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伐採場にて

 私は賊共の死体を詰め込んだフレキシブルコンテナバッグをクレーンでぶら下げながら、荷車サイズで、セラフィと一緒にフェルゼン爺さんの後をついていったんだ。

 道は木が生い茂る山々のふもとへと続いていく。


「さて、間もなくじゃ」


 フェルゼン爺さんが道の先を指差した先には、柵で覆われた中で、何人かの人が働いているのが見える。

 同時にかーん、かーんという木を切る斧の響きも聞こえてくる。

 

「あれ、フェルゼンさん、引き取りは明日ではなかったっすか?」

 伐採場に到着すると、一人の日に焼けた体格のいいおっさんが、タオルで汗を拭きながら近づいてきた。

 うは、見るからに汗むさいわね。


 おっさんはこちらをちらりと見たけれど、荷車は見慣れているのか、私には特に興味は示してこない。

 なんか悔しいわね。

 

「戻る途中で珍しい荷車ゴーレムの持ち主と知り合ったのでな。予定よりも多く引き取らせてもらうぞ」

 フェルゼン爺さんの言葉に、おっさんは怪訝そうな表情を見せる。

「そりゃ構わないですけれど、その荷車に積める量なんて、たかが知れていますぜ」 

 うわあ、何よあの爺さんのしたり顔は。ドヤ顔ってもんじゃないわよ。


「おお、紹介が遅れたな。この少年が荷車の持ち主であるセラフィ君じゃ。こいつは伐採場を経営しているバオムじゃ」

「ボクはセラフィです。こちらはモモちゃんとジョナサンです」

「はあ?」

 バオムというおっさんは怪訝そうな顔をしている。

 どうやらセラフィが私達を名前で呼んだのに違和感を感じているらしいわね。

 

「フェルゼンさん、細かいことはどうでもいいっすけれど、荷車に名前をつけるのが街の流行りなのですかい?」

 いよいよドヤ顔だよこの爺さんは。性格悪いね。

 

「まあ見ていろバオム。それじゃセラフィ、お主のゴーレムを元の姿に戻してくれるかの」

「はい! それじゃモモちゃん、ジョナサン、お願い」

 わかったわ。とりあえず目の前のおっさんの鼻を明かしてあげましょうね。

 

 私は元のサイズに戻ると同時に、バオムのおっさんに声を出して挨拶してやった。

 

「こんにちは、むさくるしいバオムさん。私はモモちゃん。名前があって悪かったわね!」

「こんにちは、バオムさんとやら。私はジョナサン。狭い視野でモノを語ると頭が悪そうに見えますよ」


「なんだあ!」


 びっくりどっきりバオムさん。

 あーあ、フェルゼン爺さんは我慢できずに噴き出しちゃったよ。

 セラフィは訳がわからないような表情を浮かべながらも、とりあえずニコニコしているわね。


「ちょっと待って下さいよ! いまこの巨大化した荷車、喋りましたかい? 俺のことを『むさくるしい』って言いましたかい? 『頭が悪そう』って言いましたかい?」


「ごめんなさい」

 あー。セラフィは謝らなくてもいいのよ。確かに初対面の方には失礼だったわよね。それじゃジョナサン、テイク2と行きましょう。

 

「こんにちはバオムさん。私はセラフィのエージェントゴーレム。名前はモモちゃん」

「失礼しましたバオムさん。私はサブエージェントのジョナサンと申します」


「何い! この巨体、この形状でデュアルエージェントゴーレムだと!」


 今度こそ本気で驚いた様子のバオムさん。

 

「そうじゃ、珍しかろう」


 なんで爺さんが自慢げなんでしょ。まあいいわ。

 などと一通りおっさんにドッキリを仕掛けてから、私達は伐採場の保管庫へと向かったんだ。もちろん私は元のサイズでね。


 目の前には薪の山がそそり立っているわね。

 その隣には建築用かしら。大きな角材も並んでいる。

 それで、どれを運べばいいのかしら。

 

「当初のご注文は薪を百束でしたが、どうされます?」

 興奮がやっと冷めたのか、バオムのおっさんがフェルゼン爺さんに確認を求めてきた。

「セラフィよ、お主のゴーレムには何束ぐらい乗せることができるのじゃ?」

 そんな難しいことを幼い少年に聞くか爺さん。


 セラフィもそんな情けない表情をしないの。堂々とお姉さんに聞いてごらん。

「ねえモモちゃん、モモちゃんなら何束ぐらい運べそうなの?」

 素直でよろしい。

 

 うーん。ざっと見たところでは一束は多めに見積もっても十五キログラムってところかな。そしたら……。

「千束は余裕かな。あ、でもカサ負けしちゃうかな」

 カサ負けというのは、重さよりも容積がオーバーしてしまうこと。

「そしたら五百束くらいかな」


 そうセラフィに教えてあげると、セラフィは一瞬驚いた様子を見せた後、自慢げにフェルゼン爺さんとバオムのおっさんに振り返ったんだ。

 

「五百束は余裕で行けるって! 荷台からあふれなければ大丈夫だよ!」

「最低で馬車五台分だと!」


 バオムのおっさんはさすがに驚き疲れた模様です。

 フェルゼン爺さんも積載量を聞いて驚いているわね。うふふ。


「その量だと積みこむのも降ろすのも一苦労ですよ。それにこの荷台の高さだと持ち上げるのだけでも相当な労力がいりますが」

 そう来ると思ったわよ。それじゃあセラフィ、このコマンドを唱えてみてね。

 

「モモちゃんなら大丈夫だって。今から大きなかごを用意するから、それに入れてくれたらクレーンで積みこむから心配しなくてもいいんだって!」

 それじゃセラフィよろしく。

「モモちゃん行くよ! 『メイクパッキングツールズ・メッシュコンテナ』!」

 セラフィの声に合わせ、私もコマンドを唱える。

 

 ぽん。

 

 そこに現れたのは、縦横高さ各々一メートル位の金網でできた箱。移動に便利なように、箱の下にはキャスター四つ付き。

 

「それじゃその箱に薪を入れてください」


 セラフィの声に、私達を取り巻いていた不思議そうに眺めていた作業員のおっさんたちが、慌てたよう様子でコンテナに薪の束を入れてくれる。

 箱はすぐにいっぱいになった。

「それじゃ、モモちゃんお願い!」

「わかったわセラフィ。危ないから皆さんをどけてね」


 私はクレーンにぶら下げたフレキシブルコンテナバッグを一旦邪魔にならないところに置き、次にクレーンのフックにワイヤーを二本取り付ける。

 そしたら2本のワイヤーをコンテナの下に通してフックがけをしてから持ち上げる。

 

 ういーん。

 

 荷台の上に来たら、補助シーブの先についたフックをコンテナの底に引っかけてから巻いてあげる。

 補助シーブというのは、軽い荷物を高速で扱うときに使用する予備のクレーンみたいなものなの。

 そうするとコンテナはワイヤーで吊られたまま、斜めになっていき、中に入れられた薪を荷台に転がしていくのよ。

 ここまでわずか数分の作業。


 この作業を十数回繰り返したところで、無事に五百束の薪は荷台に積み込めました。

 作業員さん達から送られるあこがれのまなざしが心地よいわ。

 

「こりゃあすごい。フェルゼン商会もとんでもない荷車を手に入れましたね!」

 バオムのおっさんも素直に感心してくれている。

「ところで、あの袋は何ですかい?」

 どうやらバオムのおっさんはフレキシブルコンテナバッグにも興味を持ったようです。


「なに、賊の死体じゃよ。途中でわしらを襲ってきたのでの。ヴィルトが返り討ちにしてやったぞい」

 どうだ驚いたか?

 って、嫌ねえ。さっきとは違って冷静なのね。一応人死(ひとし)になのにさ。

「どれどれ」

 何よおっさん! 勝手に袋を開けないでよ。うわあ、死体をほじくり返しているわよこのおっさんは!

 

 おっさんはすっかり血まみれになった両手をまるで手洗い後のように前掛けで拭っている。

「こいつら、農場荒らしでお尋ね者になっている連中でさあ。確か金貨五十枚の懸賞がかかっているはずですぜ」

 うはあ。

 金貨五十枚というと、日本円で約五十万円かあ。

 ……。

 思ったよりも少ないわね。

 

「まあそんなところじゃろ。この子には刺激が強すぎるから身ぐるみは剥いでおらんがな」

「なら俺達で剥ぎましょうか? 山分けで」

 すごい申し出ね。

 セラフィも困ったような表情を浮かべている。

「なあに、すぐですよ。気になるのなら作業場に袋を運び入れてくれれば、ぱぱっとやっちまいまさあ」

 やる気満々なのね。

 それじゃお願いしようかセラフィ。

「ねえモモちゃん、その間モモちゃんに乗っていてもいい?」

 いいわよ。

 

 クレーンで死体入りフレキシブルコンテナバッグを作業場に持ち込んだ後、セラフィはキャビンのベッドにもぐりこんでしまった。 すぐに寝息が聞こえてくる。

 そうよね。今日は色々とあったものね。


「なんじゃセラフィ、お疲れか?」

「主はお昼寝中故、世間話なら我々がお付き合いします」


 こうしてバオムのおっさんたちが賊どもの身ぐるみを剥ぎ、洗い、きっちりと鑑定を済ませるまでの間、私とジョナサンはフェルゼン爺さんから色々な話を聞かせてもらったの。

 

 ホント、物識りでお喋りなじじいって便利だわ。


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