営業マン(霊)、どうするか考える
夜は深々と進んでいく月明かりが明るく彼らを照らしていた。
「おいどうした?急にだまりこくって?やっぱり死ぬのやめます。
なんて言うのか?そんなこと言っても無駄だぞ。今のお前では、この
樹林から抜け出そうにも、迷って息絶え絶えとなって死ぬのがオチ
だがな。」
ケイは彼にそういうとフンと鼻をならした。どちらにしても生きてここ
から出られることはないのだ。それならこの俺のノルマ達成のために、
速やかに往生してほしいものだ。彼はそのように考えていた。一方、
少年は黙ったまま、目を閉じている。何分時間が経っただろうか?
彼は眼を開けると、笑顔でケイにこう言った。
「おじさん。ありがとう。」
「ありがとう?何を言ってんだおまえは?」
ちょっと、意外な返事に驚くケイ。
「僕は、ここにくるまで死ぬことしか考えていなかった。けど、それは
あなたがチャットによって呼ばれてしまったなんて思いもしなかった。
あの当時の僕の話を聞いてくれたのは、チャット相手のあなたしか
いなかったんだよ・・・。だから僕は貴方に言われるままにここまで
きてしまった・・・。」
「知ってたよ。」
ケイはこういうと話を続けた
「俺はこっちの世界の人間。君には見えないだろうが、君の行動や、状
況はすべて見えていた。まともに話せる人間が誰もいない。だから、
俺が親しげに近づけば、すぐにこちらのことを信用することもわかって
いたことだ。まあ君は俺にだまされたという訳だ。」
「そうなんだよ」という少年。
「僕は騙されてここまで来た。そしてここで今死のうとしている。けど
あなたの今迄の話を聞いてると、とても詐欺師とは思えない。僕の事を
心配してくれて僕を死なせまいとしているような・・」
「はあ~。何を言ってるんだ。なぜを俺がお前を死なせないと思って
いるんだ?そんなわけないだろ?だから色々見せてやったり、話したり
したんだぞ。」
「だって本当に死なせたいんなら、もっといい話しないとおかしいじゃ
ないか?自殺しても天国いけるとか、人間として幸せに生まれてこれる
とか・・。さっきの話を聞いてたらこのまま死んでもいいことなんて
とてもありはしない・・。だから僕のためにあういう話をしてくれたと
思ったんだよ。」
俺がこいつの為に・・?ケイは振り返ってみた。確かにまともなことを
話すぎたかも・・・。と思った。ここで少年を呪い殺してしまおうとも
思ったが、やめた。呪い殺すことは自殺ホールディングにとっては、
ルール違反となり。今までのノルマがマイナスとなる。勧誘はいいのだ
が、呪いは「殺人」扱いとなり。認められないのだ。それに少しだが、
ケイの中でも心に引っかかることがあった。この少年を果たしてこのま
まこちらの世界に引っ張ってもいいのだろうか?ということである。
スマホを見せた時の彼の目は、とても死ぬような人間の顔では無かった
。そういう人間を引っ張った時に、会社のほうでどう判断するか微妙
なところもある。会社がほしがっているのは、生命力のない、扱い
やすい魂なのだ。活きのいい魂は、色々と面倒なこともあるということ
を社長から聞いたこともある。果たして・・・。
そう思った時に、コイツを生かしてやってもいいか?と思いつつあった
ケイは言った。
「わかった。これから自殺した人間はどういうことになるか教えてや
る。それを聞いたうえでどうするかはお前が決めろ。」