12 「青春の大滑り台プール」 15 「真っ赤ちん大作戦!」
〈青春の大滑り台プール〉
夏休みに入ってしばらくした頃。
私達は毎度毎度の様に、姫様の思いつきによって、とある場所に招集させられておりました・・・。
「それにしても、プールなんて久しぶりだな・・・。」
「そうだなー。 昔は良くさ、エーちゃんとあのゴミ焼却場の温水プール行ってたよな。」
「そうそう、温水なのに夏行ってたな。 全然意味ねえんだよな、うははは!」
「それにしても、まさかこの年になって、女子と一緒にプールとは・・・。」
「何よ、なんか文句あんの?」
「いえ、別に・・・。(ぜ~んぜん、文句なんてありませんよ、エリさん。 お前なんざどうでも良いけど、何せリョウコと一緒にプールで遊べるんだからなあ。文句どころか、むしろ感謝してますって。)」
「うわぁ、結構混んでるね・・・。 クラスの他の子とかも来てるかな? ちょっと恥ずかしいね。 あはは・・・。」
そう言いながら、可憐に頬を染めるリョウコさん。
「まあまあ、エリのお守りみたいなもんだし、仕方ねえって!(コソコソ)」
「聞こえてるわよ、この馬鹿!!!」
「いででで!!! 耳引っ張んな、ちっちぎれる!ちぎれるって! このアホ女!!!」
そんな訳で、私達はいつものメンバーで、ここ地元の大型プールに遊びに来ていました。
なんでも、つい最近このプールには、巨大な滑り台が設置されたのだとか。
姫様曰く、地元民としては、これを一度体験しておかないのはハジになるんだそうで・・・。
それなら一人できやがれとも思ったのですが、まあ色々な男心と計算が働き、結果的には喜んで馳せ参じてしまうのでした・・・。
我ながら情けない・・・。
ところで、このプールは地方の施設にしては結構大型でして、駐車スペースだけでもかなりの広さを誇っておりました。
そのせいか、これよりも更に昔に催された、スーパーカーショーは、スーパーカーブームに乗ってやってきた一大イベントでして、カウンタックやらフェラーリ、ポルシェなどのスーパーカーがずらっと勢揃いしまして、子供心に目を輝かせたものです・・・。
ちなみに、その頃のブームは所謂「カー消しゴム」と呼ばれるもので、当時「ガチャガチャ」と呼ばれるカプセル式のオモチャの販売機で販売されていました。消しゴムが車の形をしている、小さなオモチャだったのですが、消しゴムとは名ばかりで、実際は柔らかいプラスチックゴムで出来ており、消しゴムを忘れた時にホントに字を消そうと頑張った事があるのですが、ノートが汚れるばっかりで、ちっとも字が消えませんでした・・・。
これを当時の男子はスーパーのビニール袋一杯に持っていて、机の端からボールペンの頭で弾いて距離を競うというような、今考えると何だか良く分からない様な遊びをしていたものです・・・。
さて、そんな大型プールにみんなで来た訳ですが、考えてみますと、いろいろと男子と女子の区別がハッキリとしてくるこの時期に、学校のプールですら別々なところを、やはりそういう時期に男女交えて・・・となりますと、それなりにテンションも高くなる訳でして・・・。
「リョウコ~、そりゃ~!」
「きゃっ! 冷たい! もう、渡辺~! やったわね!」
「うははは~! 悔しかったら捕まえてみな~!」
な~んて具合に、まるで青春ドラマの様なコッパズカシイ風景も、実に簡単に描けてしまうのでした。
もっとも、ここにいるのは二人だけでは無いのですが・・・。
「とりゃー!!!」
「ぐはっ! ドロップキック!? って、いきなり何しやがる、このアホ女!!!」
「うるさいわね! 何か気持ち悪いのよ、渡辺のくせに!」
「なっなんじゃそりゃ!!!(ていうか、なんだお前、空中殺法!? すげえな、もうレスラーにでもなっちゃえよ!)」
そんな事もあってか、うかつに変な行動も出来ず、私達は無難に、この施設で一番人気の「流れるプール」と呼ばれる、ドーナッツ状のプールで只々延々と流される事になりました・・・。
「おいエリ、俺にもちょっとボート乗せろよ!」
「嫌よ。 あんたはしっかりとへばり付いて、ボートがひっくり返らない様に見張ってなさいよ。」
「何たる高飛車な態度! 天罰が下るぞ、コノヤロウ!」
「ふん、私に天罰が下るんなら、まず真っ先にあんたが生け贄になるわよ、絶対!」
「いっ生け贄って、天罰と関係ねえじゃん・・・。(くそっ! なんで俺がこいつとペアなんだ・・・。 なんかもう面倒臭せえから、このままコイツ捨てて一人で泳ぐかな・・・。)
「なんか暑いわね・・・。 ちょっと渡辺、水掛けてくれる?」
『カッチーン!!! 何様だ、コノヤロウ!!! みてやがれ!!!』
「そんなに暑いなら、これでどうだ!!!」
―ザッブーン!!!!
「ぶふっふぁ~!!! なっ何すんのよ、この馬鹿!!!!」
「へんだっ! ザマアミロ、コノヤロウ!!! 天罰だ、天罰!!! あーばよ! って、早!!! なんなのお前!カッパなの!?」
「待てこら!!!」
「イテテ、髪の毛引っ張るな、抜ける抜ける!!! ぎゃあ~!!!噛みつきやがった!!! 狂犬病の犬か、お前は!!!」
「うるさい、この馬鹿! 渡辺のくせに、生意気なのよ!!!」
という具合に、時間はあっと言う間に過ぎ・・・、そろそろ昼飯でもという時間になった頃。
「そろそろお昼時だから、大滑り台も空いてるみたい! 今のうちに並んで滑りましょ! あれが一番の目的なんだから!」
「相変わらず、テンション高けえなあ・・・。 あー、お前ら行って来いよ。 俺はここの場所取りしてるから。」
「何言ってんのよ、あんたも行くに決まってんでしょ。」
「いや・・・、俺はいいや・・・。」
「はあ!? 何言ってんの、この馬鹿! 良いから早く来なさいよ!!!」
「いや、だから俺は良いんだって!」
「はは~ん・・・。 あんた、怖いんでしょ?」
「(ギクッ!)なっ何を言ってるんだい、エリさん! そっそんな事有る訳無いじゃないか!」
「じゃあ来なさいよ。 早く!」
『やっやべえ・・・。どうしよう・・・。 俺、高所恐怖症なのに・・・。』
そんな訳で私は何が悲しくてか、自分の最も嫌いな場所に向かうための列に、強制的に並ぶハメになるのでした・・・。
「あんた、逃げ出さない様に後ろから見張るから、私の直ぐ前に並びなさいな。」
「・・・。(いじめっこか、お前は!)」
そして、無常にも列は進んでいき・・・。
『うわあ・・・、結構高けえじゃねえか・・・。』
「なに、あんたもうビビってんの? ふふん。」
「ばっ馬鹿いっちゃいけねえよ! ワクワクしてんだよ、俺は!(ちっちびりそう・・・。 早く終わってくれ・・・。)」
そして、いよいよ私達の番が回って来た訳ですが、この時になって、この「大滑り台」のとんでもないシステムを知る事になります・・・。
「ハイ次の人! あっ、後ろの方はお連れさんですか?」
「えっ? 連れっていうか、はい、友達です・・・。」
「じゃ、二人一緒にお願いします。 はい、前の方、ここに座って! 後ろの方、前の人にピッタリくっついて下さい! しっかり前の人にくっついてないと危ないですから、下に到着するまで手を離さない様にして下さいね!」
「えっ!? あっ、はい!」
「ええっ!? ちょっと待った! こっこれはいくら何でもマズイだろ!」
「そんな事言ったって仕方無いでしょ! 直ぐ終わるんだから我慢しなさいよ! 私だって、凄く嫌なんだから!」
『いや、嫌とか良いとか言う以前に、その・・・。 微妙に当たってるんですけど・・・、背中に・・・。』
「ハイ、いってらっしゃい!」
という係員の合図で、私達の背中は無常にも押され、物凄い高さの滑り台を、グルグルと回転しながら、これまた物凄い勢いで滑って行くのでした!
「きゃああ!!!」
「ぎゃああ!!!(なんて叫んでみるけど、背中の物体が気になって気になって仕方ねえ!!! っていうか、エリ、あんまりピッタリくっつくな!!! 何かもう、おかしくなりそう~!!!)」
―どっぷ~ん!!!!
「ぷはぁ~! あははは! 面白かった~!!! 渡辺、どう? 意外と楽しかったでしょ!? ・・・。 渡辺・・・? どうかしたの?」
「いっいや、何でもねえ・・・。 気にしないで先行ってくれ・・・。」
「なに? どうしたのよ!? まさか腰抜けちゃったの!?」
「まっまあ・・・、そんなもんだ・・・。 とにかく、俺の事は気にすんなって・・・。」
「意外と情けないわね・・・。 しょうがないから、手貸してあげる。 ほら!」
「いやいやいや!!! ホント良いから!!! とっとにかく、いま近づくな! そんでもって、触るな!!!」
「なっ! 何それ! なんか頭に来る! せっかく心配してるのに、ば~か! イーだ!!! ふんっ!」
そう散々吐き捨てると・・・、姫様は滑り台下のプールから去っていきました・・・。
『いっ言えねえ・・・。 男の事情で立てませんなんて・・・。 しかも生理現象とはいえ、りょっリョウコなら兎も角、よりによってアイツで欲情してしまうとは・・・! 俺のアホ! 一生の不覚!!!』
こうして・・・、私は一人、ひたすら平常心を取り戻すため・・・、頭の中で、仏様の顔を思い描くのでした・・・・。
〈真っ赤ちん大作戦!〉
それは、夏休みのある日の事・・・。
この頃から無意味に増えていた姫様の呼び出しが、ついに大して理由もつかなくなった辺りの、そんなある日。
いつものように、姫様の家で暇を持て余していると・・・。
「そういや渡辺、今頃の時期じゃなかったっけ?」
「なにが?」
「ほれ、真っ赤ちん獲りに行ったのってさ。」
「なんだおい、エライ懐かしい話だな・・・。」
それは私達が小学生の頃の話で、この頃は何だか特に理由もなく、セミだとかカブトムシだとか、ドジョウだとか、タニシだとか、ゲンゴロウだとか・・・・っと言った具合に、別に食う訳でもないのに、生き物をアホみたいに沢山捕まえて遊ぶというのが、男の子の基本のようになっていました。
ちなみに、「真っ赤ちん」とは「アメリカザリガニ」の事で、日本特有のザリガニが、カワ海老に毛の生えたような貧弱さだったのに対して、この外来種の「真っ赤ちん」は迫力満点のロブスターの様な厳つさを持っており、そのせいか、当時は珍しかった真っ赤ちんは、あっという間に在来種を駆逐し、どこを釣っても真っ赤ちんしか獲れないという状況になるのは、あっという間の出来事でした。
余談ですが、当時の噂で、「ザリガニの水槽は洗わずに汚くしておく方が良い」という話がありまして、真に受けた私は、ずっと洗わずに放置しておりましたら、すっかりその存在すらも忘れ・・・、気がついたらザリガニがドロドロに溶けて無くなっていたなんて事がありました。
いや、今では良い想い出です・・・。
それにしても、エーちゃんが何故急にこんな話をしだしたのか、まったく謎なのですが、これが面倒のキッカケになった事は間違いありませんでした・・・。
「ねえ! 何の話してんのよ!?」
「ああ? いや、真っ赤ちんだよ、真っ赤ちん。」
「真っ赤ちん?・・・。 何それ? またイヤらしい話じゃないでしょうね?・・・」
「あれ? お前、真っ赤ちん知らねえの? ジョウシキだぞ、こんなの。」
「なんか・・・、あんたムカツクわね・・・。 だから何なのよ。 もったい付けてないで言いなさいよ。 殺すわよ。」
『コイツ本当に物騒だな~・・・。 前世は暴君とか、民を蹂躙したどこぞの女王様か何かだな、絶対。』
「真っ赤ちんってのは、ザリガニの事だよ。ザリガニ。 知ってっか?」
「へえ・・・。 ザリガニって、あのカニとエビのあいの子みたいなヤツでしょ?」
「カニとエビ? いや、何となく違う気もするけど、言いたい事は分かるから良いか・・・。
とにかくだ。 昔はエーちゃんなんかと一緒にさ、そのザリガニをよく釣りに行ったんだよ。ちょうど今ぐらいの時期に。 それが懐かしいなあって話だよ。」
「へえ・・・。 ねえ、ザリガニって、どうやって釣るの?」
「なんだ成海、ザリガニ釣った事ねえのか? イカで釣るんだよ。あの駄菓子屋で売ってるようなやつ。」
「そうそう。 味が付いてるのでも結構釣れてさ。「よっちゃんいか」なんか、特に良く釣れたよな。」
「ねえ、それってどこで釣るの!?」
「どこって、水のある所ならどこでもいるんじゃねえかなあ・・・。 俺らは良く、用水路で釣ってたな。 覚えてるか?」
「ああ、あそこのアスレチックの近くだろ? あそこは穴場だったよな!」
それを聞いたエリは、しばらく考えるようにして・・・・
「何だか凄く面白そうじゃない!!! 行きましょうよ、ザリガニ釣り!!!」
「えっ!・・・。 いつ!?」
「今から!」
「いやいやいや・・・。 流石に今からは無理だろ・・・。っていうか、お前が行っても面白くないと思うぞ・・・。大体、あんなもの、ガキの頃だから面白いんであってだな・・・。」
「うるさいわね!!! とにかく行くっていったら行くのよ!」
「(ああ、だめだこりゃ・・・。もう言い出したら聞かないんだから、このアホの子は。) じゃあ、せめて明日以降にしろよ。 格好だって動きやすい方が良いし、バケツや仕掛けなんかも用意しねえと。」
「じゃ、明日みんな集合ね! ザリガニ大作戦よ!」
『アホだこいつ。 それにしても、あのリョウコと金丸の顔・・・。可哀想に・・・。普通の女の子が、ザリガニ釣りに行くったって、喜ぶわけねえって・・・。』
という訳で翌日・・・。
私達はいつも通りに、姫様の思いつきに付き合わされるハメになるのでした・・・。
「もう! 渡辺、遅い!!! 何やってんの!!!」
「わりいわりい。 でも、エサねえと困るだろ? 駄菓子屋寄ってエサやら何やら仕入れてたんだよ。」
「言い訳するなんて、男らしく無いわよ! このグズ!!!」
『こっこいつ!・・・・。 今に見てやがれ! いつか丸裸にしてやるからな!』
そんなやり取りをしつつ、私達はチャリンコに乗って、一路「ザリガニ釣りの穴場」を目指すのでした。
ちなみに、この穴場の用水路は、通常は人が立ち入る様な所ではなく、若干厄介で危険な所をよじ登ったり潜ったりしながら目的地を目指さなくてはならず・・・。
そうなりますと、当然の様に・・・・。
「リョウコ、大丈夫か!? 無理すんなよ。ゆっくりで良いから。 落ちたら大変だからなあ・・・。」
「うっうん、ありがとう。 私は何とか大丈夫だけど、シズカが・・・。」
「うわっ! 金丸! 目を開けろ! つぶったら余計危ねえぞ!!! とりあえず、手貸してやるから! エーちゃん、鷲尾! 金丸を後ろから支えてやってくれ!」
そんな苦労をしている間にも、姫様は猿のように、ヒョイヒョイと目的地へ急ぎ、私達も鬼のような苦労を越えて、何とか目的地に着いた頃には、若干一名を除いて、既にクタクタ状態でした・・・。
「へえ! ここで釣るのね! 早くやりましょうよ!」
「お前、元気だなあ~・・・。 いっとくけど、ザリガニは食えねえぞ・・・。」
「食うか、馬鹿!!! ねえねえ、渡辺! あの向こう側にあるソーセージみたいなの、何!? なんか凄いいっぱいあるんだけど!」
「ソーセージ!? ああ、アレは「ガマノホ」だよ。たしか止血剤の代わりになるって聞いた事あるな。」
「へえ・・・・。 あんた、意外に物知りなのね・・・。」
「いっいや、そんな大袈裟なもんじゃねえだろ・・・。」
そんな訳で、とりあえず、私とエーちゃん、藤本で、全員分の仕掛けを手分けして作ります。
仕掛けといっても、ザリガニ釣りの仕掛けは単純なもので、予め持ってきておいた手製の竹竿(といっても、途中で切ってきた、ただの細竹の棒なのですが・・・)に凧糸を括りつけ、その先にイカを付けます。 たったこれだけで、釣る場所さえ当たれば、ザリガニはワンサカ獲れるという訳です。
「へえ・・・・。 あんた、意外と器用なのね・・・。」
「いや、こんなもん、男だったら誰だって出来るだろ? ほら、エーちゃんだって、藤本だって。(っていうか、お前の中の「俺の評価」って、今までどんだけ低かったんだよ・・・。) これで一丁上がりだ。 ほれ。」
「ありがとう・・・。」
「おっおう・・・。」
私がエリに竿を渡すと、あまりにも素直に礼を言うもんですから、こちらが照れくさくなってしまいました。
とりあえず、私達は女子組に釣り方を教え、自分たちも釣り糸を垂らします。日差しの強い日でしたが、用水路は日陰になり、涼しいものでした。
その代わり、後々別の事が大変だったのですが・・・。
「あっ! 引っ張った! もう竿あげて良い!?」
「おっ? 早いな。ゆっくりで大丈夫だぞ。 ザリガニは一回掴んだらナカナカ放さねえから、ゆっくりあげてみろ。」
「釣れた!!! 凄い!!! ねえ、見て見て!!!」
「わっ! 馬鹿! 正面から持つな! そのままこっちよこせ! つかみ方教えてやるから。 下手に手を出すと挟まれるぞ。」
「凄~い! 私初めて見た! ねえねえ、もう釣れたよ!」
子供のように無邪気にはしゃぐエリは、自分の釣った得物を得意げに、みんなに見せびらかしていました。その様子を見ていた私は、何だかコイツにも、こんなにも可愛らしい所があるのかと、とても不思議な感情を抱いていました。
それにしても・・・、それを見た女子組は、鷲尾を除いて、とても複雑な表情で作り笑いをしています・・・。
『アレは絶対、自分の竿には掛かりませんようにって顔だな・・・。』
それからしばらく、私達はザリガニ釣りを楽しみ、昼飯時にはリョウコ達の作ったおにぎりを食べ、結局、日が暮れるまで釣りを楽しむのでした。
ウーーモ! ウーーモ!
「ねえ・・・何、あの辺な鳴き声・・・。」
「ああ、ありゃ「ウシガエル」だよ。 イボガエルみたいに、こーんなでっかいヤツ。 食用で食えるって聞いたぜ。 ザリガニじゃなくて、あっち捕まえれば良かったか?」
「いい・・・。 ザリガニで・・・。」
どうやら、コイツもカエルは苦手のようで・・・。
「さて、そろそろ日も暮れてきたし、暗くならないうちに帰るか。」
「渡辺、今日の釣果はどうすんだ? にい、しい、ろ・・・。十六匹ぐらいいるぞ・・・。」
「つってもなあ・・・。 今更こんなの飼うってもなあ・・・。」
「逃がしてあげましょ。 もう充分遊んで貰ったから・・・。 ここから連れ出しちゃうのは、可哀想よ・・・。」
いつもは無駄に明るいエリの表情は、その時だけちょっぴり寂しげでした・・・。
エリの提案通りにザリガニを放してやった私達は、往き道で苦労した鬼の道筋を戻り・・・、再び襲う疲労感の中、家路につくのでした・・・。
「なんだかさ、最初はエーちゃんが余計な事言ったせいで、エライ目にあったと思ってたけど、結局、何だかんだ言って楽しかったなあ・・・。」
「ひでえな。俺だけのせいじゃねえだろ・・・。お前だって楽しそうに話してたじゃねえか。」
「何かアイツ、不思議なヤツだよなあ・・・。 言う事、やる事、無茶苦茶なんだけど、全然退屈しねえんだ・・・。」
「まあ、そうだな・・・。 成海がいなけりゃ、ザリガニ釣りなんて二度とこなかったろうしな・・・。ははは」
そんな話をしながら、私は何となくボンヤリと、その不思議な存在である姫様を眺めていました・・・。
そして、帰宅後の事・・・・。
「ぐあああああ!!!!!! かいいぃぃぃぃ!!!!!!!!! なんだか変な所ばっかり食われてるじゃねえか!!!!!!!」
そう、私達はあんまりにも久々のザリガニ釣りだったもので、「夏のアウトドア」の恐ろしさをすっかり忘れていました・・・。
皆様も、ザリガニ釣りに行く時は、「虫除け対策」をお忘れ無く・・・・。




