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◇嵐の夜に(後編)

続きです。




エドワードは躊躇いがちに扉を叩いた。

返答がない。雨風の音が煩くて聞こえなかったのだろう。再度強めに扉を叩く。数秒待っても返答が無い。扉の音に気付かないほどグレイスは刺繍の作業に没頭しているということか。だとしたら急用でもないのに押し入るのは如何なものか。邪魔をするのはよくないとエドワードは引き返すことにした……のに彼の右手は勝手に扉を開けていた。


グレイスはもしかしたら自分に怒っているかもしれない。まさかとは思うのだが、僅かな疑念でも完全に払拭したかった。彼女がいつも通りの穏やかな笑みを向けてくれればそれで済む。


エドワードが部屋に入ると、グレイスが熱心に針を動かしている姿が見え…なかった。彼女は中央の椅子に座ってはいたが何も手にしておらず、上半身を屈めている。様子がおかしいような気がした。まるで何かに耐えているような、苦しんでいるような姿に見えてしまいエドワードは焦った。


「グレイス!」


名を呼んで駆け寄っても反応が無い。よく見ると彼女は膝の上にのせた大きなクッションを抱きしめそれに顔を埋めていた。

エドワードは片膝をついて顔を彼女に近付けた。グレイスの肩に手を置きもう一度はっきりと名前を呼ぶと、彼女は小さな悲鳴をあげ顔を上げた。彼の存在に本当に気がついていなかった様子でとても驚いている。

「…エ…エドワード…?」

見開かれたその瞳は気のせいか潤んでいた。髪も少し乱れている。

「どうしたんだ?気分でも悪いのか?」

「え?…そ…そんなことないわ」

彼女の目は泳いでいた。


「…何をしていたんだ?」

辺りを見れば、刺繍をすると言っていたグレイスの周りの何処にもそれらしき道具類がひとつもなかった。言っていたことと違う。あれこれ詮索するのも気が引けるが、明らかに様子がおかしいので言及してしまった。

「………きゅ、急に眠たくなって寝てしまっていたのよ。エ…エドワードこそどうしたの?こんな所まで来るなんて…」

「いや…その…君を迎えに来たんだよ。…ほら、今日は外へ出掛けて疲れただろう?だからもうちゃんと休んだ方がいい」

まさか面と向かって彼女の機嫌を探りに来たとはとても言えずに、エドワードは咄嗟に思いついたことを口にした。


「うたた寝をするくらいなのだからやはり疲れているんだよ。もう寝室へ行ったほうがいい。だから一緒に…」

「嫌よ」

か細い声だったが拒否の言葉がグレイスの口から出たことにエドワードは軽く衝撃を受けた。

「あ…あの…私はもう少しここに居たいだけ。だからエドワードは先に休んで頂戴」

彼女はぎこちなく笑ってそう言った。

その不自然な笑顔が、この部屋に入った時からずっと彼女に感じる妙な違和感を更に大きくする。まるで一緒には居たくないと言われたような気がしてエドワードは悲しくなったが、それ以上に違和感の方が気になって立ち去り難い。


(一体どうしたんだろう…)


グレイスをただじっと見つめていると、彼女が小刻みに震えていることに気付きエドワードの鼓動は速くなった。

「震えているじゃないか!熱があるんじゃないのか!?」

エドワードは慌ててグレイスの額や手を触って体温を確かめる。特に熱くはない。逆に冷たく感じるくらいだった。

「やはり具合が悪いんじゃないのか?」

ランプの頼りない灯りだけでは分かり難いが顔色も良くないような気がする。

「そ…そんなことないわ。大丈夫よ」

グレイスはまた笑って言ったが、無理をしているのは一目瞭然だった。

とても大丈夫そうには見えない。何故それを頑なに認めないのかは見当もつかないが放ってはおけるはずがない。


「ちゃんと横になって休んだ方がいい」

「いいえ。大丈夫だわ。さあ早くエドワードは戻って…」


押し問答をしている場合ではない。

エドワードは無理矢理にでも寝室へ連れて行こうとしてグレイスを抱え上げる為に手を伸ばした。だが彼女はその手を意思を持って押し返す。グレイスからこんな風に拒絶をされるのは初めてのことだったためエドワードは内心かなり動揺したのだが、彼女を心配する気持ちがそれを圧倒する。


再び彼女を抱え上げようとした時、窓からの光で部屋が一瞬明るくなった。

その瞬間グレイスの両肩が跳びはねた。

彼女の震えは大きくなっていて、その顔は今にも泣き出しそうだった。本当にどうしてしまったんだと思いながらもエドワードは再度両手を彼女に伸ばす。


その時、今夜一番大きい雷鳴が部屋中に響いた。


幼い子供であれば泣き出すようなかなりの轟音だったがエドワードは気にならなかった。グレイスのことが心配で堪らなかったからだ。


「きゃああああああ」


グレイスが急に悲鳴をあげ、物凄い勢いでエドワードに抱きついてきた。

彼は反射的且つ本能的に彼女を受け止めたが、突然の出来事で踏ん張りが利かずに彼女ごと後ろへ倒れ込んだ。


雷の余韻のような低い音がゴロゴロと燻ぶるように鳴り響く。

床の上で仰向けになったエドワードはグレイスの下敷きになったまま、訳が分からず暫し呆然としていた。


(…これは…どういうことだ?)


彼に覆い被さる形になったグレイスは抱きついたまま動かない。エドワードは顔だけを少し起して胸元の彼女を見下ろした。まだ彼女は震えていた。


「…グレイス、大丈夫かい?」

そっと彼女の背中に手をやるとグレイスは跳び起きた。彼女は混乱しているようで何度も瞬きをしながら自分の周りを見回していた。数秒後、自分が夫の上に乗り掛かっていることに漸く気付き、驚愕し慌てて彼の上から降りる。


「ご…ごめんなさい、エドワード!…私ったら…なんてことを…。お、お怪我はありませんか!?」

「ないよ。これくらいなんでもない」

床には絨毯が敷いてあるので本当に大したことではなかった。グレイスは床の上にぺたんと座ってひたすらおろおろしている。エドワードは取り敢えず起き上がり彼女と向かい合うように座った。グレイスは完全に涙顔だった。


状況をよくよく思い返して整理をしてみたところエドワードにはひとつ分かったことがあった。


「……そんなことより…グレイス、貴女はひょっとして…」


言い終わらない内に彼女はサッと目を逸らした。


(あ。これは当たりだな)


「…雷が怖いのかい?」

「……」

「……」

「…………そ…そんなことありません」

「本当に?」

「…………本当です」


グレイスはずっと目を合わせてくれなかった。どう考えても明らかなことなのに彼女は意外なところで頑固だった。けれど、天は痺れを切らしたのか真偽を定かにするためにエドワードに助け船を出す。

小さめだったが雷がまた鳴った。


「きゃああ」


今度はエドワードの心の準備も万全だ。

膝を立てて座る彼は両手を広げて飛び込んできたグレイスを迎え入れる。しっかりとグレイスを抱き留めると、彼女はすっぽりとその場所に納まり彼に包まれた。腕の中でグレイスはふるふると震えていた。エドワードが宥めるように優しく背中を摩り続けると彼女の震えはだんだんと小さくなってゆく。


しばらくして震えが止まった時グレイスはエドワードの胸に顔を埋めたまま漸く口を開いた。


「………ごめんなさい。嘘をつきました。………………ほ…本当は…怖いです。……………物凄く」

「具合が悪そうだったのはその所為?」

「…はい。心配を掛けてごめんなさい」

病気等ではない事が判明してエドワードは胸を撫で下ろす。


「……あの」

「何だい?」

「…………その…」

泣き顔を見せたくないのかグレイスは顔を上げようとしない。


「……も…もうしばらくこのままでいて貰ってもいいですか?」

とても申し訳なさそうに彼女は言った。今更何を遠慮する必要があるのだろう。

「勿論構わないよ」

「有難うございます。……こうしていると……とても落ち着きます」

「それは良かった」


エドワードはグレイスの背中をゆっくりと摩り続けた。

「…屋敷の中に居ても雷が怖いんだね」

確かに落雷のあの音は気持ちの良いものではないが、屋内に居れば安全なのでエドワードは怖くはない。ここに居て怖がることがただ単に不思議だった。


「……はい。とても怖いです。………昔…子供の頃に姉と妹の三人だけで外へ遊びに行った時に夕立に遭ったことがあるんです。短い時間でしたけど、大きな……か…かみなりが何回も鳴りました。子供だけだったので心細くて余計に怖くて。それからは音を聞くともう…私…立ってもいられないくらいで…。大きな音自体も怖いんですが……落ちるまでがすごく怖くて……こう…次はいつ来るかいつ来るかって思うと気が気でなくなるんです。」


「今まではこんな夜はどうしていたんだい?」

「…………は…恥ずかしいんですけど、いつも姉や妹の寝台に潜り込んでしがみついてました。……大人になってからも…。誰かに触れていると怖さが和らぐんです」

「それなら今夜も最初から僕と一緒に居れば良かったのに」

そうすればエドワードも色々と不必要に悩むこともなかっただろう。


グレイスの声が極端に小さくなった。

「…………だって………貴方に知られたくなくて……こんなこと。…小さい子供みたいで恥ずかしいもの…」


エドワードが思わずふっと笑う。

グレイスは彼から一旦身を離して顔を上げた。

「……あ…呆れてらっしゃいますか?」

「いや、ごめん。ただ本当に子供のようだと思ってね」

「……や…やっぱり、普通はそう思いますよね。姉達にもいつも笑われていたんです。メアリーお姉様もシャーロットも私と同じ目に遭ったのに何故かそれほど怖くないみたいで。私はいつも怖がり過ぎだって言われてしまって……で…でもどうしても怖いものは怖いんです…」

「そうじゃないよ」

「え?」

「子供のように大変可愛らしいと思ったんだよ」

「…え?」

「このまま朝まで抱きしめていたいほどだ」

「……か…からかってるんですね」

「そんなことないよ。怖いことや苦手なことは誰にだってひとつはある。気にすることはないよ」

「ほ、本当にそう思います?」

「ああ」

「で、でも…大きな声で叫んだり、泣いたり、しがみついちゃうんですよ?」

「怖いなら仕方がないし、悪いことじゃないだろう。…あっでも…」

「な、何ですか!?」

「僕以外の者の前では…良くないな…うん。良くない」

「え?」

「…でもそんなことは…まぁ無いだろうし…やっぱり気にすることはないな。それにこうやっていればそれほど怖くないのだろう?」

「はい。とても安心します」

「ではこれからは何も問題はない。怖い時は僕がいつでも側に居るから」

エドワードはそう言ってグレイスの額に軽く口付けた。

じんわりと喜びが胸に広がってきてグレイスは今夜初めて自然に微笑むことが出来た。


彼女は再びエドワードに身を預け頬を彼の胸に当てた。温かい鼓動を感じて心地良い。先程までの心の乱れが嘘のように今は落ち着いている。雷鳴は時折聞こえてはくるが怖さは随分と薄らいでいた。嵐の夜だというのにこんなに穏やかな気持ちでいられたことは今まで一度も無い。


「………さ…最初から」

「え?」

「…最初から…貴方に側に居て貰えばよかったですね」

「本当にそうだよ。あの様子じゃ一人でずっと怯えていたのだろう?」

「…はい。一人で居れば誰にも知られることがないからと思ってこの部屋へ来たんですけど…。怖くて仕方ありませんでした」

「僕が来なかったら嵐が治まるまでただ我慢するつもりだったのかい?」

「…はい」

「そんなにまでして隠す必要なんてないのに」

「……本当に知られたくなかったんです。姉と妹しか知らないんです。両親にだって言ってません。私いつも叫んだり、泣いたりもするから…それを見られたらと思うと恥ずかしくて。…自分でも訳が分からなくなって取り乱してしまうから迷惑をかけて嫌われたらどうしようかと…」

「そんな訳ないだろう」

「…い、今考えると…そうなんですけど…」

グレイスはしゅんとした。


「……あぁ…恥ずかしがらずにもっと早く打ち明けていれば良かったです。あんな怖い思いをしないで済んだもの。……そうすれば食事だってもっと美味しく頂けたのに」

「食事?」

「…夕方くらいに今夜は必ず嵐が来て荒れるだろうって言ってたでしょう?」

「ああ」

街へ出るのに同行した御者が夕方になって厚い雲が出始めた時にそう言ったのだ。ベテランの彼は雲の形や動きなどを見て天気を占うのが上手かった。結果的に彼の予言は大当たりだったわけだ。


「それを聞いてからは…とても憂鬱だったんです。本当にだんだん雨も風も強くなっていつ雷が鳴ってもおかしくない天気になってしまって…平静を装ってましたけど、本当はずっと怯えてました」

「それで口数が少なかったのか…」

「き、気付いてらしたんですか?…私とても頑張ってたのに…。………私ったら本当にいろいろ馬鹿なことをしてしまいました」


グレイスは落ち込んでいるが、エドワードは上機嫌だった。

彼女がいつもと様子が違う原因が分かり今夜抱えていた不安が一気に解消されたからだ。


「…嬉しいよ」

「え?」

「怖がりだってなんだっていい。貴女のことをまたひとつ知ることができて僕はとても嬉しいよ」

「……エドワード」


また雷が鳴った。グレイスはエドワードの背中に手を回し力を込めて抱きついたが、怖さだけがそうさせた訳ではなかった。


エドワードも彼女を力を込めて抱きしめた。

嫌がる彼女には申し訳ないがその恐怖症は一生治らないで欲しいと秘かに思う。

グレイスが積極的に何度も抱きついてくることは貴重なのだ。二人で話している間にも何度か雷が鳴る度にぎゅうと力を込めてくる。必死に抱きつく姿はいじらしくもあり大変好ましかった。



◇◇◇




「もう大丈夫です。有難うございました」


夜も深まり、雷は止み雨風もかなり弱くなっていた。いい加減眠る時間だ。エドワードに凭れかかっていたグレイスは寝室へ戻るため上半身を起こし立ち上がろうとした。

名残惜しいエドワードは彼女を引き留める。驚く彼女を気にも留めず横抱きにした。


「万が一また雷が鳴ったら大変だ。用心をして僕が寝室に運んであげよう」

「だ、大丈夫です!降ろして下さい」

「暴れないでグレイス。落としてしまいそうになる」

「誰かに見られたらどうするんですか?」

「きっと皆もう眠っているよ。ほら、しっかりつかまって」

「で…でも…」

狼狽えるグレイスを気にせずエドワードは歩き出してしまう。自分が持ってきた移動時用のランプを器用に手にした彼は部屋の扉を開けた。




エドワードが夜の廊下をゆっくりと進んでいると、グレイスは彼が無理をしているのかと心配をした。

「重くはありませんか?」

「全然重くないよ。平気だ」

彼はもっと早く歩けるのだが寝室までの距離を少しでも長く味わう為にわざと遅くしていた。

グレイスは素直に彼は力持ちだと感心した。


彼女にとってこの体勢は少し面映ゆいが、彼の顔を間近で見ることが出来て嬉しくもあった。

夜の闇の中で小さなランプの灯りに照らされた横顔はいつもとはまた違った雰囲気を漂わせていて素敵だなと思う。



じっと眺めているとやはりチャールズとよく似ているのが分かる。


ラザフォード家の親子は外見が似ているということは誰もが認めるところだった。本人達もそのことは否定しないが、見た目以外は全く似ていないとお互い主張している。


チャールズとエドワードの父子は反発しあうことが多い。

そのことは時にグレイスを悩ませる。やはり二人には仲良くしてもらいたい。

彼女にとって夫は勿論、義父もとても大切な人だからだ。


知り合った頃はチャールズはグレイスにとって近寄りがたい人物だった。それは彼の威厳ある風貌と立ち居振る舞いの所為でもあり、息子であるエドワードを勝手な事情で振り回しているという負い目の所為でもあった。後々になって改めて考えてみた時、彼がずっとグレイスの後押しをしてくれていたことが解ってとても感謝したし、晴れてエドワードと結婚をして義父となった後は、思いの外可愛がってくれるのでとても親しい人となった。


チャールズとエドワードの意見や行動は何かと対立をしていた。

最初はそのことにグレイスはただ困惑していたが、次第に二人には独特の関係があるのだと彼女にも分かってきた。仲が悪いわけではないらしい。


チャールズにはわざと息子の気に障るようなことをする癖があることが問題のような気もする。

でもそれは必ずしも悪いことではないらしい。グレイスはよく覚えているのだ。チャールズが以前呟いていた言葉を。

彼は確かに「怒らせてもいいと思える間柄というのは貴重なものだ」だと微笑みながら言っていた。


二人の言い争いを目の当たりにするとやはりどうしても気になってしまうけれど、出来るだけ過剰な心配はしないようにしている。

それに最近はたまに、結構二人は仲が良いのではないかとも思う。

非難や否定の言葉だとしても面と向かって的確に言えるという事は相手をよく理解していることの証拠でもある気がしてきたのだ。


それにグレイスは気付いたことがある。

父親と息子は中身も似ているところがあると思うのだ。本人達にそれを伝えると絶対に否定をするだろうが、共に暮らすようになった彼女には見えてきたものがあった。


二人とも繊細な優しさを持っている。

チャールズは貫禄があり過ぎて、エドワードの方は冷静過ぎて表面上は解り難いけれど、どちらも同じ形をした優しさを持っている。片足が不自由なグレイスに対しての接し方がそれを表していた。二人とも最初から無闇に憐れむことも、過剰に気を遣うこともしなかった。かといって配慮に欠ける訳でもなく、遠慮したり無理をしてしまいがちなグレイスに対して絶妙なさじ加減で同じ様に手を差し伸べてくれるのだ。


二人が同じ行動をとることもあった。

ある時、都で祭が開かれるというので三人で出掛けたことがあった。

特別な出店や出し物が色々あってとても楽しかったのだが、父子は些細なことで揉め途中でチャールズだけが別行動になった。

屋敷に戻ってからチャールズが「貴女が喜ぶと思って買った」と言ってグレイスに小さな包みを渡してくれた。彼女は中を見て驚いた。エドワードが昼間出店で彼女に選んで買ってくれたブローチと同じ物だったからだ。グレイスはとても気に入って大切にしているが、同じ物を貰ったことはなんとなく二人には秘密にしている。


負けず嫌いなところも、意外に食べるのが遅いところも似ていると思う。きっと他にも沢山あるはずだ。これからいろいろ発見出来ると思うと楽しみだ。

結構二人は結構似た者同士なのかもしれない。





後もう少しで寝室に着く。


今夜はグレイスにとって思いがけずとても幸福な夜となった。


怖がりな自分のことをエドワードが何の否定も無く受け入れてくれたのがとても嬉しい。実は秘かにいろいろと悩んでいたのだが完全な取り越し苦労だったようだ。今考えると悩んでいたことが恥ずかしい。


出会った時を懐かしく思い出す。

屋敷の階段が早く降りれなくて困っていた時に、エドワードはこうやって今と同じように抱き上げて自分を運んでくれた。あの時は何が起こったのかも分からなくてされるが儘になっていた。


今はこうして自分の腕を彼の首に回すことも出来る。

いつの間にか彼の妻になっていて、彼の傍に居る。


(幸せだわ…)


しみじみとそう思う。


(あぁ…すごく…すごく…)


「…大好き」


グレイスは無意識のうちに微かな声でエドワードの耳元で囁いていた。

そのまま彼の耳に唇を寄せた。


「うわっ!?」

不意を突かれたエドワードは足元から崩れそうになったが一歩手前で踏ん張った。

「なっ…グレイスっ!…何をするんだっ!!」

「え?えっ!?あっ、ご、ごめんなさい!つい…」

「不意打ちはずるい。転んだらどうするんだ」

「悪気はなかったのよ。本当にごめんなさい。…私、もう降りるわ。寝室もすぐそこだし」

「いいや。駄目だ。寝台の上まで貴女を運ぶ」

「え?」

「…そしてお返しはちゃんとする」

「ええっ!?」




―――――――それから

何年経ってもグレイスの雷恐怖症は治ることはなかったが、嵐の夜でも彼女が震えて過ごすことは一切なくなった。







読んで下さって本当にどうも有り難うございました!


皆様インフルエンザにお気をつけ下さい!


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