少年帰る。ケイの結末
二人がそんな会話をしている内に、いつのまにか暗闇だった森に、一丈
の光が差し込んできた。どうやら日が上がってくるようである。
「もう朝か・・・。」
少年はボソッと独り言のようにつぶやいた。もうこの森で命を断とう
という気持ちは彼には無かった。これからどのように自分は生きていけ
ばいいのか?という不安が心の中に雨雲のように覆っていた。
「もう朝になるか・・・。俺は会社に戻るとするか・・・。朝になると
君にはこの姿が見えなくなる。何か聞いておくことがあるか?」
「僕は・・。僕はどのように生きればいいんだよ!このままじゃ、戻っ
ても前と変わらない!不安なんだよ!せっかく帰っても、またここに
戻ってくるのかもしれない・・・。僕なんか・・ダメな人間だし、何の
取り柄もないし・・。ずっといじめられ続けられる人生・・。さっきの
話は聞いたけど、そんな風にプラスにならないんじゃないかって・・。
不安のほうが先に浮かんできて怖いんだ・・・。」
「だから駄目なんだ」
ケイはサラッと一言いった。
「どんな人間にだって、光るものは必ずある。それを君は知らないし、
気づこうとしてない。自ら命を絶つ人間は、自分は駄目だ、不安だと
マイナスのことだけ考えて絶望してしまう。その考え方がダメなんだ。
考えてみろ、今までだってそんな状況にあっても、今、君は生きている
。それだけでも立派なもんだろ。そこまで戦ってこれたんだよ。弱い
心と。もう少し自分を変える努力が出来れば君を取り巻く状況も・・。
早いか、遅いかはわからない。ただ「絶対」に変えることはできる。
信じるかどうかは君次第。ちなみに俺は元詐欺師だということを忘れる
な。」そういってケイはニヤリと笑った。
少年はその姿を見て微笑みながらこう言い返した。
「そうだったね。あまりにカッコイイこと言うから、危うく忘れるとこ
だったよ。僕もその言葉に騙されてみるかな・・。」
「そう、騙されてみるのも悪いもんじゃないぞ。俺みたいな心優しい霊
に出会って良かっただろう?」
「素直にウンとは言えないよ。だってアンタに騙されてここまで来たん
だからさ」
「そうだったか?そんなこともすっかり忘れてたな。なんせこちらの
世界に来てからは記憶がどうもぼやけていけないな。」
「都合いいこと言ってるな~。大人はこれだから困るよ」
「大人は色々考えてるんだよ。ただし霊だがな。俺は」
「僕、そろそろ帰るよ。でもここまでこれたけど、そう言えばここって
、道に迷うので有名なところだけど帰れるのかな?」
そう考えると少年はまた不安になってきた。
「しょうがないな。せっかく生きようとして帰る気になったのに、迷っ
て死んだんじゃ、元も子もないからな。」というとケイは、森の入口ま
での道筋を少年に教えた。
「これでなんとか帰れそうだよ。おじさんと話せて良かった。なんとか
頑張ってみる。色々いやな事はありそうだけど、プラスになる時を信じ
て。僕にだってあるはずだよね。輝ける場所が。」
少年の顔が心なしか気色ばんでいる。
「ある」
一言、簡潔にケイは言うとこう続けた。
「その場所がどこかなんて、俺は知らない。俺にとってはそれがそちら
でいう裏社会だったということだ。君にとって輝ける場所は自分を磨い
ていく中で見つかるだろう。さあ、さっさと行け。そして二度とここへ
はくるな。それが俺から送る最後の言葉だ」
「わかった。それじゃ!さようなら!ありがとう!」
少年はケイに教わった道に向かい走り出した。後ろを振り向かず・・。
「あ~あ。俺はなにやってんだろ。せっかくのカモを取り逃して・・。
これまでの仕込みが無駄になっちまった・・・。まあこの国には、自ら
命を絶ちたい人間がいくらでもいるから次探すとするか・・。」
ケイはそういうと会社へ戻った。
会社に入ると、社長が話したいことがあるとのことなので、行くように
との事だった。
(今日の案件がどうなったかの確認だな・・。理由はどうするかな?
まあ適当に言って誤魔化すとしよう)
社長室に入ると、社長が立ち上がって彼を手招きした。
「社長、今回の件なんですが・・。」
「わかっているよ。惜しかったな~」
誤魔化すも何も、この世界では彼の行動は筒抜けだった。
「99人よく君は、自殺志願者をこの世界へ引っ張ってきた。とても
優秀な人材だ。」
「ありがとうございます」
「そして君は約束通り、100人を達成することができた」
「????!!」
「やっと、君は当初の約束通り、人間として新たな生を受けることがで
きる」
「言ってることの意味がよくわからないのですが・・・。」
「あれ、最初に言っていなかったかな。契約書にも書いてあるだろう?
」
「自殺志願者を1人勧誘すれば1ポイント。しかし、自殺志願者を説得
して、生き延びさせるのは2ポイントというルールだよ」
「!!!!!!!!!」
「思い出したようだな。志願者を勧誘することばかり考えていたようだ
が、この自殺コンサルティングのもう一つの仕事は自殺志願者を説得し
、神との約束である生を全うさせることも含まれている。こちらの世界
の人間が説得するのは勧誘するより時間も手間もかかる分、ポイントは
倍になっている。」
「えっ?ということは私は・・・。」
「そう、晴れてノルマ達成だ。よく頑張った!」
というと社長は手を差し出したので、彼も手を出して力強く握手した。
もちろん、力は入ってないのだろうが。
「さて、これから申請しに行かなくてはいけないのだが、どこの国に
生まれたい?たしか日本以外と言っていたような気がするが・・。」
「そうですね。これから高度成長しそうな国に生まれたいですね。
自分のような人間も出番がありそうなんで・・・。」
「こんどは、悪いことはするなよ。ここでわかっただろう?」
「そのつもりですが、それは約束できません。なぜなら生まれたときに
その記憶は全て消えてしまうんで。ただ、自分らしく生きたいですね」
そういってケイは微笑んだ。
ポイントが倍になるなんて話聞いてない。と彼は思った。
彼は、社長にまんまと騙されたなとも思った。しかし、悪い気はしない
。一人の人間を助けて、なおかつ自分も新たな人生を歩むことになるの
だから・・・。