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お爺さんとはさみは使いよう

 私達の前には魔法使いの兄ちゃんとゴーレム使いのお爺さんがいる。

 さて、この場をどう言い逃れしようかな。

 どうやら二人とも私に興味津々の模様。

 いやん、そんなに見つめないで。

 

「このゴーレムは坊ちゃんのお爺さんがこしらえたって言っておったよな?」

 お爺さんからの質問には、まずはジョナサンと私がセラフィに代わって対応する。


「幼い少年にいきなり語りかけるのは感心しませんね」

「事案発生だわ」


 開き直った私達は、ひたすらセラフィの護衛を演じることにしたんだ。

 なお、セラフィには何を聞かれても知らぬ存ぜぬを通すように事前に言い含めておいたの。


「おふぅ、なんとも優秀なエージェントシステムじゃの」


 さすがは年の功。『事案」と脅かされて一瞬腰が引けた兄ちゃんとは年季が違うところを見せてくる。

 堂々としたものね。


「しかし、独特なボディの造形に加え、デュアルエージェント搭載とは、これまた珍しい。きっと坊ちゃんのお爺さんは高名なゴーレムマイスターなのであろうな」


「デュアルエージェント?」

 聞きなれない言葉にセラフィはつい小首をかしげて繰り返してしまう。


「デュアルエージェントというのはの、複数の思考体系をゴーレムに登録する技法じゃよ」

 ナイスセラフィ。これでお爺さんは勝手に色々と喋ってくれるわ。


 使い勝手を考えると最もコストパフォーマンスに優れているのは、このお爺さんが連れている犬ゴーレムのような「使役人形サーバントゴーレム」なんだそう。

 一方、サーバントゴーレムに対する代行人形エージェントゴーレムの長所は、『目的に沿った自律性オートノミー』にあるんだって。


 エージェントゴーレムは、製作者が登録した思考体系の範囲内で、ある程度のイレギュラー処理ならば自ら判断して対応する。

 具体的にどういうことかというと、術者が必ずしもその場で細かな指示を出さなくてもよい。つまり術者から離れることが可能。

 なのでエージェントゴーレムは、例えば私達が詐称さしょうしているような『制作者以外の護衛」などに向いているんだってさ。 結果オーライだわ。


 が、実は短所もあるそう。

 それは製作者がエージェントゴーレムに登録した思考体系の目的と、使用者の命令が矛盾を引き起こす場合に発生するんだって。

 難しく言うと、自律性がショートするらしいんだ。


 例えば先ほどの落石除去作業は、護衛のエージェントゴーレムならば本来使用者の命令に従うはずがない。

 なぜなら、使用者であるセラフィの命令に従ってしまうと、護衛目的であるセラフィを危険に晒してしまう恐れがあり、これは製作者が意図する思考体系と矛盾してしまうから。


 そこで登場するのがデュアルエージェントシステム。

 これは、第二の思考体系をゴーレムに登録するものだとのこと。

 お爺さんが行った勝手な分析によると、私達に登録された第二の思考体系は『調整行為』なんだってさ。


 こうやっておくと、使用者の命令とエージェントに登録された一つ目の思考体系に矛盾が発生した場合に、二つ目の思考体系がその矛盾を回避し、最適な行動を選択するようになる。

 例えば、先程の作業では、セラフィとその周辺の安全を確保した後、いったん彼を私達の背中から降ろしてあげることなど。


 でも、こうして言葉にするのは簡単だけど、実際には様々な場面を想定しての対応を二つ目の思考体系に登録させる必要があるんだって。

 こうした、主にコストと製作者の解析能力の問題から、デュアルエージェントシステムを持つゴーレムは、一般には普及していないそうなんだ。


「このような賢いエージェントを孫に持たせることができるとは、ゴーレムマイスター冥利に尽きるの」


 ちなみにお爺さんはゴーレムマイスターではないらしい。連れている犬型のゴーレムは特注だそう。


「私はこのゴーレムの造形と、岩を砕いても平気な剛性に興味がありますよ」


 へえ、魔法使いの兄ちゃんはそっちに興味を持ったのね。

 これは困ったわ。私もジョナサンもゴーレムの種類や魔法についてはさっぱりだもの。


 ところが、ここもお爺さんがフォローしてくれる。お喋りのお爺さんはこういう時に重宝するわよね。


「ゴーレムの造形は確かに珍しいの。よりによって『髑髏巨人スカルジャイアント』を模しているとはな。しかし、これも孫を守るために威圧感を持たせると解釈すれば十分アリであろう」


 ホント、このお爺さんはいい人ね。

 お爺さんの話だと、ゴーレムで最も多い型は『人型』、それに続くのは、牛や馬を模した『畜獣型』なんだって。

 これは汎用性を重視するためなんだそう。

 なお、お爺さんの犬ゴーレムも珍しい分類に入るらしいわ。


 お爺さんの解説は続く。

「防護については、多分土魔法の一つである『物理防御フィジカルレジスト』をゴーレムに定着させておるのじゃろう。この分だと水魔法の『魔法防御マジカルレジスト』と風魔法の『遠隔防御ミサイルレジスト』もな。なんとも孫想いの御人おひとじゃよ。羨ましいほどにな」


 ちなみにお爺さんが羨ましいのはセラフィじゃなくて、セラフィのお爺さんのことだ。架空のね。

 多分このお爺さんは孫に恵まれていないのだろうな。


 ということで、犬ゴーレムを連れたお爺さんが勝手に私達の分析をしてくれたおかげで、今後私達は堂々と『各種魔法抵抗を持つデュアルエージェントシステム搭載のエージェントゴーレム』を名乗ることができるようになりました。

 ちょっとかっこいいね。


「ところで坊ちゃん達はどこに向かっているのかな」

 唐突に尋ねてきたお爺さんにセラフィは口ごもってしまう。


「あ、あの、あのね……」


 と、ここですかさずジョナサン登場。

「主は見聞を広げるための旅を続けておりますゆえに、明確な目的はあえて定めておりませぬ」

 うわあ、有能な執事みたいね。さすがよジョナサン。

 それじゃ私も頑張ろうっと。

「要件があるにゃらば申してみょろ……」


 ……。噛んじゃったわ


 笑うなお爺さん、兄ちゃん。

「これは何とまあ人間らしいシステムじゃの」

「ますます興味がわいてきましたよ」


 うるさい。セラフィも一緒になって笑ってるんじゃないわよ。

 

 ……。


 でもここはチャンスタイムね。このお爺さんの知識はできるだけ引き出しておきたいわ。

 ちょっとセラフィ、耳を貸しなさい。

 

 私達はその気になれば直接セラフィに語りかけることができる。

 目の前のお爺さんとお兄さんに聞こえないようにね。

 

 さて、ちゃんと言えるかな?

 

「ねえお爺さん。犬ゴーレムさんって『巨大化ギガンティック』したよね?」

「おうよ」

「なら、小さくすることもできるの?」

「こいつは無理じゃが、できるゴーレムもあるにはあるぞ。余り必要はないがな」


 へえ、できるんだ。それじゃ勝負してみましょうか。セラフィ、続けてお願い、

 

「それって『収縮コントラクト』?」

「良く知っておるの。そうじゃよ」


 ここでお爺さんの長話がリスタート。

 

『ギガンティック』にしろ、『コントラクト』にしろ、まずはゴーレムの基本素材に特別なものが必要なんだって。

 それは『万元素マテリアニウム』という特殊な元素。そう、私の身体にも使われている元素のこと。

 ゴーレムは『万元素結晶マテリアニウムクリスタル』を核として作られるのだけれど、ギガンティックやコントラクトを使用可能にするには、この核を通常よりも多く使用しなければならないそう。


 そんな訳で、この二つのコマンドを使えるゴーレムも、一般のゴーレムよりも高いコストがかかる。しかもギガンティックとコントラクトは両立しないんだってさ。

 ただ、ギガンティックにしろコントラクトにしろ、コマンド中はゴーレムの動作に何らかの制限がかかるらしい。

 もしかしたらコントラクト中に私のドアが開かなくなるのもそのせいかもしれないわね。


「元々いざというときのコマンドじゃからの。通常は『ギガンティック』が選択されるのじゃ。

『コントラクト』が選択されることはまずないの。『大は小を兼ねる』というじゃろ?」


 ふーん。

 もしかして、これって再チャンス?

 ねえセラフィ、試しにやってみようか?

「私も試してみるとよいかと思いますよ。いざというときはトンズラすればいいのですから」

 後半の言葉が下品よジョナサン。

 

 セラフィは意識内での三者打ち合わせの通りに、お爺さんとお兄さんに切なそうな表情を見せたの。

 続くセラフィの言葉。

「ごめんなさい、ボクは嘘をついていたんだ」


 ???

 

 きょとんとしているお爺さんとお兄さんにセラフィは続ける。

 

「あのね、モモちゃんとジョナサンはね、本当はギガンティックで大きくなったんじゃないんだ」


 目が点になって無言の二人。

 

「モモちゃん、ジョナサン、元の姿に戻ってよ」


 はいよセラフィ。

 どーん。

 

 はい、お爺さんとお兄さんが見事にひっくり返りました。

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