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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
18/85

27 「初詣、初日の出、そして初夢・・・」

 はたして、それが初めての「デート」と呼んで良いものか、いまいち自信の無かった私でしたが、とにかく初めて二人だけで行動をした「遊園地」からしばらくして、ついにその年も「終わり」を告げる事になりました。

 普段大抵の年末年始を家族と過ごしていた私も、この時ばかりは「ネジ飛び姫」様との時間を優先する事になります。


 と言う訳で、兼ねてからの予定通り、私達は三十一日の大晦日から、エリの家に集合、その後0時まで部屋で過ごし、新年の挨拶。そのまま近くの神社に初詣に出掛け、帰宅後は再び家で時間を潰し、明朝はエリ宅の二階から初日の出を見ようという計画になっていました。

 ついでに、そのまま元旦は大ゲーム大会だそうで・・・。つまり、大晦日から元旦は「オールナイト」になるとの事。まあ、若い私達の事でしたから、徹夜する事にはさして気にはしていませんでした。ただ一つ、気になる事を除いては・・・・。


 今回、私達がエリの家で正月を過ごすという事は、つまり、もし私達が居なかった場合、エリはこの大晦日から元旦に掛けての大事な時間を、たった一人で過ごさなくてはならなかったという事です。

 私が「エリには色々と家庭の事情があるのかもしれない・・・」と気がついたのは、結構以前の話でした。しょっちゅうコイツの家に集まる私達は、一度もエリのご両親や家族に会った事がありません。ただ、その時は「きっと共働きで忙しいんだなあ・・・」程度にしか考えていませんでした。


 実際、私の家がそうでした。

 昔の事でしたから平和だったのでしょう、私の家は誰もいなくなっても、ご近所さんの目があるからと、余程「遠出」をしない限りは一切家に鍵を掛けませんでした。鍵を掛けるのは夜の戸締まりぐらいでしょうか。

 なもので、両親が共働きだった私は、ほとんど夜までは家で一人で過ごす事が多く、そのせいか大抵は用事を作っては遊び歩いていた訳ですが、その時にも一切「鍵」なんてものを持って出掛けた記憶がありませんでしたから、自分がまさか所謂「鍵っ子」と呼ばれる分類に入るとは思ってもみず、「それって鍵っ子じゃねえか?」と友人に言われるまで、全く気がついていませんでした。


 そんな自分自身の背景もあったもので、私はそれ程「エリの家の不自然さ」を特に気にせずにいたのですが、あの姫様との「冷戦状態」時に、リョウコから「何やらエリの家庭が複雑らしい」事を知らされ・・・。

 更に、流石にこの年末に来て両親が居ないとなりますと、どうもそれは、もしかしたら、私などが考えているよりも、もっともっと深い話なのではないかと考えるようになっておりました。

 そこがどうも気になり、私は大晦日前の頃合いを見計らって、リョウコをエリに内緒で呼び出して、相談をしてみた事があります。場所は駅前に新しくできた、当時は珍しいファーストフード店(と言っても、当時はこんな呼び方はありませんでしたが・・・)。

 私はリョウコに、エリの家庭には相当複雑な事情があって、アイツがあんな性格で時々奇行に走るのも、それが原因なのではないのかと尋ねます。


 「う~ん・・・・。 御免なさい。 やっぱり私の口からは言えない・・・。 でも・・・」


 「でも?」


 「渡辺の考えている事は、だいたい近いと思う・・・。」


 しかし、エリはそんな素振りも見せず、いつも変わらない明るさを見せています。そうであるならば、私もあえてそれには触れず、エリがそれを自ら語ってくれるまで待とうと考えていました。「それまでは、注意深く見守ってやれば良い。コイツが、とんでもない暴走をしないように・・・」と・・・・。


 流石に大晦日の事もあり、それぞれ家でも何かと忙しいだろうから、集まるのは夕方過ぎが良いだろうとなりまして、私がエリの家に向かったのは午後五時ぐらいだったように思います。

 その時はまだ、エリとリョウコしか部屋におらず、何やら忙しく支度をしていました。「手伝おうか?」との声に、「男は役に立たないから」とリョウコに笑顔でやんわり諭され、私は手持ち無沙汰で二人の様子を眺めていた事を覚えています。

 しばらくして、エーちゃん達三人組が到着し、早速、鷲尾と金丸はリョウコ達の手伝いに、私とエーちゃんで仕方なくトランプを始めるのでした。

 それから程なくして、藤本もやってきて、私達のトランプ遊びに加わり、七時過ぎにはパーティーの支度がすっかり調いました。しかも今回はリョウコ達が精魂込めて作った料理に加え、我々がそれぞれ持ち寄ったお土産もありますから、まさに「大ご馳走」状態でした。


 「だけど、年明け前にはお蕎麦もあるんだから、お腹いっぱい食べちゃダメだよ。」


 と、まるで子供を諭すようにリョウコさんが仰ります。

 私達は素直にそれにうなずきつつ・・・、エリの「乾杯!」の合図のもと、飢えた狼のように料理にかぶりつくのでした。


 『いや、これは本当に美味い!』


 それからは定番の紅白を横目で見ながら、「大ゲーム大会」が始まります。

 大ゲーム大会と言ったところで、「世にも恐ろしい罰ゲーム」で自分の屍を超えてきた私ですから、大抵の罰ゲームは屁でもありません。・・・・しかし、そんな風に考えていると負けるもので・・・


 「おし! 渡辺がドベな! 俺オレンジジュースな! つぶつぶが入ってるやつだぞ! ゲラゲラゲラ!」


 と、普段はモロクソ弱いエーちゃんが、これ以上は無いという笑顔で嬉しさを表現しつつ、勝ち名乗りを上げながら高らかに宣います。


 『くそ・・・最近鷲尾と上手くいってるからって調子に乗りやがって・・・。このクソ寒い中、ジュース飲んで下痢になっちまえ・・・。』


 などと呪いの言葉を吐きながら、私は全員の注文を聞いて外の販売機に向かいます。私が玄関から外に出ると、それを追いかけるようにエリが出てきまして・・・


 「一人じゃ持つの大変でしょ? 仕方ないから手伝ってあげる。」


 きっとこの時の私は、よっぽどポカンとしたマヌケな顔をしていたのでしょう。


 「なっ何よ!」


 「いや・・・、珍しい事もあるもんだと思って。 雪が降るかもな・・・。」


 「馬鹿。」


 目的の販売機は、エリの家近くにあるのですが、この日はとにかく外の気温が低く、寒さが身に染みました・・・。さっそく用事を済ませて、とっとと暖かい部屋に帰ろうとパネルを見ますと・・・・


 「つぶつぶオレンジがねえ・・・」


 これが罰ゲームでなければ、適当なものを買っていってお茶を濁すところですが、流石に今回はそうはいきません。私はエーちゃんに呪いの言葉を呟きつつ、だいぶん離れたところにある、もう一つの販売機に向かう事にしました。

 ちなみに余談ですが、私とこの販売機は相当相性が悪く・・・何故か私の飲み物だけ金を入れても出てこないトラブルに見舞われたりと、踏んだり蹴ったりでした・・・。


 「エリ、もう寒いし風邪ひいちまうから帰ってろよ。 俺、ひとっ走り行ってくるから。」


 そう言う私の言葉を無言で受け流し・・・、エリは私の手を握りながら、販売機に向かって歩き始めます。

 

 『あれ・・・。これってもしかして、俺たちも結構いい感じなのではないだろうか・・・。』


 私はこの時に初めてそう思いました。


 『コイツの事だから、「俺の事をどう思っている?」なんて聞いても、ロクな答えが返ってこないだろうけど・・・、少なくても友達以上とは思ってくれているのかもしれない。まだまだ恋人未満かもしれないけど、うん、それも何かいいな。・・・罰ゲームもタマには悪くない・・・。』


 そんな事を考えながら、私は思わぬサプライズとなった、この深夜の二人きりの散歩を、何となく楽しむのでした。


 罰ゲームの「ジュース買い出し隊」を終えてしばらくすると、女子組が「年越し蕎麦」の準備に取り掛かります。

 その間・・・、私は女子組の準備風景をボンヤリと眺めつつ・・・、この一年間を思い返していました・・・。

 あの「ぶっ飛んだ」紹介スピーチから始まって、思っても見なかった学級委員の選抜、本物の心霊写真を撮ってしまったり、理解不可能な現象に立ち合ったり、その他もろもろ・・・、姫様の怒りに触れて、左頬にワンパンを貰った事もありました。

 まさか自分が舞台の主役に立つなんて事は夢にも思わず・・・。

 そして、それまでは他人に無関心だった私が、金丸の真剣な恋の行方に右往左往し、鷲尾とエーちゃんの仲を心から喜ぶ事が出来ました。

 クリスマスの不本意な告白・・・女子便所での拷問・・・。

 そして、初めての遊園地デート・・・。

 どれもこれも、ハッキリ言ってしまえば私達がこの「ネジ飛び姫」一人に振り回されていただけなのですが、思い返してみると不思議なもので、どれもこれも楽しかった事ばかりでした。

 エリがいなければ間違いなく起こりえなかった事であり、エリがいなければ少しずつ変わった自分に会う事も無かったでしょう。


 『まあ、好きになるわな・・・。』


 私は冷静に自分自身を分析して、思わず笑ってしまうのでした。


 「サア、みんな! 急いで食べちゃいなさいよ! ボヤボヤしてると年が明けるわよ!」


 その号令を合図に、男共が野獣のように蕎麦をすすります!

 それをリョウコと金丸が何だか楽しそうに微笑みつつ、「渡辺、エーちゃん! 汚ねえな! 蕎麦飛ばすな!」と鷲尾に怒られながら、私達は新年を迎えるのでした。


 「いやいや」


 「まあまあ」


 「どうもどうも」


 私達は襟を正してうやうやしく新年の挨拶を済ませ、待ちかねたように神社に向かいます。神社には既に地元民が結構集まっており、冬の深夜とは思えない賑やかさでした。私達は参拝の列に並びながら、祈願の内容を考えます。


 『来年も、こいつにほどほど振り回されながら、この仲間達と楽しく過ごせますように・・・・。くれぐれも「ほどほど」でお願いします・・・。』


 参拝を済ませて帰る途中、私はふと、この冬の静寂に心を奪われます。

 空気までが凍り付いて音を無くしたような張りつめた暗闇は、ある意味幻想的で美しく・・・、その中を無邪気にはしゃぐエリ達の姿は、とても儚いものに感じました。そんなセンチになった私に気がついたのか、珍しくエーちゃんが「からかい」にやってきます。「お前は鷲尾だけ見てろ。」という私の言葉に、憤慨する様子を見せつつ、実は満更でもないのか、顔を真っ赤にしています。


 『お前、いつも楽しいな・・・。』


 さて、部屋に戻ったここからが勝負です。

 互いに相手が寝ないように牽制しつつ、とりあえず初日の出まで耐えに耐えます。エリはどこから持ってきたのか、ハリセンを持参し、アクビをする者を容赦なく引っぱたいていきます。


 『それ、もしかして今日のために作ったのか? なんなのお前、凄いな。』


 そして、頃合いを見計らい、私達は二階のベランダに移動します。

 ベランダに出た途端、エリは得意の運動神経を活かし、猿のように取っ手を伝い、屋根の上に登ってしまいました。


 『だからパンツ見えるって! 』


 「あんた達も来なさいよ!」


 どう考えてもリョウコと金丸は無理なので、スカートの鷲尾も残るといい(まあ、当然の判断だ・・・。)、結局、男連中だけがエリに続き(高所恐怖症の私は必死に登った事は言うまでもありません・・・)、屋根の上で日の出を待ちます。

 私はエリの隣に腰を下ろし、朝日が出るであろう方角に目を向けます。

 しかし・・・・まあ当然と言えば当然なのですが、期待していた程、日の出は見えず・・・。何となくそれらしいものがチョロッと顔を出したところで、私達はうやうやしくそれを拝みます。


 「来年も面白い年になりますように・・・」


 『いや、お前がいたら絶対なるだろ。』


 呟くエリに相づちを打つように、私もそう呟くのでした。


 それからいよいよ、新年の大ゲーム大会が始まった訳ですが・・・・、私の記憶はここまででした・・・。何度か、エリのわめき声とハリセンを食らったまでは覚えていたのですが、気がついた時は、私はすっかり夢の中に居ました。いつものメンツで何やら楽しい思いをしている夢なのですが、起きた時にはもう思い出せませんでした。ただ覚えている事は・・・・


 「・・・・・・。 ・・・・・・・。 ん?・・・・。 うわっ!!!!! なんだ!!!!!! こりゃ!!!!! 」


 私が目を覚ますと、そこはソファーの上でした。

 そこに座り込むように寝込んでしまったらしく、誰が掛けてくれたのか、毛布が掛かっています。

 時計を見ると、時間は午後一時を回っていました。

 既にみんなの姿は無く・・・私の直ぐ隣にあるのは、先ほどまで夢に登場していたエリの顔でした。エリは私に被さるように、ソファーの隣で寝ています。

 私は全然状況が読み込めず、エラク狼狽していましたが、とりあえず、このステキな状況でもうチョットだけ寝たふりをしようか・・・などと考えながら、いやいやいや、流石にそれはマズイだろうと、エリを起こさないようにソッとソファーから身体を引き抜き・・・。毛布を掛け直してやると、私はどっと気疲れが押し寄せ、そのまま床にへたり込むように座りこんでしまいました。

 既に時刻は昼を回っており、みんなと同じように、このまま帰るかと考えた頃・・・。私はソファーで無邪気に眠り続けるエリの顔を見ていたら、思わず含み笑いが零れてしまいました。

 そして、先ほどまでの馬鹿騒ぎの喧噪を頭の中で感じながら、ふと思うのでした。


 『もしエリが、あの賑やかさを過ごしたまま眠ってしまったとしたら・・・、このまま目覚めた時、この広い部屋で、たったひとりぼっちだと気がついたら・・・、コイツでもやっぱり寂しい思いをするんだろうか・・・。コイツは本当は極端な寂しがり屋で、だからこそ、いつも屁理屈をつけては俺たちを呼び出して馬鹿騒ぎをくり返しているんじゃないだろうか・・・。』


 そんな事を思った私は、こう考えるのでした。


 『少なくても、コイツが目を覚ますまで・・・。コイツが望むのならば、せめて今日一日ぐらいは好きなように付き合ってやろう。まずは・・・・この憎たらしい顔にイタズラでもしながら、目覚めるのを待つとしよう。』



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