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05.着替える姉

「じょ・・・冗談で言ってるのよね?」


「この状況で冗談だと思えるならそれはそれですごい才能よ。」


グレイスの背後ではデイジーがコルセットの紐を結ぼうとしている。


「夜会に行くなんて聞いてないわ。」


「言ってないもの。

前もって言っていたら反対されるのは目に見えていたし、逃げ出されたりしたら困るもの。

この方が緊張して夜も眠れないなんてことがなくていいんじゃないかと思ったの。」


確かに出来ることなら今逃げ出してしまいたかった。


「お、お父様とお母様に言って・・・」


両親は二人ともグレイスに甘かったから、強く訴えれば妹の暴走を止めてくれるに違いない。


「言っても無駄だわ。

お二人ともこの件については了承済みなのよ。」


いつの間にそんな話をしたのかとグレイスは驚きを隠せなかった。


「お姉様に浮いた話のひとつもないのは、本をただせば何処にも連れ出そうとしなかったお二人の所為だって言ったのよ。それはお姉様の為にならないってね。社交性を磨くにもいい機会だと言ったら、分かってくれたわ。」


両親が懐柔されている。どこに助けを求めればいいのだろう。


「最初はお父様に良い縁談でも探してきてもらおうかなと思ったのだけど、まぁそれが出来るのならとっくにやって下さってるわよね。

それによく考えてみたら、縁談ってよく知らない人と結婚ってことでしょう?

世の中にはそれで結ばれる方も大勢いらっしゃるけれど、免疫のないお姉様にいきなり相性の悪い人を連れてこられても困るじゃない?

会って話して相性をみてからの結婚が理想的だわ。

だからまずは人と会える場所に行かないと。そうなると夜会が一番手っ取り早いのよ。」

 

リラがドレスを広げ、私に着せようとしていた。


グレイスは今ここでこれを着てしまったら本当に夜会に行くはめになってしまうと思った。


「シャーロット、私は夜会なんて行きたくないわ。人が大勢いて華やかな場所は好きではないの。

知ってるでしょ?」


両腕を胸の前で十字にして、全身にぐっと力を込めて、ドレスは着ない意志を示す。


するとシャーロットはゆっくりと近付き、そっとグレイスの手を取った。


「知ってるわ。でもお姉様は他人を怖がり過ぎなのよ。家の中では誰よりも皆と仲良くやっているのに。

要は慣れの問題なのよ。少しづつ慣れていきましょうよ。私が全面的に協力をするから。

出会いに慣れたらいい人もきっと現れるわ。

お姉様はとても素敵な人だもの。自信を持っていいのよ。

何も今日結婚相手を探せなんて言ってるんじゃないから構えないで。

それにね、今夜は小規模な会で派手なものではないの。

ダンスも無いらしいし、大きなお屋敷でもないから安心よ。

私、お姉様と一緒にいけたらとても嬉しいわ。

あまり深く考えずに気楽に参加すればいいの。大丈夫よ。」

 

グレイスの手を両手で握りしめて、懇願するようにシャーロットは言った。


(そんな顔をされたら何も言えなくなってしまうわ・・・。)



グレイスは観念してドレスに袖を通したのだった。


_____________________



ドレスを着終えると、グレイスは鏡台の前に座らされた。

為すすべもなくされるがままになる。


鏡の中の自分を見る。傍らのシャーロットを見る。

すでに支度済みの妹は明るい色のドレスを纏って可憐な姿で立っていた。それに比べて自分はなんと凡庸な姿だろう。こんな綺麗なドレスを貸してもらっても勿体無いと思ってしまう。

(サイズはぴったりだけれど・・・。)

(・・・?・・・ぴったり?あれ?)

妹はグレイスより小柄だ。シャーロットに誂えたドレスであればグレイスに合うはずがない。

そこでグレイスはドレスの生地に見覚えがあることにやっと気がついた。


「あの時の布で作ったの!?」


「あら、今頃気がついたの?

 そうよ、お姉様が好きだっておっしゃていた布地で作ったの。いい仕上がりでしょう?

 サイズはリラがこっそり測って教えてくれたのよ。」


そこまでして準備していたとは。全く気付かなかった自分の鈍さに呆れ、シャーロットの周到さに少し怖くなった。どうやら両親もメイド達も巻き込んで綿密に計画を立てていたようだ。

シャーロットは本気なのだ。


この状況ではもう逆らえる気がしない。


この先の夜会の事を考えたら気が重くてしかたがない。

俯いて泣いてしまいたくなるのだがぐっと堪えた。


なぜか周りは皆ワイワイと楽しそうにしているからだ。


シャーロットは一歩下がった場所で時折指示を出しながら満足そうに見ている。

メイド達の手がグレイスの周りで忙しなく行ったり来たりする。

皆それぞれが甲斐甲斐しく動いてくれている。

化粧をしたり、髪をとかしたり、爪を整えたり、小物を付けたり。

シャーロットにはよくあることだろうが、グレイスにとってはとても珍しいことだった。

少しだけ浮かれている自分がいた。


結構な時間がたって、やっとグレイスの支度が終わると、メイド達がなぜか拍手してくれた。


「お綺麗です。」「ドレスがお似合いです。」と褒めてくれる。


リラは笑顔で言った。「グレイス様をお綺麗にするお手伝いが出来てとても嬉しかったです。」


悪い気はしなかった。気持ちが有り難かった。



大きな姿見の前に立ったグレイスは、背筋を伸ばす。

鏡に映った自分に心の中でこう言ってみた。


「皆にここまでやって貰ったのだから少しくらい頑張ってみなさい」

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