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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
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26 「遊園地へGO!」

 それは、リョウコから「切ない昔話」を告白されて直ぐの事、またいつものように「ネジ飛び姫」の一本の電話から始まりました。

 その日、私は特にエリからの呼び出しも受けず、冬休みのノンビリした雰囲気をこたつの中で楽しんで居たのですが、そこにヤツからの電話が入ります。


 「明日、私の家に集合ね!」


 相変わらずの電話内容ですが、この頃にはコイツの傍若無人な電話にも既に慣れており、しかもコイツはどうも、私以外の家族が出た場合、きちんと礼儀正しい応答をするらしく・・・、家族から「礼儀正しい子」との評価を受けていた事に、私は閉口した事があります。

 そう言えば一度だけ、私の兄が電話に出た時に、私と勘違いしたらしく、いつもの調子で話しかけ、恥ずかしい思いをしたのだとか。電話口に代わった私に、訳の分からない逆ギレをおこしていた事を思い出します・・・。


 「いや、すまん。俺、明日は家の用事入ってるんだ。午前中だけだから、終わった後なら行けるけど。」


 「ふーん・・・、じゃ、明後日は?」


 「午後からじゃダメなのか? 明後日は一日大丈夫だけど、何時ごろ行けば良いかね?」


 「じゃ、朝六時に集合ね!」


 「はっ!? 六時!? そりゃ、いくら何でも早すぎるだろ!? まだ外が暗いぞ! ニワトリだって起きてねえって!」


 「なに訳分かんない事いってんのよ、大袈裟ね。 とにかく六時集合、遅刻厳禁! 来なかったり遅れたりしたら殺すからね!」


 それだけを叫き散らし、姫様は電話を切るのでした・・・。


 『六時集合って・・・また何をやらかそうって言うんだろうね・・・。』


 と言う訳でその翌々日!

 私は六時集合という事で、とんでもなくクソ早い朝を、これまたクソ寒い中、自転車をコイでエリの家に向かうのでした・・・。

 家の前に到着し、玄関のチャイムを押すのもはばかられる時間帯なもので、躊躇をしていると、玄関の扉が「ガバッ!」っと開いて、中から、あのお人形さんの様な顔に、満面の笑みを浮かべたエリが出迎えます。


 「入って!」


 『しかしお前、朝からテンション高けえなあ・・・・。』


 部屋に通されてみますと、いつものメンバーが・・・・・一人もいません。


 「今日はみんな、都合が悪いんだって。」


 『そりゃそうだろ! 普通、こんなアホみたいな時間帯に、集まる理由も告げられずに呼び出しされたって、のこのこ来る訳ねえって! むしろ、何で俺はここにいるんだろう?って、自分にびっくりだわ!』


 「・・・で、今日はまた何をやらかすんだ?」


 「あんたさ、○○遊園地って知ってる?」


 「ああ、あの野球場とくっついてるヤツな。小さい頃、親に連れられて行った事あるよ。それがどうした?」


 「私さ、行った事無いんだよね。」


 「ふ~ん・・・。」


 「・・・・・」


 何となく・・・いや、明らかにエリの表情が、露骨に不機嫌になっていくのが分かりました・・・。


 『あれ? これはもしかして、「誘え」と言ってるのか?・・・。分かりづらいヤツだな・・・。』


 「じゃっ、じゃあ、今度行くか? 一緒に。」


 「そう? じゃあそうしましょう!」


 満面の笑みに戻ったエリがそう言いながら言葉を続けます。


 「今から!」


 「そうな、そうしよう。それじゃ今から・・・って、なんですと!!! そりゃ急すぎるだろ! 第一、俺何の準備もしてねえぞ! 金だって・・・あれ?まあそこそこは入っているけど、ちょっと遊園地行くにはなあ・・・。だいたい、どれぐらい掛かるのかも知らねえし・・・。」


 「大丈夫よ! 招待券が二枚あるから! ほら!」


 という具合に、私達はそのまま、急遽「遊園地」に急行するのでした!


 『っていうか、お前! 最初からそんなもの用意してたって事は、行く気満々だったんじゃねえか! 最初からそう言え! 待ち合わせは駅にしろ!』


 私達は早朝の電車に揺られ、その間、いつものようにハイテンションな姫様との会話を楽しんでいましたが、同時に・・・、私は別の事を考えていました。


 『結局、これはデートなんだろうか? いやいや、それとも本当にたまたま他の連中の都合が悪かっただけなんだろうか・・・・。コイツの場合、たまたま暇だったヤツなら誰でも良いとかも考えていそうだしなあ・・・。まあ良いか。結果的にはデートみたいなもんだし、今日一日は何も考えずに楽しむ事にしよう・・・。』


 それからしばらく電車に揺られ、面倒な乗り継ぎを終えると、ようやく遊園地の入り口まで辿り着く事が出来ました。私は「行きましょ!」と元気良くはしゃぐ姫様に引っ張られるように、遊園地の門をくぐります。


 『そう言えば、女子と二人だけでこんな所に来るなんて、初めての事だなあ・・・。人生初デートか・・・。どうなる事やら・・・。』


 少々記憶が曖昧なのですが、確かこの頃の遊園地は、入園料と乗り物代が別料金で、乗り物は乗り物事にチケットを買う・・・というスタイルだったと思います。

 ただ、エリの持っていた入場券は、乗り物券も何枚か付いている便利なもので、当時懐の寂しかった私には有り難いものだったように思います。

 私達は定番のジェットコースターやら、エリの大好きなお化け屋敷やら・・・まさか、文化祭の時みたいに、幽霊に殴りかかったりしないだろうな・・・・などの心配をしつつ、一通りのアトラクションを楽しみ、昼飯は軽食所の「ホットドッグ」で済ませる事になりました。


 「それも美味しそうね。ちょっとちょうだい!」


 そう言いながら、エリは躊躇無く、私の飲んでいたクリームソーダを、私の使ったストローで飲み始めます。


 『・・・・全くコイツは・・・。どうしてこういう事を、何も考えずに平然としちゃうんだろうね、ホント・・・。人の気も知らないで・・・。』


 けれども、私は「こういうのも、なんか悪くないな」と考えていました。

 たしかにエリへの告白は大失敗に終わり・・・、それでも何とか、いつもと変わらぬ平常を過ごす事が出来ていました。

 その上、たまにはこういう楽しい思いも出来る訳ですから、正直、「コイツは本当は俺の事をどう思っているんだろう?」と気にはなりましたが、何だかこれで充分だな。という気持ちに、素直になっていました。

 ただ、一つだけ気がかりな事がありました。聞くような事じゃなかったのかもしれませんが、その場の勢いというヤツでしょう。私はエリに尋ねます。


 「なあ・・・、エリ。」


 「うん? 何よ?」


 「お前、藤本にも告白されたんだって?・・・。」


 「・・・・。誰から聞いたの?」


 「いや、本人からだ。 俺が聞いたのは、藤本がお前に告白をしたという事だけだったけど・・・。」


 「されたわよ。 でも、その時にすぐ断った。 藤本には悪いけど・・・、あくまでも藤本は友達だから。」


 「そうか・・・。」


 エリが真面目な表情で淡々と告げるその言葉に私は安堵しつつ、「じゃあ、俺はどうなんだ?」とは聞く勇気はありませんでした。もし「何言ってんの? とっくにアンタにも断ったじゃない。」なんてトドメを刺されては、私は恐らく立ち直れなくなるでしょうから・・・。


 「そんな事より、次行きましょ! 次!」


 私はエリに促されるように、その場を後にしました。

 とは言っても、狭い遊園地ではアトラクションはたかが知れていまして、私達は園内に設置されていたゲームコーナーで時間を潰し、そろそろ帰ろうかという雰囲気になった頃・・・。


 「ねえ! 最後に観覧車乗ろう!」


 この観覧車も聞いたところによると現在は取り壊されて、新しいものに代わってしまったそうですが、実は私は高所恐怖症でして、この当時の観覧車は小さいものでしたが、それでも必死の思いで乗り込んだ記憶があります(ちなみに、ジェットコースターは放心状態で乗っていたので、あっという間でした!)。

 しかし、観覧車は乗ってみると意外と・・・・怖くもなく楽しいもので、そこから眺める東京の街並みは壮観で、当時は今ほどビルが乱立していませんでしたので、そこそこ良い風景だった事を覚えています。冬の夕焼け空はそれはそれは綺麗でした。

 下を眺めると野球場、それに庭園もみる事が出来ます。

 エリはそれらを本当に無邪気に見つめ・・・、夕日に照らされたその顔は、大きな瞳をキラキラと輝かせて、あの満面の可愛らしい笑みを浮かべています。そして、その間・・・それは極自然に・・・、いつもの様に姫様に引っ張り回される哀れな家来的なものではなく・・・、私達はどちらともなく、極々自然に・・・、お互いの手を重ね合うのでした・・・。


 そんな楽しい時間もいよいよ終わりを告げ、私達は再び電車に揺られながら帰路につきます。エリはその間も終始興奮した様子で、楽しそうに私に話しかけています。私もそんな楽しい時間に幸せを感じつつ、「このまま時間が止まっちゃえば良いのにな・・・」などと、非科学的な事を考えておりました。

 地元の駅に着くと、エリが私に向かって満面の笑みで・・・


 「ねっ!! 今度はあんたが計画しなさいよ!? つまらない所だったら、殺すからね!」


 そう言うと、くるっと私に後ろを向けて立ち去ろうとします。私は慌ててエリを呼び止め・・・


 「なあ! それは二人だけでって事か!? というか、これってデートなのか!?」


 と、ついつい疑問に思っていた事がマヌケにも口から出てしまいました。それを聞いたエリは・・・


 「はあ!? 何いってんの、あんた!? ば~か!」


 呆れた顔でそう言いながら、私に「あかんべー」をして満面の笑みを浮かべながら、最後に「またね!」とだけ告げて、楽しそうに走り去っていくのでした・・・。


 『・・・。で、結局どっちなんだよ・・・。違うのか? あれ?・・・。また、空気読めてないのか?・・・俺。』


 そんな疑問を浮かべつつ、釈然としない気分のまま、私も家路につくのでした。


 『まあ、良いか。今日は本当に楽しかったし・・・。』



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