06.謝る妹
一旦は覚悟を決めたグレイスだったが、夜会への馬車の中で考える時間が出来てしまうとまた不安が押し寄せてきた。余計なことばかり考えてしまう。
人の集まる所が苦手な上に、久しぶり過ぎて勝手を忘れているかもしれないのだ。真っ当に振る舞えるはずがない。何をどう話せばいいのだろう。いや、それ以前に声が出せるのだろうか。ちゃんと立っていられるだろうか。また失態を見せてしまったらどうしよう。自分だけならまだいいけれど、妹にまで恥をかかせてしまうかもしれない。
馬車が揺れるたびに、どんどん気分が落ち込んでいく。
もうそろそろ到着するという時だった。
馬車の中はグレイスの緊張と不安で重い空気が立ち込めていた。
向かいに座っていたシャーロットも珍しく黙っていたのだが、ふいにポツリと呟いた。
「…ごめんなさい」
「え?」
その声は小さく、馬車の音にかき消されそうになり、グレイスには聞き取れなかった。
シャーロットの方を見ると彼女は少し俯いている。
「ごめんなさい。お姉様。こんな風に強引に連れてきてしまって…。怒ってるわよね…。…でも…こうでもしないと…駄目だって思ったから」
いつになく気弱な妹の姿にグレイスは狼狽えた。
「怒ってなんかいないわ」慰めるように言う。
「私…お姉様が大好きよ」
「わ…私も貴女が大好きよ。自慢の妹だもの」
「…有難う、お姉様。
……やっぱりグレイスお姉様は幸せにならないといけないわ」
その時馬車は止まり、御者が扉を開けたのだった。