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19.仕立て屋

「グレイスお嬢様、お客様がお見えです。」


ある日、グレイスはいつものように弟に読み書きを教えていると、メイドが急に入ってきて知らせてくれた。

「エドワードがまた来たの?」アダムの顔が明るくなる。彼の中ではエドワードはお菓子をくれる人という認識になってしまっているようだった。

グレイスも自分を訪ねてくれる人は今のところエドワードしか思いつかなかったのでもしやと胸を高鳴らせる。


客人はエドワードではなかったが、彼に無関係というわけでもなかった。


応接間に行くと、大きなカバンを持った男性と女性が待っていた。

二人は街で仕立て屋をしていると言う。

彼らの店の名を聞いてもグレイスは分からなかったが、ついてきてくれたシャーロットが「まぁ、老舗の仕立て屋よ。腕がいいって評判なのよ。」と教えてくれる。

素性は分かったが、新しい洋服など作るつもりはない。この前シャーロットがグレイスのドレスを何着か新調してくれていたので今は間に合っている。


「エドワード様からグレイス様に舞踏会用のドレスを新しくお作りするように言われて参りました。」


呼んだ覚えはないと言うと、仕立て屋は事情を説明してくれた。


それを聞いてグレイスは思い当たることがあった。

この前、ルイスのアトリエに行った時、来ていた服を絵具で汚してしまったのだ。グレイスの不注意によるものだったのに、エドワードは「連れて行った自分が悪い」と謝ってくれた。

きっとそのことを気にしているのだろう。

しかし老舗の有名店で作るドレスなら値も張るに違いない。贈り物は嬉しいが行き過ぎている。


「申し訳ありませんが、エドワード様にそんな事をして頂く訳にはいきません。」


二人には気の毒だが帰って貰おうとした。


「ラザフォード家には常日頃ご贔屓にして頂いております。何もせずに帰っては私共の面目が立ちません。どうかドレスを作らせて下さいませ。お願い致します。」


頭を下げる仕立て屋を前にグレイスが拒否出来る訳がなかった。


渋々承諾すると、彼らは巻尺を持って流れるような手つきでグレイスの採寸をしはじめた。

「全てグレイス様のご希望でお作りするようにと申し付けられております。」

様々なドレスが描かれた冊子を見せてくれ、流行りの物や定番の物を参考に形を決めていく。持ってきた大きなカバンの中からいくつもの生地を取りだし、選ばせてくれた。



仕立て屋が帰った後、グレイスは少し憂鬱だった。

これで舞踏会に出る事は確実になった。

すっぽかそうと思っていたわけではない。ただ心の奥底では不安だったので、気持ちがまだ揺れていた。


「お姉様、無理をしていない?舞踏会が嫌ならお断りをした方がいいんじゃない?」


シャーロットが心配そうにしている。


「・・・嫌じゃないと言えば嘘になるけれど、いつまでも昔の失敗にとらわれていてはいけない気もするの。

エドワードと一緒なら心強いわ。せっかく誘われたのだし、頑張ってみるわ。」


自分も最近はシャーロットやエドワードのおかげで少し変われたと思う。

過去の記憶を塗り替えたい。

だから迷いながらもあの時と同じ色のドレスを選んだのだった。

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