始まりの前日 月光~Moonlight~【2】
始まりの日 前日の夜 廃工場 9時15分頃
薄暗い廃工場があった、壁は所々に穴が空いており、その古さが伺えた。
もちろん、周りに住んでいる人間は近づくはずもなく、そこには不気味で冷たい空気が流れ、その空気はとても埃っぽかった。
数年前、廃工場で殺人があった。当時も今と同様に廃工場であったこの工場で一人の男性が殺されたのだ。
発見したのは近くを通りかかった大学生。大学生が見たときは男性の近くでその子供だと思われる人間が立ち尽くしていたのだ。
幼いその子供は服や髪、そして純粋で何も知らない綺麗な肌すら赤く染まっていたという。
その事件は街中に広がり、そして不気味に思った。
何もない、ただの平凡な街でそんなことが起こったのだ、よほど物好きでない限りは近付こうと考えはしないだろう。
そんな廃工場に人がいた。それも一人じゃない、二人、三人と十数名の少年たちがいた。
十数名の少年たちで円を作り、その中心に少年がいた。
幼い顔立ちをしており、中学生と勘違いされるが服は近くの高校制服で身を包んでいる。髪は鮮やかな茶色で染めた茶色と全く違うほど綺麗な髪の毛。
そんな少年が中心で立っていたのだ。
「明日、作戦は決行される!てめぇら、準備はいいか?」
容姿のこともあって高い声で十数名の少年たちに問いかける。だが、その声は高い声とは裏腹にとても威圧感があり、闇の世界の住民以外はなんとも簡単に怖気づかせることが出来るだろう。
大きい声で問いかけられた十数名の少年たちはコクコクとうなづく。少年たちの瞳には力強い光があった。その光は忠誠、希望、渇望、愛、恋、嫉妬など色々な感情が混合し、複雑な感情を生み出していた。
「明日、やることは一つだ!あるものを取るだけだ!後はうちの猫が何とかしてくれるさ。」
また、少年たちはコクコクと一定のリズムでうなづく。
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始まりの日 前日の夜 廃工場前 9時23分頃
深雪はたまたま、その場を見ただけなのだ。
この街で大きい事件は大体、記憶力の良い深雪にとっては簡単に2分あれば暗記できるほど犯罪は少なかった。
そして、その街で起こった最新の大きい事件の現場がこの廃工場であり、興味本位で少しだけ顔を覗かせただけなのだ。
そして呆然とした、父から見せてもらった資料によればこの廃工場は誰も近付かず、人がいるなんてよほどのことがない限りありえない、と記述されていた。
(今日、肝試しにでもきた団体さん?)
ふと、そんなことがよぎったがすぐに心の中で否定した。肝試しに来たにしては様子がおかしすぎる、と思ったのだ。
少し観察してわかったことは彼らはここに良く訪れているのではないだろうかということだった。少年の中の一人がドラムの中にある薄汚れた雑誌を難なくと拾う、そしてそれを当たり前のように読んでいる。また別のところでは、キックの練習としてコンクリートで出来た壁を何回も、何回も蹴る。遠目だと分かりにくいがしっかりとコンクリートが足の形で綺麗に凹んでいるいることが分かる。
先ほどは何かを話していたが今はバラバラとなっている少年たちのリーダーらしき少年がふとスマホ画面に落としていた顔をあげる。
そして、首を振りながら周りを何回も見回す。深雪は自分の体に冷や汗が出ていることがわかる、自分が見つかるのではないかという恐怖に体が反応しているのだ。
1分ほど見回したあと不思議そうな顔をして、呟く、その声はなぜか自分の鼓膜を揺らし脳に伝わった。
「あれ?あそこに人が居るような気がしたんだけどな」
少年は真っ直ぐと深雪の居る場所を指で指した。その様子を他の少年たちも気が付いて、ジワリジワリとゆっくり深雪のそばに歩み寄ったのだった。
久しぶりに更新しました、大変申し訳ございませんでした。