表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
22/85

13 「スプーンよ曲がれ!」

 それは八月に入って間もない頃、とあるテレビ番組がキッカケでした。


 最近は、やたらとリアリズムな世界になってしまったので流行らないのか分かりませんが、この頃の夏のテレビ番組といえば、所謂「超常現象特集」が目白押しで、幽霊であるとかUFOであるとか、あるいは超能力であるとか、謎の生物であるとか、そんな番組が結構な頻度で放送されていました(たしか、だいたい水曜日に)。

 そして、こういう番組に特に人一倍の興味を持ち、当然の様に全部チェックしているであろう、その人物こそ「ネジ飛び姫」様でした。


 そんなある日の番組で、海外から有名な超能力者がやってきて、番組内でスプーンを曲げるという超能力を見せた人が居ました。私はこれをリアルタイムで観ませんでしたが、なんでも、それを見ながら一緒に試した多数の視聴者も、ホントにスプーンを曲げる事ができたのだとか。

 そんな噂を耳にしたのかどうか、その番組からしばらくして姫から緊急招集が掛かります。


 「スプーンを持って、私の家に集まって!」


 で、どうせ暇だしと思い、言われた通りにスプーンを持ってエリの家に向かいます。まあ、アイツのやりたい事は簡単に予測できる訳でして・・・。エリの家に着いてみると、既にいつものメンバーが集合済でした。


 『暇だな、お前らも・・・。』



 早速、姫様によるスプーン曲げの講釈が始まります。

 エリ曰く、要するに「曲がれ曲がれ!」という強い念を飛ばしながらスプーンを擦って曲げていくのだとか・・・。


 『お願いだから、飛ばすのはお前の頭のネジだけにしてくれ・・・。』


 それにしても、良い若いもんがテーブルを囲み合い、スプーンに向かって「うんうん」唸り合う姿は、余りにも滑稽です。

 私はハナから、こんなもん曲がるわきゃねえと思い、それぞれ唸る連中の顔を眺めていました。

 エーちゃんは真剣にスプーンに何かを送り、煙が出る勢いで擦っています・・・。


 『意外と何でも真面目にやるんだな、お前・・・・。』


 面白い事に、こういう事を信じなさそうな鷲尾までもが、真剣にスプーンを見ています。


 『洗脳か!? 洗脳なのか!?』


 藤本は、イチイチリアクションを大袈裟にしてスプーンに向かっています。


 『イリュージョンでスプーンを消すつもりか、お前は・・・。』


 金丸も真剣に・・・


 『って、そういえばこいつの真剣な顔、初めて見たな・・・・。』


 いつも笑っている印象しかない子だったので。

 リョウコはどうもスプーンに念を送るというよりも、スプーンを持って色っぽい瞳でボンヤリと眺めるその様は、憂鬱に思い悩む少女状態でした。


 『リョウコさん、なんかだかその顔、たまらなく寂しげですよ・・・。何があったんですか?』


 エリはというと・・・あの大きな目を寄せて眉をつり上げ、口を尖らせたまま、これまた真剣にネジ・・・じゃなく、念を飛ばしています。


 「面白い顔だな、おい。」


 「うるさいわね! あんたも真剣にやりなさいよ!」


 「アホだろ。真剣にやれったって、曲がる訳ないだろ、こんなもん。 力入れたって早々曲がらないんだから。」


 それから二十分ほど唸っていた連中も、流石に飽きてきたのかスプーンをクルクル回し始め・・・、結局一番最初に投げたのは、やっぱりエリでした。


 「あーーー!!!もう!!! 全然曲がんないじゃない!!!」


 『当たり前だ。』


 そこで私はピーンときました。ここは一つ、からかってやろうと・・・・。


 「エリよ、それはやり方が悪いんだ、たぶん。 擦るんじゃなくて揺するんだ、こうやって」


 私はスプーンをわざとらしく大袈裟に揺すって、どんどん手の振りを大きくします。そしてテーブルのしたにスプーンが隠れた瞬間、太股にてこの原理で押し当ててグニュリと曲げ、さも大仰に「曲がれ!!!」と叫んでスプーンを放り投げます。

 それを目を輝かせて見ていたエリは、まるでボールを放り投げられてしっぽを振って取りに行く犬のようにスプーンを追いかけて手に取り・・・


 「凄いじゃない! こんなに曲がってる!!!」


 『なんだお前、可愛いな。』


 そこで一同から歓声が!・・・。


 『なんだお前ら、楽しいな。』


 よもや、こんな子供だましのトリックですんなり騙された上、ここまで大仰に喜ぶとは思っておらず・・・、エリは本当に尊敬の眼差しで私を見ている様で、自分のスプーンを差し出して、「もう一回やって!」と懇願します。


 『ホント可愛いな、お前。』


 しかし、こんな今思いついた様な手品(になっているのかも疑問ですが・・・)、何度もやったら当然バレますから、「いや~、こういう力はそう何回も使えないんだ、負担が大きいから」なんていう適当な理屈で回避します。実際、スプーンを押しつけた太股にアザぐらいは出来ているでしょうから。

 そこで今度は、みんなして、私がやった様に大仰にスプーンを振って投げ始めます・・・。


 『アホだろ、お前ら。 』


 ところが、ここでエライ事件が起きます。鷲尾が「曲がれ!」と投げたスプーンが、何と曲がってしまったのです!


 『凄い! というかこれ、捻れてる!!!』


 エリはもう大興奮です。

 そりゃあそうでしょう。自分の友達から二人も超能力者が出たんですから。


 『しかし鷲尾・・・。心霊写真発見の次は超能力発揮か・・・・。凄いな、お前。』


 それからしばらくして、このスプーン曲げにも完全に飽きたのか、いつもの様にゲームをしたりダラダラとくっちゃべったりしながら、程なく解散となりました。

 ですが、私は確認しなければならない事があります。


 「鷲尾、あれ、どうやったんだ? まさかホントに超能力? 」


 「あはは、そんな訳ないじゃん。あんたと同じ事しただけよ。手で最初から曲げておいたのよ」


 「な~んだ、やっぱりそうだったのか。 ・・・・って、おい!!! 手で曲げた!? ねじ切れてたぞ、あれ! お前、どんだけ馬鹿力なんだよ!! 」


 つまり、私のアレを真剣に曲がったと思っているのは、やっぱりと言いますか、最初からエリひとりだけだったようです・・・。


 『みんな、アホのお守り、ご苦労さん!』


 結局、みんながこの馬鹿馬鹿しい集いに付き合うのも、ひとえにエリの性格がもたらす不思議さと言いますか、一緒にいると、馬鹿馬鹿しい事でもやっていて楽しめる所なんだと思います。なので、現実主義の鷲尾も「幽霊なんて居るわけないじゃん」とか「こんなもの、曲がる訳ないじゃん」などと野暮な事は言わないのでしょう(実際、写真は撮れちゃいましたし・・・)。

 つまり、ここに集う連中は皆、エリと一緒に居る時は「居るかもしれない」、「曲がるかもしれない」なんて、ある程度真剣に楽しんでいる訳です。たぶん、私もそのクチの一人なんでしょう。


 ちなみに、しばらくして私も自責の念に絶えられず、ついついインチキした事をエリにカミングアウトしたのでした。その時、エリから罰ゲームを受けたのですが・・・。



 その日、私はエリ達に食事に呼ばれ、リョウコと三人で世間話をしていました。

そして、リョウコが食事の支度をするために台所に向かった後の事・・・・。


 「へえ・・・。 じゃ、結局この間のスプーン曲げは、あんたのインチキだったって事?」


 「いや・・・まあ・・・。 っていうより、あんなもの信じる方がイカレてるっていうか・・・・。」


 「ムカ!!! あんた!!! 覚悟は出来てるんでしょうね・・・。」


 「なっ何の覚悟でしょう?」


 「決まってるでしょ、お仕置きよ、お仕置き!」


 『うわ・・・。この顔は絶対ロクな事考えてねえ・・・・。』


 「とりあえず、両手をあげて立ちなさい。 早く!」


 『えっ、なにするの!? ホント恐いんですけど!』


 「とりゃーーー!!!!」


 「えーーー!!!!」


 なんと、エリはかけ声と共に私のズボンを引っ張ってズリ降ろすのでした!


 「きゃあ!!!!!」


 「何ですと!!!!!!! 男の中の男!!!!!!!」


 恐らく、エリはズボンを降ろして恥ずかしいパンツ姿にしたかったのでしょう。いや、もうその時点で女子としてどうかと思うのですが、思わず勢い余ってパンツまで一緒におろしてしまうのでした。

 そして、慌ててズボンをあげる私・・・・。


 『何という生き恥! しっ死んでしまいたい!』



 ベルトを締め直してエリの方を見ると、まるで何事も無かったように・・・私の反対を向いて、何故か意味不明な事に正坐をしていました・・・。


 「お前・・・、見ただろ・・・。」


 「みっ見てない。 何の事? サッパリよ・・・」


 『こいつ・・・。やっちまったくせに照れてやがる・・・・・・。後悔するならやるな!!! っていうか、ズボン降ろしてパンツ晒させるだけでも普通の女子はしねえって!!! 俺のこの行き場のない恥ずかしさはどうしてくれるんだ!!!』


 「どうしたの? 二人とも?」


 「いや、なんでもないわよ!」

 「いえ、なんでもありません!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ