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02.考える姉

世間一般でいう結婚適齢期の上限あたりにいる私は今‘独り身街道’を邁進している。


私は姉や妹や他の貴族の方々がいくような人の集まる所へはほとんど出掛けない。

そして我がブラウン家は大勢の人を呼んでお茶会やら夜会やらを開く程の身分ではない。

だから出会いはほとんどない。

必然的に私の貴族としての社交性は身に付かない。

もちろん男性と絡む事もないので恋愛事にも疎くなる。


両親は自分達がすんなりとお互いを見つけだし円満な家庭を築いているので、

流れに任せればなるようになるという考えの持ち主で、

世間でよくある行き遅れている娘に必死で縁談を探すような人達ではなかった。

姉も無事嫁いでいるし、妹も相手は見つけている。

私一人がお嫁に行かなくったって、娘三人のうち二人は送り出せるのだ。

戦績としては充分じゃないだろうか。

それに歳は少しの離れてはいるが弟もいるので、我が家は後継ぎの心配もない。

それらの一つ一つの要因が、独り身街道を歩きやすいように補強してくれていた。

このまま独り身でもこの屋敷の隅にでも置いてもらえればいいかなと思う。

弟が成人してお嫁さんがくれば肩身は狭いのかもしれないが、

その分両親の面倒は出来る限り自分が看ようとも思う。


私は独り身街道を自分の歩幅でゆっくり歩きながらぼんやりとそんな計画を立てていた。


なのに我が妹は突然先の見えない大航海に乗り出そうなどと恐ろしい事を言ってきた。


私と一緒では船は難破してしまうのに。


どうしてなのだろう?


私とシャーロットは昔からとても仲が良く、家で何かをするときはいつも二人一緒だった。

外出はメアリーお姉様と妹で行く事が多かったけれど、そんな時も私に何か持って帰って来てくれた。

それは、花であったり、画集であったり、刺繍に使う色々な糸だったり。

私の好みを考えてくれる、とても思いやりのある妹なのだ。

私の方が歳が近い所為か、メアリーお姉様よりも私に懐いてくれているようにも思う。


なのにどうしてだろう?


なぜあんな理不尽な事を言い出したのか?

本気なんだろうか?



私は自室でお気に入りのソファーに座り刺繍をしながら考えていた。

もう少しでデイジーの花模様の刺繍が完成するところだった。


いろいろ考えてはみるものの、頭にはシャーロットの優しい笑顔ばかりが浮かんできて

荒波に連れ出す様な強引な妹の姿は思い浮かばなかった。


薄い黄色の糸がついた刺繍針を抜き差しながらあの時の事を思い出す。


シャーロットは少し様子がおかしかった?



「ねえ、デイジー。あなた最近のシャーロットをみていて気になった事はとかはない?」


普段シャーロットに付いている侍女に恐る恐る聞いてみた。

シャーロットは外出中だった。そういう時は私の世話をしによく来てくれる。


「シャーロット様ですか?お変わりなく過ごしておられると思いますが…」


「そうよね、いつもと変わりないわよね」


私は少しホッとした。

そうだ。きっと私の取り越し苦労なんだわ。


「はい。ウィリアム様とも順調の御様子ですし、お幸せそうで見ているこちらも嬉しくなります!」


そうなのよね…あの子は周囲を幸せに出来る魅力があるのよね。

自慢の妹だわ。

容姿も素晴らしいけれど、屈託のないまっすぐな心根から醸し出される雰囲気が何とも言えないのだ。


この前はあんな事を言っていたけど、優しい妹だから私を困らせる様な事はしないわ。

姉思いの妹だから、頼りない私を心配し過ぎてしまったのよね。


もともと家族の中で一番私を外に連れ出そうとしていたのはシャーロットだったもの。

私の社交性の無さを一番心配してくれていた。

自分が誘われた夜会などに一緒に行こうと度々誘ってくれていた。

でも私がそういう場所が大の苦手だと知っているから、

断れば無理強いは絶対にしなかった。

そう私が嫌がる事は絶対にしなかった。


今回のこともそうよね。


「お姉様が結婚をすれば、私も結婚する」


なんて。

たぶんただの叱咤激励のつもりだったのよね。

まさか本気じゃないわよね。


きっとそうだ。私に出会い探しなんて無理だもの。


もう少し経てばシャーロットも諦めてくれるわ。

そしてウィリアムと結婚するのだろう。

きっと素敵な挙式になるでしょうね。

そしてまた周りを幸せな気分にさせてくれるんだわ。



最後のひと針を刺し、糸を切って、刺繍が完成した。

薄い桃色のハンカチを綺麗に折り畳んでデイジーに持っていった。


「良かったらこのハンカチ受け取ってくれる?私が刺繍してみたのよ。気に入ってくれるといいけれど。あなたにもいつもお世話になっているから」


この地方では感謝や敬愛を表すのにハンカチに刺繍をして渡す風習がある。


「え?私にですか?いいんですか?ありがとうございます。わぁ、デイジーの花とてもお上手です。ありがとうございます!」


手渡すと目の前でハンカチを広げながら笑顔で喜んでくれている。

なんて幸せな事だろう。


私はこの笑顔で充分なのだ。




そしてその後シャーロットのまだ見ぬ結婚式に思いを馳せながら過ごした私だった。




そう、その時はまだシャーロットの本気度をよく分かっていなかったのだ。

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