬉しく、それだけで、自然と嬉しい顔がなっていたようで、その様子を見た姫様も、大変満足そうに微笑むのでした。


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