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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
12/85

21 「恋する乙女」

 文化祭の配役で見事に主役を射止め、その稽古と準備に多くの時間を費やす中、ちょっとだけ様子のおかしな連中が居ました。それは丁度、私の「手の皮剥がれちゃった事件」の少し前の事になります。


 どうも様子がおかしかったのは、いつものメンバーの女子たち、つまり、エリ、リョウコ、鷲尾、金丸の四人です。まあ「ネジ飛び姫」様の主に頭がおかしいのはいつもの事ですが、今回は特に金丸に落ち着きがなく、何となく上の空でボーっとしている事が多く、それに併せてエリ達も何となくよそよそしい・・・という具合でした。

 何となく気持ち悪く感じた私は、その事をエリに伝えて問いただしてみると・・・


 「うん、ちょっとね!」


 と、いつになく歯切れの悪いご様子です・・・。

 といって、それ意外には特に大きな変化はなく、劇の稽古中やその他準備の時も、いつものように憎まれ口をたたくぐらいだったのですが、下校頃になると、いつもは探さなくても勝手にやってくるヤツが、この時ばかりはソワソワと居なくなる始末でした。

 まあ、別に放っておいても良かったのですが、何となく隠し事をされているような気持ち悪さがあり・・・・、いや正直に言うと、何となく仲間はずれにされているような疎外感を多少感じていたものですから、気になって気になって仕方がありませんでした。

 エーちゃんに聞いてみても、特に何の変化も感じて居ないようで、相変わらず女の事になると全然役に立ちません・・・。

 そうなると、ここは一番私の力になってくれて、克つ一番頼りになる御方にお聞きするに限ります。私は文化祭準備の合間を縫って、コッソリとリョウコを呼び出します。


 「う~ん、私の口からは言えないよ。でも、もう暫く見守っていたら、きっと打ち明けてくれると思うよ。それまでは待ってて。」


 と、いつものように眩しい笑顔で仰ります・・・・。

 正直、何のこったか分からなかったのですが、リョウコがそう言う以上、特に何も心配は無いのだろうと、言われた通り、見て見ぬふりをするのでした。

 それから数日が過ぎても、相変わらずエリ達のよそよそしさが続いていたのですが、そんな環境にもすっかり慣れが来ていた、そんな矢先・・・


 「ねえ、今日さ、大事な話があるから学校終わった後、うちに来て。」


 と、唐突にエリから申し出がありました。


 (ははん、リョウコが言っていた時期が来たわけか・・・・。)


 しかし、私の方も何だか散々ほっぽっておかれた子供の様になっていましたから、ついつい意地悪をします。


 「文化祭の準備後か?冗談だろ~?そんな遅い時間から。疲れるし、俺は遠慮しとくわ。」


 などと、とりあえず心にも無い事を言ってみると、どうもその私の言いっぷりがカンに障ったのか、あるいはお姫様の命令に従わない召使いに腹が立ったのか、


 「あんたの都合なんてどうでも良いのよ! とにかく来なさいよ、来ないと殺すからね!」


 と、いつもの決まり文句を、私の脛を蹴りつつ吐き捨てるようにぶつけると、「ふんっ!」と露骨にとって返し、ズカズカとみんなの元に戻っていきました。


 (いやいや、地味に痛てえんだけど・・・。)



 と言う訳で、一通りの稽古や準備が終わった後、私はエーちゃんや藤本を伴ってエリの家に向かいます。エリ達は一足先に帰っており、私達を部屋に通しますと、今までよそよそしかった理由を順序よく話し始めました。

 その話を要約しますと、つまり・・・


 どうも金丸が他クラスの男子に一目惚れしてしまったらしく、それについてエリ達が色々と相談に乗っていたんだそうです。

 例えば、相手のその男に、今付き合っている彼女がいるのか、どういった子がタイプなのか・・・等々、この三人の人脈を使って調べていたんだとか。なるほどね・・・。


 それにしても、どちらかというと私達のメンツの中でも若干影が薄いと思われがちな金丸ですが、彼女は意外としっかりとしており、性格的にはリョウコをもう少し子供っぽくした様な感じですが、いつもニコニコと明るく、誰からも好かれるタイプでした。ちょっとふっくらとしていますが、それがまたナカナカ可愛らしい容姿と相まって、私はエリたちの話を聞きながら、「金丸はこれはこれで結構もてるんだろうな」などと、どうでも良いことを考えていました。

 それでも、例えば恋愛話云々などは、今まで特に聞いた事もなく。なので、私なんかは「きっと、まだそういう事には、それ程興味を持っていないんだなあ・・・」なんて考えていたのですが、なるほど、金丸もお年頃の女の子だったわけです。

 もっとも、私が単に今までそういう事に疎かっただけなのかもしれませんが・・・。


 その時に相手の名前も聞いてみたのですが、私には全然心当たりのない男子でした。エーちゃんや藤本の顔を見てみると、二人とも知らないとばかりに首を振っています。

 ちなみに、出会いの経緯は・・・・、何でも駅前の本屋で買い物をしていた金丸が、上の段にある本をぴょんぴょんと跳びながら一生懸命取ろうと頑張っていると、それを見かねたように、その男子が無言で取ってくれたのだとか。その顔には何となく見覚えがあり、偶然、同じ学年の別クラスに居るらしいと知る事が出来たとの事でした。


 (・・・・なんてベタベタな!!!いつの時代の恋愛小説だよ!!! まあ、金丸らしいと言えば金丸らしいけど・・・。)


 と言う訳で、「ネジ飛び姫」を中心とした(金丸告白プロジェクトチーム)が結成された!!! 


 (金丸よ・・・。お前は絶対相談した相手、間違ってるからな・・・。)


 早速、「作戦本部長」から、本作戦の全貌が語られる事になる。

 その作戦とは・・・。まず、既にこちらの間者として取り込んである「ターゲット」と同じクラスの女子を使って、作戦ポイントまでターゲットを誘導、そこで金丸が最終兵器である告白を認めた「ラブレター」を渡すのだとか。いや、何だかこれもエライベタベタですな・・・・。

 ちなみに、この間者である女子には、既にこの「ターゲット」に対して興味がない事を確認済で、鷲尾の手なずけによって100%の稼働率を誇ると・・・。やるな、お前ら・・・。

 俺達の仕事はというと、同作戦ポイント周辺で待機の後、ターゲットと金丸を監視、及び、「緊急時」に備えよとの事。

 ・・・・いやいや・・・・、なにげに不吉な事言ってねえか・・・。お前・・・。

 それでは、本作線の結構日は三日後!、諸君らの検討を祈る!!!


 ・・・・という具合に、その日は解散となりました・・・。


 その帰り道、金丸と鷲尾に「おい、良いのか? アイツに好き勝手な暴走をさせといて・・・」と尋ねてみると、


 「でも、エリちゃんと一緒だと、勇気をいっぱい貰えるから。」


 と、いつものようにニコニコと可愛らしく笑いながら、それでいて、何処か決心をつけているような力強さをもって、金丸は言いました。


 (いや、まあ本人が良いのなら、それはそれで良いんだけどね・・・。)


 そして作戦決行の当日!

 すでに鷲尾の根回しによって間者への連絡は済み、ターゲットも指定の時間に恐らく来るらしいとの状況報告が私達にもたらされたのは、みんなで弁当を突いている時の事でした。

 作戦決行は放課後の文化祭準備が恐らくどこも終わるであろう時間帯。その頃であれば、校内の人々も疎らになり、作戦ポイント付近は恐らく無人になっている事でしょう。


 その後はいつも通り、舞台の準備と稽古が行われた訳ですが、それとなく金丸の様子を観察しても、いつもと変わりなく、ニコニコと稽古に準備に一生懸命でした。これだけの大勝負ですから緊張していない訳が無く・・・、かえっていつも通りに振る舞おうと頑張る姿は、何だかとても意地らしく、けなげで愛おしいものでした。


 それから稽古の時間も過ぎ、いよいよ作戦決行時間が近づくと、どうやら私自身もエライ緊張をしている事に気がつきます。何となくおなかも痛くなってきました。こんな事、その後の「舞台本番」の時にもありませんでしたから、やはり余程、金丸の事が気になっていたのだと思います。

 しかし、金丸の緊張度は私の比では無かった事でしょう。


 そして、いよいよ作戦の時間になりました。

 金丸は指定の場所で待ち、私達はそれを見守るように近くの植え込みに隠れます。これについても、「そんな場面を俺たちに見られても良いのか?」と、金丸に尋ねたのですが、


 「みんなが居てくれると、心強い。」


 と、本人も望んでいたので、私も納得して参加していました。


 (それにしても、人の事だというのになんて嫌な気分なんだろう・・・。さっきから喉が渇くし腹は痛いし・・・。もしこれが自分の事であったなら、俺は緊張のあまり死んでしまうかもしれない・・・・。)


 などという事を考えていると、どうも他の連中も同じ様で、それぞれ緊張した顔をして金丸の姿を眺めていました。

 それからしばらくして、相手の男子が姿を現しました。


 (いよいよか・・・。)


 「何だか知らなねえけど、呼び出したのって、お前? 何の用?」


 相手の男子から声が掛けられ、金丸はそれに頷くように何かを呟きます・・・。

 残念ながら、この位置からでは、金丸の緊張で振るえた小さな声は届きませんでした。


 (くそ!もうちょっと近くに隠れる場所は無かったのか!・・・。)


 「・・・・・・・・・」


 金丸が男子に何かを告げた後、振るえる手で持っていた告白文を渡します。薄暗くて表情までは良く分かりませんでしたが、相手の男子はそれを無造作に受け取ると、その場で封を破り読み始めます。


 (あれ?開けちゃうの!?ここで読むのか、お前?・・・。)


 しばらくして手紙を読み終えた男子は、にわかに信じられないセリフを吐きました。


 「はあ? これ何言ってんの? お前と俺って冗談だろ? 悪いけど俺、お前みたいなの趣味じゃねえよ。つうか、こんなん誰かに見られたら恥ずかしいわ。」


 (・・・この野郎・・・・)


 正直、私は不快感を隠せませんでした。今すぐ飛び出して、この野郎の顔をグシャグシャにつぶしてやりたいぐらいでした。

 気持ちを落ち着かせようと周りを見渡すと、やはりエーちゃんと藤本も同じように不快感を持っているのか、不愉快な顔を相手に向けています。鷲尾はその怒りが頂点になったのか、顔を真っ赤にして手をプルプルと震わせています。リョウコに至っては、悲しそうな表情を浮かべ、既に泣き出しそうな雰囲気でした。

 残念ながらここからは金丸の表情を確認する事はできませんが、その肩を落とした様子を見ると、もう胸が潰れそうでした・・・・。

 そして、当然のようにこの状況を放っておかないヤツが居ました。私が顔を向けると、予想通り般若の様な表情で相手を睨み付けています。この表情は例の鷲尾が殴られた事件から二度目の事でした。

 しかし、私はあの時と違って、コイツがどんな行動を起こしても、今回は止める気はありませんでした。好きにやらせても後ろには我々が居る訳ですから何の心配もありません。


 それから相手の男は、金丸の真剣な思いを綴った手紙を、金丸の足下に投げ捨て、一言、二言、金丸に言葉を浴びせてから、その場を去ろうとしていました。


 「待ちなさいよ!!!」


 言葉よりも先に金丸の側に飛び出したエリが、いつも以上に大きな声で叫びます。

 それに対して相手の男はぎょっと驚いたようでしたが、金丸はエリに振り向かず・・・・、その場にしゃがみ込み、どうやら手紙を拾っているようでした・・・・。

 その姿を見た私は、もう居たたまれない思いでした・・・。


 相手の男子は、飛び出してきたのが怒っているとはいえ「お人形さん」の様な顔をした小柄な女子だった事に安心したのか、「何だよ、お前、誰だよ?」と強気な声を出しています。


 「あんた・・・、最低なクソ野郎ね。吐き気がするわ!」


 (よくぞ言った!!!)


 「はあ? 何言ってんだお前? 頭おかしいんじゃねえか。 喧嘩売ってんのか?」


 「最低なクソ野郎」がそのセリフを吐いた時には、堪忍袋の緒が切れた私達が一斉にエリの後ろに飛び出しています。そいつはいきなり出てきた厳つい顔二名とイケメン一名の男子が自分を睨み付けている事に、明らかに動揺していました。

 そして、その隣に私達よりもデカイ女子が、更に恐ろしい形相をして睨み付けている事に、確実に恐怖していました。その隙に、リョウコが金丸を抱えるように、その場から連れ出していきました。


 「あんたの顔を見ているだけで吐き気がするの・・・。早く消えなさいよ。」


 自分で「待て」と言っておいて「消えろ」という理不尽さに腹を立てたようでしたが、私達の今にも飛びかかりそうな様子に、先ほどまでの勢いはなく・・・・、それでもプライドが許さないのか、小声で何か憎まれ口を叩いています。


 「いいから、早く消えろ!!!!!!」


 エリの絶叫にも似た怒りの声に、相手も少し驚いたようですが、腹を立てたのか、私達がまるで居ないようにエリだけを見て、何やら訳の分からない捨てぜりふを吐いて去っていきました。


 (お前、知らないだろ? この中で一番怒らせると本当におっかないのは、そこの「姫様」なんだぜ。)


 「最低なクソ野郎」が去った直後・・・、私達は金丸に目を向けました・・・・。金丸は私達を見回しながら、震える顔で精一杯の笑顔を作り・・・


 「あははは・・・・フラレちゃった・・・・」


 そう言って、あの愛らしい目からボロボロと涙を零しています・・・・。

 リョウコは既に、金丸を抱きしめながら一緒に泣いています。その姿を見た私は情けない事に、もう何も言葉が浮かびませんでした・・・。

 そして、堰を切ったように、エリと鷲尾は金丸の元に駆け寄り・・・・、四人は声を押し殺して大粒の涙を流し合うのでした・・・。

 その時、私は初めてエリの涙を見ました。以前の私であれば、このワガママな姫様が、人のために涙を流すなんてと驚いた事でしょう。ですが私は既に、エリならば必ずこうする。仲間が本気で泣けば、コイツも一緒に一晩中だって泣き続ける。そう言うヤツだという事を良く理解していました。


 (金丸・・・、お前が恋をした相手はどうしようもないクソ野郎だったけど、傷が浅いうちに分かって良かったじゃないか。所詮、お前を振るようなやつは、そんなもんなんだって。お前みたいな良い女、必ず放っておかない良いヤツが現れるさ。

 それに、自分のために同じ痛みを感じて真剣に泣いてくれる友達が、こんなにも身近にいるありがたさを再確認できたんだ。良かったな、金丸・・・。)


 私は言葉にこそ出せませんでしたが、心の中で、そう金丸に呟くのでした。



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