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私が転生するのかい!

 時計の表示は午前二時。


 私は愛用のスマホをカーナビに接続し、お気に入りの音楽をガンガンに流しながら深夜の高速道路を疾走している。

 とはいっても、私の愛車は『トラクタヘッド』だから、最高速度は時速八十キロに制限されているのだけれどね。


 私から見ると、パンピーの乗用車はもちろん、大型トラックやダンプカーなんかも可愛いもの。

 だから奴らがあせって私にパッシングしてきたり、無茶な追い越しを仕掛けてきても、私は大人の心で許してあげる。

 そう、私と私の愛車は車両総重量四十トンをも超える陸の王者。せいぜい一トンから二トンの乗用車はもちろん、たかだか二十数トンしかないようなトラックやダンプですら、私達にとってはガキ同然なの。


 でもね、逆を言えば、私と私の愛車が万一事故を起こすと、私達は必ず加害者になってしまうんだ。

 例え相手が衝突してきたとしても、私達の圧倒的な質量によって相手の方が粉々になってしまう。

 だから私達プロは心にこう刻んで走るのさ。


「もらい事故でも事故は事故」


 誰も殺さない、何も壊さない。そのために周囲に気を配りながら安全運転を心がけているんだ。私たちは。


 でもね、さすがの私にも予想できなかったよ。

 まさか闇に沈んだ歩道橋から突然人が飛び降りてくるなんて……。


 私は慌てて急ブレーキを踏んだよ!

 愛車は自らの車輪と、牽引しているセミトレーラーの車輪から、ゴムと金属をこするような轟音を立てる。

 

 止まれー!

 

 ……。

 

 ぎりぎり間に合った。


 でもね、同時に私の背筋に悪寒が走る。


 後ろでワイヤーロープがはじけ飛ぶ音が響く。

 同時に背中から襲う圧倒的な圧力。

 私は思い出した。

 そうだった。今日はビルの骨組みに使う鉄鋼の柱をたくさん積んでいたんだった。

 

 次の瞬間、柱は愛車の背面を貫き、私の身体に襲い掛かったんだ。



 気が付くと真っ暗闇。


 頭がガンガンする……。

 何かを叫びかけられ、何かを聞かされているようなのに、圧力が強烈で聞き取ることができない。

 ただただ、身体を襲う振動にひたすら脳を揺さぶられているよう。


 うっ。

 

 身体が一気に投げ捨てられるような気持ち悪さが襲ってきた。


 うええ……。


 どうしちゃったんだろ私?


 どうしちゃったんだろ……。


 なんて疑問も晴れないまま、私の意識は再び黒く塗りつぶされてしまった。



 頬に何かがぽつぽつと当たっている。


 ん?


 雨かしら……。


 あれ?


 私、何をしていたんだったかな?


 ……。


 そうだ、急ブレーキを踏んで、その前に空から人が降ってきて、そんで後ろからワイヤーが切れる音が響いたんだった。


 あれ?


 もしかして、私って死んだ?


 でも、頬に当たっているのは確かに雨だよね。ちゃんと冷たいし、ぽつぽつしているし。


 もしかしたら生きているの私?


  身体に痛みは感じない。


 もしかしたら奇跡が起きたのかな?


 ゆっくりと目を開けてみると、そこは漆黒に包まれた世界だった。

 いや、ちょっと違う。空には田舎ならではの星の瞬きが見える。ああ、きれいだなあ。

 でも、やけに静かだよね。

 私が走っていたのって、高速道路だったよね。

 それなのに、車が走っていく音を始め、何の音も聞こえない。

 もしかして私、事故の衝撃で耳をやられちゃったのかな?


 試しに上体を起こしてみようとする。

 と、なぜか視線だけが前を向いたんだ。

 あれ? 首とか背中とか腰とか動いていないよね、今。

 相変わらず雨が頬を打つ。

 うっとうしいなあ。

 私は頬に当たる雨粒を手でぬぐおうとしたんだ。

 だけど、動いたのは手じゃなかった。


 しゅこーん。しゅこーん。


 あれ?


 頬の雨はぬぐえたけれど、今のって手の感覚じゃない。

 どちらかというと、ゴムベラかなんかでやさしく頬をこすられたような感じ。


 とりあえず立ってみよう。

 よっこらせっと。


 ぶるるろおおおん!


 あれ?


 これってエンジン音だよね。って、立った感覚が全くないんですけれど。


 ところで、立ってないのに何で動いているの私?


 何なの、この足元を支える安定感は? このスムーズな移動は?


 って、周りの見え方がおかしいよね?

 なんで私、自分の真後ろが見えてんの?

 って、目の前のこれって、トラクタとトレーラをつなぐ連結器カプラーだよね。

 なんでこんなのが見えてんの?

 もしかして私、トラクタヘッドの上に乗っているの?

 でも、視線を下げると今度はおなじみの運転席だよ。


 そっか、ここは愛車の車内ってことか。


 ……。


 いやいやいやいや、なんで車内から連結部分が見えているの?

 トラクタヘッドに後部窓なんてないし。

 それに、なんで一瞬でトラクタの屋根から車内に目線が移動してるの私?

 明らかにおかしいでしょこれ?

 おかしいでしょ!


 しかしその後、私はそんなのすらどうでもいいおかしさに囚われてしまったんだ。


 私の姿が見えない!


 そう、私の視線に私の身体が映らない。

 手も足も胴も……。

 

 それからもう一つ私は重要なことに気付いたんだ。


 なんで私の愛車、動いてんの?

 だれも運転していないのにさ。


 ……。

 

 すると、カーナビの画面がいきなり点灯したんだ。

 続けて私の頭に響く声。


「ご質問があればどうぞ」


 ご質問って……。


 あの、私ってどうしちゃったの?


 するとカーナビは私にこう語りかけたんだ。


「あなたは転生しました」


 え?

 ちょっと待って、何よそれ!


「転生したのですよ、あなたは」


 意味わかんないです!


「だから転生したんですって!」


 何よそれ!

 

 あっ!


 私は以前読んだネット小説を思い出した。

 確かネット小説の流行は異世界転生。

 で、転生するきっかけは確か……。


「普通はトラックに轢かれて転生するものでしょ!」


 そう、ネット小説の流行は私たちプロドライバーにとっては虫唾が走るもの。

 トラックに轢かれて転生だとさ。馬鹿馬鹿しい。


 すると、カーナビは冷静な声で私に語り掛けたんだ。


「本来はその通りなのですが、今回はちょっとバグがありまして」

「なによバグって」

「実は、本来トラックに轢かれて死亡後に転生するはずであった勇者の命が、あなたのとっさの急ブレーキによって、助かってしまったのです」

 なんなのそれ。

 

 で?


「その代わり、急ブレーキで死んだの、あなたです」


 ……。


 身もふたもないこと言うわね君は。


「なのであなたが転生しました」


 はあ?


「ただ、転生の際に些細な行き違いがありまして」

 何よ些細なことって。


「勇者として転生するはずだった存在が死亡しなかったんです。実は神様、勇者候補を転生させるために彼を轢き殺す運命だったあなたが、向こうの世界で殺人罪に問われないように、気を使って色々と手を回していたのです。ところが、こともあろうにあなたの方が死んでしまったのです」


 それを些細なことと言うのかお前は。


 じゃあ私は転生勇者なのかよ。


「いえ、ですからちょっとした手違いで……」

 なんだよ。じゃあ、最近じゃお決まりの魔王に転生かよ。


「それもはずれです。実はあなた、魔法生物に転生したのです。あなたの世界で『トラクタヘッド』と呼ばれている存在に」


 ……。


 はあ?


「あなたは、魔法生物『トラクタヘッド』として、この世界に転生したのです」


 わけわかんないよ。

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