エージェントゴーレム
本日の収穫。
セラフィの普段着。
セラフィのサンダル。
「ストーカーですか?」
うるさいわねジョナサン。ここからが本題よ。
本命は両替屋でおっさんからゲットした『代行人形』という単語。
どうやらエージェントゴーレムというのは、製作者の命令をあらかじめ体系化し、思考回路として登録させた上級の使役人形であるらしく、かなり高度な存在らしい。
で、何が大事かというと、私とジョナサンは、エージェントゴーレムの振りをすれば、この世界の人々と堂々と会話ができるのだということ。
ただし、エージェントゴーレムもサーバントゴーレムの一種であるからか、主人に対しては絶対服従らしいけどね。
セラフィに服従だなんて、私困っちゃう。
「モモちゃん、セラフィに聞こえたらどうするんですか?」
「ねえモモちゃん。服従ってなあに?」
やばい、聞こえてた。
「何でもないわよ!」
話が脱線してしまった。ちょっと落ち着かなきゃ。
さらに副次効果として、エージェントゴーレムを従えるセラフィのことを、世間の皆さんは高位の人形使い本人や親族、もしくは高価なゴーレムを買い与えてくれる、とってもお金持ちな家の子供だと勘違いしてくれる。
この勘違いが、実は結構ありがたい。
なぜなら、幼い少年一の人旅なんていうのは、多分この世界でも非常識。
けれどもここに護衛兼奴隷のゴーレムが一体くっついていると、話は変わってくる。
そう、セラフィと私達の組み合わせは、『かわいい子には旅をさせろ』ということで十分にアリなのだ。
ちなみにセラフィが背中に乗るミニサイズの私の姿について、露天商たちは
「こちらのエージェントゴーレムは『髑髏巨人』をイメージして制作されたのかい?」
などと勝手に解釈してくれる。
「モモちゃん、これからどこに行くの?」
「そうね、この先に大きな街があるらしいから、そこに行ってみようと思う。どうかな?」
うん、セラフィはご機嫌だ。大きな街という響きに、ぱあっと表情を明るくさせる。
「この世界の文明や文化を調査できそうで私も楽しみですよ」
ジョナサンも新たな知識ゲットを楽しみにしているようだ。
それじゃあ準備もできたし、この先に向かってみようか。
露店集落を後にした私達は、人通りがなくなったのを見計らって私のボディサイズをいったん元に戻した。
「うわあ」
セラフィは私に連結された通常サイズのダンプトレーラーを目の当たりにして、目を丸くしている。
それはそうだよね。
元のサイズだと、サイドのあおりは高さ三メートルに達するし、ショートボディとはいっても全長は七メートルはあるからね。
「これ一杯のお買い物って大変そう……」
うふふ、お買い物車の真似をしましょうと説明したのを思い出したのかな。
可愛いことを言うわねセラフィは。
「それじゃ、着替えてからお昼ご飯にしましょう」
そう伝えながら運転席側の扉を開けてやると、セラフィはすっかり慣れた様子で、器用にシートまで登っていく。
購入した衣類は運転席の横までワイヤーロープを操ってぶら下げてやれば、それをセラフィが受け取って車内に片づけてくれる。
車内にしまっておけば、『収縮』により小さくなった私に合わせて、荷物も小さくなってくれるんだ。
ただ、コントラクトで私のサイズを変えているときは、セラフィは私の運転席に乗ることはできないし、車内から荷物を取り出すこともできないのだけれどね。
まあ、そもそもドアが開かないのだけれど。
少年の生着替えとお昼ご飯ライブを堪能した私とジョナサンは、うとうとし始めたセラフィにベッドを勧めたんだ。
セラフィが寝付いたのを確認したら、私達は人目を避けながら街道をゆっくりと走っていく。
ちなみに私の三百六十度パノラマ視界を駆使し、何かが現れたら道からそれてやり過ごすことにしているんだ。
「とりあえず、ある高名なゴーレムマイスターの孫とでもしておきましょうか」
「そうだわねジョナサン。旅の目的も可愛い孫の見聞を広げさせるためとかにしておけばいいものね」
今後セラフィの出自が疑われたときのために、私とジョナサンはセラフィの過去をねつ造し、口裏を合わせておく。
「あとは他人のゴーレムがどういった挙動をするのか観察しておきたいところですね」
「そうよね。私達はあくまでも『高価で高級なエージェントゴーレム』としてふるまわなきゃならないものね」
なんてことを打ち合わせている間に、風景は平原から渓谷に変わってきた。
と、私は前方に人だかりを発見した。
「セラフィ、コントラクトするから一旦降りてくれる?」
「はーい」
昼寝に満足したらしく、セラフィは可愛らしく伸びをしてから、私から降りてきた。
続けて私はコントラクトを唱えてお買い物ゴーレム姿になってから、改めてキャビンの背後にセラフィを乗せて人だかりの方へと向かっていったんだ。
この世界での生の情報が欲しい私達は、ゆっくりと人だかりに近づきながら聞き耳を立ててみる。
すると、こんな声が聞こえてきた。
「まいったなあ」
「どなたか何とかしてくださいませんか?」
続けて私達の視界にも、声の原因が入ってくる。
どうやら渓谷で落石があったらしく、大小の岩が道をふさいでしまっているみたい。
これじゃあ徒歩はともかく、荷車やゴーレムが通行するのは到底不可能よね。
と、人ごみから一人の若者が落石に近づいていった。
「少しずつでも処理していくしかないですね」
へえ、何をするんだろ?
あら、何か印を結び始めたわ。
「それでは行きますよ。『破砕水流』!」
うわあ!
若者が何かを唱えると、彼の指先から勢いよく水が噴き出し、大きな岩を砕いたんだ。これはすごい!
あれなら殺傷力は十分。って、やっぱりこの世界では魔法はアリなのね。
周りのどよめきを見るに、さっきの魔法は相当高度なレベルらしい。
「私はここまでです」
「次はわしがやろう」
と、今度は老人が犬のような形のゴーレムを連れて落石に近づいていく。
「それじゃ危ないからちょっと下がってくれるかの」
お爺さんは周辺の人々に沿う注意を促し、人ごみを下げさせると、犬型のゴーレムに向かい合った。
『巨大化』!」
あら。
するとお爺さんが唱えた呪文に合わせるかのように、体高一メートルほどの犬が、みるみるうちに三メートルほどに巨大化したんだ。
へえ、高さだけならオリジナルの私に匹敵するサイズね。
すると犬は岩をくわえ、それを道端に寄せるように動き出したんだ。
その雄姿にどよめく群衆。
私ちょっとジェラシー。
が、数個の岩を移動したところで、犬は困ったようなそぶりを見せてから縮み、元のサイズに戻ってしまう。
「ありゃ、制限時間かの」
どうやらギガンティックというのは、制限時間があるらしいわね。
人々は再びため息をつく。
なぜなら、三メートル級の大岩がそこに鎮座しているから。
さすがにこれは簡単にはどうにもならないわよね。
「誰か魔法で砕いてくれないかのう?」
が、群衆からはため息がでるばかり。
「ふっふっふ」
何よ気持ち悪いわねジョナサン。
「気が付きませんかモモちゃん。ここは堂々と我々の力を試してみるチャンスですよ」
あ、そうか!




