襲われました
私達はフェルゼン爺さんの案内で『伐採場』というところに向かって行ったんだ。
最初は通常サイズでセラフィを運転席に乗せていたのだけれど、余りにフェルゼンさんがちらちらと振り返るので、セラフィもいたたまれなくなったみたい。
結局セラフィを降ろした後、私も『収縮』で荷車サイズになってから、フェルゼンさんの爺さんに並んでいく。
フェルゼン爺さんもセラフィに気を使っているのか、キャビンの後ろに立っているセラフィに、たわいもない会話を投げかけてくれている。
「ところでモモちゃん、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんでしょうかジョナサン?」
「さっきの作業で、レベルアップをしていますよ」
「あれま」
それじゃ、セラフィがご機嫌なうちに確認しちゃうとしましょう。
まずは作業によるスキル解放。
『衝撃無効』
これは『衝角生成』を使用したおかげかしら。
打撃無効が鈍器による攻撃を無効化するのに対し、こっちは大質量による圧力を無効化するらしい。
違いがよくわからないわね。
次にレベルアップによるスキル解放。
『台車成型追加2』
これで被牽引車両をもう一台追加登録できるようになったの。
ダンプトレーラーの汎用性が高いから、まだまだ使用しないかもだけれどね。
『梱包道具生成』
これは、あらかじめ積載していたワイヤーロープ、ナイロンスリング、レバーブロック、シート以外にも道具を準備できるスキル。 地味に便利なこと請け合いね。
で、これはいったいなんでしょ?
『魔術装備追加』
「どうやら魔法を一種類、身につけられるようになるみたいですね」
「どうやってだろ」
「さあ?」
いざという時に頼りにならないわね。ジョナサンは。
まあいいか。
とりあえずすぐに必要なスキルでもないみたいだし、様子を見てみることにしましょう。
そんな感じで道を進んでいくと、突然犬ゴーレムのヴィルトが立ち止まり、鼻先を持ち上げて何か臭いを確認するようなしぐさを見せたんだ。
「どうしたの?」
セラフィの不思議そうな表情にフェルゼン爺さんが教えてくれる。
「どうやら獣か魔物が近くにいるみたいじゃの」
うへえ。
爺さんは呑気そうな表情だけれど、大丈夫なのかしら?
「大丈夫じゃよ。獣にしても魔物にしても、街道付近までは寄ってくるが、そうそう襲ってきたりはしないからの」
本当かな?
って、ヴィルトがいきなり唸りだしたわよ!
これってどういうこと!
って、何か現われたじゃないの!
「おや、珍しいこともあるもんじゃの」
「ちっ。ばれちまったか」
ヴィルトが唸りながら威嚇している林の中から変な連中が姿を現したんだ。
手に手に物騒なものを持ってね。
それになんか変な生き物も一緒にいるみたい。なにあの樽に木の枝が生えたみたいなのは。
「何じゃお主ら、さっきの峡谷で見かけた顔じゃの」
そうなの?
「爺いの癖に記憶力がいいな。まあいい。用があるのはそっちの『髑髏巨人』の方だからな。爺さんは先に行っていいぞ」
何よそれ。
もしかして私達に用なのかな?
すると団体さんの頭目らしき体格のいい片目のおっさんが下卑た笑顔で猫なで声をあげてきたんだ。
「なあお嬢ちゃん、そのゴーレムをおじちゃん達に譲ってくれないかい?」
お嬢ちゃん?
セラフィはぽかんとしている。
そんな表情にちょっとおっさんはいらついたみたいね。
「もしかしてお嬢ちゃんはお馬鹿さんなのかな?」
するとセラフィは、お嬢ちゃんって誰だろときょろきょろしだしたの。
横ではフェルゼン爺さんが噴き出しそうな表情で口を押さえている。
そんな様子を、どうやらからかわれたと勘違いしたのかしら。
頭目さんの顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。
「そうかいそうかい。そんなふざけたお嬢ちゃんはいいところに売っぱらっちゃおうね。それから爺さんは今死ね!」
続けて頭目が右手をあげると、数人の男達と変な生き物が武器を振り上げながら一斉に襲いかかってきたんだ。
「モモちゃん!」
「わかっているわよジョナサン!」
私はコントラクトを解除すると同時に、ナイロンスリングを操ってセラフィの身体を持ち上げ、一旦ダンプトレーラーの荷台に降ろす。
「セラフィ、ちょっとそこで待っていてね!」
「モモちゃん、次はワイヤーロープを!」
「そうね、賊は縛っちゃいましょう!」
私はキャビンの背後からワイヤーロープを二本伸ばし、賊に向けていく。
あれ?
でも、私のワイヤーロープは空を切ったんだ。
何故なら、既に賊は全員倒れていたから。
「へえ、貴様らは触手を使うのじゃな」
爺さん、これは触手じゃないけれどね。ところで何が起こったのかしら。
って、賊どもは全員が喉のあたりから鮮血を噴き出している。
樽に木の枝が生えたような化物は、ヴィルトの前足で抑えつけられ、頭のようなところを噛み砕かれている真っ最中。
もしかして……。
「ヴィルトは戦闘用の特注ゴーレムじゃからのう。久しぶりにゴミ掃除ができたの」
うへえ。
賊は頭目をはじめとする全員が全員、ヴィルトの顎によって、一瞬のうちに喉笛を食いちぎられていたんだ。
よかったわ。今の私に喉笛がなくて。
するとバキバキと音を立てて噛み砕かれた化物の姿が、徐々に薄れていく。
私の背中ではセラフィが顔を真っ青にしながらも、目をそらさずに目の前で起きている出来事をつぶさに見つめている。
そうね、この世界では人が死に、人を殺すのは珍しくないのかもしれない。
少なくともフェルゼン爺さんの平然とした様子を見るに、人を殺すのに躊躇がない世界だというのは伝わってくる。
「ほう、材木人形か」
「ウッドゴーレム?」
私の背で、恐る恐るヴィルトの足元を見つめているセラフィがフェルゼン爺さんの言葉を繰り返した。
「そうじゃよ。構成体に木材を使用した、比較的安価なゴーレムじゃ。どれセラフィ、こっちに来てごらん」
「お願いできる、モモちゃん?」
はいよ。
私はナイロンスリングを腰かけ型に曲げてあげると、そこにセラフィを座らせて、そのままヴィルトの足元までスリングを伸ばしてあげる。
ぴょんと飛びおりたセラフィにおいでおいでをした後、フェルゼン爺さんが消えてゆくウッドゴーレムを指差した。
私もコントラクトで小さくなっておこうかな。
「ほら、ここに結晶ができておるじゃろ。これが万元素結晶じゃよ」
ウッドゴーレムの姿が薄れていくのと反比例するかのように、結晶化は進んでいく。
まもなく、小さな青い宝石が残され、ゴーレムは完全に消えてしまった。
「ほらセラフィ、お主にこれをやろう」
フェルゼン爺さんは宝石をセラフィに握らせると、笑顔を見せる。
「いいの?」
「戦利品じゃよ。売れば金貨五枚にはなろうて」
「ありがとう!」
よかったねセラフィ。
ところで、賊どもの死体はどうするの?
「このまま放置でも獣どもが片付けてくれるだろうが、官憲に届ければ多少賞金は出るかも知れんぞ」
へえ。死体でもいいのか。
賞金が出るならここは稼いでおきたいところよね。
「セラフィ、こちらお持ち帰りしてもよろしいですか?」
ジョナサンの問いにセラフィは露骨に嫌な顔をする。
それはそうか。死体どもと一緒に移動はさすがに気持ち悪いよね。
「それじゃ、見えなくすれば大丈夫かな?」
私の確認に、セラフィは覚悟を決めたように頷いた。
「ならこうしましょう」
まずは覚えたてのスキルを解放。
「『メイクパッキングツールズ・フレキシブルコンテナバッグ』!」
フェルゼン爺さんから死角になるところに、私はまずフレキシブルコンテナバッグをこしらえた。
これは大きな袋状になっている梱包道具。本来の用途は穀物粉末やプラスチックペレットなどを運ぶのに使うものだけれど、土嚢とかにも使えて便利なの。
そしたらセラフィに『ジェネレイトクレーン』を唱えてもらう。
これはフェルゼン爺さん対策なの。
私の意思でこんなのが出し入れできちゃうのはおかしいものね。
セラフィに合わせ、私自身もコマンドを唱える。
するとキャビンの背後におなじみのトラッククレーンが出現する。
「ほう、『装備生成』も装備しておるのか」
爺さんの様子を見るに、装備生成はアリみたいね。
それじゃセラフィ。これこれこうするように命じてくれるかな。
「わかった、モモちゃん」
その後、私はセラフィの指示に従うようなふりをしながら、ワイヤーロープを使って賊の死体をフレコンバッグに次々詰めていき、口を閉じてからクレーンに吊るして私の背後に持っていく。
これなら気にならないでしょ?セラフィ。
「ありがとモモちゃん」
もう、お姉さん照れちゃうからやめて。




