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35.彼女の刺繍

話進んでません。

ブラウン家から遠ざかりその姿がだんだん小さくなっていく。

やがてそれが視界から消えると、エドワードは手元の小さな包みに視線を移した。


それは数か月前、彼がグレイスの恋人役を演じる見返りとして要求した品だった。

つい先程までその事を忘れていた彼は、グレイスが覚えていたことに驚いてしまった。よく考えてみると律儀な彼女の性格からすれば無視はできないだろう。かえって面倒なことをさせてしまったかもしれないとエドワードは今更ながら反省した。


ゆっくりと細いリボンを解きながら、エドワードは少しづつ気持ちが高揚していくのを感じていた。

包みの中から彼が要求した通り刺繍入りのハンカチが現れる。

そこには四隅に大小の模様が入っていた。どうやら花をモチーフにしているらしい。多分これは以前グレイスの見舞った時に贈った花だ。刺繍にする程気に入ってもらえたのかとエドワードは少し意外に思った。実際の花達は色味が鮮やかで形も奇抜なので派手な印象があったが、彼女の刺繍は配置や配色の妙なのか落ち着いた印象を受ける。


それはとても手の込んだ繊細な刺繍だった。何種類もの糸が複雑に重ねられていて、立体感があって美しい。高級店に並べられてもおかしくないだろう。


エドワードの中で言い知れぬ幸福感が広がった。


思い返せば、そのハンカチは無償ということを問題視するグレイスの気を逸らす為の適当な思いつきから要求した物だ。正直に言うと刺繍などに興味など持っていないし、本当に欲しかった訳ではない。

なのにその品は彼を大いに喜ばせた。

贈り物それ自体の質の高さに感心した。とても丁寧に作ったものだと分かる。恐らく相当な時間がかかっただろう。

彼女が彼の為に作ったということが何よりも重要だった。

ただのお礼の品だとは思いたくはない。


‘ひと針ひと針に相手への想いを縫い込める。’以前恋愛話の好きな御婦人方がそう言っていたのを聞いたことがある。その時はまた実のないことを聞き流していた言葉が今になって思い出されてきた。

グレイスがそれをどれだけ意識したのかが気になるところだ。


たったハンカチひとつで浮かれる単純な自分に思わず苦笑した。

自分を一喜一憂させるグレイスは貴重な存在だと改めて思う。



ふいに馬車が大きく揺れた。路上の石にでもぶつかったのだろう。

その時、グレイスから渡されたもう一つ包みが座席から落ちた。エドワードはそれを拾い上げながら彼女の言葉を思い出した。チャールズから渡されたものだと言っていた。おそらくルイスがグレイスを屋敷に呼んだ時のことだろう。

父親が彼女に会ったとは知らなかった。ラザフォード家の者は皆、チャールズに関することをエドワードに進んで告げようとはしない。エドワードが父を敬遠しているのを感じ取っているからだ。ルイスがグレイスをモデルに絵を描いたということばかりに気を取られていたことに後悔する。


チャールズは思ったことを何でも率直に述べる。相手が格上だろうが初対面だろうが関係ない。それは時に人を傷つける。グレイスにその矛先が向けられたのかもしれないと不安になった。


屋敷に戻ったエドワードは自分が不在の時に何があったか詳しく調べることにした。


読んで下さって有難うございます。更新遅くてすみません。

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