官憲さん
「さて、次は官憲じゃな」
フェルゼン商会の倉庫に薪を降ろした後、爺さんの先導でセラフィと私が次に向かった先は、官憲が詰めているであろう塀で囲まれた建物。
門番らしき若い兄ちゃんがフェルゼン爺さんの姿を見つけると、さっと姿勢を正したんだ。
「これはフェルゼン殿、本日はどのようなご用件で?」
すると爺さんは右の掌をひょいっと挙げて、兄ちゃんに挨拶を返した。
「なに、商売ついでに手配になっておる賊を狩ってきたのじゃ」
兄さんはちらりとこちらに目線を送り、私の姿と私がぶら下げている袋を怪訝そうは表情で見つめたが、すぐに目線を爺さんに戻したんだ。
「そうですか。それではこのまま窓口にお進みください」
ふーん。これって爺さんが官憲にも顔が利くってことよね。
そのまま真っ直ぐ建物に向かった私達は、指定された窓口に向かう。
爺さんはよくこの建物に来るのだろうか。勝手知ったるといった様子で、窓口のお姉さんと何やら会話をしている。
あら、爺さんとお姉さんが連れだってこっちに来たわね。
「セラフィ、賊の検分をするから、モモちゃんをこっちに誘導してくれるかの」
「はーい」
フェルゼン爺さんもすっかり私のことをモモちゃん呼ばわりね。
「モモちゃんだけ呼ばれるのは納得いきませんね」
自分から『私はモモちゃんの一部です』などとほざいたことを忘れたかのように、ジョナサンは文句を言っているし。
窓口にいたお姉さんに誘導されたのは、中央の建物に隣接するように立てられた小屋だったんだ。
建物は石と煉瓦のようなもので組まれ、床も石畳になっている。
部屋の各壁面には木材が無造作に積み上げられている。これって見たことあるわよね。
そえに心なしか焦げ臭いわね。
「それでは賊を改めますので、こちらに置いてください」
「ここでいいの?」
あら、お姉さんが驚いちゃった。
「喋る荷車ですって?」
横ではフェルゼン爺さんがニヤニヤとしておる。口を挟んでこないところを見ると、「もっとやれ」ということでしょうね。
「美しきマドモワゼルよ、どのように死体を並べればよろしいですかな」
ほら、もうジョナサンが調子に乗っちゃったし。
でも確かに美しいわね。きれいなストロベリーブロンドの髪と吸い込まれるようなブルーアイの瞳は、女性の私でもあこがれてしまう。
が、そんな美しいお姉さんもちょっと台無し。
「え? え? なんなの?」
お姉さん、完全に動揺モードじゃないの。
「どういたしましたかマドモワゼル? なにか問題でも?」
「どうしたエリゼ、早く検分を始めんかい」
ふーん。お姉さんの名前ってエリゼっていうんだ。
ホント男ってこういうときはしつこいわね。いい加減に話を進めなきゃ。
「エリゼさん、ここに死体を落とせばいいのかしら?」
強引に話を進めた私に釣られたのか、エリゼさんは無言で首を上下運動させているわね。
それじゃこの辺りに落としましょう。
私はクレーンを操作して死体入りフレキシブルコンテナバッグをお姉さんの近くに吊るすと、ワイヤーロープを一本操作して、バッグの下に結ばれている紐をひっぱってやる。
すると賊の死体はバッグの底にぱっくりと開いた穴から、無造作にどさどさと落下してくる。
へえ、バオムさんたちの血抜き効果かしら。どの死体も綺麗なものだわ。
それじゃエリゼさん、頼むわね。
「賊の死体とはいえ、容赦ないですね……」
エリゼさんはそう呟きながら、手にしている分厚いファイルと、死体の特徴を照らし合わせている。
その間、フェルゼン爺さんは興味深そうにフレキシブルコンテナバッグの仕組みを観察していたんだ。
セラフィも肝が据わってきたのか、興味が勝ったのか、エリゼさんについて回りながら、彼女が死体の検分を行っている後ろから覗きこんでいる。
「はい、確認終了です。『農場荒らしのトートとその一味』ですね。それではこのままお待ちください」
続けてエリゼさんは小屋からいったん出て行き、少しの後に、神経質そうなおっさん二人を連れて戻ってきた。
エリゼさんの案内で、二人も死体とエリゼさんのファイルを照合し、頷いたあと、二人でファイルに何やらサインをしている。
「申告者フェルゼン氏および共同申告者セラフィ氏のお二人でよろしいですね」
おっさんの一人が爺さんとセラフィに確認を求めてきた。
「そうじゃよ」
「セラフィ氏には身分証明がありませんので、官憲所からの懸賞金支払いはフェルゼン氏に一括、もしくは税金分を一括控除した上での支給となりますが、どちらにいたしますか?」
それってどういうことだろ?
「多分納税関連ですよ」
あ、そうかジョナサン。
「大した額でもないからの、一括控除で構わんよ」
フェルゼン爺さんの返事を受けて、官憲のおっさんたちは書類を二通準備し始めた。
さすがお役所仕事ね。
「それではこちらが『支払明細書』です。こちらの受領にサインをお願いします」
フェルゼン爺さんとセラフィは一通ずつ書類を受け取ったんだ。どれどれ。
懸賞金額は金貨二十五枚、納税額が金貨五枚。って、税額は二割かあ。差し引き金貨二十枚の支払いということね。
セラフィ、名前は書けるよね。
「うん、ここに名前を書けばいいんだね」
セラフィはおっさんから借りたペンで、指定された場所にたどたどしく名前を書いていく。
「支払い明細書は納税証明書にもなりますから、大切に保管してください」
そっか。納税証明が必要な場面もあるのか。
「それではこちらをお受け取りください」
もう一人の官憲のおっさんがセラフィに金貨二十枚を十枚ずつ並べたコインフォルダーみたいなものを差し出してくれた。
へえ、これなら金額の照合もすぐにできるよね。確かに金貨二十枚確認できました。
それじゃセラフィ、いただいて巾着袋にしまっておきなさい。
「はーい」
良い返事です。
巾着袋はバオムさん達との山分けのときにもらった、銅貨と鉄貨が詰められていた袋。これが革製で結構頑丈なの。
ちなみにセラフィの貨幣や宝石は、当座に必要な分以外は私のコンソールにまとめてしまってある。
「それでは死体を処分しますので、速やかにご退出ください」
処分?
「ほれほれ、わしらは退散じゃ」
エリゼさんやフェルゼン爺さんに追い立てられるかのように私達は小屋から出されたんだ。
するとエリザさんは小屋の石扉を閉め、官憲のおっさん二人は、明り取りのようなところを煉瓦のようなもので埋めていく。
エリザさん達三人は小屋の周りを一周すると、一つだけ空いている明り取りに向かったんだ。
何するんだろ。
何となく予想はできるけどさ……。
三人の声が響く。
「『炎壁』!」
同時に小屋の屋根に取り付けられた煙突から紅蓮の炎が噴き出したんだ。
「商売繁盛じゃ」
壁面に積まれていた木材は、予想通りフェルゼン商会が取り扱っている薪でした。
どうやら、賊の死体は焼却処分が基本なのだけれど、魔法の節約のためにジジイが取り扱う薪が重宝しているらしい。
このジジイ、商売上手だわね。
それじゃセラフィ、嫌なことを思い出す前に、金貨をしまっちゃいましょう。
私は、元の姿に戻ると、心なしか青ざめた表情のセラフィを運転席に乗せてやる。
ミネラルウォーターのボトルを手に、ほっと一息つくセラフィ。
すると助手席のドアが外からどんどんと叩かれる。
「わしらも乗せんかい!」
はいはい、わかりましたよ。




