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ネジ飛び姫  作者: もぐもぐお
第一章
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プロローグ 「私の叔母」

 夢を見た。


 愛する人と向き合っていた。

 離れたくないと願っていた。

 離れたくない・・・・けど、そんな願いは無駄と分かっていた。

 愛する人は向き合ったまま、少し寂しく、そして哀れむように失笑した。


 気がつくと、独りだった。

 しばらくすると、知らない女が向かいに座り、願いが叶う(まじな)いを告げた。


 墓場にいた。

 見ず知らずの墓を暴き、死体の腕を取る。

 その腕を限界までひねり上げた。

 思ったより、その腕は丈夫だった。

 それでも、ただただその腕をひねり続けた。

 心では解っていた。そんなことをしても戻ってくるわけがないと。

 けれど、すがるしか無かった。

 夢中で腕をひねり上げた時、ポキリと嫌な音がした。

 「ああ、やっと折れた・・・」

 そうつぶやいて顔を上げると、女がこちらを観て、冷たく蔑んだ笑いを浮かべていた。


 そこで眼が醒めた。


 嫌な夢だ・・・・



 私の父には妹がいた。

 私はその事をずっと知らずにいたが、思春期の頃、父がふと漏らした言葉から、その事を知った。

 当時の私は父が大好きだった。多分、ファザコンだったんだと思う。父は理想的な男性だったし、顔もカッコ良くてタイプだった。なにより私に対して、世界一優しい男性だった。まあ、当たり前だけど・・・。

 そんな父が懐かしそうに、寂しそうに漏らした妹の話に、私は少し嫉妬したのかもしれない。


 「でも、私も叔母さんに似てるんじゃない? 血が繋がってるんだし」


 なんでそんな事を言ったのかは思い出せないけど、その後に笑いながら全然似てないよと言った父の言葉で、私はとても傷ついた事を思い出す。今でもその事を思い出すと、ちょっぴり胸が痛くなる。

 なぜなら、しばらくして見つけた写真に写る叔母の姿は、信じられないぐらいに綺麗だったからだ。まるでお人形のようで、少しリアリティーに欠けるぐらいに美しかった。


 今でもそうだけど、私は自分の容姿にコンプレックスを持っていた。本当は多分、人並みなんだろうと思う。・・・・いやそこは人並みと信じたい・・・。

 けれど、こんなにカッコ良い父から産まれたのに、なんで自分はこんなにブサイクなんだろうって、小さい頃は本当に悩んでいた。きっと母に似たせいだって、母を恨んだりもした。

 母はとても優しい人だ。今でも私は母が大好きで仲良しだけど、正直娘の私から見ても、綺麗とは思えない。どうして父と結婚できたんだろう?ってその不釣り合いな感じがずっと疑問だった。

 そのせいか、私もあんまり父に似てない。もちろんちゃんと血はつながってる。それは間違いない。・・・はず・・・。間違いないはずなのだけど、やっぱり似てない事はコンプレックスだった。

 けど、そこに写る叔母の姿は、父の妹と素直に納得できる容姿だった。


 そんな事もあって、私は勝手な嫉妬から叔母を心底嫌っていた。会った事も無かったけど、はっきり比べられた事も無かったけど、何となく自分の存在を否定されているようで、私は叔母が嫌いだった。

 けれど、それからだいぶん経ったある時、墓標に刻まれた叔母の名前を見つけて、私は何となく胸が苦しくなった・・・。今まで気にも止めなかった墓標に刻まれた叔母の年齢が、あまりにも若すぎたからだ。


 どうして叔母はこんなに若くして死んだんだろう?


 今思えば、その事がキッカケだったのかもしれない。

 私は、勝手な嫉妬で長年嫌っていた叔母に対して、申し訳ない気持ちが芽生えていた。そして自分が容姿だけじゃなく、心までひどく醜い存在に思えて仕方なかった。

 その事を払拭するためにも、私は叔母の事を無性に知りたくなっていた。父は語りたがらない。もしかしたら、何かとても辛い思い出なのかもしれない。

 けれど、私は知りたかった。そう思うせいか、夢の中にまで叔母が出てくる。今では父の心の中にだけしか残らない存在を見つけて欲しい・・・。私は叔母がそんなふうに訴えているように感じて、どうしても叔母のことを知りたくなってしまった。


 私の実家には、開かずの扉があった。別に本当に開かない訳じゃない、何てことのない物置なのだけど、小さい頃はそこに入る事は良くないことと、父にも母にも言われていた。とても素直で良い子だった私は、あんまり入ろうとも思わなかった。ホントは一度だけ入った事があるんだけど、子供にとって何の意味も無いつまらない空間だったので、その一回で興味が失せていた。

 けど、私はその時の記憶を頼りに、その開かずの扉を開けた。


 「あった・・・」


 それは、叔母が中学生だった時の卒業アルバムと、恐らく同じ頃のものだと思われる古いアルバムだった。

 この開かずの扉を、私は思春期の頃にもう一度だけ開けた事がある。その時、私は叔母の写真を見つけた。少し胸が痛くなる思い出だ。それを思い出した私は、そこを手がかりに叔母のことを調べることにした。

 卒業アルバムには、叔母の楽しそうな姿が写っていた。


 「本当に綺麗な人だな・・・」


 まだ幼さが残るあどけない少女だったけど、本当に綺麗で、そして活発そうな様子が写真からも伝わってくる。別のアルバムでもそうだった。どれもみんな本当に楽しそうだった。


 「この人たち・・・・、特にこの人、いっつも叔母さんと一緒に写ってるな・・・。彼氏かな?」


 私は叔母の写真に写り込んでいる共通の人達に注目した。特にその中の一人の男の子は、写真からも伝わるぐらい、叔母と特別な関係にあったんじゃないかと思った。いつも一緒だし・・・なんか近い。叔母の綺麗さに比べると、特に特徴もないぐらい普通の男の子だった。少し生意気そうだけど。

 私はその写真を頼りに、卒業アルバムからクラスと名前を探し出した。男の子から見つけるのは大変だったけど、叔母が目立ったのでわりと簡単に見つかった。昔のアルバムなので住所も記載されていて、写真の男の子の連絡先も簡単に分かった。問題は四半世紀以上前の住所が有効なのかどうかなのだけど・・・。


 それから紆余曲折はあったのだけど、私はその当時の男の子・・・と言っても、今では中年のオジサンになっている叔母の同級生、渡辺ユキヒコさんとアポをとって、直接お話を聞ける事になった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがとても良いと思ったので、気になって開きました。過激さと、シニカルさと、可愛さ、本来成り立ちの違う要素が一つに混ざっているみたいで、とても好きなタイトルです。 書き出しは、夏目漱…
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