ドリルとダンプアップ
「それではセラフィ、打ち合わせ通りお願いしますね」
「いいとこ見せるわよセラフィ!」
「うん、がんばるよ!」
ジョナサンと私の激励にセラフィもやる気満々。
落石の前でため息をついている群衆の後ろで下打ち合わせを済ませてから、私達はお爺さんの犬ゴーレムと入れ替わるように前に出て行った。
それじゃセラフィ、頼むわよ。
私の背中に立ち乗りしているセラフィが、群衆の一人にわざとらしく問いかけてみる。
「あの岩を動かせばいいの?」
すると一人のおっさんが俺たちをまじまじと眺めながらため息をついた。
「あれさえなければ、後は人力でもなんとかなるのだけどね。ちょっとあの大きさの岩をすぐに動かすのは難しいかなあ」
「この子ならできるかもです」
キャビンの屋根を撫でるセラフィの言葉に群衆は一瞬ぽかんと静まる。
そして続く失笑。
「この子って、そのお買い物荷車かい?」
群衆の一人が何の冗談だといった表情でセラフィに聞き返した。
ここでいよいよ私達の出番。
「荷車とは失礼な。私は主の護衛である」
「おお!」
私のセリフに、どよめく群衆。
「へえ、荷車型の代行人形か、こりゃ珍しい」
群衆の注目が私に集まってくる。いやん、ちょっと恥ずかしいわ。
群衆の質問は続く。
「まさかとは思うけれど、これ、ボクが製作したのかい?」
「違うの。お爺ちゃんのエージェントゴーレムなんだ」
さすがにセラフィお手製だというのは無理がある。が、お爺ちゃん謹製というのは十分な説得力を持つ。
セラフィの説明に群衆は納得したように感心している。
先ほどの水魔法使いや犬ゴーレムの持ち主も、私達に興味津々みたいね。
「それじゃモモちゃん、がんばろうね。皆さん、危ないから下がってください」
セラフィは私の名を呼んでから、群衆に後ろに下がるように指示したんだ。
あちゃー。私の名前をつい呼んじゃったのね。でもまあ仕方がないか。ちょっと緊張しているみたいだし。
既に興味の対象を私に移した群衆は、セラフィの呼びかけよりも、私の次の動きが気になるみたい。
「それじゃいくね」
セラフィは私から飛び降りると、先ほどゲットしたセリフを叫んだ。
「えーい、『巨大化』!」
セラフィが発した『魔法少女チックな可愛らしい呪文』とともに、私の身体は巨大化していく。
もちろんこれは先ほどのゴーレム使いから拝借したダミーの呪文だけれどね。
ああん、セラフィにフリフリのワンピを着させてみたいわ!
「おおお!」
巨大化する私の姿に、群衆は歓声をあげながら見入っている。
元の姿に戻った私の姿に群衆は驚くばかり。
そう、高さ三.八メートル、幅二.五メートル、長さ約十メートルに巨大化した本来の姿に。
「それじゃモモちゃん、ジョナサン、準備はいい?」
「準備万端ですよ」
セラフィは興奮したのか、私の名に加え、ジョナサンの名前も呼びまくり。
ジョナサンもご丁寧に返事をしてるんじゃないわよ。
けれど、群衆やゴーレム使いのお爺さんも、別段疑問を持つような表情は見せていないので、ゴーレムに名前を付けること自体は珍しくはないのかもしれないね。
それじゃあ行きましょう!
ぶるるろおおおん!
私はエンジンをふかし、一気にクラッチをつなぐ。
グヴヴロオオオン!
強力なトルクを与えられた私の両輪はがっちりと地面をつかむ。
その勢いのまま、私達は前方の落石に突っ込んでいく。
「モモちゃん、間もなくです!」
「わかったわジョナサン!『衝角生成』!」
コマンドと同時に、私の前面に雄々しい角が突きだす。
これは横から見ると尖った円錐型。正面から見ると星形を成している。
あら、勢いよく回転し始めたわ。これじゃあラムじゃなくて『ドリル』ね。
何よあのセラフィのキラキラした瞳は。
そうよね。男の子にとってドリルはロマンよね。私にはいまいちわからないけれどさ。
次の瞬間、私達は轟音とともに落石にぶち当たったんだ!
どっごおおおおん!
辺りは一斉に土煙に包まれ、周辺に砕けた小石が降り注ぐ。
お買い物荷車サイズに戻った私は、人々にばれないようにラムを消してから徐行でセラフィの元に戻ったの。
それを人々は拍手で迎えてくれる。口々に私達を讃えながら。
が、まだまだ仕事は残っているわよ。さあセラフィ、もう一息ね。
セラフィは再び私の背中にちょこりと乗ると、群衆に向けて笑顔を振りまいたんだ。
「それでは片づけます。手伝っていただけますか!」とね。
砕いた石は大人二人がかりくらいで何とか持ち上げることはできる。
が、それを抱えながら邪魔にならないところまで運んでいくのは結構難儀な仕事。
でも今現在、私にはこの台車が接続されている。
『ダンプトレーラー』がね。
「この子の荷台に石を入れてくださーい」
セラフィが何を言っているのか人々は気づいたようだ。皆がこちらに駆け寄ってきてくれる。
「いいのかい? こんなに乗せても?」
「降ろすのが大変じゃないかい?」
「重くないかな?」
などとセラフィと私のことを心配しながら、人々は拾った石をダンプトレーラーに乗せてくれる。
でも大丈夫。だってこれこそがダンプトレーラー本来の仕事だから。
よし、そろそろ運びましょう。セラフィ、準備いいかな?
「それじゃ一度岩を降ろしてきます!」
セラフィの言葉に合わせて、私は背にセラフィを乗せ、徐行しながら道の端まで移動し、邪魔にならないところで一旦停止した。
続けて降ろし作業をやってくれようとする人々をセラフィに制止させる。
「あ、大丈夫です。降ろすのはこの子が一人でできるから! 危ないので離れてください」
はい、よくできました。
ちゃんとセラフィはジョナサンの言うとおりに皆に伝えてくれる。
あら、やばい、ゴーレム使いのお爺さんが何かに気付いたみたいだわ。
もしかしたらジョナサンのことがばれたかも。
まあいいでしょ。それでは本日のメインイベントと行きましょう。
「ダンプアップ、いきまーす!」
セラフィの掛け声に合わせ、私は油圧シリンダーに謎の元素エネルギーを送り込んであげる。
ごろんごろん。
「うおおおおおおお!」
石が転がる音に合わせ、人々からの大歓声も沸きあがる。
私は砕石が積まれた荷台をゆっくりと斜めに押し上げ、後方から石を転がし落としたんだ。
この動作が『ダンプ』の由来なのよ。
指示した当のセラフィもぽかんとしながらダンプトレーラーの挙動を見つめている中、私は石をすべて転げ落とし、荷台をゆっくりと元に戻してあげる。
「次ですよセラフィ」
既にジョナサンは周りの目を気にすることもなく、いつもと同じようにセラフィに語りかけているわね。
はっと我に返ったセラフィは、嬉しそうに私のキャビンをペチペチと叩いた後、群衆に聞こえるように大きな声を出した。
「モモちゃん、ジョナサン、もう少しだよ!」
興奮しちゃって完全に打ち合わせが吹っ飛んでいるわね。
何か言い訳を考えておきましょう。ね、ジョナサン。
数度の往復で、落石はきれいに片づけられた。
人々は私達にお礼を言いながら旅を再開させていく。
中には「少ないけれど気持ちだと思ってね」と、セラフィに銀貨やちょっとした品物をプレゼントしてくれる人もいたの。
そして最後の二人。
「ちょっといいかな?」
「ちょっといいかの?」
はい、覚悟してました。
二人とは水魔法使いの若者とゴーレム使いのお爺さん。




