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自殺名所の営業マン(霊)??  作者: 井戸端 礼
7/10

法則と未練

「法則?何それ?」

少年は興味深そうに彼に対し、聞いてきた。

「その法則は・・、これもこの世界へ来てからわかったことなんだが、

人生を生きていく上で知っておくと、自殺したくなくなる。」

「死にたくなくなる・・・。そんなすごい事なら教えてよ!」

少年は真剣な眼差しでケイを見つめてそう言った。

「簡単なことだ。人生はバランス良くできている。このバランスという

ことが大事なんだ。つまり人生というのは一生バラ色の人生ということ

はありえない。逆に一生イバラの道を歩む人生というのもありえないん

だ。もちろん君達の世界のそのことを分かっている人間もいるには、

いるんだ。そしてそのことを話したり、本にしたりしているのだが、

大多数の人間は知らないか、聞き流しているのが実情だ。今、君は

この話を聞いて、納得できるかい?」

「正直、よくわからない。今の話から行くと、いいこともあるけど

悪いこともあるということでいい?当たり前のような気がするけどな」

「当たり前?それなら何故君は、この森で死にたいと思っているんだ?

そういうことがわかっているなら、君はここに来ないだろう?」

「それは、いつもいじめられて、家にいてもつらいし・・・。生きてい

くのがつらいからだよ・・・。」

「だから、今言っただろう?人生はいいことばかりじゃない。その逆に

悪いことばかりじゃない。つまり悪いことが続けば・・・」

「悪いことが続けば・・・・・・!!」

ハッ!と脳裏に感じることがあった。そういうことだったのか・・・。

「やっときづいたようだな」

ケイは彼の顔を見て、ニヤリとした。

「簡単なことだ。悪いことは永遠には続かない。いいときは必ずくる。

ただし、そのためには自分も成長していかなくてはいけない。今君が

その世界に生きているのは、君という魂のレベルを成長させる修行の

ようなものだ。いいことばかりでは人間は成長することはできない。

そのために、悪いことつらいことが起きる。逆に言えば、その試練は

必ず乗り越えられる。なぜなら成長させるための修行なのだから・・。

ただ今回の君のようにこの法則を知らない人間は、もうだめだ、とあき

らめて、生き続けるということを放棄する。その結果、取り返しのつか

ない結末となる。生き地獄という言葉は確かにその世界には存在する。

ただ、それに飲み込まれて死ぬことをこちらの世界は認めていない。」

「その法則が正しかったとしても、自殺した人達にとっては、その

状況をクリアするなんてことは不可能にしか思えないんだよ。僕もその

人達の仲間みたいなもんだから・・。」

「不可能という言葉で言えば、ナポレオンもいじめられっ子だって、君

は知っていたか?」

「ナポレオンって・・。名前は聞いたことあるフランスの人でしょ?」

「そう。かれはコルシカ島という田舎の出身でパリに来た当初は結構

いじめられたらしい。田舎者で背も小さかったからな。けど彼は勉強

して、自分を鍛えて皇帝にまで上り詰めた。」

「僕は皇帝になんかなれないよ。時代も違うし」

「皇帝になれといっているんじゃない。彼は称賛もあったが、非難も

それと同じくらいあったということだ。譬えて言えば、海へ行ったこと

あるか?」

「馬鹿にしないでよ!海くらい僕だって何度か言ってるよ」

「悪い、悪い。浜辺にいると海が波をあげているだろう。波にも大きい

波と小さい波がある。波の大きさというのは上げ潮と引き潮の大きさで

決まる。引き潮が小さければ波も小さくなるし、引き潮が大きければ

大きいほどぶつかりあったエネルギーが大きくなってビックウェーブと

なる。人生も、穏やかな人生というのは、大きい幸福もなければ、大

きい不幸もない。小さい不幸から大きい幸福というのは置きにくいもの

なんだ。逆に波乱万丈の人生なんてのは、色々悪いことは重なるが、

その分その反動で幸福も大きくなる。どちらがいいなんてのはその人間

達の価値観の問題だ。それに一人一人の人間にたいしてこちらの世界で

はこのように生きれとなんて指示はしない。守るのは最後まで寿命を

全うすることだけだ。だからその人間がどのような人生を送るのか、

それを決めるのはあくまでも自分自身ということだ。」

「僕は別に大金持ちとかならなくてもいいし、有名になる気もないから

穏やかに生きれればいいよ。」

「そう生きたければ、そのように生きればいい。そちらの世界でいう

草食系というやつだな。間違ってないんじゃないか?大事なのは君が

この人生の中で、どのように修行して成長するかなんだからな。」

「僕の今の現状も、これから変わる可能性があるということだよね?

これからはもっと良くなると思っていいんだよね!!」

「だから言っただろう。バランスがマイナスが多いなら、プラスになる

ようになっているんだ。それを信じるか信じないかは君次第だがな。」

そういうとケイは上空にある月を見上げた。

「夜はいずれ朝が来る。今までもこれからも。永遠に闇なんてことは

ないんだ。もし、これから家に帰るというなら、それで構わん。

せっかく生きているのに、自分でそれを放棄するなんてことは愚かな

事だ。俺はもっと生きたかった・・・。今よりもっと悪いことして、

迷惑な存在だったかもしれないが・・・。悔しくて泣いたことも一度

や二度じゃない。霊になっても涙は出るもんだ。触れないが・・。」

そういうと、ケイは黙ってしまった。次生まれたとしても、「今」の

自分にはもうなれないのだ。少年もそう思うと、こんな「自分」が

何故か愛おしく感じてしまうのである。




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