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37.お披露目会

本日(3/18)2回目の更新です。

外套を羽織り支度を終えたグレイスは一階の廊下で弟を待っていた。

バタバタと階段を駆け降りる足音がしたので振り返る。そこにはアダムではなくシャーロットの姿があった。


「お姉様、これからお出掛けになるって本当?」

気のせいか少し慌てているようだった。

「ええ、アダムと一緒にリラの実家にお邪魔しに行くところよ。」

「でも、今日は何も予定が無いっておっしゃってたじゃない。」

「だから出掛けるのよ。リラの所で昨日子牛が生まれたって今朝聞いたの。アダムがどうしても見たいって言うから連れて行ってあげることにしたわ。」

「そんなの困るわ。」

「え?」

「あ、えっと…あちらに御迷惑になるんじゃないかって言ってるの。アダムだけならまだしもお姉様が行ったら気を遣うんじゃないかしら。」

「そこまで考えなくてもいいと思うわ。いつでも見に来ていいって言って下さってるし、手土産もちゃんと持参するつもりよ。それに実は私も子牛を見てみたいのよ。とても可愛いって聞いたわ。あ、そうだ貴女も一緒にどう?」

いつも即決して返事をする妹が無言で何か考えている。

見知った近所の家に出掛けるだけなのに何を悩むのだろうとグレイスは不思議に思った。


「シャーロットも一緒に行くの?」

いつの間にか傍に来ていたアダムがそう尋ねてもシャーロットは何も答えなかった。


「ねーどうしたの?早く行こうよ。」

せっかちなアダムがグレイスとシャーロットの服を引っ張った。

「いいもん、僕一人で行ってくる。」

姉二人が動いてくれないので痺れをきらした弟は玄関に向けて駆けだした。

「あっ、ちょっと待ってアダム。」

グレイスが止めるのも聞かずに弟は扉を開けて外へ出て行ってしまう。

「じゃ、じゃあ私達だけで行ってくるわね。」

こんなに悩むということは、妹は行くつもりがないのだろうとグレイスは解釈した。

「あっ、お姉様行かないで。」

シャーロットが止めようとすると、玄関の扉が再び開きアダムが戻ってきた。

忘れ物をしたのか。やはり一緒に来てほしいのか。

どちらでもなかった。


「グレイス、エドワードがまた来てるー!」


ここ最近なるべく考えないようにしてきた人の名を言われ、グレイスの鼓動が一気に速くなった。



◇◇◇



アダムが騒ぎ立てたおかげで、エドワードがグレイスの肖像画を持ってきたことは瞬く間に家中に広まった。


お客様を置いて出掛けることは出来ない。結局グレイスとアダムの外出は中断された。

こういう時ごねるのがアダムの常套手段だったが、姉の肖像画というものに興味津津で他のことを忘れてしまったようだった。


エドワードが通された応接間はグレイスの肖像画のお披露目会会場となった。

噂を聞きつけた家中の者がぞろぞろと集まってきたのだ。

ブラウン家は画家に依頼する程の名家ではない。単に肖像画の珍しさに釣られてきたのだろう。

グレイスは自分の絵が身内の前に晒されることに抵抗もあったが、皆が賑やかに騒いでくれることが今は有り難くもあった。

エドワードと二人きりにならずに済んだ。

まさか彼が持ってきてくれるとは思っていなかった。

ルイスは確かに絵が完成したらあげると言ってくれたが、一流の画家の絵を自分が手にすること自体半信半疑だったのだ。


エドワードは家族と談笑していた。

彼の姿を見ると落ち着かない気持ちになる。どうしようもなく胸が高鳴る。

あぁ、こんなことでは駄目だとグレイスは自分を叱咤する。

チャールズに会って話した時にグレイスは思ったのだ。もうエドワードとは会わない方がいい。



あの時、チャールズから言われたことは衝撃だった。

他でもないエドワードの父親から‘花嫁の座’を狙っている者だと思われていたのだ。

その席に座る資格など持っていないし、そんな大それたことは考えたこともない。

けれどそう思われても当然のことをしていた。彼の傍に居たくて気付かない振りをしていただけだ。改めて気付いて恥ずかしくなった。

今までのようにエドワードと会うことは、周囲のあらぬ誤解を更に招くことになるし、彼への想いをより大きくさせることになってしまう。


彼は十分過ぎるほどに役目を果たしてくれた。

グレイスは彼に何もしてあげられなかったのに、彼は形あるものも、形ないものも両方たくさん与えてくれた。もうこれ以上は望んではいけない。

このまま何もしなければ、時間は自動的に過ぎていく。

あともう少しでシャーロットの結婚式だ。式が無事に終われば、グレイスが主人公のお芝居の必要性も無くなる。静かに幕を下ろせばいい。そうするのが一番だ。

それが幸せな結末でなくてもグレイス以外誰も気にしないだろう。


グレイスは自分の心に言い聞かせた。

気持ちは抑えること。最後だとしても笑顔でいること。




エドワードが肖像画を包んでいた布を徐に外した。


おぉと歓声が上がる。

淡い色調でまとめられた絵の中にグレイスが静かに座っていた。

立派な木彫りの額縁に納められたその肖像画は芸術品としての見栄えも備えていた。

「わぁグレイスそっくりだー!きれい!」

アダムが興奮気味に言った。

「ねぇ、これエドワードが描いたの?」

「いいえ、描いたのは私の友人です。」

「へぇ、エドワードのお友達って、絵上手なんだねー。すごーい!」


誰の目から見てもルイスの絵は素晴らしかった。その場に居た全員が絶賛する。被写体が身内であるせいで評価が何倍にも跳ね上がっていた。それぞれが競い合うように褒めてくれるのでグレイスは面映ゆかった。


皆が評論家のように語り合う中、グレイスの服の袖をアダムが引っ張った。

「ねぇ、リラの家に行こうよ。」

姉の絵にもう飽きた弟は当初の予定を思い出したようだった。

グレイスがどうしたものかと困っているとシャーロットが割り込んできた。

「グレイスお姉様はエドワード様のお相手をしているの。今日は無理よ。諦めなさい。」

シャーロットは声を潜めながら弟を窘める。

「今日じゃなきゃ、いやだ!」

「静かにしなさい。明日行けばいいじゃない。」

「今日行くんだもん。グレイスは今日連れてってくれるって言ったもん!」

アダムの表情が硬くなる。駄々を捏ねる時のお決まりの顔だった。


二人の不穏なやり取りは注目を集めてしまい、エドワードがどうしたのかと聞いてきた。

事情を説明してしまえば彼に退場しろと言うようなものだった。

誤魔化そうとしたシャーロットを遮ってアダムが先手を打った。

姉と子牛を見に行く予定だったのにお前が急に来た所為で潰れてしまった、と彼は涙目で訴えた。


一瞬その場がしんと静まりかえった。


「それは悪いことをしましたね。すみません。」

エドワードがアダムに丁寧に謝ったので大人達が一斉におろおろし始めた。


「・・・そうだな。こういうのはどうでしょう。御迷惑でなかったら僕もご一緒していいですか?」

「!?」

無言の大人達の代わりに機嫌を直したアダムが答えてくれた。

「うん!いいよー。」


読んで下さって有難うございました。

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