表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

01.強引な妹

「お姉様が結婚をすれば、私も結婚する。」


そう宣言した妹に私は即答したかった。


「私には結婚なんて無理」…と。



けれど目の前の真剣な顔の妹を見ると言い出せない。


だから無駄とは分かっていながらも、とりあえず考えを改めて貰おうとして言ってみた。


「そ…そういうのは、縁の問題だし…」


「縁は待ってても来ないのよ、お姉様!」


と間髪入れずにシャーロットが言う。


「家に籠ってばかりで、たまの外出が子供相手の読み書き教室だなんて出会いがあるわけないじゃない!」


普段、お姉さまは刺繍が上手、絵が上手、ピアノが上手、子供にやさしくて素晴らしいわ、と褒めてくれる妹が同じ口でそう言った。


まるで怒られている様な気になって、


「で・・でも、ほらメアリーお姉様はほとんど何もしなくてもお嫁にいけたじゃない?」


焦って思いついた一番上のメアリーお姉様の事を持ち出した。

けれど言った瞬間しまったと後悔した。

この場合で例に出すにはあまりにも不適切な人物だったからだ。

あぁ、馬鹿な私。


「はぁ?」


妹は呆れた顔をした後


「はぁ」とため息をついた。


「メアリー姉様はね…別格、そう別格なのよ。

お小さい頃から美少女で有名で、噂だけで結婚話が舞い込んでくるくらいだったのよ。社交界デビューの時は群がる男性で身動きがとれなかったとか。引く手あまたで社交界のまさに華!すべての人が魅了されるその美しさは伝説にまでなってる人なのよ!何もしなくても男性は列を作って押し寄せてきたの!結婚話は井戸水の様に湧いてきたの!待ってても大丈夫な人だったの!

メアリーお姉様は次元が違うのよ!分かってるでしょ!?」


予想通りの反論にしり込みをしながら頷いた。


そんなこと言われなくても分かっている。

当たり前だが、シャーロットより歳が近い分間近で見てきたのだ。

本当に独身時代のメアリーお姉様の威力は凄かった。

数回だが一緒にパーティーなどに参加した時、男性が群がり過ぎて妹なのに近づくのを躊躇った。

自宅には毎日と言っていい程に貢物が送り届けられた。

手紙はもちろん、豪華な花やらドレスやら宝石やら。

店が開けるというくらいに贈られてくるのだ。

そんなに好かれたら自分なら浮かれてしまいそうだが、

姉は常に落ち着いていて、慎重に相手を選んでいた。

その結果、高貴な方と恋仲になりトントン拍子に話はまとまりお嫁に行った。

そして一男を儲けた姉は今でもその美しさは変わっていない。


(しばらくお会いしていないけれどお元気かしら?かわいい甥っ子にも会いたいなぁ…)

とぼんやり考えていると


「お姉様はこのままの生活で、メアリーお姉様と同じ様に良い縁談が雨のように降ってくると思ってらっしゃるの!?」


とぐっと顔を近づけてシャーロットが言った。


長い睫毛で縁取られた大きな目がこちらを見ている。

見つめられると姉なのにドキドキしてしまう。

少し怒った様な顔なのに可愛いなと思う。

この娘も相当な威力である。


そうなのだ。

この妹のシャーロットも結局のところ別格なのだ。

メアリーお姉様の事を他人事の様に称賛しているが、自分も負けず劣らず華やかな次元にいるのだ。

だからお相手もすぐに見つかった。


姉も妹もその魅力を存分に発揮してそれぞれの相手を虜にしてしまった。

お相手の方々はお似合いと言うだけではなく、身分も格上の貴族なので両親は喜んでいる。

我がブラウン家も強力な後ろ盾が出来て安心だ。


メアリーお姉様もこの妹のシャーロットも本当に素晴らしい。

心からそう思う。我が家の誇りだ。

それに比べて…。

もう、慣れきってしまった事実だけれど改めて考えると、やはり少し、ほんの少し、しゅんとしてしまう。


「そ…そうよね。メアリーお姉様と私は雲泥の差だものね…。

 同じ様にはいかないわよね…。」


少し視線を逸らしてつぶやくと

妹がはっとした顔をした後黙り込んだ。

妹は、興奮すると余計な事を口走ってしまうのが自分の欠点だとよく私に言う。

私は正直さがそうさせるだげなのだから気にしなくてもいいのにと思う。



話の流れを変えようと私は必死で考えた。


「婚約しておきながら待たせるのは相手が可哀相だわ。」


なかなか良い方向転換が出来たわと思う私。

けれど平然とした顔で妹はこう返した。


「私の考えはちゃんと話したからウィリアムは分かってくれているの。その点は心配しないでいいのよ。」


私は驚いた。

この話は私に結婚させたいが為に、シャーロットが勝手に一人で決めたことだと思っていたからだ。

まさかお相手のウィリアムも同意しているとは…。

…そういうのって…嫌じゃないのかしら?

好きな女性が結婚を保留にするといっているのだ。

いわばお預けをくらう羽目になるということだ。

それも原因は特に仲が良いわけでもない恋人の姉なのだ。

…ウィリアムって案外我慢強い人なのね。

…あぁ、そうか、それだけ愛が深いということなのね…。それは良い事だわ。

思わず感心してしまう。


「緊張感がないっ!」


思考が顔に出ていたのか、妹は大きめな声で言った。


「お姉様は優しくて穏やかで、素晴らしい方だと思うけれど、控えめ過ぎるのよ。 だから浮いた話もひとつも無いんだわ。 素敵な方と結ばれたくはないの?」


「そりゃあ、あなたの様に良い相手がいればとは思うけど…」


「じゃあ相手を探しましょう!」


「あ・・・あのね、世間では姉が先に結婚するのが順当だけどそんなこと気にしない方がいいと思うの。 相手が決まった人から結婚していくのが自然だわ。私なんかに遠慮しないで先にお嫁に行っていいのよ?」


常識的に考えると姉である私の方が先だろう。それを誰もが密かに思っているのは知っている。

シャーロットが遠慮して結婚に踏み切れないのも当然だ。

気を遣わせてしまうのは申し訳なく思っている。 


「遠慮なんかしていないわ。心配しているだけ。 お姉様は放っておいたらずっと一人の様な気がするんだもの」


「私は別にこのままでも構わないわ」


「良くないわよ」


妹の言い分が随分と一方的なものになってきた。押し切られそうになった私は思い切って本音を言ってみた。


「だからって私の結婚と自分の結婚を勝手に結びつけるのはやめて頂戴。あなたは簡単そうに言うけど、お相手そんなすぐに見つかるものじゃないと思うわ。簡単に探せるならとっくに結婚してるもの。あなたと私は違うもの。分かるでしょう?無茶な事は言わないで。あなた達の結婚が自分の所為で遅れるなんて私絶対嫌よ。」


「嫌でしょう?そうよね、嫌よね。じゃあ頑張って出会いを探しましょう!

 崖っぷちに立ったつもりで探しましょう!

 私、お姉様には荒療治が必要だと思い至ったのよ。

 私も協力するから!ねっ!」


なんだかキラキラとした笑顔をした妹は、そう言い放つと用事があると言って部屋を出て行った。


「……」


後に残されたグレイスは口を開けたまま、しばらく瞬きだけしか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ