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始まりの前日 月光~Moonlight~【3】

始まりの日 前日の夜 廃工場前 9時24分頃


 深雪にジワリジワリと近付いてくる少年たち。深雪は自分の脳裏に解決策を巡らせる。

 何度も犯罪者を父経由で見た、何度も危ない目に遭った、何度も、何度も普通の人が味わうことのない経験をした。

 父は有名な探偵だ、そんな父から金をゆすろうと深雪を誘拐したこともあった。危ない経験は子供だった深雪にある感性を授けた。

 もし身に危険が及ぶとき、その時、一番最初に「危ない」「危険だ」と感づくのは深雪だろう。

 もしデパートジャックが起こるならば、その数分前に何かを感づいて逃げていくのはやはり深雪だろう。


 その深雪が今、自分が危険だと感じ取った。ここで何かをしないと自分に危険が降りかかる、何かを変えないと。


 深雪の思考はまたたくなく恐怖で埋め尽くされた。その恐怖は深雪の思考をどんどんと進めていく。


(どうすれば助かる)

(どうすれば逃げれる)

(ここで戦うか?いや、十中八九ムリだ)

(どうすればいいんだ)

(このままだと、捕まる)


 深雪は解決策を見つけられないまま、少年たちの瞳に自分の姿が映った。


「おい、てめぇ。何でこんなとこにいんだよ」

 少年たちの中でも戦闘系の少年が図太い声で深雪に問いかけた。


「あるもの、それは命。うちの猫、それは君らが恋している人間、君らが恋焦がれている人達、君らのボス。」


「さっき、君たちが言ってた言葉ってさ。『明日、やることは一つ。命を取るだけだ。後はうちのボスがなんとかしてくれるさ』って、殺人予告だよね」


 その瞬間、廃工場の空気が一気に冷たくなった。少年たちの表情、動き、全てが固まった。まるで、銅像のように…


 深雪が言葉を紡ぐ。


「僕さ、君らのことさ。ただのチンピラだって思ってたんだ。だから、普通に見るだけにしようと思ってたんだ、なのにさ」


 そこで一度言葉を切った、冷たく埃っぽい廃工場の空気を肺に吸い込むと、冷たい視線を少年たちに向けた。


「なんで君たち、犯罪者なの?」

 冷たく紡ぐ、その言葉は、少年たちの脳裏に埋め込まれた。深雪は少年たちに背中を向ける。


「それじゃ、犯罪者のみなさん、さようなら。あ、僕を捕まえようとしても無駄だからね。いくら容姿が僕でも、中身は普段、僕じゃないんだ。」


 少年たちにわけの分からないことを紡ぐ『ミユキ』。恐怖によって出来た彼の分身。幼い頃から彼のそばにいた『ミユキ』は、彼が恐怖に包まれたときに彼を保護する為に出てくる。


「一応、君らの悪事も警察に言うつもりないし、そんな危ないことに(うつわ)が消えちゃ大変だしね」


 少年たちは気付く、彼の言っていることは本当であり、決して戯言ではないことを、気付いてしまう。

 そして、その中でも中心で喋っていた小柄の少年は冷静に分析して気が付く。

 彼が『隔離性同一性障害』であること、そして、自分の知り合いである少女が働いている本屋の袋、そして、その袋にまだ本が入っていることに。


 先ほどまで、操作していたスマホのカメラを『ミユキ』に向けて、シャッターを押す。

 『ミユキ』は気付いていないようで、少年たちからどんどんと離れていった。


 やがて、少年の姿が見えなくなった頃、少年たちの一人が小柄な少年におずおずと話しかける。

「おい…、あおい、どうすんだよ。」


「…追いかけなくていい、あいつはおそらく、俺たちが殺人をすることを知らないで居るだろう…、それにあいつの情報はあいつに聞いて見張ってもらえばわかることだ、一々、気を張ることでもないさ、ただ、ボスには連絡しておくよ」


 少年たちを月が照らした。


 +++

 始まりの日 前日の夜 白い部屋


 ピッ、ピッ、ピッ、と白い部屋で機械音が響いていた。

 何もかもが白い部屋で『それ』を見ていた少女は黒い服を身に纏っていた。悲しげに『それ』を見ていた。

 悲しげな瞳には混合するように抑えきれない怒りがあり、その怒りを抑えるように悲しみがあった。

 対立しあっていたその感情は上手くバランスを取って、少女という人間を支えていた。

 白い部屋、白いベッドの上に横たわっている、少女が見つめている『人形』は、数年間目を覚ますことのない生活をしていた。機械につながれている人形は、機械によって生かされているのだ。機械が消えれば人形は二度と目を覚ますことはないだろう。


 人形を見ていた少女は視線をはずし、白い部屋を出る。

 そこでは黒い廊下が永遠かというくらいずっと、ずっと続いていた。

 黒い服を着た少女と黒い廊下は同化したように、馴染んだ。


 長い廊下を抜け、外に出ると少女はすぐにスマホを耳にあて、小さいが凛とした鈴のような声で言い放った。


「幽霊、どうした」


「ああ、なるほど…、そいつは『北桜 深雪』だ、幽霊」


「そうだ、お前の知っている『北桜 勇希』の息子だよ」


「…そいつがそういったならそうなんじゃないのか?」


「幽霊、私に甘えるな、お前は、お前は…」


「あの人形の兄上だろう…」


 そう呟いて、通話を切った。

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