表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7話

「猫ーっ!どこにいるんだ、猫ーっ!!」


そうらやあの猫、名前らしい名前を付けられていなかったらしい。

この子らしいと言えばこの子らしいのだが、こういう場合少々不便だ。

などと冷静に考えている場合でもなく


猫ー!どこだーっ!


僕も少女に習い、猫の名を呼ぶ。

雨音にかき消されないように、お腹の底から声を張り上げる。

そんな僕らをあざ笑うように雨は勢いを増し、河川敷もどんどん危険度を増していく。

そろそろ少女を無理にでも連れ帰ろうかと思案していた所で


「ニャウーン」


か細い声が、確かに聞こえた。

流れに飲まれた大岩の上で、雨に濡れて細くなった猫が震えている。

少女はそれを見てすぐにでも飛びつこうとしたが、僕は何とかそれを押さえる。

無策に飛び込めば、まず助からない流れの速さだ。

しかし、もちろんこのまま放っておくと今度は猫が危ないわけで。

僕は鞄の中に使えそうなものが無いかぶちまけてみるが、特に何もなく

いや、そうか……使えそうなものはまさにこの鞄だ


少し待って!


「……?」


鞄を肩にかける時に使う紐の部分、その片方を外し一本の帯のようにする。

こうすれば簡易的な救命うきわのようなものになるだろう。


これに捕まって!


言葉が通じているかなんて知ったこっちゃないが、僕はそれを猫に直接当たらないように投げる。

流れが鞄を押し流そうとするが、うまい具合に岩の窪みに引っかかってくれた。

少女が固唾を飲んで見守る中、猫がそれに爪を引っ掻けるのを確認すると、僕は鞄を手繰り寄せた。

再び流れが猫を引っ張り、水を吸った鞄の重みが僕を河へと引き込もうとする。

こういう時が、もっと運動をしておけばよかったと反省する瞬間なのか。

重みがかなり苦しくなってきたところで、ふっと僕の体が軽くなった。


「ふんぎぎ……」


少女が僕の腕を握り、力を貸してくれたのだ。

猫も必死に鞄に爪を立て、流れに逆らっている。

ここで僕が頑張らなければ、男が廃る。


ふんぬぬ……っ!


やっとの思いで流れから解放されると、すぽーんっと鞄と猫が宙を舞う。

あっ、と息をのんだ僕達だったがそこは濡れても猫、シュタッと華麗に着地を決めた。

雨でびしょ濡れの僕らは、流れと雨の直接届かない位置まで移動して一旦座った。

本当は早く家へと帰ったほうがいいのだろうが、クタクタで動く気力が沸かない。


「……くしゅんっ」


「クシャッ」


少女と猫が、ほぼ同時にくしゃみをした。

これだけ濡れればくしゃみも出るだろう、と僕は少女の方を見てハッとした。

服がずぶ濡れで、体のラインがはっきり出ているのだ。

華奢な体だと思っていたが、その小ささに似合わず意外としっかり出るとこが出ており、寸胴に見えていたのはパーカーの丈のせいだと……


「……」


「……フニャー」


僕の視線に歯向かうような視線が二つ光ったかと思うと、僕の顔にラインが二つ刻まれる。

それによって仰け反った僕の視線の先で、赤いパトランプが光ったのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ